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第43話

「変現解除」


 永遠長は変身を解くと、ブレバンに向き直った。


「き、貴様、自分が何をしているか、わ、わかっているのか? こ、これは立派な犯罪だぞ」


 自分のことを棚に上げ、ブレバンは今さらな常識論を振りかざした。


「それならば、なんの問題もない」


 淡々と答える永遠長の目に、やましさは微塵もなかった。


「この館を制圧した段階で、おまえたちは俺の奴隷となった。奴隷の物は主の物。つまり、たとえ俺がこの館で何をしようが、俺が俺の物を破壊しただけのことであり、誰にも咎め立てされる筋合いはない」


 永遠長は平然と言い切った。その理不尽極まりない理屈に、


「ふ、ふざけるな!」


 ブレバンは気色ばんだ。


「ふざけてなどいない」


 永遠長は言い捨てた。


「それとも、今までおまえの商品となってきた奴らは、喜んでおまえに全財産を差し出して、自分から売られていったとでも言うのか?」


 永遠長に揶揄され、ブレバンは絶句した。


 ブレバンに限らず、この世界の奴隷商人たちは、商人であると同時に盗賊でもあった。

 ただ人を売り買いするだけでは効率が悪く、儲けもしれている。そこで奴隷商人たちは、自ら率先して集落を襲い、そこで暮らす住人たちを強制的に奴隷化していたのだった。


「俺は、おまえが今まで他人にしてきたことと、同じことをしている。ただ、それだけの話だ」

「ふ、ふざけるな! わ、私は、この国の王に、奴隷を売買する許可を得て、商売をしているんだ! 貴様のような無頼の輩と、一緒にするな!」

「ほう? そんな話は初めて聞いたが、この国には昔のヨーロッパでいう、敵船拿捕許可状のようなものがあるということか」

「え?」


 永遠長の口から出た固有名詞に、土門は目を瞬かせた。今の今まで土門は、永遠長のことを異世界の人間だと思いこんでいたのだった。


「そ、それに、私は、この国の王とは、親しいお付き合いをさせていただいている。その私に危害を加えるということは、王に刃を向けることに等しいんだ! そのことの意味を、わかっているんだろうな!」


 ブレバンの話は、あながちハッタリでもなかった。実際、もしここで土門たちを逃せば、その怒りはブレバン以上に、彼の館を襲撃した永遠長に向くことになるのだから。


「ほう」


 ブレバンの脅し文句に、永遠長の動きが止まった。


「つまり、おまえに手を出すと、この国の王が報復してくると?」

「そ、そうだ!」


 こいつ、怖気づいてやがる。

 永遠長の反応から、そう思ったブレバンは一気に畳みかけた。


「どうだ? 今なら、これまでの無礼は不問にしてやる。なんなら王に口を利いて、城に仕えられるようにしてやろう。どうだ? 悪い話ではないだろう?」


 騎士となり、自分の領地を持つことは、戦士なら誰しも夢見る最終到達点。そのチャンスを目の前にブラ下げれば、流浪の戦士ならば必ず食いつくはず。

 ブレバンは、そう確信していた。そして、


「……なるほど。確かに、それなら話が変わってくる」


 目論み通り、永遠長の心を動かすことに成功したのだった。


「だが、それはあくまでも、おまえの話が本当であれば、の話だ」

「だ、だったら話が早い」


 ブレバンは愛想笑いを浮かべた。


「ちょうど、これから城に向かうところだったんだ。疑うならば君もついてきて、自分の目で確かめればいい」


 実際のところ、ブレバンは永遠長を王に推挙するつもりなどなかった。それどころか、あわよくば獣に変身できる戦士として、王に売り飛ばすつもりでいたのだった。


 この男がどんなに強かろうと、城の全戦力を相手にして勝てる道理はない。つまり、この男を城に連れて行くことさえできれば、この男を始末できるうえ、大金が手に入る。


 まさに起死回生にして、一石二鳥の妙手だった。


 しかし、ブレバンの自信は長く続かなかった。話しを終え、冷静になって自分の提案を振り返ってみると、いくつも穴があることに気がついたのだった。


 そもそも、もしブレバンの言っていることが本当だとしても、ブレバンが永遠長を王に推挙する保証など、どこにもない。それどころか親交があるブレバンが襲われたとなれば、王は黙っていないことは容易に想像できることだった。

 また、逆にブレバンの言っていることが嘘だとしても、永遠長が館を襲ったことは事実。どちらにしてもブレバンと城に乗り込むことは、永遠長にとってメリットよりもデメリットのほうがはるかに大きいのだった。


 こんな話、受けるわけがない。


 土門も、そう思っていた。ところが、


「いいだろう」


 永遠長は二つ返事でOKしてしまった。


「そ、そうか。な、なら話は早い。すぐに馬車を用意するから、ここで待っていてくれたまえ」


 ブレバンは、急いで馬小屋へと向かった。コイツが、力だけが取り柄の脳筋バカで助かった。と、内心で、ほくそ笑みながら。


 こうして、酒場から発生した災厄は、未だ収束を見ないまま、その舞台を王宮に移すことになったのだった。



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