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第3話~ 僕の名前はノアだ! ~

  切れた所から血が噴き出す。

  その少し後に、木の棒が折れた。

  ――……は? ……木の棒で親兎が……“切れた”?

  親兎が木の棒で真っ二つに切れた事に驚いて、僕は呆然と立ち尽くしていた。

  するとまた■ピコン■という音が頭の中で響いた。

 ―――――――――――――――――――――

  親兎を倒しました。


  レベルが上がります。


  ■レベルが《342》になりました■

 ―――――――――――――――――――――

  はっ?! レベル5から一気に上がりすぎだろ?!

  こんなに一気にレベルが上がった理由は簡単だ。僕の持っている能力の『獲得経験値10倍』と『必要経験値10分の1』があるからだ。

  それにしても、普通の兎倒しても全然レベル上がらなかったな……。

  まさか、それも『不幸体質』のせいなのかな。



  などと考えていると、ジジと変な雑音がしたかと思うと「いや〜。危なかったのぅ……」という神様の声が聴こえてきた。


  え?! 何が起きてるんだ?! 木の棒で親兎は切れる。レベルの上がり方が普通の兎の時はおかしい。終いには、神様の声まで聴こえてきた。

  僕の頭がオーバーヒートして考えるのを停止すると再び神様の声が聴こえて説明してくれた。



  要約すると、木の棒で親兎が切れたのは『限界突破』と『剣術S』の合わせ技らしい。

  神様が言うには、《レベル5》でこんな事出来るのは運が良くないと出来ないとの事……。


  やっぱり、7回目は運がいいな! これなら、生きていけるんじゃないか?!

  僕が安心していると、神様は「油断大敵じゃ、『獲得経験値10倍』と『必要経験値10分の1』のスキルを持っておるのに最初に倒した兎ではレベルが5にしか上がらんかったじゃろ。あれは多分『不幸体質』のせいじゃなぁ……」

  と言われた。



  まーじか……。そんなんで大丈夫かな……。

「それは、どうじゃろうなぁ……」

  神様はまた僕の心を読んだらしい。

「あ! そろそろ、他の仕事をする時間じゃ。残念だがまた時間に余裕が出来たら話しかけるわい。あー、言い忘れておったわい。魔石は取っといた方がいいぞー」

  そう矢継ぎ早に伝えたあと、神様の声は聴こえなくなってしまった。




  えーと……? とにかく『不幸体質』は異常過ぎるから常に気をつけた方がいいと……。

  それで、魔石って魔物とかの心臓の代わりみたいなやつだよな。

  さっき倒した親兎の近くに行って見ると、ピカピカと光っている物があった。

 



  僕は、宝石のように輝いているそれを拾う。血がついているが、拭くものは何も無いのでそのままポケットに入れた。

  親兎の魔石は拳1つ分くらいの大きさだったので、ポケットに入れたらとても歩きにくかった。

  でも、売ったらお金になるかもしれないと思い我慢しながら歩き始めた。




  この森は、滅茶苦茶広いのか歩いても歩いても景色は全然変わらない。

  少しづつ日が落ちていく。




  ただひたすらに歩き続けて2時間ぐらいたった頃だろうか。

  日の傾き具合を見るに、もう夕方だった。森は影になって暗くなるのが早い。

  そのお陰か、ちょっと遠くに光が見えた。

  あ、あそこ人が住んでるのかな。

  とりあえず、僕は頑張ってその光の方向に進んだ。




  少し歩くと、やっと森を抜けることが出来た。

  が、まだまだ光までは遠かった。









  すっかり日が落ちて、当たりは暗闇に包まれた。

  月明かりに照らされながら、僕は光の灯っている場所まで歩く。

  この世界でも、月はあるのか……。しかも黄色いなー。

  僕は段々と意識が朦朧としてきた。

  慣れない世界に、慣れない土地。初めて動物? 化物(モンスター)を殺した事。そして長い時間、長い距離をただひたすらに歩き続けた。


  精神的にも肉体的にもクタクタだ。

  昨日まではただの中学3年生。しかも、受験勉強で運動はろくにしてなかった。

  まぁ、受験勉強とか試験とか受けなくて良くなったのは嬉しいけど……。




  あぁ……そういえば家族は今頃どうしてるかな……きっと心配してるんだろうな……。

  家族を思い出していると膝が折れて、地面に倒れ伏してしまった。

  そして、そのまま意識を手放した――









  ――チュンチュン。

「……はっ!!」

  小鳥の鳴き声で目が覚めると、僕は勢いよく起き上がった。

  あれ……? 昨日地面に倒れて、そのまま気を失ったはずだけど……。

  もしかして、ちょっと長い悪い夢でも見てただけかもしれないな。

  そう安堵したのもつかの間、僕は部屋の中をぐるっと見渡すと知らない空間が広がっていた。

  あれ?! 自分の部屋じゃない?! ……やっぱり昨日のは夢じゃなかったのか……。



  僕が現実を受け止めようと頑張っていると、部屋の扉がギギィッと音を立てて開いた。

  僕が瞬時に扉の方へ視線を向けるとそこには、クマのように大きいおばさん? が立っていた。

  ……ひっ?! だ、誰。こ、怖い。でも、多分この人がこの家の持ち主で、僕の命の恩人だと思うし……。お礼言わないと……。

  僕がいつもの癖で人見知りを発動して目をグルグルと回していると「あんた、大丈夫かい?」と優しい声音で話しかけてきた。

  あれ、見た目によらず意外と優しい人なのかも……。

「あんた、今なんか失礼な事考えてなかったかい?」

  ガタイの良いおばさんが少し低い声で睨んできた。

  ひっ?! 前言撤回! やっぱり怖い人!

「それよりも、あんた。体の調子はどうだい?」

  再び心配するような声で聞いてくるおばさんに僕は「だ、だ大丈夫です……」と小さい声で答えた。

「それにしても、あんな所で倒れてたら魔物達に食われちまうぞ? 最近、何故か魔物の数が増えてきていて物騒だからねぇ……」


  あぁ、神様が言ってた事か。定期的に僕みたいに人を転移させて魔物の数を減らさないといけないんだよな。

  神様は、この世界の平和を保つためとか言ってたなぁ。

  あれ? てことは、僕がこの世界の魔物を沢山倒して平和を保たなければいけないって事だよね……?

  いやいやいや! 無理でしょ! 『不幸体質』持ちだよ?!

  せめて仲間が欲しい……と思ったけど僕と一緒に行動すると迷惑かけるし、死ぬ可能性あがるだけか……。




  僕が難しい顔をして考えていると、それを見ていたおばさんが口を開いた。

「あんた、まだ少し顔色悪いよ? もう少し休んでな」

「えと、その……悪い……ですし」

  あー、もう! これぐらいハキハキ喋れるようになりたい! つくづく自分が嫌いになるよ。

「遠慮するこたぁ、ないよ! あ、そういえば名前聞いてなかったね。名前は?」

  息付く暇もなく、おばさんがガンガン話しかけてくる。


  な、名前……。そのまんま川崎健人(かわざき けんと)って言うのもおかしいよな……。

  どうしよう。何かいい名前……。外国の人の……あ!――



「の、ノア……です」

  何故この名前にしたかは、ノアの方舟(はこぶね)がパッと思い浮かんだからで、特に意味は無い。

「へー。ノアっていうのかい。いい名前だね。そんじゃノア、まだ休んでな。後でご飯持ってくるから」

  そう言って、おばさんは部屋から出ていった。

  今まで賑やかだった、部屋に静寂の時間が訪れる。




  ――ノア……。ノアって結構カッコイイ名前だよね! ノアの方舟思い浮かんだ僕、ありがとう!

  僕はおばさんの言う通りに、ベッドでもう少し休ませて貰うことにして横になった。





  ノア、僕は今日からノアとしてこの世界を生きていく!



  まだ疲れが残っていたのか、僕はそのまま眠りについた。

 


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