表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/223

第64話

 寺林との異世界ストアの運営権を賭けた戦いから、一夜が明けた早朝。

 永遠長と朝霞は、朝一で買ってきたコンビニ弁当を食べていた。


「……覚悟はできてんだろうな、おまえ」


 朝霞は、面と向かった永遠長を睨みつけた。


「なんの話だ?」


 永遠長には思い当たることがなかった。


「昨日の話に決まってんだろ。もし、できたら絶対責任取らせてやるからな。覚悟してやがれ」


 もっとも、朝霞が怒っている本当の理由は別にあった。

 昨夜、朝霞としては永遠長と一夜を共にするつもりでいた。そして、あの流れから、永遠長もそのつもりでいると思っていたのだった。しかし、そうではなかった。永遠長のいう「朝霞と付き合っている証明」とは、射精した自分の精子を朝霞の子宮に転移魔法で転移させることだったのである。

 作業を終えて、


「これでよし」


 と、満足する永遠長に、


「そうじゃないだろ!」


 文句を言うわけにもいかず、それ以後、朝霞はぶつけどころのない怒りを抱え込み続けているのだった。そして、朝霞に八つ当たり気味の怒りをぶつけられた永遠長は、


「最初から、そのつもりでいる」


 顔色ひとつ変えずに言った。


「これは、俺にとって賭けだからな」

「賭け?」

「そうだ。俺は高校を卒業したら異世界に移住するつもりでいる。だが、俺がここまで退屈しない生活を送ってこれたのは、異世界ストアがあったからだ。つまり、その意味で俺には寺林に借りがあることになる」


 もし、あの日、寺林が永遠長に異世界ストアのビラを配っていなければ、今の永遠長は存在しないのだから。


「だが、それはあくまでも、あの男が自分の都合でやったことでもある」


 それに、ただ唯々諾々と従ったのでは、この先も寺林のいいように動かなくてはならない。


「だから、賭けをすることにした。これから高校を卒業するまでの間に子供ができれば、俺は少なくとも、その子が10歳になるまでは地球に留まり、この世界を守るために行動する。そして、その子が10歳になったときに、その子に選ばせる。この先、自分がどの世界で生きていきたいかを」


 それは、永遠長の出した、この世界の危機に対する答えでもあった。


「そして、もしその子が異世界で生きることを望むのであれば、ともに異世界に旅立ち、もし地球に残ることを望むのであれば、俺も地球に残り、人類の生存のために尽力する。そういう賭けだ」

「…………」

「自分の都合に他人を巻き込むのは、俺の本意とするところではないが、おまえだと話が違ってくる」

「え?」


 永遠長にそう言われ、朝霞の頬がわずかに色づく。


「おまえは、どうせこのまま生きていてもロクな人生を送らない。すでに落ちるところまで落ちているから、俺の都合に巻き込んでも、まったくなんの問題もない」

「マジ、フザケんな、この野郎!」

「フザケてなどいない。俺は、いつでも大真面目だ」


 永遠長がそう言ったとき、家のインターホンが鳴った。


「来たか」


 永遠長はインターホンの画面で相手を確かめると、玄関のドアを開けた。すると、175センチの永遠長の身長を超える上背を持った3人の男が立っていた。


「おまえか? 俺に電話してきたのは?」


 真ん中に立っていた、ひときわ大きな40代半ばの男が永遠長を睨みつけた。


「そうだ」


 永遠長は、あっさりと認めた。朝霞の義父が、たとえ反社会組織の一員であろうとも、永遠長にはなんの関係もない話だった。


「なら、俺が来た用件もわかってるよな? 黙って俺の娘を出せ。そうすれば、電話のことは聞かなかったことにしてやる」


 朝霞の義父は、顔を永遠長の間近に寄せ、睨みをきかせた。


「それは、つまり俺の忠告を聞く気はない。そういうことか?」


 永遠長の不遜な物言いに、元々気の長くない義父のこめかみが引き付けを起こす。


「面白えガキだ。で? もし俺がテメエの忠告を聞かなかったら、テメエはどうしようってんだ? ああ!?」

「そのときが来ればわかる」


 義父の眼力に動じることなく、永遠長は淡々と答えた。


「面白えじゃねえか、この野郎」


 義父の目が血走る。


「テメエ、自分の立場がまだよくわかってねえようだな。テメエのやったことは、れっきとした拉致監禁なんだ。俺がその気になってサツに一声かけりゃ、テメエは拉致監禁と婦女暴行で豚箱行きになるんだぞ」

「そう思うなら、やってみるがいい。できるものならな」

「このガキ……」


 キレかけている義父を見て、


 頃合いね。


 朝霞は義父の前に歩み出た。


「お、お義父さん」

「お義父さん、じゃねえよ」


 義父は舌打ちした。


「ガキが変に色気づきやがって。帰るぞ。母さんも心配してる」


 義父は顎で娘を促した。


「……はい」


 朝霞は、しおらしくうなずくと、永遠長の横を通り過ぎた。


「おい、ガキ」


 義父は、もう1度永遠長を睨みつけた。


「今日のところは、娘に免じて見逃してやる。だが今日のことは、テメエの親御さんを含めて、後できっちり話をつけにきてやるから楽しみにしてろや」


 娘の拉致監禁と婦女暴行を帳消しにしてやるかわりに、永遠長の親から、たっぷり賠償金をせしめるつもりだった。


「いつまでも、未練たらしく見てんじゃねえ。行くぞ」


 義父は娘の手を取ると、エレベーターへと歩き出した。そして、エレベーターで地下駐車場へと降りていく。


「なんなんだ、あのガキは? やたら生意気な目えしやがって」


 あんな肝の座った目をした男は、舎弟はおろか、仲間内にもいないほどだった。


「神を地獄に叩き落とした男よ」


 朝霞が答えた。


「なんだ、そりゃ?」


 義父は鼻で笑った。


「どうやら、相当あのガキにイカレちまったらしいな。それとも、あのガキに誘われて、薬でもやったか?」


 義父は朝霞の左腕を見た。しかし娘の腕に、それらしい跡はなかった。


「とにかく、あのガキには2度と近づくな。ま、おまえの気持ちがどうであれが、もう向こうから2度と近づいて来ねえだろうがな。ほら、さっさと乗れ」


 義父は駐車しているベンツのところまで来ると、舎弟の開けた扉から朝霞を後部座席に押し込んだ。そして朝霞が素直に座ると、自分も隣に腰掛けた。


「とにかくテメエには、これまで手塩にかけて育てた分、キッチリ稼いでもらわなきゃならねえんだ」


 義父は朝霞の顎を指で摘んだ。


「たく、なんのために、俺が毎晩、かわいがってやってると思ってんだ? 俺だけじゃ満足できなくなったってか? だったら仕込みも兼ねて、これからはウチのモンにも相手させてやる。こいつらも喜ぶだろうし、一石二鳥だ」


 義父がそう言うと、前にいる舎弟2人がニヤけた。


「ま、その前に、お仕置きを兼ねて、今日は俺がタップリかわいがってやるがな」


 義父は娘の太ももに手を伸ばした。すると、その手を朝霞が掴み上げた。その力は、とても十代の少女とは思えないものだった。そのあまりの握力に、義父の顔が痛みに歪む。


「離せ。テメエ、自分が何をしてるか、わかってんのか?」

「言ったはずだ。この先、もし朝霞に手を出すことがあれば、相応の代償を支払うことになる、と」


 豹変した娘の口調に、義父は鼻白みつつも、その手を振りほどこうとした。しかし、


「な、なんだ?」


 体がまったく動かなかった。そして次の瞬間、


 パン!


 銃声とともに、義父の眉間に銃弾が打ち込まれた。引き金を引いたのは助手席にいた舎弟だった。


「…………」


 朝霞は義父が動かなくなったことを見届けた後、車から降りた。すると、運転席にいた舎弟がアクセルを踏み、車は駐車場を後にした。そして死亡した義父を乗せた車は、そのまま都市部を抜けると山中へと消えていったのだった。


 翌日、芦原組の組員を乗せたベンツが山道を走行中、崖から転落。乗っていた3人の男性は、全員死亡という報道が流れることになる。

 そして、死亡したのが全員暴力団員であること。また、そのうちの1人の頭部に舎弟の所持していた銃痕があったことから、警察は殺人事件として捜査を開始する。そして入念な捜査の結果、兄貴分である義父を舎弟である殺害犯が銃殺。その後、仲間とともに死体を山中に遺棄しようとする途中で運転を誤って崖下に転落した、という結論に達した。


 結果、この転落は単なる事故として処理され、人々の記憶からも徐々に忘れ去られていったのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ