第16話〜 『あたしは、幸せ者だ』 〜
あたしは、死ぬ前に走馬灯を見た。
それは、メアと一緒に暮らすようになってからとメアがノアという子を見つけ出して今日までに至る走馬灯だった。
メアが、うちに来た時。すなわちメアの両親が死んだ時だ。
まだ小さかったメアは両親が死んだ事なんて知りもせずに純粋で可愛らしい笑顔を向けてきた。
『ママとパパは、いつ帰ってくるの?』
とメアに質問される度に
『さぁねー……。あたしにもわからないよ』
と嘘を重ねて心が締め付けられた。
それでも、メアが料理や仕事を手伝ってくれたり成長していく姿を傍で見れてあたしは、嬉しかったな……。
マインさん、ギルさん……メアはたくましく成長しましたよ。驚く程に賢くて、素直でいい子に育ちましたよ。
――メア、ごめんね。最後まで一緒にいてあげられなくて……。
ノア、あんたがうちに来てからメアはとても楽しそうだった。あんたが来てくれたおかげで、毎日が楽しかったよ。
最初見た時は、死にかけてたのに異常な回復力には驚かされたけどね。
ノアの服装は、ちょっと変わっているけどかっこよくて面白くって、たまにネタにして笑わせてくれたね。
トレーニングをし始めて、あんなに貧弱な体だったのにすぐに男らしくなってビックリさせられたもんだよ。
『いただきます』や『ご馳走様』なんて素敵な言葉も教えてくれて。ノア、あんたは凄く不思議な子で見ていて飽きなかった。
魔物達を相手にしながらも体の傷から血が流れ出て、死が近付いているのが分かる。
「短い間だったけど、ノア……あんたと一緒に過ごした時間は楽しかったよ。どんどん剣術が成長して行く姿は見ていて面白かったねぇ……。
メア、あんたはいつも色々と手伝ってくれてありがとね……。傍で成長していくのを見れて幸せだったよ」
あたしは、魔物相手にしながら死の恐怖で震える声を絞り出して投げかける。
視界の隅に映る2人の姿は泣いていた。
あたしの為に、こんなに泣いてくれて嬉しいねぇ……。
「ポーラさんっ!! 僕は、僕はまだ貴方にっ!! ――恩返しが出来てないっ!!」
そんなことないよ。ノア、あんたはあたし達が知らない素敵な言葉を――楽しい時間を与えてくれたじゃないか。
あたしは、フッと微笑みノアに語りかける。
「メアを、頼んだよ」
「短い間だったけど、命を助けてくれて……僕を受け入れてくれて――あ゛りがとうっ!!」
「ポーラっ!! メアも、幸せだったよ!! こんなメアを育ててくれてあ゛りがとうっ!」
2人は、あたしの気持ちを察してくれたみたいだ。
2人の言葉を聞いて、あたしは心がとても暖かくなった。
魔物達の爪や牙がゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
あたしは、怖い気持ちよりも。死にたくない気持ちよりも。悲しい気持ちよりも。泣きたい気持ちよりも、嬉しい気持ちの方が勝った。
自然と笑みが溢れて、あたしの今の気持ちが口から勝手に零れた。
「あぁ……あたしは、幸せ者だ」
犯罪者の末裔として生まれてきたけれど、こんなに幸せな人生を送ることが出来た。
本当に、あたしは――――幸せ者だ……。




