第34話〜 再出発 〜
「あ、危なかった……」
チャラい神はこれの事言ってたのか。助かったァ……。
「……あれ。メア、ダンジョンで寝ても大丈夫って言ってなかったっけ…………?」
メアは頭に片手を置いて、舌を出し
「…………えへ」
とテヘペロポーズをした。
ッ! 死ななかったし、特に怪我もしなかったし。許してあげよう。
メアにも分からないことはある。
メアだって全知全能なわけじゃないもんな。
誰だって失敗はあるものだ。
マーティンに着いたら色々調べないとな……。図書館があったら1番いいんだけど。
とりあえず、メアに乾いた服を着させて。近くの川で顔を洗った。
これからマーティンに着くまでこんな生活かもしれない。水が多いに越したことはないだろうと思い《空間収納》で川の水を沢山入れた。
え、ダメじゃないよね。だって生きていくためには必要なんだからっ!
途中でもし水が無くなったらどうしろと言うのだ。
うん。神様も許してくれるだろう。
水を収納し終える頃には、遠くから赤い太陽が顔を出し始めていた。
「よし、行こうメア」
「うんっ!」
スライムダンジョンに落ちたり、ダンジョンが崩れたりとアクシデントはいっぱいあったが何とか切り抜けることが出来た。
やっぱりこれって僕の《不幸体質》が原因だよね……。
その日から野宿の様なものをしながら、少しずつ歩を進めていった。
メアとの2人旅は中々に楽しいものだった。疲れるけれど、メアが元気にしてくれる。
メアが居なかったら今僕は生きていない。
本当にメアには感謝しかないな。
スライムダンジョン攻略してから、マーティン目指して約2日。
ようやく整備されたような道が出てきた。
遠くには、大きな石壁のような物も見えてきた。端から端まで見渡す限り石壁だ。
どれだけ大きい所なのだろうか。
「ノアー……まだ着かないのかなー……」
「もう少しだと思うよ」
メアはぐったりと疲れた様子。
……しょうがない。走ったらすぐ着く距離かな?
はやくゆっくり休めるところに行きたいと自分も思っていたので、メアを抱き抱えて行こうと思考していた。
メアに手を伸ばして抱えようとするとメアが顔を赤らめて嫌がる。
「ちょっと、ノアやめてよー! 自分で歩けるから!」
ここまで嫌がられると流石にグサッと来るが、早く休ませて上げたい。
僕は無理やりメアをお姫様抱っこして、走り出す。
「……〜〜ッ! ノアー! やめてよー、恥ずかしいぃ……」
最後の方は走る風の音にかき消されてよく聞こえなかったが、メアは何故か僕の胸に顔を埋めている。
「メア、しっかり捕まっててね」
「え? なんて言っ……きゃあぁぁぁっ!」
メアが言い終える前に脚だけに意識を集めて《限界突破》をする。
風の抵抗で髪が乱れる。メアの悲鳴だけが置いていかれている変な感じ。
後ろからメアの悲鳴が聞こえるようでちょっと面白い。
メアは怖いのか、僕の服をぎゅっと掴んで目もしっかりと閉じている。
「あはは、気持ちぃー!」
脚は痛いけど……。ジンジンと、まるで電流が流れているかの様な痛み。
本当はもっと痛いのだろうけどなんてったって僕には《自然回復S》というチート能力があるからね。
それにもう肋骨骨折したり。言ってないけどセル村のスタンピードで相手した魔物に脚を噛まれたりしたからね。
その時は意識が朦朧としてたというか、自分でも麻痺しててよく痛みを覚えていないけど。
恐らくアドレナリンが出てたのだろう。
まぁ何にせよ、このぐらいの痛みはもう慣れてきた。
太陽は丁度真上。
日差しは少し熱いが吹き付ける風が心地いい。
僕はメアを抱えて、整備された道を風のように走った。