第35話〜 メアの良い所 〜
ある物がはっきりと見えてきたところで、僕は足を止めた。
「…………」
メアがゆっくりと目を開けて、なんで止まったのかと訴えかけるような目を向けてきた。
「あれ、メア結構楽しかったんじゃない?」
「そ、そんな事ないもん!」
「そっか……怖かったよね。強引な真似してごめんね」
走っている時、メアは少し楽しそうな表情をしていたような気がしたけど、それはどうやら違ったらしい。
悪いことをしてしまったなと、素直に謝ると何故かメアはあたふたしながら口をパクパクとさせていた。
その間に、メアを地面に下ろす。
「ちょ、ちょっと怖かったけど……楽しかったよ。で、でもその……お姫様抱っこは恥ずかしいからもうしないで……」
言いながらメアの顔はどんどん赤くなっていた。
その様子から本当に恥ずかしかったのだと伝わってきた。
「そっか。少しは楽しめたのなら良かったよ。お姫様抱っこはもうしないよ」
「や! やっぱりたまにはして……欲しいな…………なんて……」
こちらの顔をチラチラと見ながら頬をかくメア。
あぁやっぱりポーラさんとか、村の人達が居なくなって寂しいんだな。
僕はメアの為に生きていると言っても過言じゃないから。
神の表向きとして僕に教えられている目的――魔物の増加を防ぐのももちろんやるつもりだ。
でも、何か僕に隠している事があるのはこの前のチャラい神のお陰で分かった。
それが何なのか分からないけど。
この曖昧な情報でいくら僕が憶測を巡らせても何も変わらない。
それが何であろうとも、メアを護ることが出来るのならばやろうではないか。
メアが生きてさえいてくれたら、僕はそれでいい。
メアには僕を頼って欲しい。
メアに寂しい思いをさせないように。
メアには幸せになって欲しい。
メアには、これ以上僕の《不幸体質》に巻き込みたくない。
僕はメアの頭を撫でながら「メアが良いならいつでもするよ」と微笑みながら言った。
「ね、ねぇノア。気になったんだけど、なんで急に止まったのー?」
少し頬の赤みは残っているが、もういつものメアに戻っていた。
「ほら、みて」
僕はそう言って石壁の中にある木造の大きな門を指差す。
それに倣ってメアの視線も門に向く。
「わぁ……大きな門」
それを見たメアは何処か感動しているようだった。
セル村とは比べ物にもならない技術。セル村では見られなかった大きな石壁。
「大きいねー! でもなんで走るのやめたのー?」
「門兵とかいると思うし、あんなに早いスピードで走ってたら怪しい人と思われるかもしれないじゃん……?」
「あー、そうだねー!」
メアに止まった理由を話すと直ぐに納得、共感してくれて、一々細かいところまで説明しなくて済む。
それがメアのいい所だ! セル村で大人たちに囲まれて育って、理解力や洞察力。
推測力がずば抜けて良くなったのかもしれない。
オマケにダンジョンに落ちた時の冷静さ。機転も利いて助かった。
メアは本当に頭が良くて、この世界に来てからもう何回も助けられた。
不自然と思われないように、メアと自然の話をしながら歩いて門までたどり着いた。
「「止まれ」」
門兵の2人は若い男の人。槍のような武器を持っていて、鉄の鎧で身を固めている。
僕とメアはその声の指示通りに止まる。
門兵が疑わしい目でメアを見た後、僕を見てきた。
「「……………………」」
え、なに。この2人。僕だけ見る時間長くない……?
門兵の2人は僕の顔と服装を何回も交互に見ると、
「あ? 劣等人かよ」
「なんだその服装は」
と、それぞれの感想を漏らした。
 




