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第30話

「ほう、今の話を聞いて、まだ私を止めようというのかい?」


 寺林にとっては予想外の展開だった。

 個人主義の永遠長なら、ここは完全スルーする。そう思っていたのだった。


「どういう風の吹き回しだい? 突然、人類愛にでも目覚めたかい?」

「誰が、そんなものに目覚めるか。俺が動くのは、いつでも俺のためだけだ」


 永遠長は淡々と言い捨てた。


「俺が、おまえを始末するのは、おまえをこのまま野放しにすると、地球の連中に異世界を攻撃する大義名分を与えることになりかないからだ」

「ほう?」

「おまえの目論見通り進めばいい。だが、もしそうしなかったらどうする? おまえの存在は、すでに各国も知っているのだろう? なら、それこそモンスタ-の出現を異世界ストアの、異世界人のせいにする可能性もあるということだ」

「ほうほう、それで?」

「そうして、大衆に異世界人に対する敵意を植えつけられれば、異世界に侵攻する大義名分にもなる。腹黒い連中なら、そのぐらいのことは平気でやってくるだろう。だが今のおまえは、そうなったときの対処法を考えているようには見えない」

「酷い決めつけだね」


 寺林は苦笑した。


「なら考えているのか?」

「いや、ぜんぜん」

「……現状、異世界間移動はナビがなければできない。だが、この先もそうであるという保証はない。その場合、おまえの軽挙妄動のせいで、異世界が必要のない脅威にさらされることになる。だから始末する。ただ、それだけの話だ」

「なるほど。確かに、大国の海千山千どもなら、そのぐらいのことは仕掛けてくるかもしれないねえ。でも、そうなったらそうなったときさ。対処法など、いくらでもある」

「どうするというんだ?」

「そうだね。とりあえず、異世界の責任にする連中は皆殺しにするかな。そして、その後で新政権の首脳に真実を話させる。私の力でね。これでも一応神なのでね。そのぐらいのことは造作もない」

「突然、国のトップが皆殺しにされて、入れ替わった連中が口を揃えて前言を撤回するわけか? それで、国民が本当に信じると思っているのか? そんな都合のいい話を?」

「そこらへんは、うまくやるさ。まず1番強行な人物を殺して、他の奴らに脅しをかける。それでも引かなければ、2人目を殺す」

「ずいぶんと悠長な話だな。その間に、もし異世界間で戦争が始まったら、どうする気だ」

「そうだねえ。ま、そのときは、そのとき考えることにするさ」

「話にならない。やはり、おまえはここで始末する」

「それはいいけどね。さっきの話、聞いてなかったのかい? 私は重力」

「それなら、もう処理した」

「はい?」

「今の無駄話の間にな」


 それだけ強力なアイテムならば、普段から高出力の魔力を放出してるはず。各国の主要都市をサ-チして、それらしい魔力を放っていた物は、すべて封印したのだった。


「ハッタリ、じゃないよね? 参考までに、どうやったのか教えてもらえるかな?」

「クラスにいた探知系のクオリティを持っている人間に連結し、その人間を通して世界中の魔力値をサ-チした。ただ、それだけの話だ」

「それだけの話、ね。ホントに君はデタラメチートだね」


 寺林は肩をすくめた。


「……ともかく、これであんたを見逃す理由は、まったくなくなったってことね」


 秋代たちは戦闘態勢に入った。


「やれやれ、すっかりやる気だね。若いっていいねえ。血気盛んで、向こう見ずで」


 寺林は苦笑った。


「けど、こっちはもういい年なんでね。面倒なことは極力避けたいお年頃なんだ。というわけで」


 寺林が指を鳴らすと、彼の隣に黒髪の女性が出現した。そして、その顔に秋代たちは見覚えがあった。


 寺林が呼び出した人物。それは間違いなく、廃城で焼け死んだはずの白蛇の魔女だった。


「あんたは、あのときの」


 秋代の脳裏に、過去の悪夢が蘇る。


「生きとったんか!」


 木葉も驚きの声を上げた。


「ええ、魔神様のおかげでね。どう、私の魔神様は凄いでしょ?」


 魔女は無邪気に微笑んだ。


「……ぜんぜん、変わってないわね。しかも、まったく反省もしてない。性根の腐り具合は朝霞といい勝負だわ」


 舌打ちする秋代を、


「一緒にすんな、ボケ!」


 朝霞が怒鳴りつけた。しかし、その朝霞にしても、魔女が許せないという思いは秋代たちと同じだった。


「ここでリベンジしてやる! 覚悟しろ、クソ女!」


 ここまで他人事を決め込んでいた朝霞が、初めて闘志を露わにした。しかし、そんな朝霞たちにかまわず、


「今日も奇麗だよ、リャン」


 寺林は魔女の頬を撫でた。


「リャン、あの子たちは私の邪魔をする悪い子たちなんだ。君の力で、お仕置しておくれ」

「お任せください、魔神様」

「いい子だ、リャン」


 寺林は、リャンのおでこにキスをした。


 寺林がリャンのことを知ったのは、半年ほど前のことだった。


 当時、リャンは白蛇の魔女と恐れられ、人々から忌み嫌われていた。しかし直接会ったリャンは魔女などではなく、素直で優しい子だった。

 リャンは純粋に他人のことを思いやり、他人のためだけに動いていた。そんなリャンが魔女と呼ばれ、恐れられた原因は、ひとえに彼女の極端過ぎる行動にあった。


 たとえば、畑に害虫が発生したと聞けば、その害虫を田畑ごと焼き払う。また森に魔物が現れたと聞けば、その魔物を森ごと焼き払う。という具合に。

 本人としては、本当に善意からの行動なのだが、被害を受けた者からすれば害悪でしかない。

 しかしリャン本人は、そのことにまったく気付かない。そのため、別の場所でまた人助けをする。そして、また人々の不評を買う。まさに負のスパイラルに陥っていたのだった。


 その事実を知った寺林は、リャンに救いの手を差し伸べた。

 寺林はリャンの優しさを認め、彼女の善意を誉めたたえ、彼女のすべてを受け入れた。

 そして、その日からリャンにとって寺林は、絶対にして唯一無二の存在となったのだった。


「お出で、サ-ペナル。一緒に魔神様の邪魔をする悪い子たちに、お仕置してあげましょう」


 リャンは白蛇を召喚すると、そのまま召喚武装した。そして両陣営の戦いが始まろうとしたとき、


「いたぞ。こいつらだ」


 パ-ティ-らしき6人が転移してきた。どうやら賞金目当てに、ここまで永遠長たちを追ってきたようだった。


「ああ、そう言えば、まだイベント終了告知を出してなかったんだっけ。でも、これはこれで面白そうだ」


 寺林は、ほくそ笑んだ。


「リャン、予定変更だ。君は少し待機していておくれ」

「かしこまりました、魔神様」


 リャンは寺林の背後まで引き下がった。


「そうだ。どうせな、他のプレイヤ-も呼ぶとしよう」


 寺林は指を鳴らした。すると、永遠長たちの周囲に200人を超えるプレイヤ-が出現した。そして、そのなかには尾瀬の姿もあった。


「プレイヤ-諸君!」


 寺林は、突然のことに戸惑っているプレイヤ-たちに呼びかけた。


「異世界ストアから、ビックボ-ナスだ。ここにいるタ-ゲットを見事討ち果たした者には、財宝でもアイテムでも異世界の物を好きなだけ持ち帰らせてあげよう」

「マ、マジか?」


 寺林の話を聞いて、賞金稼ぎたちは色めき立った。だが、そのなかにあって、


「くだらない」


 尾瀬だけが寺林の誘惑を一蹴した。


「突然、こんなところに連れてきて、何事かと思えば。生憎ですが、わたくしには、こんな下劣で野蛮なバカ騒ぎに付き合う気はさらさらございませんので」


 尾瀬はそう言うと、仲間とともに姿を消してしまった。


「あらら、残念。あの子は永遠長君と因縁浅からぬ仲だから、喜んで参加してくれると思ったんだけどね」


 寺林は肩をすくめた。


「でも、まあ、いいか。あの子以外は戦る気満々の様子だし」


 寺林の言う通り、残った賞金稼ぎたちは完全に欲望が理性を凌駕していた。


「こうなったら、やるしかないわね」


 秋代は剣を身構えた。9対200。劣勢は明らかだったが、ここで引くわけにはいかなかった。


「必要ない。邪魔だから引っ込んでいろ」


 永遠長はそう言い捨てると、賞金稼ぎたちに視線を走らせた。すると、


「え?」


 賞金稼ぎの1人が、剣で仲間の喉を切り裂いた。

 そして、それを皮切りに賞金稼ぎたちの同士討ちが始まった。

 賞金稼ぎたちは仲間の手にかかり、1人また1人と、その数を減らし続けていった。そして最後に残った1人も、自分の首を切り裂き、仲間の後を追ったのだった。


「うわあ、えげつないことするね、君」


 寺林も引き気味だった。


「そんな容赦なく殺っちゃって、もし私の言ったことが嘘だったら、どうする気だったんだい?」

「知らんし興味ない。あいつらが死のうが生きようが、俺にはなんの関係もない話だ」


永遠長は顔色1つ変えずに言い捨てた。


「いやいや、本当に死んでたら、君が殺したんだから関係は大ありだろ」

「俺が殺した? 何を言っている? あいつらは仲間同士で殺し合い、最後の1人は自殺したんだ。それとも何か? 俺が見ているところで他人が殺し合いや自殺をしたら、俺が殺人犯になるのか? そんな法律が、一体どこの世界にある? あるなら言ってみろ」

「……ホント、君っていい性格してるよね」


 寺林は、しみじみ言った。


「まあいい。ともあれ、これ以上人を呼んでも結果は同じようだ。もう、ここに部外者は立ち入れないようにしておこう」


 寺林は指を鳴らした。


「それじゃ、仕切り直しといこうか。とはいえ、リャンだとさっきの子たちの二の舞になりかねないか。仕方ない。君の相手は私がするとしよう」


 寺林は頭をかいた。


「けど君、わかってるのかい? できる、できないはともかくとして、君が私を殺すということは、地球のお偉いさんたちにとっては、異世界侵略を阻む脅威が消えることを意味するんだよ? そうなったら、それこそ君が心配している、大国の異世界侵攻が始まりかねないんだけど、その辺のこと理解してるのかい?」

「それなら、なんの問題もない」


永遠長は即答した。


「どうして、そう言い切れるんだい?」

「おまえを始末した後は、俺が異世界ストアを運営するからだ」

「あ-、なるほど。て、君ねえ」

「すでにナビを通して、ストアの全容は把握している。おまえがいなくなっても、滞りなく運営できる」


 永遠長の目は本気だった。


「各国の監視も俺の力があれば問題なく行なえるし、もし何か動きがあれば、その場でトップを始末すれば済む話だ」

「……君だと、マジでやりそうだから恐いよ」

「当たり前だ。もっとも、その前に警告するがな。本人の目の前で、家族が自殺しようとしたら考えを変えるかもしれないからな」

「君、わかってる? それ、マフィアのやり方だよ?」

「つまり、それだけ効果的ということだろう」


 永遠長は平然と答えた。


「……つまり、この戦いは異世界ストアの経営権をかけた戦いというわけか」

「そういうことだ」

「だったら、おじさんも年だなんて言ってられないな。この年で無職にならないためにも、いっちょがんばるとしよう」


 寺林はリャンの肩に手を置いた。


「リャン、他の子たちは君に任せる。うんと、お仕置してやっておくれ」

「はい、魔神様」

「いい子だ」


 寺林はリャンの頭を撫でた。


「あっちでやろう。ここだと君も全力が出せないだろ」


 寺林は軽く地を蹴ると、戦闘に手頃な荒野まで飛び移り、


「いいだろう」


 永遠長も寺林を追いかけていった。


「お出で、わたしのかわいい召使たち」


 寺林に後を任されたリャンは、次々とモンスタ-を召喚していった。

 そして100体を超えて召喚されたモンスタ-は、イフリ-ト、サイクロプス、ケルベロスと、どれもが以前とは比べものにならない、強力なモンスタ-ばかりだった。


「いい子たちね。魔神様の、お言いつけなの。この子たちに、うんとお仕置してあげてちょうだい」


 リャンに命じられ、モンスタ-たちが秋代たちへと敵意を剥き出す。そして、それらを迎え撃つ秋代たちも闘志をみなぎらせていた。


 正義感と使命感。愛と慈愛。復讐心と忠誠心。意地と誇り。

 様々な感情が入り乱れるなか、世界の舵取りを決める戦いは、火蓋を切って落とされたのだった。











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