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第95話

 深夜。

 新月の下、真境がモスの荒野に降り立って間もなく、夜闇の中から永遠長が姿を見せた。


「こんな時間に呼び出すとは、どういうつもりだ?」


 真境は永遠長を横目に見やった。


「言ったはずだ。やることが済んだら、おまえの連れを生き返らせると」


 永遠長はそう言うと、真境を連れて自分の村へと転移した。


「ここは?」

「俺の村だ」

「村?」


 真境は周囲を見回した。だが、辺りには民家の1軒も見当たらなかった。


「何もないぞ?」

「当然だ。全部、外に移したからな」

「移した?」

「おまえが気にすることじゃない」


 永遠長がそう言い捨てた直後、地面が激しく揺れ動いた。


「な、なんだ!?」


 深夜に呼び出され、見知らぬ場所に連れて来られたかと思えば、今度は地震。


「これも貴様の仕業か!?」


 真境には、すべてが意味不明だった。


「この村は、俺の所有物だから持っていく。ただ、それだけの話だ」

「持っていく? さっきから何を言ってるんだ、貴様は? モナを生き返らせてくれるのではなかったのか!?」


 真境は、いらだたしげに言った。


「だから、今その下準備をしている」

「この地震がか?」

「上を見ればわかる」

「上?」


 真境が空を見上げると、


「な!?」


 目前に黒雲が迫っていた。


「これは……」


 突然の地震に、近づき続ける雲との距離。そこから導き出せる答えは1つしかなかった。


「も、持ち上げたのか? この辺り一帯の土地を」

「そういうことだ」


 すべては精霊至宝石の為せる技だった。


「だが、なんのために、こんなことを……」


 スケールの大きさには驚いたが、これとモナの蘇生に、どう関係があるのか。依然として謎のままだった。


「この世界をリセットする」


 永遠長は軽く答えた。


「リ、リセットだと?」

「正確には、この世界の時間を2年分、戻す」

「回帰か!」


 確かに回帰なら、世界の時間を戻すことも可能だろうし、必然的にモナも生き返ることになる。


「し、しかし、本当に、そんなことが可能なのか? 人の時間を2、3日巻き戻すのとは、わけが違うぞ」


 世界、星に回帰を施すとなれば、それこそ莫大なエネルギーが必要になる。それだけのエネルギーを、背徳のボッチートとはいえ、人1人で捻出できるとは思えなかった。


「これまでは不可能だった。しかし、ここに来て状況が変わった」

「変わった?」

「おまえの「境界」だ」

「境界?」

「そうだ。以前説明した通り、おまえの「境界」には、境界内すべてに効果を波及させる力がある。そして境界内では、通常より遥かに少ないエネルギーで星全体に回帰を施すことができる」

「しかし貴様、前に言っていたはずだろう。貴様の力でも、境界で覆える範囲は関東圏が限界だと」


 それでは、星を丸ごとリセットするなど不可能だった。


「それとも、部分的に何回かに分けて行うつもりか?」

「そんなことをすれば、生き返る者も生き返らない」

「?」

「このモスに限らず、世界は絶えず循環している。この世界では土葬が主流だが、全員が墓に埋葬されているわけではないし、墓に埋葬された者も棺桶のなかで腐敗し、いずれは土に帰る」


 そして土に還った肉体は、草木や虫の養分となって地上に運ばれ、鳥や獣、風によって世界中に散っていく。


「……世界を丸ごとリセットしなければ、完全な復活はできない、ということか」

「そういうことだ。しかも、その場合復活するのは肉体のみ。あの世に逝った魂まで復活するわけじゃない」

「じゃ、じゃあ、仮に、この星全体に回帰をかけても、モナは生き返らないじゃないか」

「だから事前に、この世界で死んだ人間の魂を可能な限り召喚してある」

「それで、あの楽楽という子の母親を呼び出すとき、練習と言ってたのか?」

「そういうことだ」

「だ、だが、魂の問題はそれで解決しても、この世界全体に回帰をかけるエネルギーがないことに変わりはないだろう。どうするつもりなんだ?」


 真境には、まるで見当がつかなかった。


「簡単な話だ。俺の力が足りないならば、他から調達してくればいい」

「調達って、そんなエネルギー、一体どこから……」

「以前、マジカリオンの連中が言っていたことがヒントになった。俺は創造主化して寺林と戦っているとき、無意識にディサースのエネルギーを使っていたと」

「は?」

「ならば同じ要領で、各世界、星そのものと連結すれば、その星のエネルギーを転用できるのではないか? と考えた」

「ほ、星のエネルギーを使うだと?」

「そうだ。あまり使いすぎると、星そのものを消滅させる恐れがあるが、この世界を2年巻き戻すぐらいなら、大丈夫だろう」

「大丈夫だろうって、ダメだったらどうする気だ?」

「そのときはそのときだ。できれば太陽かダークマターと連結できればよかったのだが、できなかったものは仕方ない」


 地球と太陽の距離は、約1億5000万キロメートル。光速(1秒間に約30万キロメートル)で約8分20秒、音速(1秒間に約340メートル)だと約5100日かかる計算になる。


 以上の事実を踏まえた上で、1時間実験した結果、太陽との連結は叶わなかった。しかし、それは同時に、永遠長の連結速度は光速より遅いことの証左となったため、それはそれで永遠長的には有意義な実験となったのだった。


「それこそ創造主化すれば、こんな手間暇をかける必要もないのだが、あれはコントロールが難しい。下手に制御し損なうと、人類発祥前まで時間を巻き戻しかねんし、最悪エネルギーを吸収し尽くして、ディサースを消滅させかねない」


 同じ消滅のリスクを払うのなら、クオリティによるコンボのほうが、まだ安全という結論に至ったのだった。


「話はわかったが、まだ1つ疑問がある」

「なんだ?」

「なぜ2年なんだ? アーリア帝国の事件をなかったことにするだけなら、1年、いや3ヵ月で十分だろう?」


 そうすれば、それだけ消費するエネルギーも済むし、消滅のリスクも減るはずだった。


「3ヵ月だと、暮らしているモス人たちの季節感がズレることになるし、作物の収穫にも影響が出る恐れがある。この星の時間をリセットしても、太陽、公転までリセットされるわけじゃないからな」

「な、なるほど」


 言われてみれば、その通りだった。


「だが、それなら1年でいいのでは」

「1年だと、シルベーヌから受けた依頼を完遂できない」


 永遠長は以前、ミルボン王国の現女王であるシルベーヌから「元のミルボン王国を取り戻したい」という依頼を受けた。そして、そのときは叔父を国から追い出すことで依頼達成としたものの、永遠長自身は本当の意味での依頼達成とは言い難いと考えていたのだった。


「だが、ここで2年前まで時間を戻すことができれば、本当の意味で依頼を完遂したことになる」

「話はわかったが、そんなことをしてなんの意味があるというのだ? 2年前まで戻してしまったら、貴様に依頼したこと自体、忘れてしまうんだぞ?」

「関係ない。報酬を受け取った以上、依頼は完遂する。それが冒険者としての俺の流儀だ」


 永遠長は、大気圏を抜け出たところで村を停止した。そしてモス星が見えるように大地を傾けると、ゴーストに変身。エネルギードレインで、連結している異世界からエネルギー供給を開始すると同時に、


「境界」


 モス星を光で包み込んでいく。


 そして境界が星を覆い尽くしたところで、


「回帰」


 モスの時間を巻き戻したのだった。






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