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第34話

 決着後、永遠長は地上に降り立つと「付与」を解除した。そして体に蓄積されているダメージを治癒魔法で回復させていると、秋代たちが近づいてきた。


「あいつら、どうなったわけ?」

「地獄に落とした。後は創造主とやらが判断することで、俺の預かり知るところではない」

「まあ、そうね。てか、本当に倒しちゃうなんて、マジでデタラメチ-トね、あんたは」


 秋代は今さらながらに呆れた。


「だから俺はチ-トじゃないと言っている」

「何言ってんのよ、神様倒しておいて」

「あれは、おまえの力であって俺の力じゃない」

「はいはい」


 秋代が軽く受け流したところで、


「そんなことは、どうでもええんじゃ!」


 木葉が秋代を押し退けた。


「そんなことより、なんじゃ、あの刺青と狐は? あれも、どっかの世界の魔法なんか!?」


 木葉は永遠長に迫った。


「前に言ったはずだ。あの刺青は「極印術」といって、今は異世界リストから消えているブル-ノという異世界の魔法だと。その世界では特殊な魔術刻印を体に施すことで、様々な効果をもたらすことが可能だった。たとえば、さっきの月下闘印の場合、月が出ている間、魔力、体力、その他の身体能力が向上するといったようにな」

「おお! なんかカッコええの!」


 木葉は目を輝かせたが、


「なのに消えたんじゃな」


 現実を思い出して肩を落とした。


「それはそれとして」


 秋代は仕返しとばかりに木葉を押しのけると、永遠長に向き直った。


「あんた、本気で異世界ストアを運営する気なわけ?」

「当たり前だ。そのために奴を始末したんだ」


 永遠長は迷わず答えた。


「本当にできると思ってるわけ? 学校はともかく、地球の要人の動向に目を光らせながら地球人のレベルアップを図るなんて。誰を新しく異世界に来させるか。その人選だけでも大変でしょうに」

「誰が、そんなことを言った?」

「は?」

「俺は異世界ストアを運営するとは言ったが、今まで通りの運営をすると言った覚えはない」

「どういうことよ?」

「俺の目的は異世界への移住と、その生活を脅かす者の排除だ。そのためにも、これ以上異世界のことを知る人間を増やす気はない。数が増えるほど、あの皇帝のような奴が現れる可能性が高くなるからな」


 永遠長の目は本気だった。


「今いるストア利用者に関しては、すぐに排除する気はないが、そいつらも後5年もすれば全員いなくなるだろう。そして今いるストア利用者が全員いなくなったところで、地球と異世界の関係を完全に断ち切る。2度と地球人が異世界に手を出せんようにな」

「なに勝手なこと言ってんのよ。あいつも言ってたでしょうが。そもそも、この世界は創造主が地球人のレベルアップのために創ったって」

「それがどうした。創造主がどんなつもりで創ろうが、それが異世界人になんの関係がある。この世界は、この世界に生きる者たちのものだ。それ以外の何者にも、その生活を脅かす権利などない。たとえ、それが創造主であろうとだ」


 永遠長に正論を突きつけられ、


「く……」


 秋代は言葉を詰まらせた。すると、反論に窮した秋代に代わって、


「永遠長君」


 小鳥遊が永遠長との論戦を引き継いだ。


「さっき言ってたよね? 地球のことなんて知らんし興味ないって。あの言葉って、要するに地球人が死のうが生きようが興味ないし、関与する気もないってことだよね?」

「……そうだ」

「だったら、異世界人に危害を及ぼさない範囲内であれば、地球人が異世界に来ること自体には問題ないんじゃないのかな?」

「…………」

「それに、永遠長君も自分で言ってたよね? あの寺林って人を倒せたのは、秋代さんの力のおかげだって。だったら、私たちにもストアを運営する権利はあるんじゃないのかな」


 永遠長自身の発言を逆手に取り、真綿で首を締めるように追いつめていく。小鳥遊の言質戦法の巧みさに、秋代たちは内心で拍手を送っていた。


「永遠長君の言ってることは、一見もっともらしく聞こえるけど、私には自分がたまたま手に入れた特権を、詭弁を並べて正当化しようとしてるだけにしか見えないよ。それって、あの寺林って人が言ってた、大国がやろうとしてたことと一体どこが違うっていうの?」


 小鳥遊は、ここぞとばかりに畳みかけた。その結果、


「……いいだろう」


 永遠長から妥協を引き出すことに成功したのだった。


「なら、地球人のレベルアップに関しては、おまえたちに一任してやる。好きにやってみるがいい」

「ホント? 永遠長君?」

「ああ、そのための金も必要経費と判断すれば、可能な限り払ってやる。ただし」


 永遠長の眼光が鋭さを増した。


「もし、おまえたちの行動が異世界の害になると判断したときには、俺がおまえたちを始末する。その覚悟があるならば、の話だ」

「うん。ありがとう、永遠長君」


 小鳥遊は微笑んだ。


「じゃ、帰るとするかの」


 話が一段落したところで、木葉が言った。


「ちゅうても、今夜は友達のとこに泊まるっちゅうてきちまったしのう」

「そんなの、予定が変わったとでも言えばいいわよ。夕食もどっかで食べて帰るか、コンビニ弁当でも買えば済むし。とにかく今日は疲れたわ。さっさと帰って休みたい」


 秋代の意見に全員が同意し、各々異世界から自宅へと帰っていった。話があると、永遠長に引き止められた朝霞を残して。


「何よ、話って? まだ文句が言い足りないってわけ?」

「おまえに選ばせてやろうと思ってな」

「はあ?」

「今、おまえには2つの選択肢がある」


 永遠長は、ソファーに座る朝霞に右手を突き出した。


「1つは、このまま帰って完全に俺と縁を切る道」

「…………」

「もう1つは、俺と付き合っていると思われている今の関係を、おまえの父親に伝える道だ」


 永遠長の突きつけた選択肢に、


「お……」


 朝霞の顔が強張る。


「おまえ、それがどういうことか、わかってんのか? わたしの父親は」

「わかった上で聞いている」


 自分の娘に手を出したと、暴力団の父親が聞けば、むろんタダでは済まないだろう。しかし、それは裏を返せば、永遠長に朝霞の父親に対する正当防衛を行使する大義名分を与える、ということなのだった。


「後で、冗談でした、じゃ済まねえんだぞ」

「嫌ならば、それでいい。このまま帰って、今まで通りの生活を続けるがいい」


 これは永遠長にとって、あくまでも朝霞に借りを返すための1方法に過ぎない。この申し出を朝霞が断ると言うなら、また別の手を考えるまでだった。


「まあ、別に返事は今すぐでなくとも構わない。よく考えて結論を出すがいい」

「……なんで、そこまでしてくれんのよ? そんな真似して、あんたに一体なんの得があるってのよ?」


 自分を洗脳して、良いように利用しようとした相手を助ける。普通に考えて、そんな真似誰もしようとは思わないだろう。まして、永遠長ならなおさらだった。


「……別に、おまえのためじゃない」


 永遠長は言い捨てた。


「じゃあ、なんだってのよ?」

「言ったはずだ。おまえは野放しにしておくと、何をしでかすかわからんと。そして、おまえが暴走する原因は、おまえの父親にあることがわかった。ならば、その原因を取り除けば、おまえが暴走する必要もなくなり、結果的に俺の平和が脅かされることもなくなる。だから排除する。ただ、それだけの話だ」

「排除って。おまえ、ヤクザ相手に喧嘩売る気か?」

「だから、そう言っている」

「ホントにシャレじゃ済まねえぞ」

「おまえが俺の心配をする必要はなかろう。たとえ結果的に俺が死んだとしても、おまえの現状は何も変わらないのだからな。違うか?」


 確かに永遠長の言う通りだった。自分に商品価値がある限り、あの義父は

永遠長を殺しこそすれ、商品価値が下がるような真似はしないだろう。


「だから、おまえが気にすることは唯1つ。今の生活をよしとするか。それとも、父親が最悪死ぬことになっても自由を手に入れたいか、だ。もし、おまえが父親に少しでも愛情を感じている。失いたくないというのであれば、この話はここまでだ。このまま帰って、今まで通りの生活を続けるがいい。どうするも、おまえの自由だ」

「そんなの決まってるじゃない」


 自由と義父。そんなもの、秤にかけるまでもなかった。


「いいだろう。ならば、今すぐ父親にメールを送れ」

「なんて?」

「今夜も彼氏のところに泊まるけど心配しないで、と」

「ここの住所と名前もメールしとく?」

「必要ない。もし向こうが聞いてきたら、そのとき答えておけ。そのほうがリアリティが出る」

「わかったわ」


 朝霞はスマホを取り出すと、父親にメールを送った。直後、朝霞の腹が鳴った。


「そういえば、昨日から何も食べてないんだったな」


 永遠長は台所に向かった。

 冷蔵庫にはキャベツと卵しかなかったが、とりあえず空腹を満たすには十分だった。

 永遠長は包丁を手に取ると、調理に取り掛かった。そして、出来上がった2人分の料理をテーブルに置く。


「い、いただきます」


 朝霞は手を合わせると箸を手に取った。そんな朝霞を見て、永遠長は「ほう」と、驚きの声を上げた。


「な、なんだよ?」


 朝霞は永遠長を睨み付けた。


「いや、おまえでも、いただきますは言うんだなと思ってな」


 永遠長は正直な感想を口にした。


「あ、当たり前だ。そんなの常識だろうが。おまえと一緒にするな」

「なるほど。確かに、その通りだな」


 永遠長は苦笑した。


 そのとたん、朝霞の手から箸が落ちた。


「箸が落ちたぞ。何を惚けた顔をしている?」


 永遠長は、けげんな顔で朝霞を見た。


「い、いや、だって、おまえが笑ってるところ、初めて見たから」


 朝霞は口ごもった。


「誰でも、おかしければ笑う。俺が、おまえの前で笑ったことがないのだとすれば、それは俺が、おまえの前では、おかしいと思うことがなかった。それだけの話だ」

「あ-、もういい。聞いてる、こっちの頭がおかしくなってくる」


 朝霞は一気に料理を平らげた。そして食事が終わったところで、


「風呂を入れるが、おまえはどうする?」


 永遠長は朝霞に尋ねた。


「わ、わたしはシャワーでいい」

「そうか。なら俺も今日はシャワーにしておこう。それと着替えは親のパジャマがあるから、それを使っておけ」

「それはいいけど、もしご両親が帰ってきたら、どう説明するわけ?」

「その心配はない。2人とも、今はアメリカだからな」

「そ、そうなんだ」

「だから気にせず、シャワーを浴びてこい」

「わ、わたしは後でいいわよ。あ、あんたに、わたしの残り香とか嗅がれるの嫌だし」

「誰が、そんなことを言った? が、まあいい。おまえがそれがいいなら、そうしよう」


 永遠長は風呂場に向かうと、1日の汚れを洗い流した。そしてシャワーを済ませた永遠長が寝室で休んでいると、同じくシャワーを済ませた朝霞が入ってきた。


「どうした? あいつらの部屋に、何か問題でもあったか?」


 永遠長は入浴後、朝霞には両親の寝室で休むように言っておいたのだった。


「それは聞いたけど……」

「なんだ?」

「さっき、父親からメールが返って来たから、本当におまえの名前とここの住所を教えていいのか、最後の確認にきたんだ」

「かまわんと言っている」

「わかった。じゃあ、送る」


 朝霞は手にしたスマホを操作し、義父に永遠長の名前と住所をメールした。


「…………」


 メールを送信しても、まだ動こうとしない朝霞を見て、


「なんだ? まだ何かあるのか?」


 永遠長が尋ねた。


「い、今のわたしたちって、せ、世間的には、付き合ってることになってるんだよな?」

「ああ」

「で、今ので、親父にもそう思われた」

「だろうな」

「だったら、その、既成事実を作っておいたほうが、たとえ嘘でも説得力が出るというか」


 朝霞はハニカミつつ言った。


「そ、そうすれば、お、おまえも、もう絶対に逃げられないだろうし。あ、後で怖気づいても、本当にヤッちゃった後だと、言い逃れようがないから。だから……」

「別に、逃げるつもりなどない」


 永遠長は寝台から身を起こした。


「が、いいだろう。それでおまえが納得するというなら、既成事実とやらを作るとしよう」

「い、いいのか? 本当に、後戻りできなくなるぞ」

「おかしな奴だ。それが目的で、ここにきたんじゃないのか?」

「そ、それはそうだけど……」

「それに言ったはずだ。どうするも、おまえの自由だと」


 永遠長はそう言うと、さっそく朝霞との「既成事実」作りに取り掛かった。


 もっとも、それは朝霞の考える「既成事実」とは、少しだけ違っていた。そして、そのことに朝霞が気づいたときには、


「は!?」


 すでに永遠長の考える「既成事実」は成立してしまっていたのだった。





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