第17話〜 7つのチート能力も使えなければ意味が無い 〜
僕は、泣き叫びたい気持ちをグッと堪えて隣のメアを抱えて、すぐに逃げる。
「っ……うぅっっ!!」
悲しくて、切なくて、苦しくて息ができなかった。
それでも僕は、走った。何処へ行くかも分からずにあてもなく、ただただ魔物から逃げるように走った。
胸の中で泣き叫ぶ、この小さい女の子を。メアを護るために。ポーラさんとの、最後の約束を守るために。
メアとの約束を守るために。
メアは、これで2度も親という存在を失ったのだ。
いつも、元気で純粋で可愛くて素直で賢くて。
両親に捨てられたと思い込んでいて。本当は魔物に殺された事なんて知らない純粋な子で。
捨てられたと言われても、両親の事なんか気にせずにポーラさんと楽しそうに過ごしていた。
だが、メアも決して悲しくないわけじゃない。切なくないわけじゃない。苦しくないわけじゃない。辛くないわけがない。
だって、まだこんなにも小さいたったの10年程しか生きていない子なんだから当たり前だ。
15歳の僕でも、こんなに悲しくて苦しくて切なくて辛いのに……。
――腰に着けているの邪魔だな……。
走りながら目線を下げると、ポーラさんから貰った剣を腰に着けていた。
……あれ? 何故僕は戦わなかった? 何故この剣を使ってポーラさんを助けなかった?
異世界から来て、チート能力を7個も授かったのに?
僕は助けるという選択肢が、頭から抜けていた。
勝手に勝てないと、助けれないと決めつけて何もしなかった。僕は《自然回復S》を持っているんだから、助けれたはずなのに。
ポーラさんを助けれた、なのに助けなかった。
それじゃあもう、僕がポーラさんを――――殺したと言っても過言ではないじゃないか。
7つのチート能力も、使えなければ意味が無い。
「あは、あはははは」
僕の口からは、乾いた笑い声が漏れた。自分に呆れて涙を流し走りながら、笑うことしか出来なかった。
セル村から、だいぶ離れたので抱えていたメアを優しく降ろす。
メアはもう泣き止んでいた。
強い女の子だなと思った。
僕は、違う意味で泣き止んでいた。何もできなかった事。否、しなかったこと。勇気が出なかった。
そんな言い訳を僕に言う資格はない。
頭の片隅に、スキルの発動条件がわからないから、もし発動しなかった時が怖かったと言う気持ちがあった?
それでも、《自然回復S》はいつも使えていたじゃないか!
僕は魔物の襲撃で火の手が上がり、まるで昼間のように明るい崩壊したセル村を見ながら胸の中で感情を爆発させる。
僕が自分に抱いている感情はそう――――後悔と絶望。
考えれば考えるほど、あの時何故行動しようとしなかったのかと後悔が押し寄せてくる。
僕の呪いのスキル《不幸体質》のせいかっ?! 《不幸体質》さえなければ、皆今も楽しく幸せに生活出来ていたはずだ…………。
――――本当に、《不幸体質》だけのせいか?
いや、僕がセル村になんか来なければ……。
僕なんか生まれて来なければ良かったんだ……。
生まれて来なければ、セル村が魔物に襲われる事もポーラさんが死ぬ事も。メアにこんな悲しい想いをさせることは無かったのに……。
「……あぁあ…………あぁぁぁあぁあぁあっ!!――――」
僕は後悔の念に押し潰されそうになって、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「……――の…………あ! ――――あ! ……ノア!」
メアに、声をかけられて僕は現実に引き戻された。
メアの声は、まだ少し震えていて涙のあとが頬に残っていた。
メアは僕の服の裾をギュッと握って、上目遣いで僕の名前を何度も何度も呼んでくれた。
目の周りは、赤く腫れがっていた。
僕は、メアの声を聞いて自我を取り戻した。
「……ごめん。大丈夫だよ」
僕はメアの不安を少しでも和らげるために、頭を優しく撫でた。
僕は、助けられてばっかりだな……。メアは、地球にいた頃の優しい妹にそっくりだな……。
こんな時に、挫けている暇はない……。メアとの――そして、ポーラさんとの約束を守るために闘わないと!
そう自分に言い聞かせて闘志を奮い立たせる。
王都に行っても酷い目に遭う可能性の方が高い。
かといって、『迷いの森』に逃げ込んでも迷って出てこられなくなるかもしれない。
ここら辺で野宿しようにもやったことが無いし、魔物がいるから出来るわけがない。
何処にも逃げ場は、安全な場所はない。セル村を崩壊させたクソみたいな、魔物達をぶっ殺すしかメアを助けられる道はない。
僕のスキルがちゃんと発動したら、あんな魔物一瞬でぶっ殺せるはずだ……。
《体術S》、《剣術S》、《自然回復S》そして《限界突破》この4つのスキルをフル活用する事が出来れば殺せるはず。
僕に、出来るのか……?
――いや、やるしかないんだ。約束を守るために。