第18話〜 闇夜の下、狂った狐と2人の思い 〜
僕は覚悟を決め、鞘から剣を抜いてギュッと握りしめる。
「メア……ちょっと待ってて」
僕はメアの頭を撫でてから魔物のいる方向、崩壊したセル村に向かって走る。
「ノアーっ!!」
背中にメアの叫び声が聞こえる。
メアを1人にするのは、危ないか……? いや、あそこはちょっと草が生い茂っているから大丈夫だろう。
魔物達を絶対に許さない。ぶっ殺してやる!
王都に対しての怒り。魔物に対しての怒り。《不幸体質》に対しての怒り。
――そして、何も出来なかった自分に対しての怒り。
僕は、怒りという感情に脳が支配されて喉が潰れる程に叫びながら魔物の中に突っ込んでいく。
「らあぁぁぁあぁっ!! ――――」
すると、ピコンという電子音が頭の中で響いた。
『スキル、《限界突破》を発動しました』
――《限界突破》っ!!
刹那のスピードで、僕は魔物の中心に移動していた。
銀色の真剣を怒りに――本能に任せて思いっきり横薙ぎに振るう。
『スキル、《剣術S》を発動しました』
僕に群がっていた魔物達は、刃が触れた瞬間に真っ二つに斬れる。まるで豆腐を切っているように滑らかに切れた。
「あはっ! あはははははっ!」
なにこれ、っちょー愉しいんだけど! あはは、もっともっと殺させてくれよっ!!
僕は、思わず笑みを浮かべながら狂ったように走り回り、魔物達をぶった斬って殺していった。
この時の僕は、まともな精神では無かった。
色々な感情が入り混じり、一時的に人格が可笑しくなっていたからか、魔物を一方的に蹂躙するのが愉しくて愉しくてしょうがなかった。
斬るスピードを緩めるどころか速めて一閃、二閃と魔物達を次々と殺していく。
闇夜には、月に照らされて血が着いた剣が光り、セル村の周辺は魔物の血で赤く赤く染まっていった。
■■■
ノアが魔物の方に突っ込んで行くのをわたしは止める事が出来なかった。
「ノアーっ!!」
ノアの背中に向けて叫ぶが、ノアは反応しない。わたしは、ノアが何をしたいのかが全く理解できなかった。
死にに行くつもりなのだろうか? でも、ノアは行き際に『ちょっと待ってて』と言っていてわたしは頭が混乱した。
セル村の人達が死んで。ポーラさんも死んじゃって……。
ノアも死んじゃったら、わたし……わたしはどうすればいいのっ?! 置いてかないでよノア……。
わたしはさっき涙が止まったばかりなのに、ノアも死んでしまうと思うとまた涙が零れてきた。
涙で視界が歪んで、ノアの姿も歪んで見える。
そのせいか、ノアが一瞬で魔物の中心に移動したように見えた。
……っえ?! 見間違え?
わたしはそう思って涙を拭ってノアを見ると、次々に魔物を真っ二つに斬っている姿があった。
いや、姿は見えないが何か影が通った瞬間に魔物が遅れて斬れていた。
「あはっ! あはははははっ!」
ノアは、1度立ち止まって自分の剣を見て、初めて見せるような歪んだ顔で笑っていた。
そして、また魔物達を目に見えない速さで次々と殺していった。
「……え? の、ノ……ア?」
わたしはその光景が、今目の前で起こっている出来事が夢のように思えて頭が混乱していた。
わたしは、魔物が血しぶきを上げて死んでいくのを呆然と眺める事しか出来なかった。
月に照らされて、ノアの血の着いた銀色の剣が闇夜に輝く。
斬られて真っ二つになった魔物の血しぶきが雨のようにセル村周辺に降り注ぐ。
ノアの着ている狐の服が月に照らされ不気味に、いや。――美しく目に映った。
「き、キレイ……」
わたしは気付くと、そんな言葉を口にして魔物達が殺されるのに見入ってしまった。
さっきまでの悲しい気持ちも忘れて、わたしはノアが闇夜に駆け回るのを眺めていた。
「……はぁっ、はぁ……っはぁ……」
ノアが呼吸を荒くして帰ってきた事により、わたしはハッと我に返った。
「ノアっ! 大丈夫っ?!」
「……うん。もう大丈夫だよメア。魔物は……全部、倒したから」
ノアは、掠れた声でわたしに不安を抱かせないために言葉を紡ぐ。
次の瞬間、ノアの身体が傾いて倒れてきた。
「っ……ノアっ?!」
わたしよりも大きくて、頼り甲斐のあるノアの身体を受け止める。
ノアは、スヤスヤと寝息を立てていた。
よ、良かったぁ……寝てるだけかぁ……。
その身体は思っていたよりもずっと軽くて、あまり歳が変わらないんだと初めて知った。
あんなに、大人ぶって。本当はわたしとあんまり変わらないんだ……凄いなぁノアは……。
「ありがとう、ノア」
わたしは、そう独り呟いてノアを地面に寝させて、頭を静かに撫でる。
ノアの寝顔はいつもより随分と幼く、可愛く見えた。
ノア……凄いな……。ノアと一緒なら生きていけるかな……。わたしも、ノアの役に立てるように頑張ろう!
悲しくないわけじゃない。あんなに強いならなんで、ノアが最初から闘わなかったのかという疑問も勿論抱いた。
だけど、何か闘えない理由があったんだよね。
短い間だけど、ほとんどの時間をノアと一緒に過ごしたわたしだから分かる。
そりゃそうだよね。誰だってあんな数の魔物を前にしたら怖くないわけが無いもんね……。
それでも、ノアはわたしのために。わたしを守るために勇気を出して闘ってくれた。
なら、わたしもノアのために出来ることをしないと。
わたしは、悲しい気持ちを忘れるとは言わない。
だけど、過去に捕われるわけにはいかない。
これから先も辛い事が沢山あるかもしれないけど、ノアがいるから頑張ろう。
わたしは、前を向いてセル村の人達の……本当のママとパパの気持ちを。ポーラの気持ちを背負って生きていくんだ!
そして、ポーラみたいに胸を張って『幸せ』って言えるようになるんだ!
わたしに、今できることをしようっ!
■■■
第一章 [完]




