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第6話

 洞窟内に積み上げられたお宝を前に、


「やったな!」


 佐藤明、世古裕二、野村紗和、矢田凛、渡辺陽子の5人は大喜びしていた。


 最初に、オークション会場を標的にすることを提案したのは佐藤だった。


 残り半分を切り、現在7位の自分たちに、もはや魔石集めで勝ち目はない。

 だったら、これ以上魔石など集めても意味はない。それよりも残された時間を好きなように、面白おかしく暮らしたほうがいい。そして、そのためには金がいる。そこで、金目の物が1度で手に入るオークション会場を狙ったのだった。


 幸いと言うべきか。佐藤たち5人のクオリティは、魔石探しにこそ適していなかったが「浮遊」「幻影」「念動」「睡眠」「沈黙」と、盗みを行うには都合のいい能力がそろっていた。加えて、魔石を見つけるために探知系の能力を得ようと、全員が「盗賊」もしくは「魔術師」のジョブを選んでいたことも、今回の作戦が成功した大きな要因だった。


「ああ、こんなにうまくいくとはな」

「これでオレたちゃ大金持ちだ」


 大喜びする佐藤たちの耳に、


「やっぱ、あんたたちが犯人だったのね」


 聞き覚えのある声が届いた。


 振り返ると、


「お、おまえら」


 声の主は、やはりクラスメイトの秋代だった。


「どうして!?」


 動揺する佐藤たちに、


「どうしても何も、コレでよ」


 秋代は異世界ナビを突きつけた。


「そ、そういうことじゃない。どうしてオレたちが盗んだって、わかったのかってことだ。オレたちをつけてたのか!?」


 お宝を盗み出すことで頭が一杯で、他のチームのことを失念していたのは確かに迂闊だった。しかし魔石集めで忙しい他のチームにとって、7位チームなどアウトオブ眼中。自分たちの動向をチェックしているなど、夢にも思っていなかったのだった。


「まさか、オレたちの獲物を横取りしに来やがったのか!?」 


 世古は気色ばんだ。


「……あんた、言うことが完全に盗賊のソレになってるわよ」


 秋代は嘆息すると、


「んなわけないでしょうが。あたしたちがここに来たのは、あんたたちを捕まえるためよ」


 毅然と言い放った。


「やっぱ、横取りするつもりなんじゃねえか!」


 世古が怒鳴った。


「なんで、そうなんのよ?」


 眉をひそめる秋代に、


「あたしたちを役人に突き出して、宝を自分たちのものにする気なんでしょ!」


 渡辺が言った。


「んなわけないでしょうが。そこにある品は、当然全部持ち主に返すわよ」

「やっぱり横取りする気なのね」


 渡辺の猜疑心がいや増す。


「だから、どうして、そうなんのよ?」

「当然じゃない! だって、そんなことしても、あんたたちにはなんの得もないんだもの!」


 渡辺の頭の中で、疑惑はすでに確信に変わっていた。


 命のかかっている勝負の最中に、他人のことを気遣う余裕などあるわけがない。しかも秋代たちの後ろには、最下位チームの小鳥遊の姿もあった。なら、自分たちと同じように勝ちをあきらめ、残りの時間を遊んで暮らそうと考えても不思議はなかった。いや、それ以外には考えられなかった。


「知り合いが、よその世界で迷惑かけてんのよ? 同じ世界の人間として、止めるのは当たり前でしょうが」


 秋代の正論にも、


「う、うるせえ! 4位に落ちた奴がカッコつけんな!」


 世古は聞く耳を持たずだった。


「あんたたちが今やってることとチーム戦の順位に、なんの関係があるってのよ? てか、人様の物を盗んどいて、何威張ってんのよ? そういうのを、盗っ人猛々しいってのよ」

「うるせえ! とにかくコレはオレたちのもんだ! てめえらなんかに渡すもんか!」

「そうよ! あたしたちは、このお金で最後の時間を楽しく暮らすの! 邪魔しないで!」

「まあ、気持ちはわからないでもないけど」


 秋代は頬をかいた。秋代自身、奴隷商人に捕まったときは自暴自棄になりかけたのだから。


「理由はどうあれ、盗みは盗み。罪は償わなきゃなんないのよ」

「うるせえ! おまえらにオレたちの気持ちがわかってたまるか!」


 世古は腰の剣を引き抜いた。それに呼応し、野村と矢田も抜刀する。


 世古たち5人も、最初から他人の物を盗もうと考えていたわけではなかった。

 ジョブで盗賊を選んだのも、最初は魔石探しのためだった。

 だがレベルが低くて、うまくいかない。

 前衛職がいないため、弱すぎてクエストも達成できない。

 生活費のため、生きるためには他人の物を盗むしかなかった。

 そうこうしているうちに、他のチームとの差は広がっていく。

 そして時間だけが過ぎていく。

 残ったものは、迫る死の恐怖と絶望感のみ。


 そんな自分たちが最後に少しぐらい、いい目を見ようとして何が悪い!


 世古たちにとって、綺麗事を並べる秋代たちは、偽善者以外の何者でもないのだった。


「やろうってんなら、相手になるわよ。かかってらっしゃいな」


 秋代は右手で手招きした。


「ナメんな!」


 世古は秋代に切りかかった。その攻撃を秋代は素早く右に回避すると、左の手刀で世古の剣を叩き落とした。


「こ、この!」


 それでもあきらめず殴りかかってくる世古の顔面に、秋代の右ストレートが打ち込まれる。


「ナメてんのは、そっちでしょ。こちとら今日まで昼も夜もなく、ひたすらモンスター相手に命懸けで戦い続けてきたのよ。コソコソと他人のモンかすめ取るしか能のない、あんたたちなんかに負けるかってーの」


 秋代はフンと鼻を鳴らした。


「ズッこいぞ、春夏! おまえばっかり!」


 木葉は言うが早いか、野村と矢田の握る短剣を、あっさり弾き飛ばしてしまった。


「なんじゃ、全然歯ごたえないの」


 木葉はつまらなそうにボヤいた。


「まだ、やる?」


 秋代は残った佐藤と渡辺を見た。


「くっ」


 秋代と木葉が強いのは知っていたが、ここまで強いとは。

 佐藤にとっても想定外だった。しかし、


「まだ勝ち誇るのは、早いんじゃないか?」


 佐藤は足元にある出品物のなかから、赤茶けた壺を拾い上げた。


「言っとくがな、オレたちは金のためだけに、あそこに盗みに入ったわけじゃないんだぜ」

「どういう意味よ?」

「盗賊には、盗賊なりの生き残り策があるってことだよ!」


 佐藤は壺のフタを開いた。すると、白い蒸気が吹き上がり、上空で人の姿を形作っていく。しかし輪郭が人に酷似しているだけで、細部は明らかに人とは異なっていた。

 頭に2本の角を生やし、背中には漆黒の翼を広げ、全身を紅蓮に染めた異形のモンスター。

 それは、炎の魔神イフリートだった。


「どうだ! 驚いたか!」


 これが、佐藤が生き残るために考えた策だった。


 確かに自分たちには魔石集めで勝てるような探知能力はないし、腕力では女の秋代にさえ勝てない。しかし、だったら他の手段を使うまで。

 相手が異世界の魔神だというのなら、こちらも異世界の魔神の力で対抗すればいい。

 そして盗賊である自分たちは、それを可能とするスキルを持っていたのだった。


「やれ、イフリート! おまえの力で、そいつらを焼き尽くしちまえ!」


 佐藤はイフリートに命じた。


 魔神は、自分を壺から開放した者に絶対服従する。この魔神の力があれば、自分たちにも十分生き延びるチャンスはあるはずだった。しかし、


「なぜ我が、下等種の命令をきかねばならん?」


 イフリートは不遜に言い放つと、


「目障りだ。消え失せろ」


 爆炎で周辺一帯を吹き飛ばすべく力を高める。そして力を解放しようとしたところで、イフリートが消えた。と、思った直後、洞窟を激しい揺れと轟音が襲った。


「ど、どうなってんだ?」


 戸惑う佐藤たちに、


「とにかく、ここを出るわよ。このままここにいて、生き埋めになりたきゃ、いてもいいけど」


 秋代はそう言うと、急いで洞窟を出た。すると、洞窟の入り口には永遠長が、その永遠長の見上げる空には、さっきの10倍ほどに巨大化したイフリートの姿があった。


「取りあえず礼を言っとくわ、永遠長」


 秋代が言っているのは、イフリートを永遠長が洞窟の外に転移させたことだった。

 他人に無駄に意識されることなく、異世界に旅立つ。

 その初心を貫くために、永遠長は佐藤たちと顔を合わせないよう、洞窟の外から水晶玉で中の様子を覗き見ていたのだった。

 

「案の定、こうなったわね」


 秋代は、ため息まじりに言った。昔話にあるように、壺に封印されたイフリートを復活させたところでロクなことはないのだった。


「童話だと、うまく言いくるめて、もう1度壺に封印し直すところなんだけど」


 秋代の魂胆など見透かしているとばかりに、


「小賢しい」


 イフリートは秋代たちへと火炎球を撃ち放った。その一撃を、


「カオスブレイド!」


 永遠長が漆黒の刃で切り裂く。


「イフリートか。実験台としては悪くない」

「て、あんた、戦う気なわけ?」


 イフリートの強さは、さほどファンタジーに精通していない秋代でも知っている。いくら永遠長が強いと言っても、今回ばかりは相手が悪すぎるというものだった。


「だから、そう言っている」


 永遠長は平然と答えた。


「あんたね、バカも休み休み言いなさいよ。イフリートって言ったら、超強いことで有名な、ファンタジーの大御所じゃない。いくらあんたが強いったって、そんなんと戦り合って勝てるわけないでしょうが」

「おまえのほうこそ、何を言っている。その超強い魔神を倒すために、ここまで特訓してきたんだろうが」

「そ、それは、そうだけど……」

「そうじゃぞ、春夏」


 木葉も永遠長に乗ったが、


「バカはバカとして」


 秋代に完全スルーされてしまった。


「魔神と戦うにしても、準備ってもんがあるでしょうが。まだ、あたしたちは誰もクラスアップしてないのよ?」


 たとえ最終的に魔神と戦うことになるとしても、それは全員が万全の準備を整えた上でのこと。今の状態で戦うなど、正気の沙汰ではなかった。


「それは相手にも言えることだろう。1クラスの人間を異世界転移させられる魔神と、炎を操るしか能がない上、壺に封印される程度の魔神では、同じ魔神でもレベルが違う」


 永遠長の声が聞こえたのか、イフリートの目元がわずかに揺れた。


「現在の段階で、あの程度の魔神に勝てないようでは、どうせ本番でも勝ち目はない。どうせ殺られるなら、今殺られるのも後で殺られるのも同じことだ」

「下等種ごときが」


 イフリートは永遠長めがけて巨大な火炎球を撃ち出した。それを、


「カオスブレイド!」


 永遠長が再び漆黒の刃で両断する。


「それでも戦いたくないと言うのであれば、戦わなくていい。黙って引っ込んでいろ」

「戦るわよ。戦るに決まってんでしょ」


 どうせ連帯責任で、木葉が死ねば自分も死ぬことになる。だったら、後悔のないように戦って死んだほうがマシというものだった。


 幸い、洞窟の外は土と石だけの渓谷。草木に延焼して、火にまかれる恐れがある森より戦いやすいというものだった。

 とはいえ、相手は超弩級モンスター。触れることさえままならない上、地球での設定通りなら魔法の武器か、氷系の魔法でしかダメージを与えられないはずだった。一応、今自分たちが使っている剣は魔法を帯びてはいるが、果たしてイフリート相手に、どれだけ効果があるかは怪しいものだった。


「そういえば、あんた魔法が使えんのよね? だったら、冷凍呪文でヤッちゃいなさいよ。イフリートって水系魔法なら効果あんでしょ?」

「ある。が、そのつもりはない」

「なんでよ?」

「言ったはずだ。これは本番を想定しての実験だと。本番の魔神が水に弱いならばともかく、そうとは限らない以上、水系魔法で勝っても意味がない。そもそもそれでいいなら、さっき奴を転移させたときに海の底に転移させて終わりにしていた」

「言ってる場合か! てか、それで勝てたんなら、やっときなさいよ!」


 どこまでも我が道を貫く永遠長に秋代は怒鳴ったが、


「どこまでもフザケおって」


 イフリートの怒りは秋代の比ではなかった。


 地上に降り立ったイフリートは、


「一瞬で終わりにしてやるつもりだったが、気が変わった。ジワジワとなぶり殺しにしてくれるわ」


 怒りに全身を燃え上がらせた。


「おまえの気分に興味はない。それより聞きたいのは、おまえが本当にイフリートなのかということだ」

「なに?」

「おまえは、どう贔屓目に見ても、炎の魔神と呼ばれるイフリートとは思えんということだ。これなら俺のファイアーバードのほうが、まだマシ」

「ほざけえ!」


 イフリートは周囲に炎を撒き散らした。


「あんたが、いらん挑発するから!」


 逃げながら非難する秋代に、


「挑発などしていない。単なる事実を言ったまでだ」


 永遠長は淡々と言い返す。


「たく! どいつもこいつもバカばっかりで、ウンザリするわ!」


 秋代はボヤくと、


「凍結付与!」


 冷凍能力を付与した剣を、


「行っけえ!」


 イフリートへと振り払った。すると剣身から冷却能力を帯びた、青白い光が放たれた。


「小賢しい!」


 イフリートは秋代の放った冷凍光線を右手で軽々と受け止めたが、


「封印!」


 その隙を突き、小鳥遊がイフリートの動きを封じ込めにかかる。そして、


「ぐ、ぬ?」


 イフリートの動きがわずかながら鈍ったところで、


「とりゃあああ!」


 飛び上がった木葉がイフリートの頭上へと剣を振り下ろす。しかし、


「調子に乗るな! 下等種が!」


 イフリートは全身を炎の柱と化して、逆に木葉を焼き尽くしにかかった。


「あちゃちゃちゃ!」


 炎の洗礼を浴びた木葉は地面を転げ回り、


「氷結付与!」


 秋代に冷気を吹き付けてもらい、なんとか焼死を回避した。


「くっそお、もう少しじゃったのに、惜しいのう」


 復活した木葉は悔しがったが、


「少しも惜しくないわ!」


 その1言はイフリートのさらなる怒りを買うことになった。


「下等種どもが無駄な足掻きを」


 怒り心頭のイフリートに、


「無駄じゃないわよ」


 秋代が不敵に言い放つ。そして、その秋代の視線の先では、永遠長が異世界ナビを手にしていた。


「ならば証拠を見せてやる」


 永遠長はメニュー画面から召喚獣リストに切り替えると、リストにある「フレイバー」を押した。すると、ナビの先端から放たれた光が、地面に魔法陣を形成する。そして光の魔法陣が完成したところで、


「出現」


 魔法陣から巨大な火の鳥が召喚された。

 初めて目にする召喚獣に、


「かっこええ! わしも欲しい!」


 木葉が目を輝かせる一方で、


「て、イフリート相手に、炎系のモンスター出して、どうすんのよ!?」


 秋代の目が吊り上がる。しかし永遠長は意に介さず、


「来い。フレイバー」


 ファイアーバードを呼び寄せる。そして主に呼ばれたファイアーバードは主の元へと急降下すると、そのまま永遠長の体へと吸い込まれるように消えていった。直後、


「化現」


 炎となって吹き出したファイアーバードの力が、真紅の鎧へと変化して永遠長の体へと装着されていく。


「うおおお! モンスターが鎧になりおったああ!」


 興奮に目を輝かせる木葉をよそに、


「言っても信じないなら、実際に証明するしかあるまい」


 召喚武装した永遠長は、改めてイフリートを真っ向から見据えた。


 あくまでも傲岸不遜な永遠長に、


「下等種があ!」


 イフリートが全身全霊の炎を放出する。そして岩すら溶かす高熱の炎が、永遠長に直撃する。しかし永遠長は焼失するどころか、イフリートが放った炎を吸い込んでしまった。


「我の炎を食っただと? 下等種ごときが?」


 あり得ない。あってはならないことだった。


「俺のファイアーバードには、火喰い鳥と同じ能力があるんでな。もっとも、その意味で言うと、おまえと戦うには不向きだったか。なんなら今からでも、もう少し弱い召喚獣に変更してやろうか?」

「ふざけるなあ!」


 イフリートは、さらなる炎を永遠長に浴びせかけた。


「……この程度で驚くとは、どうやら相当長いこと封印されていたらしいな」


 永遠長は、イフリートが放出した炎を右手で吸収すると、


「この程度の攻撃、シークレットなら全員苦も無く迎撃する」


 イフリートへと飛び上がった。


「く、来るなあ!」


 イフリートは、あらん限りの力で永遠長へと炎を放出する。が、永遠長は平然と炎の中を突き進み、イフリートとの距離を着実に縮めていく。


「その程度で最上位種を名乗るなど、おこがましいにも程がある」


 永遠長は吸収した炎の力を、混沌の闇へと変換した。そして自身とイフリート、2つの力を集約させた闇の刃を、


「カオスブレイド!」


 イフリートへと撃ち放ったのだった。

 

「ギャアアアア!」


 イフリートの口から絶叫が上がる。だが、仮にも炎系モンスターでは、並ぶものなき最強種。かろうじて絶命は免れていた。


「腐ってもイフリートというところか。だが、これ以上戦っても時間の無駄でしかないようだな」


 永遠長は軽く息をつくと、


「今、おまえには2つの選択肢がある」


 イフリートに右手の人差指と中指を突きつけた。


「このまま、おとなしく壺に戻って再封印されるか。それとも俺との戦闘を続けて食い尽くされるか。どちらでも好きな方を選ぶがいい」

「選べだと!? 下等種ごときが偉そうに」

「つまり食われたい、ということだな?」

「な、なめるなよ。貴様ごとき、我が本気になれば」

「そうか。なら、かかってこい。これからは、こっちも本気で戦ってやる。おまえ程度でも丸ごと食らえば、少しは力の足しになるかもしれんからな」


 ファイアーバードの力に混沌の力が入り混じり、永遠長から放出される炎が漆黒に染め上がっていく。


「だ、だが、貴様の言う通り、我も復活したばかりで本調子ではない。だ、だから、今日のところは見逃してやる。ありがたく思うのだな!」


 イフリートは「次はないぞ! 覚悟しておけ!」と言い残すと、壺の中へと戻っていった。


「…………」


 永遠長は召喚武装を解除すると、青ざめている佐藤から封印の壺を引ったくった。


「後は」


 永遠長は再び洞窟に踏み込むと、不死鳥の羽を手に戻ってきた。


「そんなもん持ってきて、どうする気なわけ? まさかとは思うけど、ここで使う気じゃないでしょうね?」


 佐藤たちをふんじばっていた秋代は、永遠長に非難の目を向けた。

 そんな真似をすれば、それこそ自分たちも佐藤たちの同類になってしまう。

 たとえ生き残るためとはいえ、そんなのは御免だった。


「誰が、そんなことを言った」

「じゃあ、なんのためよ?」

「こうするためだ」


 永遠長は、不死鳥の羽に「連結」の力を発動させると、


「見つけた」


 転移魔法で何処かへと瞬間移動していった。そして1分ほどして戻ってきた永遠長の手には、3枚の不死鳥の羽があった。


「それ全部、不死鳥の羽? なんで増えてんのよ?」


 秋代たちには、さっぱり理由がわからなかった。


「俺の力は連結だと言ったろう。そして連結とは繋がりのこと。そして、この不死鳥の羽は、元は本体である不死鳥の体に生えていたものだ。ならば、この羽に連結の力を使えば、本体である不死鳥の居場所がわかるのではないか? と考えた。そして試してみたらできた。ただ、それだけの話だ」


 永遠長は事もなげに言った。


「で、その不死鳥のところに飛んでって、新しい羽をゲットしてきたってわけ?」

「そういうことだ」


 突然、目の前に瞬間移動してきた永遠長に驚いて、不死鳥はあわてて巣から飛び立ち、その羽ばたきで2枚の羽が抜け落ちたのだった。


 とにもかくにも、結果的に不死鳥の羽はタダで手に入り、残るは木葉がランクアップするために必要なドラゴンの鱗だけ、だったのだが。


 ここで予期せぬ2つの事態が発生した。


 まず1つは、ファイアー、ウオーター、ガイア、サンダー、フェザー。


 数あるドラゴンのうち、どのドラゴンにするか。

 木葉本人が、いまだに決めかねていたこと。


 そしてもう1つは、佐藤たち7位チームのポイントが、この事件後、秋代たちと小鳥遊たちのチームに、それぞれ半分ずつ振り分けられていたことだった。



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