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第32話

 月光の下、狐男に変身した永遠長は、改めて寺林と対峙していた。


「しかも、よりによって「極印」は、月の光でパワ-アップする「月光印」で、獣人化も「白狐」ときた。月夜でパワ-アップする、狼男ならぬ狐男って。ほんと、どこまでチ-トこじらせたら気が済むんだか、君は」


 寺林は、ため息を吐いた。


「どこがチ-トだ。極印術も獣人化も、ブル-ノとハ-リオンがリストから消える前なら誰でも習得できたものだろうが。しかも極印は月夜限定のパワ-アップに過ぎんし、獣人化も狐だ。本当に俺がチ-トなら、好きなときにパワ-アップできる極印を手に入れているだろうし、狐じゃなくライオンや虎に変身できるようになっている」

「ま-、普通はそうなんだけどねえ」

「御託はいらん。行くぞ」


 永遠長は寺林に切り込んだ。


「おっと、危ない」


 寺林は、永遠長の剣閃を飛びのいて空振らせた。と思った直後、永遠長の口から炎が吹き出た。


「ほらほら、そういうところだよ」


 寺林は炎を避けるため、さらに大きく飛びのいた。


「普通の狐の獣人は、口から火なんて吐かないからね。それ、もう狐は狐でも化け狐だろ。基本、ただ獣人に変身するだけのはずなのにさあ。おかしいでしょ、絶対」

「それは俺が日本人だからだろう。別に不思議でもなんでもない」

「秋代君じゃないけど、ほんと君ってポジティブシンキングだよね。回りから見たら完全に陰キャなのに」

「他人がどう思おうと、俺にはなんの関係もない話だ」

「まあ、いいんだけどね。たとえ君がどんなにデタラメチ-トだとしても、それでも私のほうが強いから。たとえ神の力を使わなくてもね」


余裕を見せる寺林を、


「召喚の邪魔をしておいて、どの口でほざいている」


永遠長は一刀両断した。


「子供をしつけるのは、大人の役目だからね。世の中、そうそう自分の思い通りにはならないってことを、身を持ってわからせてあげたんだよ」


寺林は、ぬけぬけと答えた。


「どこが大人だ。他人を振るいにかけて、切り捨てることしか知らん駄々っ子が」

「大人だからね。理想と現実の区別がついているだけさ。てか、すべてのしがらみを切り捨てて、お気楽に生きてる君に言われたくないんだけど?」

「話をすり替えるな。俺が1人で生きようと、誰も困りはしない。だが他人の人生に介入して、台無しにするおまえは害悪でしかない」

「知らないのかい? 人生は、他人に迷惑をかけてナンボなんだよ。人は、そうやって助け合って生きているんだ」

「だとしても、おまえはかけ過ぎだ」


 永遠長は寺林にカオスブレイドを放った。


「私は、いいんだよ。神、いや魔神だから」


 寺林も右手から等身大の光弾を放った。そして、その光弾は永遠長の黒刃を飲み込むと、そのまま永遠長に直撃した。


「あらま。ちょっと、やり過ぎちゃったかな?」


 盛大に巻き起こった爆煙を見て、寺林は頬をかいた。


「お-い、永遠長君、生きてるか-い?」


 寺林は呼びかけたが、永遠長からの返事はなかった。


「おや、本当に死んじゃったかな?」


 寺林は追撃することなく、爆煙が晴れるのを待っていた。すると爆煙が晴れた後には、無傷の永遠長が立っていた。しかも、5体の召喚獣を召喚武装した姿で。


「なるほど。煙に紛れて、こっそり召喚したわけか。やることがセコいね」

「セコいのは、おまえだろう」

「ほう?」

「さっきは、まるで今後一切召喚できんような口振りだったが、この通り再召喚は可能だった。それを、あたかも永続的に使えないような物言いをしたのは、おまえの言葉を真に受けて、俺が「連結」の力を使わなくなることを期待したからだろう?」

「え、そんなこと言ったっけ? 君の聞き間違いじゃないのかい?」


 寺林は惚けて頭をかいた。


「つまり、おまえの「切断」は、小鳥遊の「封印」のような永続的なものではなく、ただの一発芸に過ぎないということだ」

「ホント、ひとの話を聞かない子だね、君」

「ならば瞬発的に効果を発揮する分には、なんの支障もない。たとえ1度切られても、必要なときに繋ぎ直せばいいだけの話だからだ。こんなふうに」


 永遠長は足下に「反射」の力を発動させると、その反発力を「増幅」して、一気に寺林との間合いを詰めた。それに対し、


「甘いよ」


 寺林は正面に魔力障壁を張った。そして寺林の目論見通り、勢い込んだ永遠長は障壁と激突して自爆する、はずだった。しかし、


「突貫!」


 永遠長は自爆する寸前に、海道のクオリティを発動。突貫力を得た剣で、障壁を突き破ったのだった。


「く!」


 寺林は上空に飛び上がり、かろうじて永遠長の攻撃をかわした。


「この……」


 寺林は右手を振り上げた。無数の「切断」を繰り出せば、おそらく永遠長は誰かの通力を使って回避しようとするはず。そのとき、この場にいる全員との繋がりを断ち切れば、永遠長は成す術なく両断される。

 寺林が自分の勝利を確信した瞬間、


「え?」


 彼の胸に痛みが走った。


「これは……」


 見ると、寺林の胸に一本の槍が刺さっていた。そして、その槍の出所は永遠長の左手だった。


「バ、カな。そんなもの、どこに……」


 永遠長に無から武器を造り出す力などなかったはず。だとすれば、


「そ、そうか」


 寺林は加山を見た。


「あの子の「改変」か。それで自分の鎧を槍に作り変えたのか」


 そして、その槍に「透過」を施すことで、接近に気づかせなかった。


「やるね。だが、この程度で」


 寺林は槍にかまわず「切断」を発動させようとした。しかし、


「あれ?」


 不発に終わってしまった。

 寺林は気づいていなかったのだった。このとき、すでに自分の力が永遠長によって封じられていることに。


 そして寺林を無力化させたところで、


「カオスブレイド!」


 永遠長は混沌の刃で寺林を両断。さらに、


「石化付与!」


 真っ二つに切り裂いた体を石化。最後に、


「ファイブキャノン!」


 5体の召喚獣の力を全放出して、寺林の五体を粉々に消し飛ばしたのだった。そして、この爆発に真っ先に反応したのは、


「おお、永遠の奴、あの運営倒しおったぞ」


 絶えず永遠長たちの戦いをチラ見していた木葉だった。


「倒したの? て、あれだけ言ったのに、また見てたのか、おのれは!」


 秋代は怒鳴りつけたが、


「おう。しっかり見とった」


 木葉は反省するどころか、得意気に答える始末だった。


「槍でブッ刺してから真っ二つにした後で石にして、最後に粉々に吹っ飛ばしたんじゃ」

「……また、えげつないコンボかましたわね、あいつ」


 秋代は眉をひそめた。それだけの攻撃を食らえば、さすがの寺林も死にはしなくても、再起不能なはずだった。しかし、もしこれでも倒せなければ、寺林を倒す手立てはないことになる。


 そして、この秋代の不安は的中することになった。


 爆煙が納まった直後、爆発で四散した寺林の石像が集結を開始。完全に原形を取り戻したところで、石から生身へと完全復活を遂げたのだった。


「いやあ、まいった、まいった」


 復活した寺林は頭をかいた。


「まさか、神の力を使うハメになるとはね。君のチ-ト能力は十分わかってたつもりだったんだけど、まだ認識が甘かったようだ」


 寺林は苦笑した。


「このまま消耗戦に持ち込んで、君の体力が尽きるのを待ってもいいんだけど、そうすると君、また何するかわかんないし。私としても、神の力がこの程度だと思われるのは面白くない。というわけで」


 寺林は頬をかいた。


「前言を撤回して悪いが、ここからは本気でやらせてもらうよ。人としてではなく、神としての、ね」


 寺林はそう言うと、一瞬で永遠長との間合いを詰めた。そして無造作に放った右掌底1発で、永遠長を村まで殴り飛ばしてしまったのだった。


「く……」


 永遠長は民家に叩き付けられながらも、かろうじて立ち上がった。しかし寺林から受けたダメ-ジのせいで、召喚武装も獣人化も解けてしまっていた。


「おやおや、せっかくのチ-トコンボが消えてしまったね。どうする? まだ続けるかい?」

「当たり前だ」


 永遠長は周囲に無数の反射板を作り上げた。そして変幻自在に飛び回り、寺林の隙を突こうとした。しかし、


「遅い」


 寺林は高速で飛び交う永遠長の両手足を、あっさりと切り飛ばしてしまった。さらに寺林は右手から鉄の杭を造り出すと、永遠長の両肩と太股を串刺しにした。


「まさに手も足も出ないとは、このことだね」


 寺林は皮肉った。


「でも、安心するといい。君の記憶は消させてもらうけど、力までリセットする気はないから。そんなことをしたら、ここまで君を強くした意味がなくなってしまうからね」

「どういう意味だ?」

「ん? ああ、つい口が滑っちゃったね。まあ、いいか。どうせ、記憶を消すんだし」


 寺林は頬をかくと、


「あのね、永遠長君。ここだけの話、さっきの話、実は嘘なんだよ」


 永遠長にささやいた。


「なに?」

「さっき、私は君たちにチョッカイを出していたのは、周りの人間に危機感を抱かせるためだと言ったけどね。本当は、君のレベルアップのためだったんだよ」

「レベルアップ?」

「少し考えればわかるだろ。人に危機感を抱かせるだけなら、それこそ異世界に連れ込んで、ちょっと危険な目にあわせれば済む話だ。別に君の存在など必要ない。そうじゃないかい?」


 確かに、その通りだった。


「なのに、さっきああ言ったのは、真実を話すのはまだ時期尚早だと思ったからさ。そこで、とっさに適当なことを言って、ごまかしたというわけだ」


 適当過ぎだった。


「でも、まさか全員ホントに信じちゃうとはね。ま、それだけ君の性格がアレだってことなんだろうけど」


 寺林は苦笑した。


「本当の目的は君を強くすることと、君の意識改革にあったんだよ。地球のためにね」

「……確かに、秋代の言うとおりだな。おまえの言うことは回りくど過ぎる」

「仕方ないんだよ。一言で説明するには、事情が複雑に入り組み過ぎているんでね」


 寺林は肩をすくめると、とりあえず永遠長の出血を止めた。


「ま、それでもあえて簡潔に、と言うなら、私が君に手を出していたのは、君に「連結」の力があったからさ」


 それは永遠長にも見当がついていた。


「君、これまでも連結の力を色々と試行錯誤してたけど、ある可能性だけ見落としてるんだよね」

「見落とし、だと?」

「見落とし、というより、この場合最初から考えてもいない、というべきかな」

「……俺が、何を見落としていると?」


 永遠長は不本意そうに言った。まだ試行錯誤の段階な以上、見落としがあるのは当然ではあった。しかし、それをこの軽薄なチャラ男に指摘されると、さすがに不愉快なのだった。


「いいかい。君は連結の力で他人と繋がることにより、他人の力を自由に使うことができる。なら同じ理屈で、君と繋がった他人も君と同じ力が使えるのではないか? 君流に言うと、その可能性だよ」


 確かに、そんなことは考えたこともなかった。


「そして、もし君が全世界の人間に連結の力を使えば、全人類が全人類の力を使うことができるようになるんだよ。仮に地球の人口が100億として、その半分の50億が戦える年代だとすれば、50億の人間が50億の力、いや、ジョブスキルなんかを含めれば、それ以上の力を自在に使えるようになるということなんだよ。そしてそうなれば、それこそどんなモンスターが復活しようが敵じゃない。そう思わないかい?」

「……………」

「だが、そのためには君に世界中の人間と絶えず連結できる力と、その意志が必要になる。そこで私は君のレベルアップを図るとともに、君の意識改革を図っていたんだよ。君が自分から地球を守る気になるようにね」


 そして、そのために打った手が、永遠長のクラスを異世界に強制転移させることだった。

 突然、異世界転移してしまった状況下で、無理矢理チームを組ませる。そうして、他人と行動することを強制したうえで、異世界経験者の永遠長がクラスメイトを助ける。そうすれば、ボッチの永遠長もクラスメイトから一目置かれることになり、クラスメイトとの間に仲間意識が生まれる。


 それが、寺林が永遠長のクラスを異世界転移させた真の狙いであり、その狙い通り永遠長は小鳥遊たちとパーティーを組むことになった。


「私の当初の予想では、君は小鳥遊君とくっつくと思ってたんだけどねえ。いつまでたっても、くっつく気配がない」


 永遠長が小鳥遊に恋愛感情を持てば、永遠長には地球に残る理由ができる。寺林はそう考え、期待していたのだった。


「そこで、仕方ないのでリャンを通して、天国君のことを君に伝えたわけだ。天国君が意識不明のまま入院していると知れば、君はあの子を回復させるまでは地球に留まると思ってね」


 そのために、天国が絶対に目を覚まさないように、ちょーっとだけ細工もしておいた。そして天国が目覚めない限り、永遠長が地球を離れることはない。


 ここまでは寺林の計画通りだった。しかし、


「私としては、このまましばらく様子を見るのもアリかと思ったんだけどね。朝霞君が妙な動きをしてたんで、ちょっとだけ計画を変更したんだよ。勝手な真似して計画を台無しにされるぐらいなら、こちらの思惑の範囲内で動いてもらうほうがマシだし、君を地球に留まらせるための楔は、1本でも大いに越したことはないからね」

「それで「改変」を使って、朝霞に俺の恋人だと思い込むよう吹き込んだわけか?」

「私が吹き込んだのは、小鳥遊君たちとの関係を断ち切るところまでだ。その後の恩人や恋人設定は、朝霞君自身が考えたことだよ。ま、あの子にしてみれば、それが最善の方法だったんだろうね。愛する君と恋仲になるためには」


その寺林の答えは、永遠長にとって想像の埒外だった。


「……何を言っている? あいつは俺を」

「私に言わせれば、君のほうが何言ってんのって感じだよ。いいかい、永遠長君、よく考えてごらん。もし彼女が本当に君のことを憎んでいるだけなら、それこそ復讐の方法なんて、いくらでもあったと思わないかい? それこそ記憶を改変して君を自分の奴隷にするなり、廃人にするなりね。何も、わざわざ自分の彼氏にする必要なんて、まったくなかった。そうじゃないかい?」

「何を言っている? パシリにされたし金も取られたぞ」

「そりゃあ、君の性根がネジ曲がっていたからさ。普通、付き合ってる彼女には、もう少し優しくするものだよ。あれじゃあ、朝霞君だって腹が立つし、行動だってエスカレートさせるさ。そう思わないかい?」

「…………」

「ま、朝霞君も、君がそういう人間だってことがわかってたからこそ、これまでなんのリアクションも起こさなかったんだろうけどね。告ってもフラレるだけなのは目に見えていたからね。ま、彼女、究極のツンデレなうえ、家庭環境にも問題があるから、素直に告白できなかったっていうのもあるんだろうけどね」

「家庭環境?」

「彼女の父親は、実父も義父も暴力団員なんだよ。そして、義父は彼女に手を出していた。だから下手に誰かと交際しようものなら、そいつが相手に何をするか、わかったものじゃなかった。だから朝霞君は、これまで誰とも付き合うことができなかったのさ」


 寺林の説明に、永遠長は眉をひそめた。


「もしかしたら、彼女が君への復讐に固執したのは、本当は君に助けてほしかったのかもしれないね。君なら、どうにもならない今の状況でも、なんとかしてくれるかもしれない。どこかで、そう思っていたんじゃないかな。なにしろ彼女にとって、君は白馬の王子様だからね」


 理由はどうあれ、小学2年生のときにイジメられていたところを、永遠長に助けられたときから、ずっと……。


「そこで私は朝霞君に力を貸し、2人が付き合う上で障害になりそうな秋代君たちを遠ざけたんだよ。事情はどうあれ、君が朝霞君とくっついて、それこそ2人の間に子供でも生まれれば、それはそれで君を地球に留らせる楔になったからね」

「…………」

「けど、詰めが甘かったせいで土門君の介入を許してしまった。結果は、ご覧の通りというわけさ」


 寺林は肩をすくめた。


「君に、少しでも地球に対する愛着があったら、私もこんな苦労をしなくてよかったんだけどね。ぶっちゃけ、君さっきの話を聞いても、地球人を助けるためになんとかしようって、これっぽっちも思ってないだろ? それどころか、地球にモンスターが復活して全人類が絶滅したら、異世界に手を出せなくなるから好都合、ぐらいに思ってたんじゃないのかい?」


 図星だった。


「ついでに言ってしまうとね。君が休んでいた間のノートのコピー。あれも、本当は朝霞君だからね」

「なに?」

「小鳥遊君は、朝霞君が用意したコピーを君に渡したに過ぎないんだよ。自分で渡すのは恥ずかしいし、自分からだと君も受け取らないかもしれない。けど、学級委員が役目という形で手渡せば君も受け取ると考えたんだよ。疑うなら、異世界での最初の食事の時に小鳥遊君が言ったセリフを思い出してみるといい。あのとき彼女は、こう言っていたはずだ。あのコピーのこと? でも、あれは、と。あれは「あれは朝霞さんに言われて」と言おうとしていたんだよ。君は、違う意味に取ったようだったけれどね」


 確かに、寺林の言う通りだった。


「だから、本当なら君が助けるべきは小鳥遊君ではなく、朝霞君だったんだよ。でも、もしさっき、このことを言っても朝霞君は絶対に認めないだろうし、それこそ羞恥心から君への想いを完全封印しかねなかった。それもあって、あそこで真実は語らなかったんだよ。人の恋路を邪魔するほど、私は野暮じゃないんでね」

「…………」

「ま、その後のことは君のレベルアップを促すのと、君たちの仲間意識を高めるために仕組んだってところだね。でも、こっちのほうも朝霞君の悪知恵のおかげで失敗に終わってしまったがね」


 寺林は苦笑した。


「ま、本来こんなネタバレはプライバシーの侵害になるから趣味じゃないんだけど、君どうせ忘れるしね。君の意識改革のほうも、後でゆっくりやり直すことにするさ。どうやら、こっちもまだ時期尚早のようだからね」


 寺林は秋代たちを横目に見やった。


「君は、いつか言っていたね。仲間とは、たとえ弱くとも同じ目的のために一緒に戦う者たちのことを言うと。その意味で、彼女たちは君の仲間になりきれていない。君が、こうしてやられそうになっているのに、誰も助けに来ないのが、いい証拠だ。もっとも、それは君と自分たちの間に実力差があり過ぎて、下手に手を出せば、かえって足手まといになるという思いもあるのだろうけど。ま、どちらにせよ、彼女たちが君と本当の意味で仲間になるためには、もう少し時間が必要だと言うことだね。彼女たちが、もう少し強くなれば、君と釣り合いも取れてくるだろうし、そうなれば話も違ってくるだろうから」

「……別に、俺は自分が最強だと思ったこともなければ、言った覚えもない。俺の強さは中の上か、せいぜい上の下というところだからな」

「いやいや、何言ってんの、君? 君が上の下のわけないから。はっきり言って、強さだけならブッチギリのトップだからね」

「それは、俺が他人のスキルを使えるからに過ぎない。もし小鳥遊と同じような力を持つ奴に「連結」を封じられれば、俺の強さ自体は平均以下でしかない」

「いや、それを言うと、みんなそうだけど、まあいいや」


 寺林は永遠長に右手を突き出した。


「じゃあね、永遠長君。ずいぶん長話をしてしまったが、それもここまでだ。それとも、さっき私が言ったように秋代君たちと協力して戦うかい? もし君がそうするというなら、コンティニューさせてあげてもいいよ。友情、努力、勝利は、バトルのお約束だろ?」

「いらんし興味ない」


 永遠長は即答した。


「言うと思った。それもあって、さっきは本当のことを言わなかったんだよ。君、変に意固地なところがあるからね。私の思惑を知ったら、それこそ意地でも言う通りにしなさそうだから。その結果、たとえ自分がどうなろうとね」


 寺林は嘆息した。


「……誰が、そんなことを言った?」

「え? でも今のは、そういう意味だろう?」

「違う」

「違う? 何が、どう違うって言うんだい?」


 寺林は小首を傾げた。


「別に、俺は負けを認めてなどいない。ということだ」

「認めてないって、だって、さっき」

「俺が言ったのは「いらんし興味ない」だ。勝てないとも、負けたとも言った覚えはない」

「……この後に及んで、ホント往生際が悪いね、君。この期に及んで、君に何ができるっていうんだい?」

「……確かに、今の俺ではおまえには勝てないようだ」

「まだ何か隠し玉があるとでも? いや、君はそういう人間だったね。何を考えているのか誰にもわからず、そして誰も思いも寄らない、突拍子もない答えを導き出す。話に熱が入って、すっかり忘れてしまっていたよ。私の悪い癖だ。おしゃべりに夢中になると、つい我を忘れてしまう」

「失敗だったな」

「そうだね。これからは気をつけることにするよ」

「いや、無理だな」

「そうかもね。癖は、そうそう治らないからね」

「そうじゃない。俺が無理だと言ったのは、おまえにもう「これから」はないからだ」

「まだ、そんな減らず口を」

「事実だ。今、証拠を見せてやる」


 永遠長は切り落とされた右腕に目を向けると、


「創造主、付与」


 起死回生の一手を繰り出したのだった。





 

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