第36話〜 通行料と仮証明書 〜
あっ……えっ……?!
れ、劣等人って言われた……? 今僕劣等人って言われたの……? 何それなんで……?
僕の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされている。
服装に関してはセル村でも同じようなことがあったから納得しているけれども。
劣等人とは一体何なのだろう。
門兵さんに尋ねようにも人見知り&コミュ障は相も変わらず治っていない訳で……。
心拍数が上がる一方だ。
僕がオロオロしていると、メアが口を開いてくれた。
「ノアの服、かっこいーでしょー!」
ちょっと、初対面の人になんて事言ってるのぉー!!
門兵の2人は視線で会話をして、頷き合う。
罪に問われたりしないよねっ?! なんでそんなに目付きが怖いの……。
僕は冷や汗ダラダラだ。人と話す時はいつもの事だけど……。
「おい、お前ら何処から来た」
「えっとねー。セ……んんぅ」
「えぇっとっ! そのー…………、道に迷ってしまって……」
危ない、危ない。
メアがセル村から来たと言う前に何とか口を塞ぐことができた。
焦りすぎて事前に考えていた答えが頭からすっぽり抜け落ちてしまった。
迷ったとか変な理由言って余計に門兵さんの目付きが鋭くなっちゃったよっ!!
どうしよう。どうしよう……。
「あ、あのぅ。入れてもらうことって出来ませんか……?」
「証明書と通行料が必要だ」
「あ、えっと。つ、つ、通行料っていくらですか……?」
明らかに最初よりも不機嫌そうな声のトーンに怯えながら質問をする。
うぅ……狐の仮面つけとけばちょっとは楽に話せたかもしれないのにぃ……失敗した。
「通行料は1人500マインだ」
「ぷはぁっ! 500マインってー? お金のことー?」
僕の手を引き剥がしてメアが口を挟む。
僕らお金なんて持ってないよな。2人で1000マイン? か。僕らお金もってないけどどうしよう。
「証明書も無いなら仮のを作るのに100マイン必要だが。劣等人のお前に払えるのか?」
人を見下してバカにするような言い方にイラッと来たが、おっしゃる通り。
僕らはマインとかいう硬貨を持っていない。
通行料と仮証明書で合計1200マイン。
マインというものは持っていないけど、他のならば持っている。
これで払えるかどうかは分からないが、ポケットに手を入れて《空間収納》を発動。
出したものを手に取り、いかにもポケットから取り出した様に見せる。
「あ、あの……これ、じゃダメですか…………」
僕は手に持っているキラキラと輝くネックレスと指輪を門兵に見せる。
「そ、それはっ?!」
それを見た2人は驚愕の表情をして、お互いに顔を合わせて頷く。
この2人、仲良いんだろうなぁ……。
「う、うむ。良いだろう。仮証明書を作るために名前を教えてくれるか?」
「えーと。僕はノアでこっちが――」
「――メアだよー!」
僕がメアの名前を言う前に自分で名乗ってくれた。
「えーと。ノアとメアね」
名乗った後に気づいた。名前変えた方が良かったかなぁーと。
まぁどうせこの国で過ごすことになるだろうから、心配しすぎかもしれないな。
門兵さんが仮証明書に名前を書いて、ハンコを押し終わると「はい」と言って渡してきた。
仮証明書と交換してネックレスと指輪を差し出す。
「仮証明書はあくまで仮だからな。3日以内に役所まで行って証明書を作らないと逮捕されるから気をつけな」
「は、はい。ありがとうございます」
なんかネックレスと指輪を出したら最初とは打って変わって優しくなった気がするけど……もしかしてそんなに価値あるものだったのだろうか。
「それにしても、本当にいいのか? こんな高価なもん貰っちまって」
「え、えぇ。全然大丈夫です……」
「ははは。兄ちゃん太っ腹だなー! 感謝するよ!」
「いえいえ」
まぁ、高くてもいっか。あの宝箱に他にもアクセサリーや宝石が沢山入っていたからね。
「そんじゃ、通っていいぞノア」
「劣等人で苦労するかもしれないが、頑張れよー」
最後にはニコニコ笑顔になる始末。根は優しい人達だと分かった。
「あ、あの1ついいですか……?」
「ん? どうした?」
「なんだなんだ?」
……ほんとにご機嫌だな。
「さっきからお2人が言っている『劣等人』って一体何ですか……?」
「メアも気になったー!」
1番疑問に思っていたこと。最初に聞こうと思っていたけど緊張で聞けなかった事を質問した。
門兵の2人はその質問の意味が分からなかったのか、呆然とした表情をしていた。
まるで2人の時間が止まっているかのような感覚。
え、なんか不味いことでも聞いちゃったのかな……。え、待って。怖いよ。どうしようぅー!
表面上は冷静を装っているが内心滅茶苦茶焦っている。
背中に冷や汗が垂れる。
明らかに、僕を見て『劣等人』と言っていた。僕が劣等人と呼ばれる理由は一体何なのかと疑問に思い質問したが……。
「――…………は? お前さんマジで言ってんのか…………?」
「もしかして、知らないのか……?」
2人はやっと言葉を発したと思ったら、信じられないものでも見るような目で質問返しをしてきた。
僕の正気を疑う様な言葉に少したじろぐ。




