第28話〜 メアのメンヘラ化 〜
このアイテムの説明によると、やはりレベルを測定するアイテムがある確証が得られた。
……えっ?! レア度Sっ?!!
1番高いのか分かんないけど良いアイテムだってことは分かる。
何故こんなスライムダンジョンにレア度Sの魔道具があるかなんて疑問はどうでもいい。
ただ、運が良かっただけと考えるようにした。
『不幸体質』のせいで不幸な事ばかり起こるが、幸運な事もたまには起きないと流石にこの世界で生きるのはハードモード過ぎる。
それに不幸な事ばかり起きていると流石に気分が悪いから、これは幸運と思ってそのネガティブな気持ちを相殺するためでもある。
この『偽りの仮面』僕欲しいな……。レベル偽るのなんか大事そう。マジックアイテムが無かったら自分しか確認できないレベルは言わば個人情報だし。
個人情報は、どの世界でも大切なのは変わらないだろう。
そうは思うが、この『偽りの仮面』を貰っていいかをメアに確認する必要がある。
「メア、これ僕が貰ってもいい?」
他のアイテムをがさごそと漁っていたメアが「んー? どれー?」と言いながら顔を上げる。
「ふむふむ……ふむ…………」
メアは『偽りの仮面』を手に取りアイテムの情報を確かめて思案していた。
や、やっぱりダメかな……? 僕的にはレベルを低くすれば目立つこともないし静かに過ごせるかなーと考えてるんだけど……。
すると、メアは僕の考えとは全く的外れな事を言ってきた。
「ノアー。自分のレベルを高く偽るのは危ないと思うよー? そういうお年頃なのかもしれないけどー……」
「いや、違うよっ?! その逆だからね?!」
てか、そういうお年頃ってなに! 教えてメアさん!!
厨二病とかそういう感じのやつですか?!
僕は慌てて否定する。レベルが高くて、もし頼られでもしたら、失望されるのは目に見えている。
まぁ、自分のレベルを公言しなければいい話だけど……一応、保険でね?!
それよりも、命の危険だってあるかもしれない。容易に嘘をつくのは得策ではない。
「逆って、レベルを低く偽るってことー?」
メアがなんで? と疑問に満ちた表情で確認してくるので、僕はウンウンと肯定の意が伝わるように大きく頷く。
「ほんとーかなー? 他になにか欲しい理由でもあるんじゃないー?」
っ?! なんでバレたんだッ!!
いや、確かに好きなデザインに出来てカッコイイなと思ったけど! そのー……王都の『冒険者ギルド』で顔バレしないようにとかそういう真意もあるが……。
「な、ないよっ!」
「……ふーん。そっか。まぁ最初から良かったけどねー」
メアは「この迷宮クリアしたのは実質ノアだしねー」と少し頬を赤く染め、ニヤニヤと笑いながら宝箱の中を再び物色し始めた。
年齢の件からメアと僕の立場が逆転されたような気がするのはただの気の所為だろうか。いや、これは確実に気の所為じゃないよね……。
現実世界でも女子は何かと怖いと思ってたけどそれは異世界でも変わらないらしい。
メアから『偽りの仮面』を僕が使っていいという許可が降りたので早速着けて見ることにする。
デザインは、もちろん服に合わせて狐の仮面。
カッコイイ感じがいいなぁ。
そう思い、頭の中でイメージすると手に持っていた白い仮面がぐにゃぐにゃと変形していく。
白い仮面は程よく長く、少し尖ったような狐独特の耳の形に変わり、鼻の辺りが盛り上がってきた。
大体形は出来たので、次は色だ。耳のところは赤く。目は黒く。鼻や、他のところの色は――
――細かく、思ったようにデザイン出来た狐の仮面をみる。
頬の所には赤い炎のデザインをしてみた。
メアもさっきから目を星にさせて、興味津々に見てきている。
「わぁ〜カッコイイ……!」
「すごい……。かっこよく出来すぎじゃない?!」
こんなカッコイイの着けてて弱かったらただのダサい人じゃん!
絵を描いたり何かを創ったりする美術は上手くできなくて苦手だったが、想像しただけでこんなにカッコイイ狐の仮面が作れるなんて……。
デザインが出来上がったので、仮面を顔にはめる。
すると、視界は全く狭くならずに装着している事も忘れそうになるほどフィットした。
目の所とか穴を開けなくてもちゃんと周りが見える。
どうやら、仮面は透けて見えるようだ。呼吸も息苦しくはならない。
す、凄い……。こんなに高性能なのか。レア度Sだからなのかな?
なるほど。これは説明にもあった通り、つけてることを忘れないように注意しないとだな。
「おぉー!! ノア、カッコイイ!!」
「そ、そう? ありがとう」
メアの直球な褒め言葉を前に照れてしまう。同年代だと分かってから、少し変に意識してしまう事がある。
けれど、メアの好意は家族としてとかのそういう類のもの。
勘違いするな僕!!
「ノア、その仮面って狐でしょ? その服と同じ魔物だよねー!」
「えっ?! ……うん。そう狐だよ」
えぇ、この世界では狐って魔物扱いなの? じゃあ、猫とか犬とかも……?
「メア、狐ってどこに生息してるか分かる?」
「んー? 正確にはわからないよー」
「そうなの……?」
「うん」
「本ではねー『バベルの塔』の90階層で出るって書いてあったよ。でも絵本だしおとぎ話とかの類だよ?」
この世界にも絵本とかあるのっ?! じゃあ、面白い小説とかあるかなー?
なかったら、僕が書いてみようかな……? なんちゃって。
「じゃあ今、狐を実際に見た事がある人はいないってこと?」
「そうだよー!」とメアは何故か目をキラキラと輝かせながら語っている。オタクが喋る時と同じように少し早口で。
「狐は伝説の魔物だよー。他の強い魔物と比べて身体も小さいのに、とっても強いんだってー! 神に近い存在って本に書いてあったんだよ!!」
大迷宮の90階層に出るからかなり強いんだろうな。
『バベルの塔』――神の門を意味するとポーラさんが言っていた。
何階層まであるから知らないが、きっと最上階層には神に繋がる何かがあるのだろう。
なら、狐は神に近い存在と言ってもあながち間違いではないのかもしれない。
「え、待って? その神に近い存在がデザインされた服とか仮面とかつけてて大丈夫かな? 処刑とかにされないよねっ?!」
仮面のデザインはもう僕が死ぬまで変更不可能だし。この狐のパーカーは、麗奈から誕生日プレゼントとして貰った大切な物だ。それと同時に麗奈の形見的な物でもある。
もし処刑とか罰せられるなら、『空間収納』で亜空間にしまっとかないといけなくなる。そして、もう着れなくなってしまう。
そんな考えがよぎって、頭を抱えているとメアがポンポンと優しく叩いてきた。
「大丈夫だよー! もしノアが刑罰を受けたり処刑される時はわたしも一緒だからー!」
「………………メア」
そーゆー問題じゃないよ?! しかも、なにさらっと笑顔で僕が死んだら一緒に死ぬって言ってるの?!
ヤンデレとか、メンヘラの人と付き合ったらこういう感じなのかな……?
メアは僕に対して恋愛感情はないと思うからこの場合はメンヘラかな。
いや、冷静に分析してる場合じゃない!!
これ以上メアのメンヘラ化が進まないようにどうにかしなくては……っ!