第13話〜 ポーラさんの思惑 〜
それから、僕は朝走って筋トレ。
時にはメアの遊び相手になったり、ポーラさんの畑仕事を手伝ったり。
ポーラさんの時間が許す限り、木剣を使って剣の特訓。
ポーラさんが忙しい時には1人で素振りしたり走ったり、筋トレをする。
近くにある木の幹に向かって木剣を振るったりして、振動に耐えたりする事もしてみた。
そんな、脳が筋肉だけになりそうな日々を送っていった。
ある日、ポーラさんといつもの様に木剣での特訓をしていた。
すぐ近くでメアも見ていた。
最近、メアは僕が鍛えている事に興味を持ち始めて、ほとんど一緒にいる事が多くなった。
腕立て伏せの時などには、背中に乗ってもらったりと手伝って貰っている。
べ、別にそんな性癖とかじゃないからねっ?!誤解はしないで欲しいね。
「ノア。あんた成長するのが早いねぇ。みてて楽しいよ」
「あはは。そうですか?」
僕は、ポーラさんと木剣を交えながら少しなら会話出来る余裕が出来てきた。
《獲得経験値10倍》と《必要経験値10分の1》のおかげだろうな……。
そのスキルがあったからか、今のレベルはなんと《943》だ。
これでも、ポーラさんに勝てないってポーラさんって一体レベルどんだけ高いんだ?!
それとも俺が低いだけ?!
最初の頃に比べたら、ポーラさんに力負けしないようにはなってきたが、それでもまだポーラさんの方が少し強い。
自分の成長を実感していると、ポーラさんが急に手を止めた。
「よし、ノア。覚悟しな」
ポーラさんは、そう一言だけ言って僕に向かって駆け出してきた。
ポーラさんの表情は、さっきまでと打ってかわって、真剣そのものだった。
僕はポーラさんの行動に困惑したけど、すぐに集中してポーラさんの動きを見て、攻撃を木剣で受け止める。
力が拮抗して、ポーラさんと僕は一旦下がって相手の様子を窺う。
僕が、体勢を低くしてポーラさんに向かって走り出す。
ポーラさんは、僕が来るタイミングで木剣を下に振り下ろすつもりなのか、大きく振りかぶった。
ポーラさんとの距離が近くなり、ポーラさんが木剣を振り下ろしてきたタイミングで僕はポーラさんの後ろに回り込み、首筋に木剣を入れる寸前で止めた。
「僕の勝ち、ですね」
「っ……?!」
僕の動きに驚いたのも一瞬の事、ポーラさんは「やれやれ……あたしの負けだね」と言って降参ポーズを取る。
「それにしても、驚いたね。まさか、あたしを飛び越えて後ろに回るとは……」
「ノア、凄かったー!! かっこよかったー!」
ポーラさんも、近くで見ていたメアも僕の動きに驚いていた。
僕がした事は至って簡単で、ポーラさんの剣撃が届く前にジャンプでポーラさんを飛び越えて一回転しただけだ。
だが、この前までへにゃへにゃのモヤシ並の身体だった僕。その僕が、こんな事を出来ると思わなかったポーラさんの油断があったからこそ、勝てたのだ。
でもまぁ、地球にいた頃なら絶対に出来なかった事が出来て滅茶苦茶嬉しかった。視界がグルンと回るのは、少し面白くもあった。
だけど、そんなに驚かれるとなんか照れるな……。トレーニング頑張って良かったな。
でも、技量ではまだポーラさんには劣っているからもっと頑張らないとなぁ……。
「やぁ……やっぱノアはあたしが思った通り成長が早いねぇ。ここに来た時はヒョロヒョロだったってのに」
と、ポーラさんが思い出しながら感傷に浸っていた。
「ねぇ、ポーラ。なんで急に真剣にしたのー?」
そう、それは僕も気になった所だ。ただ純粋に、僕の成長具合を確かめたかったり、ただ勝負したかったのならば、普通に言えばいいことだ。
何か、そうする理由があったのかな?
僕はメアが言った事にうんうんと相槌を打っているとポーラさんが明後日の方を向いて、自分の気持ちを確かめるように話し出した。
「そうさねぇ……。ノアが、この村の事を知る人に値するかを見極めるためのもの……かねぇ……」
なんだろうと思いメアの方に目を向けると、メアは何かを言いたげな目でポーラさんを見つめていた。
それに気付いたポーラさんは「大丈夫さ。短い間だけど、剣の相手をして悪い人じゃないってわかったのさ」とメアに諭していた。
今の会話から推測するに、メアもこの村について知っているのだろう。
剣を交えただけで、善人悪人の区別はつくものなの?! いや、多分僕の努力してる姿とか真剣な表情から判断したのか。
「それに、ほかの人達もノアになら大丈夫だろうって賛同してくれたよ」
「なら、大丈夫かなー……? ノア、村の事を知っても急に態度変えたりしないー?」
メアが、僕に向かって聞いてきた。話し方はいつもと変わらず緩い感じだ。けれど、メアの表情は真剣そのもの。少し不安な表情をしていた。
「僕は、この村の事。村の人達のこと。それからポーラさんやメアの事をもっと知りたい。そして、もっと仲良くなりたいな」
僕はメアに優しく語りかける。
例え、どんな衝撃な事実を言われたとしても命の恩人に失礼な態度なんて取れるわけが無い。けれど、必ずしも今までと同じ様に接する事が出来るとは言えなかった。
とはいえ、この短い間でもポーラさんや村の人達から、信じるに値する人と思われたのは素直に嬉しかった。ならば、表面上だけでも今まで通りの態度でいよう。
そう決意したのだが、僕が想像していた逆の意味で裏切るような事になった。