第38話〜 『劣等人』の扱い 〜
「さて、とりあえず役所? に行こっかメア」
まずは役所に行かないと何も始まらない。むしろ終わる。
さっきのはあくまで仮証明書だから。
それに役所が何処にあるか分からないし、3日以内に作らないと逮捕されちゃう。
僕の《不幸体質》ではいつ何に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
だから、時間に余裕を持って行動しないと3日以内に役所に着かないかもしれない。
外壁から予想するに、マーティンはかなりの広さだ。
場所がわかったとしても行くまでにどれだけ時間がかかるかも分からない。
待って、3日以内って鬼畜過ぎないっ?!
いくら心の中で愚痴を吐いても何も変わりはしない。
「役所ってどこだろうねー?」
適当に歩きながら役所を目指す。
地図とかあったらいいんだけどな。
役所や地図を探す為に周りを見渡してみると、色々な人がこちらを見ている。
うっ……やっぱり服装かな……。
「おい、あいつ劣等人か……?」
「本当だ、劣等人だ」
「見ない顔だな。何しに来たんだ……」
耳を澄まして、聞いてみると三者三様。いや、ほとんどみんな僕を蔑んだ目で見ている。
えぇ、劣等人ってだけでそんなに嫌そうな顔しなくていいじゃん……。
よりによって黒髪黒目の人が劣等人扱いされる世界に転生。日本人ほとんどそうだぞっ?!
恐らくこれも《不幸体質》の影響だろう。
「ねぇ、メア? 誰かに役所の場所を聞いてきてくれない?」
「……………………」
メアは少し思案した後「わかったー」と言って、僕と一緒にいる所を見ていなかった人に声をかけた。
流石メアさん。状況判断が素晴らしい……。
劣等人の連れだと知っていたら多分親切にして貰えないだろうからね。
メアが話をしている間僕は街を再び見渡す。
セル村とは違い、石造りの家々。カラフルな色使いや、お店の看板。
所々に屋台なんかもあって、いい匂いが漂ってくる。
文字を見たところ、ちゃんと理解出来る。ならば、読み書きの心配はないだろう。
未だに自分が異世界に転生したなんて信じられないが、アニメやゲームの世界で見たような景色が目の前に広がっていたら嫌でも現実と分からされる。
それにしても、異世界系のラノベとか漫画とかの原作者って異世界来たことあるんじゃないのっ?! てくらいに似ている。
異世界から帰還した勇者だったり……? もしそうだったら、僕も帰る方法探したいな。勿論メアと一緒に帰れる方法。
帰って、母さんや父さんと話したい……。感謝もしたいのに……。
今頃地球では僕は行方不明扱いされているのかな……。
「ノアー! 分かったよー!!」
転生前の、地球での事を思い出して少し暗い気持ちを打ち破ってくれたのはメアの明るく元気な声だった。
メアは笑顔で手を振りながら走ってきた。
「ここからずっと真っ直ぐ行ったところに役所があるんだってー!」
「そっか。ありがとうメア」
暗い気持ちをぶち壊してくれた事に対してと、役所の場所を聞いてきてくれたことに対して頭を撫でながらお礼を言う。
頭を撫でるとメアはえへへと顔を綻ばせてる。その表情がまた僕を癒してくれる。
「よしじゃあ行こう」
「うんっ!」
それから僕らは役所があると言う方向に向かって歩き出した。
どの道を行っても周りの人達には汚物でもみるような視線を向けられ、時にはわざとぶつかって来たり。
酷い時には石なんかを投げ付けられた。
メアに当たらないように――身を呈して護ろうとしたけれど《不幸体質》の影響か、僕だけにしか当たらなかった。
「うわ、劣等人だぜ! 投げろ投げろ!」
子供たちも石を投げつけてくる始末。この街、治安大丈夫か?
劣等人に対しての扱いが酷すぎるっ!
子供の投げた石が僕の頭に直撃。
当たり所が悪かったのか、頭が揺らいだ。
一瞬視界が真っ暗になったが、直ぐに意識を取り戻す。
うんー? 普通に頭から血が垂れて来てる。当たり所悪すぎる! 下手したら死んでるよっ?!
僕が《自然回復S》というスキルを持ってなかったら君たち殺人犯になる所だったよっ?!
頭を手で押えて振り、はぁとため息を吐く。
「の、ノア。大丈夫……?」
「ん? あぁ、全然大丈夫だよ」
メアに血を見られないように急いで服の袖で拭う。
拭った血は服に着くことなく地面にポタリと落ちて血痕ができる。
自然回復で傷口は塞がっているからもう血が出てくる心配もない。
メアには苦労かけるけど、過度な心配はさせたくない。
ただでさえ、大切な人が。大切な村が無くなって精神的にも危うい状態なはず。
これ以上ストレスが蓄積してしまうとメアが壊れてしまうかもしれない……。




