第65話
土曜日の正午。
秋代たち「ロード・リベリオン」のメンバーは、モスの大地に立っていた。
永遠長から忠告されていたモスに、秋代たちが足を踏み入れることになった理由は、午前中に行われたディサースでの会議だった。
成り行きとはいえ、異世界ストアの運営となった自分たちが、これからどう行動するべきか?
それを話し合うために、秋代が皆に招集をかけたのだった。しかし、その中に永遠長は存在せず、代わりに加山の顔があった。
秋代が無視したわけではない。連絡は取ったのだが、永遠長が来なかったのだった。もっとも、それは秋代も想定内であり、それは他のメンバーも同様だった。そして加山に声をかけたのは、ブッチした永遠長の代わりというわけではなく、これまでのことに対する罰の意味合いが強かった。
小鳥遊に迷惑をかけた罪滅ぼしとして、当分の間タダ働き。
それが加山を呼んだ名目だった。しかし本当のところは、流されやすい加山は目を離すと、誰にどう利用されるか知れたものではない。だから、当分の間は目の届く範囲で監視したほうがいい、という判断からだった。
もっとも、加山の方でも小鳥遊と一緒にいられるため、不満どころか、むしろ喜んでいたのだが。
そして全員が集まったところで、秋代たちは「ロード・リベリオン」の本拠地に移動した。
ロード・リベリオンの本拠地は、以前小鳥遊が乗り込んだ奴隷商人の館であり、広さといい貫禄といい、異世界ストアの本部として十分だった。
そしてギルド本部に着いた一行は、食堂らしき長机のある部屋で、異世界ストアの運営としての初会議を行った。
その席で、まず秋代が議題に上げたのは現時点における問題点だった。
まず第1に、これからのイベントスケジュール。
異世界ストアからは、すでに今後1ヵ月のイベントが公表されてはいた。しかし、その先は当然のことながら白紙状態なので、異世界ストアの運営となった秋代たちが、その内容を決める必要があるのだった。
第2に新規利用者の開拓。
異世界ストアの目的が、いずれ出現する魔物を撃退できる人材の育成である以上、新規利用者の確保は最優先事項だった。現在でも冒険者同士の紹介で、新規のプレイヤーは増え続けているが、異世界ストアの運営となった以上、他力本願ではなく自分たちで新規利用者を開拓していく必要があった。
しかし実際のところ、誰をどういう基準で、どういう方法で勧誘するか。現時点では何も決まっていないのだった。
そして第3が武器の調達。
もし魔物が地球に復活すれば、当然地球が戦場となる。だが、その場合、自分たちには魔物と戦う武器がないのだった。
強くなること自体は、異世界でもできる。だが武器はそうはいかない。異世界で使っている武器は、あくまでも異世界のものであり、ポイント変換しない限り、地球に持ち帰ることはできないのだった。しかも、そのレートがバカ高い。
ディサースの、魔力を帯びていない通常武器はそれほどでもないのだが、魔法が付与された武器を地球に持ち帰るためには、億を越えるポイントが必要なのだった。
せめて、このレートをもう少し下げられればいいのだが、そのためには永遠長の了承が必要となる。しかし、そんなことを永遠長が認めるわけがないことを全員が理解していた。
「あいつにとっては、異世界の武器を地球に持って来るってことは、侵略者を強くするのと同義だもの。絶対、承知するわけないわ」
それでなくても、小鳥遊の交渉がなければ異世界ストアを閉鎖する気満々でいたのだから。
「イベント問題は、これまでのイベントを参考にすれば2、3ヵ月はなんとか凌げるし、新規プレイヤー問題も増やすに越したことはないけど、それで即戦力が大量に増えるわけじゃないから、焦ってもしょうがないっちゃしょうがない。だから差し当っての問題は、武器の調達ってことになるんだけど、それにはあいつを説得しなきゃなんないのよね」
それが1番にして最大の問題であり、いくら考えても妙案は浮かばなかった。そして、それは小鳥遊たちも同じであり、皆で考え込むことになってしまった。
そのときだった。
「何を言うとるんじゃ、おまえらは?」
木葉が憤然と異議を唱えた。
「その前に、わしらにはやることがあるじゃろうが」
「何よ? やることって?」
秋代は、うさん臭そうに聞き返した。こういうときの木葉は、ロクなことを言わないのが今までのお約束なのだった。
「決まっとる。わしらが強くなることじゃ」
木葉は力強く断言した。
「は? 何言ってんの、あんた? 大丈夫? 熱でもあんじゃない?」
秋代は木葉の額に手を当てた。
「何言うとるんじゃは、こっちのセリフじゃ。ええか? 仮にわしらが、おまえが言うように異世界の武器を地球に持って来れたとしてもじゃ。今のままじゃったら、それこそ地球に武器を貯め込んだところで国の連中がやって来て、銃刀法違反っちゅうことで、ぜーんぶ持っていかれるのが関の山じゃろうが。子供の遊びは終わりだ。みたいなこと言われてのう」
確かに、木葉の言う通りだった。
「それにじゃ。異世界のことは、いろんな国の奴らが狙っとるんじゃろ? そんでこれもお約束じゃが、そういう奴らは手段を選ばんと相場が決まっとる。そんで、そういう奴らが取る1番安直な方法は、仲間を人質にとって、その命と引き換えに永遠に異世界ストアの運営権の引き渡しを迫ることじゃ。そんとき、永遠が素直に応じると思うか?」
「思わないわね。てか、絶対応じないわね」
秋代は即答した。命を賭けてもよかった。
「そういうことじゃ。もし、そうなってみい。永遠の奴のことじゃ。人質を助けるどころか、人質もろとも皆殺しにしかねん。あいつは、そういう奴じゃ」
確かに。
会議に居合わせた全員が、心のなかで深くうなずいた。
「じゃからこそ、そうならんためにも、まずはわしら自身が強うならんといけんのじゃ。少なくとも、国や異世界を狙う連中に「コイツらには、うかつに手を出したらヤバい」と思わせるぐらいにの」
そして重要なのは、ここからだった。
「そんで、そのためにも、わしらがまずやらねばならんのは、わしらもわしらだけの武器を手に入れることなんじゃ! 永遠の奴みたいな! そんで、そのためには、わしらもモスに行かねばならんのじゃ! そんで永遠みたいに、わしらだけの超強力な武器をゲットするんじゃ!」
木葉の目は決意に燃えていた。
「……あんた、長々ともっともらしいこと言ってたけど、要するに昨日の戦い見て、自分も永遠長みたいな武器が欲しくなっただけなんでしょ」
それまで幼なじみに感心していた秋代の目が、絶対零度まで急降下した。
「そうじゃ。モスの武器は、オーダーメイドみたいなもんと、前に永遠が言うちょったからな。ちゅうことは、モスに行けば、わしも永遠みたいに、わしだけの凄い武器をゲットできるっちゅうことじゃからな」
永遠長のような超強力な武器を手に入れて、自由自在に使えるようになる。
それが、今の木葉の最大の命題なのだった。
相当、永遠長に毒されてるわね。まあ、元からこういう性格だった気もするけど。
妄想に取り憑かれている幼なじみを見ながら、秋代は嘆息した。
「まあいいわ。あんたのバカな望みはともかく、言ってることには一理あるし。それに異世界ストアの運営になったからには、モスの実情も知っておく必要があるし」
これまでは永遠長に止められていたため、モスには近づかずにいた。しかし異世界ストアの運営となったからには、危険だからと逃げているわけにはいかないのだった。その意味でも、モスに行くことには意味があった。
秋代の決断に周囲からの異論もなく、
「決まりじゃ!」
異世界ストアとしての「ロード・リベリオン」の初仕事は、モスの現地調査に決定したのだった。




