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第78話

「おまえが犯人だと!?」


 気色ばむ黒鉄に、


「だから、そう言っているだろうが。貴様は頭だけでなく、聴覚まで鈍いらしいな」


 真境はフンと鼻を鳴らした。


「私が他人をモンスター化するには、その人物に触れる必要があるんだが、闇雲に接触すれば不審に思われる。そこで、教団にモンスター化された犠牲者の1人という形で接触することにしたんだよ。いわゆる「木を隠すなら森の中」というやつだな」


 そのために、真鏡が用意したのが黒鉄たち20人のプレイヤーだった。彼らをキマイラに変えて秋代たちを襲わせる一方で、自分自身は魔具により透明化して身を隠しておく。そして混戦の中で、秋代たちの目を盗んで倒されたプレイヤーの1人と入れ替わる。そうして真鏡は、秋代たちへの接近を果たしたのだった。


「それを言うなら「枯れ木も山の賑わい」じゃろ」


 木葉がドヤ顔で言ったが、


「違うわよ、バカ」


 秋代に速攻で否定されてしまった。


「貴様らのことは、以前そこの女がクズ3人と戦り合う場面に遭遇したときからマークしていた」


 真境は秋代を見た。


「あのとき捕縛できればよかったんだが、邪魔が入ってしまったんでな。日を改めて仕掛けることにしたんだ。それも、正攻法での攻略は骨が折れそうだったんで、搦め手でな」

「そこまでして、あたしたちを捕まえてどうしようってわけ?」

「貴様が言ったのだろう。自分は異世界ストアの運営だと。私が欲しいのは、その運営権だ。この世界から、地球人を完全に排除するためにな」


 真境の瞳が憤怒に揺らめいた。


「地球人を排除?」


 秋代は眉をひそめた。


「そうだ。貴様らも異世界ストアの運営なら、この世界で地球人がしでかした蛮行の数々は承知しているだろう。自らの支配欲のために、多くの国々を戦火に巻き込んだアメリカ人を始め、この世界にやって来る地球人どもはロクでなしばかりだ。どいつもこいつも海外旅行気分で、現地人の迷惑などお構い無しで好き放題。そのくせ気分だけは冒険者気取りときている。命もかけずに何が冒険者だ! 旅の恥は、かき捨て? そんな身勝手な理屈は、地球の中だけでやっていろ! ヘドカスどもが!」


 真境は吐き捨てた。


「……で、ムカついたから、あたしたちをフン捕まえて、運営権限でこの世界に地球人が来られないようにしようってわけ?」

「そういうことだ。そして、すでに貴様らは私の支配下にある。後は貴様らから、異世界ストアの運営権を取り上げるだけだ」

「生憎ね。あたしたちは確かにストアの運営だけど、運営権は持ってないのよ」

「この後に及んで、そんな言い逃れが通用すると」

「本当の話よ。運営権を握ってんのは別にいんのよ。あんたも、さっき何度か名前を聞いたでしょ。永遠長って。ストアの運営権は、そいつが持ってんのよ。しかも、そいつはあたしたちが何を言ったところで、どうなろうと、絶対あんたに運営権を渡したりしないわ。命賭けてもいいわよ」


 秋代が断言し、木葉もウンウンと何度もうなずいた。


「……永遠長流輝。背徳のボッチートか。その男のことなら噂で知っている。手強いらしいが、貴様らを使えば」

「生憎だけど、それは無理よ」


 秋代が目配せすると、それを合図に全員が真境を取り囲んだ。


「な、に?」


 真境は鼻白んだ。


「1度引き返したことで、あんたに小細工する時間ができたように、こっちも手を打てたのよ」


 秋代は右に目を向けた。すると、そこにはもう1人秋代が立っていた。そして次の瞬間、真境の正面にいた秋代と加山の姿が消えた。


「もう、わかったでしょうけど、あんたと一緒に来たあたしと加山は、あたしが剣で作った分身だったってわけ。ま、分身は土門君でもよかったんだけど、加山なら「改変」であたしの分身を自分の姿に変えられるし、土門君だと禿さんとのやり取りでニセ者だとバレる可能性があったからね。その点、加山だと元々影が薄いから入れ替わっても誰も気にしないだろうから」


 サラッと酷いな。と、小鳥遊は思ったが、口には出さなかった。


「で、あんたが長々と話してる間に、あたしの力で加山を透明化して、あんたの呪縛を解いたってわけ」

「なるほど」


 真境は苦笑した。


「しかし、いつ私が怪しいと気づいたんだ?」

「色々あるわよ。キマイラがクオリティを使わなかったこととか、倒されても消えなかったこととか、あたしたちについてくるって言い出したこととか、司教の仕業だと知ってたこととか、アジトを知ってたこととかね。このうち、どれか1つだけなら偶然で片付けられたけど、これだけ重なれば、さすがに気づくわよ。こりゃ、あたしたちに近づくために仕組まれた茶番だってね」

「……どうやら、貴様らのことを甘く見すぎていたようだな」


 それに焦りすぎてもいたようだった。

 地球人を、まとめてモスから追い出せる。

 その手段を目の前にぶら下げられて、知らず知らず気が急いていたのかもしれなかった。


「まったく、やんなるわ」


 秋代は肩をすくめた。


「他人を見たら泥棒と思え、を地で行ってる奴が身近にいるせいで、すっかり疑い深くなっちゃって」


 それ、永遠長君のせいばかりじゃないと思うんだけど。と、小鳥遊は思ったが、あえて口には出さなかった。


「わかったら、潔く負けを認めるのね」

「負け? どの口でホザいてる? 人数では、まだまだこちらが圧倒しているというのに」

「どこにいるわけ? その圧倒してる人数とやらは?」


 秋代は、わざとらしく周囲を見回した。


「なに?」


 真境も周囲に視線を走らせた。すると信者たちは、いつの間にか全員石化していた。


「……貴様らの仕業か」

「そういうこと。あんたの注意をあたしに向けさせてる間に、加山がね。あんたに動くなって言われて、身動きできなくなってたから簡単だったわ」


 石化してしまえば、さすがに再びモンスター化することはできないと踏んだのだった。


「納得した? なら、今度こそ観念するのね」

「観念? 誰に物を言っている?」

「この期に及んで、まだそんなこと言ってんの? この人数相手に勝てると思ってるわけ?」

「貴様らこそ、勝てると言うなら結果で証明してみろ」

「上等だ!」


 黒鉄が真境に突っ込んだ。それに対し、


「フォルムチェンジ」


 真境がそうつぶやいた直後、黒鉄の動きが止まった。いや、正確にはその場で石化したのだった。


「拓人!? てめえ、何を!?」


 黒鉄の仲間たちは、真境を睨みつけた。すると、黒鉄の仲間たちも石化してしまった。そして黒鉄たちと相対していた真境の頭には、無数の蛇がうごめいていた。続けて、


「フォルムチェンジ」


 真境は再びつぶやくと、忽然と姿を消した。


「消えよった!」

「逃げたの?」


 困惑する秋代たちをよそに、


「封印!」


 小鳥遊は周囲に向けて、自身のクオリティを発動させた。


「小鳥遊さん?」

「気をつけて、みんな」


 小鳥遊は油断なく、周囲に目を走らせた。


「彼は逃げたんじゃない。きっと透明人間になったんだよ」


 小鳥遊が自分の推測を述べた。


「透明人間!?」

「うん。彼の言うことが本当なら、彼には人をモンスター化する力があるってことでしょ。きっと、その力で自分をモンスター化したんだと思う」

「自分をモンスター化?」

「きっと、そ」


 そこまで言ったところで、小鳥遊が倒れた。


「小鳥遊さん!」


 秋代たちは、あわてて小鳥遊に駆け寄った。すると、今度は加山が倒れ込んだ。


「心配しなくていい。ただ、眠らせただけだ」


 倒れた加山の後ろから、真境が姿を現した。


「この2人の能力は厄介だからな。早めに潰させてもらった。だが安心しろ。この先は小細工なしだ。全員、正面から叩き潰してやる」


 真境はそう宣言すると、


「フォルムチェンジ」


 新たなモンスターに変身した。その姿は、秋代がつい最近目にしたモンスターだった。


「確か、シェイドと言ったかな」


 全身を影と化した真境は不敵に笑った。


「なかなか使い勝手がいいモンスターだ。通常のモンスターは長時間変身していると、意識がモンスター側に引っ張られてしまうんだが、このモンスターの場合、どれだけ変身していようとその心配がない。しかも」


 真境は禿へと右手を伸ばした。そして、


「フォルムチェンジ」


 右拳を握りしめると、


「ゴーレムナックル!」


 巨大化させた石腕で禿に殴りかかった。


「くっ!」


 禿は、とっさに「反射」でガードしたが、


「きゃあああ!」


 受け止めきれずに反射板ごと殴り飛ばされてしまった。

 前回のキマイラ戦において、反射板でキマイラの攻撃を受けた際、禿はわずかに後ずさりしていた。そのことから、禿の反射には受け止められる力に限界があると踏んだのだった。


「ミッちゃん!」


 気色ばむ土門を横目に、


「腕でも足でも伸縮自在ときている」


 真境は伸ばした右腕を振り上げる。それを見て、


「させるか!」


 土門が鎧の力を開放して、禿と真境の間に割って入る。だが、それこそ心境の狙いだった。

 真境はゴースト化した右手で土門の胸を貫くと、


「エネルギードレイン!」


 土門の生命力を吸収していった。


 土門の「回帰」も、力の一種であることに変わりはない。ならば、力そのものを吸収するエネルギードレインならば「回帰」も無力化できると考えたのだった。

 しかも土門は、他人のためとなると冷静さを失う傾向がある。そこで真境は、あえて禿にとどめを刺すフリをすることで、土門が考えなしに突っ込んでくるように仕向けたのだった。


「今度は、わしが相手じゃ!」


 木葉は真境に切りかかった。しかし切りつけたはずの剣には、まったく手応えがなかった。見ると、真っ二つになったはずの真境の体は、何事もなかったように再結合していた。そのうえで、


「ドラゴンヘッド!」


 真境は頭部をドラゴンに変えると、木葉めがけて炎を吐き出した。


「ぬお!?」


 木葉は間一髪で炎の直撃を避けたが、


「ゴーレムナックル!」


 直後に石腕の直撃を受けて殴り飛ばされてしまった。


「政宗!」

「だ、大丈夫じゃ。これぐらいでやられやせん」


 壁に叩きつけられながらも、木葉はなんとか立ち上がった。


『なるほど。頑丈さは一級品だな』


 シェイドに戻った真境は、フンと鼻を鳴らした。


「この……」


 秋代は真境に向けて剣を構え直した。


『今度は、甘く見ていたのは貴様らだったようだな』


 真境は鼻で笑った。


『私を、他人をモンスターに変えることしか能のない雑魚だと思ったか? 愚かなことだ。その程度の頭しかないから、こんな無様をさらすことになるのだ』

「うっさいわね。てゆーか、やっぱ能力が「結界」っていうのは、あたしたちを騙すための方便だったわけね」


 秋代は真境の軽口に合わせながら、この状況を打開する方法を考えていた。


『嘘じゃない。もっとも、私の本当のクオリティは「境界」だから、半分は嘘ということになるかもしれないがな』

「境界?」

「そう聞き返されるのが面倒だから、結界ということにしておいたのだよ。結界ならば、バカでもわかるからな」

「悪かったわね、バカで」


 秋代はそう言ってから、


「え? てことは、今のモンスター化は、あんたの能力じゃないってこと?」


 秋代は、てっきり真境のクオリティは、変身系の何かだと思っていたのだった。


『アレも私の能力だ。世界救済委員会に救済者と認められたときに、クオリティと一緒に与えられたんだ。モンスターを従えることができる「魔物使い」のキャラ能力と、確かプロビデンスと言ったか? 人間をモンスター化する能力をな』

「は? 救済者って、異世界には来れないはずでしょ」


 世界救済委員会と異世界ストアは住み分けされていて、救済者に選ばれた者は、異世界ストアは利用できない。

 羽続は、そう言っていたはずだった。


『知らんな。私は、ただ寺林という男からもらった異世界ナビを使って、この世界に来ただけだからな』


 真境は淡々と答えた。


 あんのチャラ男ー! どこまで、いい加減なのよ!


 憤る秋代の脳裏に「いいんだよ、私は。魔神だから」と、うそぶく寺林のヘラヘラ顔が浮かんだ。そして、それがさらに秋代の怒りを煽る。


 今度会ったら、100回ブン殴る!


 そう固く心に誓う秋代だった。


「しかし、なんじゃ、あいつの体は? 斬っても、またくっつきよったぞ?」


 木葉が今使っている剣はゴーストにも通用する人器なのだが、その剣をもってしても、まるでダメージを与えられなかったのだった。


「影だからでしょ。実体がないから、切られても平気なのよ」

「じゃあ、どうするんじゃ?」

「セオリー通りなら、影の弱点は光でしょ」


 秋代はそう言うと、


「閃光付与」


 自分と木葉の剣に光を帯びさせた。


「おお! これで斬れば、あいつにもダメージを与えられるっちゅうわけじゃな!」


 木葉は光の剣を身構えた。


「そういうことよ」


 もっとも、真境は自在に姿を変えられる。斬りつけられる寸前に、ゴーレムにでも変身されれば、ダメージは与えられなくなる。


「ホント、厄介ね」


 デタラメチートさでは、永遠長とタメを張るレベルだった。


「せめて小鳥遊さんか加山がいれば、あのデタラメにも対抗できるんだけど……」


 だからこそ、真境は真っ先に2人を潰しにかかったわけで、ないものねだりをしても始まらなかった。


「あんたたちも」


 秋代が残る2人の剣にも光を付与しようとしたとき、


「ダ、ダメだ」

「あんな化物、勝てるわけねえ」


 2人が逃げ出した。それを見て、


『バジリスク・アイ!』


 真境はバジリスクの石化能力で2人を石化した。


『……弱者と見れば踏ん反り返り、強者と見れば卑屈に媚びへつらうか、逃げるしか知らんクソどもが。こんな奴らが冒険者を名乗ること自体が、この世界への冒涜だ』


 真境は吐き捨てた。


「てーか、真正面から叩き潰すんじゃなかったわけ?」


 秋代は皮肉った。


『仮にも助けてもらっておきながら、それを見捨てて逃げ出すような卑怯者など、まともに相手をするに値せん』


 真境は冷厳に言い捨てた。


『他人のことより、自分のことを心配したらどうだ。あれだけ大口を叩いておいて、私を倒せないまま、おまえたち2人だけになってしまったようだが』


 真境は鼻で笑った。


『おとなしく降参するか? もっとも降参したところで結果は変わらんがな』

「どっちも御免ね」

『いい度胸だ』


 真境はそう言うと、


『フォルムチェンジ!』


 上半身を蜘蛛化した。その容姿のおぞましさに、


「げ!」


 秋代は思わずのけぞった。そんな秋代に構わず、


 行くぞ!


 真境は、蜘蛛化した6本足を影化すると、秋代たちへと差し伸ばした。そして、


 スライム・ハンド!


 秋代たちに届く寸前で、前足2本をスライム化した。


「げ!?」


 てっきり、またゴースト化した腕で攻撃してくると思い込んでいた秋代たちは、完全に虚を突かれてしまった。それでも、なんとか粘液をかわした秋代たちを、


 ゴーレム・ハンド!


 ゴーレム化した腕が掴みかかる。


「こんの!」


 秋代はゴーレム化した腕めがけて、剣を振り下ろした。しかしゴーレム化した腕はビクともせず、秋代は石の巨腕に捕まってしまった。


「あと1人」


 真境がそう思った直後、秋代が真境の真横に出現した。そして、右足3本を切り落とすと、


「石化付与!」


 真境の石化にかかる。だが秋代の右手が真境に触れる寸前、真境の体が溶け落ちた。正確には危機を回避するために、真境が全身をスライム化したのだった。

 そして、スライム化した真境は秋代から大きく飛び離れると、切り落とされた手足を粘液で回収した。


「火炎付与!」


 秋代は自分の剣に炎を帯びさせると、真境に止めを刺しにかかった。

 スライムは魔剣でもダメージは低く、完全に倒すには焼き尽くすしかない。

 だが秋代の攻撃は、スライムから飛び出したゴーレムハンドによって弾き返されてしまった。そして真境の姿が、スライムから人に戻る。すると、切り落とされたはずの真境の右腕も元に戻っていた。


「切られた腕が戻っとるぞ!?」

「いったん、原型のないスライムになってから人間に戻ったから、腕も元に戻ったのよ、きっと」

「なんちゅうデタラメな体じゃ!」

「やってくれたな」


 真境は秋代を睨んだ。おそらく、この女はゴーレムハンドを広げたときに生じた一瞬の死角を利用して、分身を作ったのだろう。そして自分には分身を掴ませておいて、本人は付与の力で転移した。


「舐めてるから、そういうことになるのよ」


 秋代はフンと鼻を鳴らした。


「よかろう。なら、少しだけ本気を出してやる」


 真境は右腕を突き上げると、


「ジャイアント・アーム!」


 巨大化させた右腕から、


「ライトニング・ストオオオム!」


 洞窟内に雷の嵐を巻き起こした。


「キャアアアア!」


 吹き荒れる嵐に、なすすべもなく吹き飛ばされる秋代と木葉。そして雷の嵐が収まったとき、立っているのは真境だけだった。


「これで、バトルエンド。そして、ミッションコンプリートだ」






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