第2話~ 兎と木の棒と限界突破 ~
時は少し遡り、僕は7回目の転生をした。
目が覚めると、薄暗い森の中にいた。
はぁ〜。また森スタートか……。
7回目の転生の内、森スタートが3回。迷宮みたいなところからのスタートが4回だった。
『不幸体質』恐るべし……。あれ、俺今15歳のはずだけど、なんで『不幸体質』が発動してるんだ?
疑問に思ったが、数多のアニメや漫画、ライトノベルを読んできた僕はすぐに答えにたどり着いた。
どうやら地球では、20歳が成人だったけどこの世界では15歳で成人らしい。
その証拠に、すでに何回も『不幸体質』が発動している。
だから転生した先々で何回も死ぬわけだ……トホホ……
僕が悲しんでいると、後ろからカサカサと葉をかき分けるような音が聞こえてきた。
音がした方に振り返った瞬間――茂みの中から何かが僕の方に向かって飛び出してきた。
反射的に腕で顔を守る。
そのちょっと後に腕に何かがぶつかって来て、地面に落ちた。
恐る恐る腕の隙間から地面の方を見ると、赤い目の兎のような生き物がこちらを睨んでいた。
あれ、今回の初遭遇の化け物は兎なのか。ラッキーセブンとは本当だった!!
そう思ったのもつかの間、油断した僕は赤目の兎に男の大事な部分に体当たりされた。
うぉぉぉぉ?! 痛い?! いたい、お腹痛い……。おのれ『不幸体質』め……。
僕は、赤目の兎に男の大事な部分に体当たりされた痛みでのたうち回っていた。
その間にも、赤目の兎は僕の体に何回も何回も体当たりしてくる。
ドカッ、ドカッ……ドカッ――
それから、しばらくしてようやく痛みが治まってきた。
ドカッ、ドカッ。
赤目の兎は未だに攻撃を諦めていない。
こんなに攻撃されても僕が無事でいられるのは『自然回復S』のスキルが発動しているからだ。
しかし、回復するだけであって痛みは普通に感じる。
ドカッ、ドカッ。
うーん。自然に回復するのは嬉しいけど、痛いんだよなー……。
ドカッ、ドカッ。
「てか、いつまで攻撃して来るんだよ! いい加減ウザいよ?!」
いつまでも体当たりしてくる赤目の兎にイラッと来た僕は怒りに任せて拳を振るった。
赤目の兎は僕に殴られて吹っ飛んでいく。
赤目の兎は近くの木にぶつかり――死んだ。
え、弱……。これも『体術S』のお陰かな。
初めて目の前の化け物を倒せた事に喜んでいると、ふつふつと罪悪感が湧いてきた。
この赤目の兎も頑張って生きていたんだ。この子にはこの子の家族がいて、友達がいて。きっと普通に生きていたんだよな……。
それを僕がこんな僕が――殺してしまった……。さっきまで元気に、僕に体当たりを繰り返してきていた兎が今ではピクリともしない。
でも、この世界ではこれが普通なのだと考えるとしょうがない事。こうしないと僕が死んでしまうんだ。
僕はこれから、生きていくためには必要なことはすると、心に決めた。
「ごめんね」
僕は殺してしまった事を謝って、赤目の兎の死体の隣に腰を下ろした。
■ピコンっ■
急に電子音らしき音がなったかと思うと、脳内に直接言葉が響いてきた。
――――――――――――――――――――
普通の兎を倒しました。
レベルが上がります。
■レベルが5になりました■
――――――――――――――――――――
っ?! れ、レベルアップ? そ、それに普通の兎って?! さっきの兎、化け物じゃなかったの?!
そういえば、地球の兎も目が赤かったような……。
僕は色々と混乱したが、普通の兎を殺してしまったことにまた少し心が痛くなった。
でも、この兎本当に地球の兎と同じなのかな? 体当たりされてる時なんか少し尖ってるような気がしたんだけど……。
兎に違和感を覚えた僕は、兎の体をじっくりと観察してみた。
すると、額にちっちゃい角が生えていた。
えっ?! やっぱり地球の兎と違う……。
この世界の普通の兎は、どうやら角が生えているらしい。
この子はまだ子供なのかかなり角がかなり小さい。
角が小さくて助かったぁー。デカかったら確実に死んでたな……。
さて、この森を出てはやく休みたいけど何処に行けばいいのだろう……。
どこに向かえばいいか悩んでいると、どこからかドドドドと地鳴りが響く。
最初は地震かと思ったが、どんどん音が近づいて来てる事に気付いた僕は本能的に危ないと感じ逃げようとした――が、その時はもう既に遅かった。
音が近づく度に揺れが酷くなっていたため、逃げる事は疎か、立っているのがやっとだった。
やばいやばい……! 何かが来る! 逃げないと……。
そう思うも何も出来ない。
突然地鳴りが止んだ。
ん? 何だったんだろう……?
そう思って顔を上げると、2mくらいの赤目の兎がいた。角も結構でかい……。
さっきの兎の親か?! 僕が殺したのを怒ってるのかな?
いや、今冷静に分析してもなんの意味もない!!
とにかく、どうにかしないと……。
逃げる事は出来ない、ならば倒すしか選択肢はない。
木の棒があれば、『剣術S』が使えそうだと思い、僕はどこかに無いかと探す。
手頃な大きさの木の棒を見つけたはいい。見つけたはいいけれど、それは少し離れた所に落ちていた。
今は親兎は僕の様子を伺って、止まっているけど……。多分僕が動いたら速攻で殺しに来るだろうな。
でも僕には『自然回復S』がある。死ななければいい。
僕は脚で目一杯地面を蹴って、木の棒の方に一直線に向かった。
はぁ……はぁ。よしっ! 取れた。
親兎は……?!
親兎がさっきいた場所を確かめると、まだそこにいた。
僕は拾った木の棒を構える。もちろん、構え方なんてよく分からないのでとりあえず自分の正面で構える。
たしか、正眼の構えだったような気がする。
親兎に視線を合わせて、警戒する。
瞬きをした瞬間物凄い地鳴りと共に親兎はこちらに向かってきた。
僕は慌てて避けようとするが、地面が揺れた事によりバランスを崩してしまった。
次の瞬間、僕より何倍も大きい親兎が体当たりをしてきた。
そして、物凄い衝撃が身体を走ったかと思うといつの間にか大きな木にぶつかって地面に倒れていた。
肋骨が折れて肺に骨が刺さったのか、息ができない。
これ、死ぬより痛いじゃん?! 死んだ方がマシな気がする……。
はやく、肋骨治れ。
そう思っている間にすぐに治った。
え、はや……。もしかして、治したいところを集中的に治そうとするとめっちゃはやく治せるのか?!
「す、すげぇ!」
思わず驚嘆すると、親兎がまた体当たりをしてきた。
「ゴフッ……」
僕は口から血を吐きながら後ろの大きな木をも突き破って飛んでいく。
飛んでいく最中にも回復はされるわけで、地面に落ちた時にはもう全回復!
いや、これまじ死んだ方がマシ……。勝てる気しない……。
僕はその後も親兎に吹っ飛ばされ続けた。
能力を使っても、体力は補えないわけで……僕はとうとう体力が尽きてしまった。
「はぁ、はぁ……もう、無理……」
唾を飲み込むと、血の味がする。
肺が痛い。これは、回復しないらしい……。
地球で運動しなかったのが祟ったか……。
でも、これ以上同じことを繰り返すのならば死ぬ気でコイツ殺してやる。
何度も体当たりをされて苛立っていた僕は立ち上がり、また正眼の構えをする。
そして、木の棒を右上に構えて走り出した。
傍からみれば、木の棒を持って親兎に挑むという馬鹿らしい行為だ。
だが、親兎に苛立って殺すことしか考えていない僕はそんな事気にする余裕などない。
「あぁぁぁ!!!」
雄叫びをあげながら走る。
その様子に親兎は呆気に取られたのか、その場を動こうとしない。
チャンスだ! そう思い僕は走るスピードをあげる。
脚が痛い。喉が痛い。肺が痛い。
それでも僕は親兎に向かって走り続ける。
限界を超えてやる!
■ピコンっ■
電子音が頭の中で響く。
あぁ、なんだようるさいな!
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能力『限界突破』が発動します
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次の瞬間、僕は信じられないような速さで親兎の横に移動していた。
えっ?! はやっ!
親兎は、どこに行ったのか周りをキョロキョロ見渡している。
「らぁぁぁっ!!!」
僕は思い切り木の棒を右上から左下に振り下ろした。
だが、木の棒は親兎の体に当たって止まった。
親兎が、こっちを見る。
やばいやばいやばい……。やっぱり全然ダメだった!
■ピコンっ■
また電子音の音が頭の中で響く。
今度はなんだっ?!
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木の棒が限界を迎えました
木の棒が『限界突破』を発動します
木の棒を剣と判定します
能力『剣術S』を発動します
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木の棒の『限界突破』?!
『剣術S』発動してなかったの?!
まぁ、いい! とりあえずもう1回やってやる!
僕はもう一度親兎を“切る”イメージをして、木の棒を勢いよく振り下ろした。
次の瞬間、親兎の体が真っ二つに――“切れた”。