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第87話

「でっかいのー! これが巨人っちゅうやつか!」


 木葉は緊張感のない顔で、正面に立ちはだかる巨人を見上げた。


「ちゅうか、どこじゃ、ここは? なんで、わしはこんなところにおるんじゃ?」


 木葉は周囲を見回してから、自分が鞘付きの剣を握っていることに気づいた。


「なんじゃ、これは? なんで、わしはこんなもん持っとるんじゃ?」


 木葉は小首を傾げた。が、すぐに、


「まあええ。ようわからんが、ようはこいつをブッ倒せばええんじゃろ!」


 単純明快な答えに達すると、剣を鞘から抜き出そうとした。すると、


「なんじゃ!?」


 剣の封印が解除された。そして木葉に抜き放たれた剣は、土門の神器と同じように光り輝いていた。


「おお!? なんか、ようわからんが、これはアレか! アレじゃな! ついに、わしもアレをゲットできたんじゃな!」


 感動に打ち震える木葉を見下ろし、


「…………」


 真境が炎の剣が振り上げる。


 豹変した木葉の様子に、しばし呆気に取られていたものの、これは真境にとっては絶好のチャンスだっだ。

 今の様子から推察するに、気絶していた木葉の意識が戻ったのだろう。

 そして永遠長との約定は、木葉の命を奪えるかどうか。つまり、ここで木葉を倒してしまえば、勝負は自分の勝ちなのだった。


 永遠長が取り憑いた木葉には、正直まったく歯が立たなかった。が、木葉本人が相手となれば話は別だった。

 実際、あの洞窟では完勝している。そのうえ、今の変身は最強の巨人。勝ち目どころか、負ける要素を探す方が難しかった。


 これで終わりだ!


 必勝の確信を持って振り下ろされた炎の魔剣を、


「ぬお!?」


 木葉が間一髪のところで回避する。

 

 往生際の悪い、エテ公が!


 真境は再び剣を振り上げた。


 実力では、確かに木葉を圧倒している。だが、無駄に素早い木葉を大剣で捉えるのは至難の業だし、スルトに変身していられる時間にも限度がある。


 ならば!


 炎の剣の力を最大限に引き出し、辺り一帯もろとも焼き尽くすのみだった。


「む!?」


 剣を上段に構えた巨人を見て、木葉も巨人の覚悟を感じ取る。


「真っ向勝負っちゅうわけか? 上等じゃ!」


 木葉も剣を身構えると、


「勝負じゃあああ!」


 巨人へと切り込んでいく。それを見て、


「オオオオオオ!」


 真境も渾身の力で炎の剣を振り下ろす。だが木葉は怯むことなく、


「ふんぬありゃああ!」


 巨人めがけて飛び上がると、


「食らええええ!」


 振り下ろした剣先から強烈な光を撃ち放つ。そして両者の魔剣の力が真っ向から激突する。結果、


「ウオオオオオオ!」


 木葉の放った光に剣を撃ち砕かれた巨人は、そのまま光のなかに消えていった。そして、その光も消え去った後には、人に戻った真境が倒れていた。


「……さしずめ」


 気絶した木葉から再び肉体の主導権を奪った永遠長は、


「これは使用者の闘気を、攻撃力に転化することができる剣、といったところか」


 鞘から抜き放たれた剣身を、まじまじと観察した。


 おそらく神器に選ばれた木葉本人が手にしたことで、封印が解けたのだろう。

 そして剣の力を借りて、特大の闘気弾を撃ち放った。

 しかし加減を知らない木葉は、その一撃に全闘気を注ぎ込んでしまったために再び気絶してしまったのだった。


「この剣は、とりあえず封印しておいたほうがよさそうだな」


 永遠長は木葉が投げ捨てた鞘を拾い上げた。


「だが、このまま封印しただけでは、次に封印が解けたときも闘気をコントロールできずに、また暴発させる恐れがある」


 その場合、状況次第でどんな被害が出るか知れたものではなかった。

 とはいえ鞘をつけたままでは、闘気をコントロールできるようにはならないだろう。特に木葉の場合は。となれば……。 


 永遠長は、ある「改変」を鞘に施した。


「こっちは、これでいいとして」


 永遠長は力尽き、身動きひとつできない真境に歩み寄ると、


「回復付与」


 再び真境の体力を回復させた。


「これで、また戦えるだろう。続きをやるぞ」

「……俺を、まだ道化にするつもりか?」


 体力が回復しても、真境の戦意は失われたままだった。


「さっきのは木葉の力であり、俺の力ではない」


 永遠長としては、あんな形での決着、というか実験の終了は不本意なのだった。しかし、


「同じことだ。俺が負けたことに変わりはない」


 真境は静かに目を閉じた。

 永遠長のみならず、あれだけ侮っていた木葉にも完敗した。これ以上の悪あがきは見苦しいだけだった。


「俺の負けだ。後は警察に突き出すなり、好きにしろ」


 あの3人組を殺したときから、とうに覚悟はできていた。どんな罪であろうと甘んじて受けるつもりだった。


「誰が、そんなことを言った?」


 永遠長は憮然と言った。不機嫌なのは、真境が見当外れのことを言ったからではなく、実験が終了を余儀なくされてしまったからだった。


「地球人をモスから遠ざけるという、おまえの目的は俺の目的にも合致する」


 永遠長は淡々と続けた。


「俺にとって大事なことは異世界の安定であり、おまえが異世界の平穏を乱さない限り、おまえを咎め立てする理由など俺にはない」

「俺を見逃すというのか?」

「見逃すも何も、異世界ストアの運営権目当てに近づいて来たのは、おまえのほうだろう」

「だが、俺は何人もの異世界人をモンスター化したし、地球人を地球でモンスター化もさせた。その結果、死んだ人間も」


 真境の心を苛む罪悪感を、


「おまえの感傷に興味はない」


 永遠長は一言の下に切り捨てた。


「か、感傷だと?」

「人を殺したから、それがどうした。人を殺した人間が必ず報いを受けているというならまだしも、実際にはそうではない。戦争で、いくら人を殺そうが罪に問われない人間はいるし、その後必ず不幸になったわけでも、非業の死を遂げているわけでもない」


 因果応報などというものが、もし本当にあるならば、争いの種を撒き散らしてきた独裁者たちは、とうの昔に死に絶え、すでに戦争自体なくなっているはずだった。

 しかし実際には、そんな因果応報は誰にも起きていないし、独裁者による戦争は今このときも起きている。


「人を何人殺そうが、のうのうと暮らす奴は暮らし続けるし、天寿を全うする奴はする。人の作った刑罰など、しょせんその程度のものでしかない。そんないい加減な価値観を絶対視して、気に病んでいるから感傷だと言ったんだ」


 もし命を奪うことに罪があるのだとすれば、それは命を奪ったこと自体ではなく、その命を奪うことが自分が生きていく上で本当に必要だったかどうか。


 永遠長にとっては、それだけなのだった。


「そして、もし本当に罪だというならば、それは死んだ後に神なり閻魔大王なりが審判を下すことだろう。人間ごときが、ああだこうだ言ったところで時間の無駄でしかない」

「…………」

「そもそも、俺は警官でも裁判官でもない。地球人が地球人を何人殺そうが、そんなことは俺の預かり知るところではない」


 殺人事件を捜査するのは警察の仕事であり、永遠長には、なんの関係もない話なのだった。


「一方で、おまえの言う通り、この世界での異世界人のモンスター化は、地球人の異世界人への過度の干渉であり、本来ならば厳罰に処すところではある」

「…………」

「だが、連中の地球人への敵対心は、おまえによって先導されたからではない。加えて、おまえが地球人をモンスター化して地球に送り返すという手段を選択したことにより、結果として必要以上の血が流れることも回避できたし、地球人への警告ともなった。よって、今回のおまえの行為は不問とする」


 それが、異世界ストアのトップとしての永遠長の結論だった。


「また、おまえがモンスター化したモス人たちだが、元に戻す必要はない」

「地球人と戦うことになった場合、必要だからか?」

「違う。モス人たちは元に戻す。だが、おまえが手を下すまでもない、ということだ」

「それは、おまえが戻すということか」

「そうだ。それと、ついでに言っておくと、もしおまえが、まだ地球人を化物から守りたいと思っているのなら、これ以上のモンスター化は控えることだ」

「どういうことだ?」


 真境は身を起こした。


「あくまでも可能性の話だが、もし化物が復活した場合、おまえがモンスター化した人間が、復活した化物どもに取り込まれる可能性がある、ということだ」


 永遠長の指摘に真境は鼻白んだ。


「だいたいのファンタジーでは、弱いモンスターは魔王の命令に従っているだろう。もし復活した化物のなかに、自分より弱いモンスターを支配する能力があった場合、モンスター化された人間は、その化物の手先となって地球人を襲う可能性がある」

「だが、俺にはモンスターを従える「魔物使い」の力が」

「それより強力な力を向こうが持っていた場合、どうする? そんな可能性は絶対にない。自分は負けない。そう言い切れるのか? 俺程度に勝てない、今のおまえが」


 永遠長の容赦ない指摘に、真境は鼻白んだ。


「そして、もしそうなった場合、地球人側は化物どもと戦うことを躊躇する可能性がある。もしかしたら目の前にいるモンスターは元々人間かもしれない、という思いがブレーキとなってな」


 もし戦えたとしても、常に罪悪感を抱きながらの戦いを強いられることになるだろう。


「これは、あくまでも可能性の話であり、推測の域を出るものではない。しかし、この推測が万が1にも的中した場合、地球人は必要のないリスクを負うこととなり、下手をすれば、それが原因で絶滅することにもなりかねない。それでもいいというのであれば止めはしないが、そうでないならば、現時点における、これ以上のモンスター化は止めておくことだ」

「…………」

「そして、それとは別に、もしおまえがこの先もモスのために戦うというのであれば、ストアの権限の一部を、お前に分与してやろう」

「権限の一部?」

「欲しかったんだろう。モスにおける地球人の決裁権が」

「なに?」

「つまり、おまえもストアの運営になるということだ。モス方面の担当者としてな」

「なぜ俺に? 貴様、いったい何を企んでいる?」


 真境には永遠長の真意が理解できなかった。


「言ったはずだ。俺の望みは異世界の安定だと。そのために、おまえの力は役立ちそうだから利用することにした。ただ、それだけの話だ」

「…………」

「だから、おまえも俺を利用すればいいし、それに見合う対価も払う。毎月の給与はもとより、もしおまえがこの申し出を受けるというのであれば、おまえが今1番望んでいることを叶えてやろう」

「もう、俺に望みなど……」


 そうつぶやき、顔を曇らせる真境に、


「あるだろう。モナとかいう人間を生き返らせるという望みが」


 永遠長は事もなげに言った。 


「モナを生き返らせるだと!?」


 真境の目の色が変わる。


「ほ、本当に、そんなことができるのか!?」


 高度な魔法文明を築き上げているディサースであれば、それが可能であることを真境も知っていた。だが、それも死亡直後に限られ、死んでから時間が経てば経つほど、その蘇生率は低下する。すでに死亡してから1月近く立っているモナの復活は、どんな高僧であろうと不可能なはずだった。


「現時点においては、可能性の話でしかない。だが、俺は可能だと考えている」

「ほ、本当なのか? それが本当なら……」


 真境は、どんなことでもするつもりだった。


「だが、その前に2つ、やらねばならんことがある」

「なんだ? なんでも言ってくれ。あいつが生き返るなら、俺の命でもくれてやる」

「ひとつは、今回のモンスター化事件の犯人を捕まえることだ」

「どういうことだ?」


 真境の罪は不問に付す。そう言ったのは永遠長のはずだった。


「それは、やはり俺を警察に突き出すと言うことか?」

「誰も、そんなことは言っていない」

「いや、言ったろ、今」

「言っていない。なぜならば、モンスターメーカーは、もう1人いるからだ」


 永遠長の口調があまりに何気なかったため、


「なるほどな」


 真鏡は危うく聞き流すところだった。


「て、ちょっと待て! モンスターメーカーは、もう1人いるだと!?」


 驚く真鏡に、


「そうだ」


 やはり永遠長は事もなげに答えた。


「おまえは「世界救済委員会」とのコンタクトによって、その力を手に入れたんだろう。なら、同じ経緯で同じ力を手に入れた人間が他にいたとしても、不思議ではなかろう」

「そ、それは……」


 言われてみれば、その通りだった。しかし、


「なぜ別人の犯行だと? そう言い切る根拠はなんだ?」

「今、日本で起きている複数のモンスター化事件。これは、一見まったく同じ手口に見えるが、実は相違点がある」

「相違点?」

「そうだ。人がモンスター化する点は同じ。だが、その系統に明らかな違いがある」

「系統?」

「簡単に言うならば、一方は西洋風の、ファンタジー世界の怪物。もう一方は東洋風の、いわゆる妖怪ということだ」

「妖怪?」


 真境は露骨に眉をひそめた。


「そうだ。そして、おまえの戦い方を見る限り、おまえはいわゆる西洋風のモンスターしか使っていない。そうだろう」

「当然だ。モンスターと言えばファンタジー。RPGのモンスターと相場が決まってる」


 真境にとって、そこは絶対に譲れない一線だった。


「妖怪など、ファンタジーのモンスターに比べれば、取るに足らんグロテスクなゲテモノに過ぎん」


 真境はフンと鼻を鳴らした。


「エレガントさ、凛々しさ、スマートさ、どれをとっても西洋のモンスターが上回っている。その証拠に見てみろ。昨今のカードゲームを。どのカードも、描かれているモンスターは西洋のものばかりだ。どこのカードゲームに、小豆洗いだの子泣き爺が登場している? 小豆洗いを攻撃表示で召喚! などしたところで、まったく様にならん! それだけ皆の意識に、モンスター=ファンタジーモンスターという思想が根付いているのだ!」


 真境は力説した。


「つまり、おまえは、これまで他人を妖怪を変えたことなどない。そういうことだな」

「当然だ! そんなダサい真似、たとえ他人にでもできるか! そんなことは俺のポリシーが許さん!」

「だが、警察の調書にある目撃者の証言では、約8割が妖怪になっている。警察では、さして気にしていないようだがな」

「……警察のデータをハッキングしたのか、貴様?」

「誰も、そんなことは言っていない。俺は「警察の調べではそうなっていた」という事実を言ったに過ぎない」

「…………」

「ともかく、おまえは人間を妖怪化した覚えはないのだろう。だが、実際には出現している。ならば、それこそモンスターメーカーがもう1人いるという、何よりの証拠だ」

「それで、そのもう1人を捕まえるというわけだな? だが、どうやって捕まえる? 何か手がかりでもあるのか?」


 真境が、そう尋ねたところで、


「とりあえず話は、ここまでだ」


 永遠長が遮った。


「どうした?」

「また、こいつが目を覚ましかけている。後のことは異世界ナビで連絡する」


 永遠長はそう言い残すと、


「お、おい」


 真境が呼び止める間もなく、転移魔法で洞窟へと戻った。そして元々倒れていた場所に、木葉の体を寝転ばせる。と、その直後、


「うおりゃああああ!」


 木葉が両腕を振り下ろしながら、勢いよく起き上がった。


「ぬ!?」


 まだ巨人と戦っているつもりでいた木葉は、巨人の姿を求めて辺りを見回した。

 しかし周囲にいるのは秋代たちだけで、巨人の姿はどこにもなかった。


「夢じゃったんか?」


 一瞬、そう思ったが、傍らを見ると、さっき使った鞘付きの剣があった。


「おお! やっぱり、夢じゃなかったんじゃ!」


 木葉は大喜びで鞘付き剣に頬ずりした。


「うっさいわね。なに騒いで……」


 木葉の大声で目を覚ました秋代は、


「あ!?」


 すぐに自分の置かれた状況を思い出した。


「あいつは!?」


 秋代は、あわてて周囲を見回したが、真境の姿はどこにもなかった。


「いったい、どうなってるわけ?」

「どうもこうも、わしがあいつを倒したんじゃ」


 木葉が得意げに胸を張った。


「あんたがあ?」


 秋代の顔が、これ以上ない胡散臭さを形作る。


「なんじゃ、その顔は?」


 木葉は不本意そうに言い返すと、


「見てみい。これが証拠じゃ」


 鞘付きの剣を秋代に突きつけた。


「それが、なんだってのよ?」


 秋代の目が、さらに不信感を強める。


「だからじゃな。この剣がパーッと光ったから、わしがバーンと引き抜いたら、もっと剣がパーッと光ったんで、その光でドバーンとブッ倒したんじゃ」

「意味わかんないんだけど」


 元から木葉は四六時中、意味不明の未確認地球外生物だったが、今はその難解さに拍車がかかっていた。


「で? そのドバーンとブッ倒した奴は、どこにいるわけ?」


 秋代は、わざとらしく周りを見回した。


「さあのう。その後のことは、わしもよう覚えとらんのじゃ」


 木葉は小首を傾げた。


「ふーん」


 もし木葉の話が本当だとすると、木葉に殺られて復活チケットが発動したか、撤退せざるを得ないほどのダメージを受けた、と見るのが妥当だった。だが、そんなダメージを与える力が木葉にあるとは思えなかった。そして脈絡もなく、唐突に現れたという剣。


 そのすべてが、ひとつの答えを指し示していたが、今は他に優先すべきことがあった。


「ま、いいわ。色々ツッコミどころ満載だけど、今はこの状況を片付けるとしましょ」


 秋代たちは、まず気絶している小鳥遊たちを起こして回った。そして意識を取り戻した小鳥遊たちと手分けして、黒鉄や信者たちを元に戻すと、最後は加山の改変の力で信者たちから地球人に関する記憶を消去した。

 こんなものは一時しのぎに過ぎない。そんなことは提案した小鳥遊が1番わかっていたが、今の自分たちにできることはこれしかなかったのだった。


 そして一夜が明け、


「永遠ー!」


 登校した木葉は、永遠長の席に直行した。一刻でも早く、このサプライズを知らせたくて、昨日からウズウズしていたのだっだ。


「聞いてくれ、永遠! ついに、わしの剣が見つかったんじゃ!」


 木葉の全身からは、喜びのオーラが溢れ出ていた。


「俺には、なんの関係もない話だ」


 永遠長の返事は、いつも通りのテンプレだったが、


「実は昨日、モンスター化事件の犯人と戦っての」


 木葉はお構いなしに続けた。永遠長の反応など、初めから気にしていない様子だった。


「でじゃ。気がついたら、見たこともない剣を握っておっての。小鳥遊が言うには、わしはあいつにやられた後も無意識に戦い続けておって、そのとき強い武器が欲しいと無意識に思ったんじゃないかと言うんじゃ。で、その心の声を聞きつけた剣が、永遠の剣みたいに、わしのところに飛んで来たんじゃないかとのう」


 小鳥遊も、事実は違うことを薄々感づいていた。が、言うと面倒なことになりそうなので、それらしい理由を作り上げて、木葉を納得させたのだった。


「まあ、それはええんじゃが、問題は、そんときは確かに抜けた剣が、その後は何度試してもまったく抜けんっちゅうことなんじゃ。抜けたときみたいに、鞘は光るんじゃがのう」


 木葉が、この話を永遠長にした1番の理由は、それだった。永遠長ならば、誰にもわからないことにでも答えが出せる。木葉は無邪気に、そう信じているのだった。


「……だとすれば、それは、まだ抜くべきときではない、ということだろう」

「どういうことじゃ?」

「漫画でも、よくあるだろう。普段は封印されている剣が、強敵と出くわしたときだけ封印が解けて、強力な力を発揮して敵を倒すという展開が」

「おお! 確かに!」


 木葉は目を輝かせた。


「だが、それだけでは普段の戦いにおいては役に立たないし、それで雑魚に負けたのでは本末転倒となる。そこで、それを避けるために、その剣には細工がされている可能性がある」

「どういうことじゃ?」

「その剣は、鞘に収まった状態でも光ったのだろう。ならば鞘に収まったままでも、おまえが使ったという力が出せる可能性があるということだ」

「なんじゃと!?」


 木葉にとっては、かつてない驚天動地の衝撃だった。


「鞘に収まったままである分、ある程度力は落ちているだろうがな」

「そ、そ、そ、それは本当か、永遠?」

「事実は知らん。あくまでも、その可能性がある、という話だ」


 永遠長は、うそぶいた。


「うおっしゃああああ!」


 木葉は気勢を上げると、鞄から異世界ナビを取り出した。だがナビを操作しようとした矢先、


「待てい」


 秋代に取り上げられてしまった。


「こんなもん取り出して、何しようってのよ、あんたは?」

「決まっとるじゃろうが! 今すぐモスに行って、永遠が言うたことが本当かどうか確かめるんじゃ!」

「何、バカなこと言ってんのよ。もう授業が始まるでしょうが」

「んなもん、どうでもええ! そんなことより、わしの剣のほうが万倍大事じゃ! 返せ!」

「そんなこと言われて、はいそうですかと、返すわけないでしょうが。これは放課後まで没収よ」


 秋代はそう言うと、


「転移付与」


 木葉の異世界ナビを自分の机の中へと転移させてしまった。


「ぬあ!? わしのナビ!? どこやったんじゃ、春夏!?」

「あたしの部屋よ。帰ったら返してあげるわ」

「よし! おまえの部屋じゃな!」


 飛んで帰ろうとする木葉を、


「だから!」


 秋代があわてて掴み止める。


「たく、あんたが余計なこと言うから」


 秋代は恨みがましく永遠長を見た。


「知らんし関係ない。俺は、考えられる可能性を言ったに過ぎない」


 ぬけぬけと言う永遠長に、


「可能性ね」


 秋代は思わせぶりに繰り返した。


「そんなことよりも、おまえたちに話がある。昼休みに屋上まで来い」


 永遠長は、ぶっきらぼうに言った。


「へえ、あんたのほうから話って珍しいわね。昨日の一件がらみ?」

「新しいイベントに関する話だ」


 そう言う永遠長に、


「なんじゃと!?」


 まだ帰ろうとしていた木葉が振り返った。


「新しいイベントじゃと!? どんなイベントじゃ!?」


 この時点で、すでに木葉の頭から剣のことは吹っ飛んでいた。


「だから、それを昼に話すと言っている」

「今話せばええじゃろ!」

「今話せば、また後で土門たちにも話さなければならないだろうが。それに」

「それに、なんじゃ?」

「もう時間だ」


 そう永遠長が言った直後、予鈴が鳴ったのだった。






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