第20話〜 スキルを持つ異端者 〜
ふと、メアが何処にいるのかと焦って辺りを見回すが僕のすぐ近くでスヤスヤと寝息を立てていた。
はぁ……よかった。
安心して草むらから顔を出すと、何故か僕が殺したはずの魔物の死体が近くに山積みされていた。
「……え? これ、メアがやってくれたのか?」
驚きのあまり、声を出してしまった。
メアは、「んん〜?」と言いながら目をしょぼしょぼさせながら背伸びをして起きた。
「あ、おはようメア。起こしてごめん」
「おはよーノアー。大丈夫だよー」
メアは、昨日あんな事があったのにいつもの緩い口調に戻っていた。
メアなりに僕を心配させないようにしてくれているのだろう。
「ねぇ、メア。これ、メアがやってくれたの?」
僕が魔物が山積みされた方を指さしながら訊いてみると「うん! そうだよー!」と元気に頷いた。
「あ、ありがとうメア」
メアの頭を優しく撫でると、メアはとても幸せそうな表情を浮かべていた。
はは……。相変わらず可愛いな。
メアの笑顔をみると、少し元気が出た。
それにしても、あんなに大きな魔物を一晩でここに集めたのか? 結構重そうだけど、未だに異世界人の基準がいまいち理解出来ないな……。
疑問が残って、モヤモヤする中僕は自分のレベルが気になったので頭の中で考える。
だが、いつもの様にスキル発動時に聞こえたりレベルアップ時に聞こえてくる電子音のような声が聞こえなかった。
もしかして、神様なんて信用しないとか思ったからか?
いやでも、ゲームで言うチュートリアル的なものだったのかもしれないしな……。
でも、どっちにしろ神様信用しないって神様に伝わってるだろうな…………。
やっちまったなと思いながら頭の中で『レベル表示』と唱えると4桁の数字が頭の中に情報として流れ込んできた。
《レベル2743》
はぁっ?! こんなに、レベル上がってんの?!
ポーラさんと木剣でトレーニングしてる時はまだ1000にも届いてなかったのに。
どうやら、筋トレなどトレーニングをするよりも魔物を倒す方が経験値が貰えるようだ。
流石、『獲得経験値10倍』と『必要経験値10分の1』と言わざるを得ないな。
必要経験値。次のレベルまでに必要な経験値がどれだけかは分からないけれど、僕はこの世界の人達の何十倍。下手したら何百倍もの速さでレベルアップしている事になる。
そう考えると末恐ろしい。果たして、レベルに上限はあるのか。
これからのレベル上げが少し楽しみになった。
はぁ……とりあえずどうしようか……。
セル村の方をみると、火は消えていて黒い煙がモクモクと空に向かって上がっていっている。
火は幸いにも燃え広がらなかったらしい。
「ねぇ、メア。この魔物ってさ、売れるかな?」
「多分、王都にある『冒険者ギルド』? とかいうところに持っていくと売れるって昔、ポーラが言ってたよー?」
「そっか……」
ふむ……この世界にもやっぱり『冒険者ギルド』はあるのか。
まぁ、いずれは王都に行くつもりだし『転生』スキルの代わりに貰った『空間収納』で保管しとくか……。
スキルの発動条件が分からない。今までは電子音で発動して分かったが。
自動的にされないなら、念じてみるか?
そう思い、試しに『空間収納』と頭の中で念じて収納したい魔物を見る。
すると、魔物の死体が僕の身体に吸い寄せられるように集まってきたと思ったら僕の手の中に吸い込まれて消えた。
「「…………………………」」
魔物の手が吸い込まれた手をジッとみる。メアは、驚いた顔をして僕の顔と手を交互に見ていた。
「の、ノア。今のなに?! 凄い! マジックアイテム?」
「えーと……内緒」
僕はスキルのことを知られないために誤魔化して答えた。
スキルという変な能力を使えるってメアに話したら、混乱するだろう。
それに、今は色々大変な事があったばっかりだし余計に混乱しちゃうかも……。
落ち着いたら違う世界から来た事とか話そう。
メアに隠し事をするのは、少し胸が痛いからな。僕に勇気があればセル村の人達やポーラさんを救えた事を正直に話すのはちょっと怖いが、許してくれなくてもしょうがない……。
まだ辺りは薄暗く、行動するには危ないのでメアからこの世界の情報を聞いていた。
ポーラさんにも教えて貰ったけど、忘れてないかなどの一応の確認のためだ。
昨日、『迷いの森』から魔物が溢れてきた様な現象を『魔物の大暴走』と呼ぶらしい。
メアに聞いたところ、僕が来る少し前にもスタンピードが起きたそうだ。
その時は、『魔物の大暴走』じゃなく『魔物の大氾濫』だったため、被害は最小に抑えられたようだ。
大氾濫は、魔物が多すぎて溢れ出てくるだけの現象。
大暴走は、大氾濫に加えて魔物が文字通り暴走する現象。
今思えば、セル村の周りに作りかけの木の柵には見えない酷い物は、その少し前のスタンピードに壊されたバリケードだったようだ。
不幸にも、セル村は大罪人の末裔の人達が暮らす村。なので、そう都合よくより頑丈な石壁などを作る技術を持った人がいなかったようだ。
その考えに辿り着いた僕は、王都の2人の王様は何をしてるんだと、腸が煮えくり返りそうになった。
けれど、地球の人達のように国によって考え方もきっと違う。言っても分からないだろう。逆に僕やメアが反逆者として捕まると思うと何も出来そうにない。
この世界に来てからわかった事。それは、この世界の人はスキルや魔法が使えないらしい。
では、どうやって魔物を倒したりするのか。
それは、迷宮などで手に入る『マジックアイテム』というもので戦ったり、または純粋に剣術だけで倒すみたいだ。
この世界の人達は、自分のレベルは自分しか確認できないらしい。
マジックアイテムにも色々種類があるそうで、物を収納したり魔法のように火を出したりレベルを上げたりする物やレベル測定器などもあるそうだ。
冒険者ギルドには、レベル測定器のアイテムありそうだな……。
魔物の心臓、魔石は日本でいう電池などの役割も果たしたりと色々と役に立つ。
要約すると、剣術やマジックアイテムを使って迷宮をクリアする。
マジックアイテムは、迷宮内で手に入る。
魔石は、エネルギー源として使われる。
この世界の人達はスキルという概念が無いらしい。
なら、迂闊にスキルは使わない方がいいよね……。
僕はこの世界にとっての異端者の様な存在って事か……。
大体情報を再確認したのでこれからの方針を考える。
今、僕は魔物の肉だけど、一応食料は持っている。ホーンラビットのように食べれそうな魔物が多かった。
ちょっとズルいかもしれないけど、『空間収納』とか他にも色々スキルがあってマジックアイテムは必要ない。
ならば、僕が今することは――安全な場所を探す事だ。
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