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第28話

 永遠長が転移した先は、山脈の裾野に広がる森の外れだった。


「小鳥遊さんたちは、どこにいるわけ?」


 秋代は回りを見回した。


「あいつらは、ここを真っ直ぐ行った湖にいる」


 永遠長は森を指さした。


「だったら、その湖に瞬間移動すればよかったじゃない」

「そのつもりだったが、ここに着いた。おそらく例の運営の仕業だろう」

「……お姫様を助けたければ、ちゃんと苦難を乗り越えろってわけね」

「ちゅうことは、この先に手強いモンスタ-が待ち構えとるっちゅうわけじゃな」


 木葉は楽しそうに指を鳴らした。すると、それを合図とするように森の奥から無数のモンスタ-が姿を現した。


「て、言ってる側から、お出ましみたいね」


 秋代は剣を引き抜いた。

 木葉も戦闘態勢を取るなか、永遠長だけは動く気配を見せなかった。


「なに、ボッ-と突っ立ってんのよ? あんたも気合い入れなさいよ」


 秋代は永遠長を叱咤した。


「あんなもの、まともに相手をする気もなければ、その必要もない」


 永遠長は抱えている朝霞に回帰の力を使った。すると、


「嫌ああ!」


 朝霞が正気に戻った。

 しかし、すぐに自分が永遠長に抱きかかえられていることに気づくと、


「寄るな! 触るなあ!」


 力の限り暴れた。


「安心しろ。もう実験は終了した」

「え?」


 永遠長の言葉に朝霞の抵抗が止んだ。


「ただし、もっと面倒なことになっているがな。見ろ」


 永遠長に促された朝霞の目に、迫りくるモンスタ-軍団が映った。


「な、な、な、何よ、あれ? 一体、何がどうなってんのよ?」

「加山が小鳥遊を異世界に連れ去ったから、連れ戻しに行こうとしているところだ」

「加山が?」


 朝霞は、うさん臭そうに眉をひそめた。


「あんた、マジで言ってんの? あいつに、そんな度胸あるわけないじゃない」


 朝霞は笑い飛ばした。


「寺林とかいう奴に唆された、と言えば、おまえも納得するんじゃないか」

「バッカじゃないの!」

「そこで、この状況を切り抜けるために、おまえの力を使うことにした」

「はあ? なんで、あんたたちのために、わたしがタダ働きしなきゃなんないのよ?」


 そう言い捨てる朝霞に、反省してる気配は微塵もなかった。


「嫌か? では仕方ない。おまえには最初の予定通り、盾として働いてもらうとしよう」


 永遠長は、脇に抱えていた朝霞を正面に抱え直した。すると、朝霞めがけてスケルトンが剣を振り下してきた。


「ぎゃあああああ!」


 朝霞の臨終寸前、永遠長がスケルトンの胴体を凪ぎ払った。だが安心したのも束の間、今度はミノタウロスが突進してきた。


「朝霞シ-ルド発動」


 永遠長は、朝霞をミノタウロスへと突き出した。


「嫌ああああ!」


 朝霞は逃げようとしたが、体が動かなかった。


「わかった! やる! やりゃあいいんだろ! だから止めろお!」

「そうか。なら、今すぐ俺とこいつらを、おまえの力で透過しろ」

「わ、わかったわよ」


 朝霞は透過の力を発動した。そして透明化した永遠長たちは、モンスタ-軍団の防衛網を突破したのだった。

 その様子を書斎で見ていた加山は、


「くそ、朝霞の奴」


 部屋を飛び出すと、小鳥遊を連れて逃げようとした。しかし家を出たところで、突然体が動かなくなってしまった。そして加山たちが足止めされている間に、


「見つけたわよ」


 秋代たちが一軒家に到着した。


「あなたたちは?」


 戸惑う小鳥遊を見て、


「……あんた、また小鳥遊さんに改変の力を使ったわね」


 秋代は眉をひそめた。


「う、うるさい!」


 加山は左手を突き出した。


「み、見ろ。これは聖婚の指輪と言って、これをハメた小鳥遊は、もう絶対に他の男とはヤレないんだ。もう小鳥遊はオレのものなんだよ!」

「……あんたね、いい加減にしなさいよ」


 秋代は加山に軽蔑の眼差しを向けた。


「なら、試してみるとしよう」


 永遠長は小鳥遊に歩み寄ると、まず小鳥遊の記憶を戻した。


「加山君、どうして、こんなことを」


 すべてを思い出した小鳥遊は、悲しそうに加山を見つめた。


「ち、違うんだ、小鳥遊。オレは、オレはただ、おまえと……」


 加山はうなだれ、崩れ落ちた。


「そんなことより試してみたいことがある」


 永遠長は小鳥遊の左手を掴むと、薬指の指輪に触れた。


「封印」


 永遠長は小鳥遊の薬指から聖婚の指輪を引き抜くと、同じ手順で加山の指からも指輪を取り上げた。


「思った通り、封印を使えばアイテムの効力も無効化できるようだな」


 永遠長は1人結果に満足すると、今度は朝霞に歩み寄った。そして彼女の左手を掴み上げると、聖婚の指輪を薬指にハメたのだった。


「な、何してくれてんだ、てめえ!」


 怒る朝霞にかまわず、永遠長は対となる指輪を自分の薬指にハメた。


「さらに何してくれてんだ、この野郎!」

「こんなものを、そこらに転がしてはおけないからな。それに、こうしておけば色仕掛けで男をたらしこむことはできなくなるから、その分だけ危険が薄れる」

「ふざけんな! 今すぐ外せ!」


 朝霞は指輪を外そうとした。しかし、すでに指輪は朝霞の指と一体化してしまっていて、透過の力を使っても一緒に透明化するだけだった。


「それじゃ、後はこいつの落とし前だけじゃな」


 木葉は指を鳴らした。


「ひっ」


 加山は青ざめた顔で後ずさった。その直後、


「え?」


 加山の腕時計が突然光った。そして、その光に呼応するように、加山の体が膨張を始め、肌も赤黒く変色し始めたのだった。


「う、うわあああ!」


 加山が怪物化しようとしている。そのことを見て取った永遠長は、


「くだらん」


 加山の腕時計を掴むと、


「回帰」


 時間を巻き戻した。


「同じ手が、そう何度も通用するか」


 永遠長はそう言い捨てると、加山の腕から時計をもぎ取った。そして、時計を通して黒幕の居場所を特定しようとした。が、寸前で連結の効果を打ち消されてしまった。


「逃げられたか。まあいい」


 永遠長は、すぐに気持ちを切り替えた。今は、加山のモンスタ-化を防げただけで十分だった。


「これは聖婚の指輪と言ってって、あれ?」


 加山は自分の薬指をマジマジと見た。が、どれだけ見直しても、指輪は影も形もなかった。

 事態が飲み込めず困惑する加山に、


「指輪なら永遠長が外しちゃったわよ。てーか、永遠長に感謝するのね。あんた、もう少しで化け物になるとこだったんだから」


 秋代が説明した。


「ば、化け物?」

「そうよ。あんたがつけてた腕時計の力でね」

「腕時計?」

「そうよ。おおかた、寺林って奴にもらったんでしょうけど、それにせいで、もう少しで化け物にされるとこだったのを、永遠長が回帰で元に戻したのよ」

「は? え?」

「別に、おまえのためにやったわけじゃない。ただ単に、あのままおまえが死んで、おまえのクオリティまで消滅するのは、もったいないと思った。ただ、それだけの話だ」


 永遠長は淡々と答えた。


「も、もったいない?」

「……あんた、絶対恭順だけじゃ飽きたらず、他人の記憶の改ざんまでしようっての?」


 秋代は呆れた。


「誰がそんなことを言った?」

「違うの?」

「記憶の書き替えは、改変の使い方の1つに過ぎない。改変には、もっと有効な使い道がある」

「有効な使い道?」


 加山にとっては信じられない話だった。


「信じられないという顔だな」

「だって、騎士団でも、そんなこと言われたことなかったから。みんな使えない力だって」


 世界も歴史も変えられない「改変」になど、なんの価値もない、と。


「それは、そいつらがバカだった。ただ、それだけの話だ。まあ、団長からして脳筋だからな。そこに集まる奴らの頭も推して知るべしだろう」


 永遠長にそう言われても、まだ加山は納得できなかった。


「わからないなら、わかりやすく説明してやる。昔、錬金術師のマンガがあったろう。知っているか?」


 永遠長の問いに、加山はうなずいた。


「おまえの改変は、あの主人公と同じことができるということだ。それも金属に限らず、あらゆる物質のな」

「え?」

「それだけでなく、それこそ錬金術の最高到達点である、金属を金に変えることさえ可能かもしれない」


 永遠長は小石を拾い上げると、改変の力を発動させた。すると、本当に小石が金に変化した。


「おお!」


 その光景に、思わず回りからも感嘆の声が上がる。が、小石はすぐ元に戻ってしまった。


「ちょっと、戻っちゃったじゃない」


 朝霞が永遠長に食ってかかった。その目は完全に金の虜となっていた。


「当然だ。試しただけだからな。しかし、これで実証できたろう」


 永遠長は加山を見た。


「おまえの力は、記憶の改変などという姑息な真似抜きでも十分凄いものだということが」

「オ、オレに、そんな力が……」

「本当に小鳥遊に振り向いて欲しければ、振り向いてもらえる男になるしかない。それができない限り、いくら改変しようと、いずれ愛想を尽かされるだけだ」

「…………」

「それとも、その都度改変するか? だが、そんなことに何の意味がある? もしそれでいいなら、それこそおまえの力で小鳥遊とそっくりな人間でも造り出せばいい。おまえに都合のいい記憶を植えつけてな」

「そ、そんなの、小鳥遊じゃない」

「違う? どこが違うと言うんだ? 言ってみろ」


 永遠長に問いつめられ、加山は絶句した。


「まあ、どうでもいいがな。おまえがどう思おうが、俺にはなんの関係もない話だ」


 永遠長はそう言い捨てると、異世界ナビを取り出した。しかし、いくら帰還ボタンを押しても日本に送還されることはなかった。


「やはりか」


 永遠長の脳裏に、2度に渡る不快な記憶が蘇る。


「どうしたってのよ?」


 秋代たちも異世界ナビを操作した。しかし結果は同じだった。


「何よ、コレ? これじゃ、戻れないじゃない」


 秋代が鼻白んだ直後、全員のナビに運営からメ-ルが届いた。


 開いてみると、そこには全プレイヤ-に「ロ-ド・リベリオン」の討伐指令を出したこと。そして、それに成功した場合、団員1人につき3年間の無料チケットと1億ポイントの特典が得られると書かれていた。


「これで、あなたも1夜にして大金持ち。目指せ一攫千金」


 メ-ルの最後は、そんな煽り文句で締め括られていた。


 気色ばむ一同のもとに、さらにメ-ルが届いた。しかし、その内容は前回をさらに上回る悪意に満ちた「現在、全プレイヤ-の復活チケットの効果をオフにしている」というものだった。


「……つまり、殺されるのはもちろんのこと、殺してもダメってこと? これじゃ、あたしたち逃げ回るしかないじゃない」


 罠があるのはわかっていたが、そのタチの悪さは秋代の予想を超えていた。


「でも、それも難しそう。見て」


 小鳥遊はナビを差し出した。見ると、画面表示されたディサ-スの地図上に、自分たちの現在地が赤く点滅されていた。


「……これで逃げ場もなしってことね」

「なぜ逃げなければばならない」


 永遠長は憮然と言った。


「かかってくるなら迎え撃つ。ただ、それだけの話だ」


 永遠長の目は完全に本気だった。


「あんたねえ」


 秋代が眉間に苦悩を収束させたところで、永遠長たちを狙う賞金稼ぎたちが湖畔に転移してきた。そして、その数は瞬く間に増えていき、1分もしないうちに50人を超えていた。


「来たわね。みんな、とりあえず逃げるわよ」


 秋代が戦略的撤退を選択する横で、


「逃げたければ逃げろ。俺は、こいつらを始末する」


 永遠長は剣を引き抜いた。


 その威風堂々とした永遠長の威圧感に、賞金稼ぎたちはたじろいだ。


 なにしろ相手は「最古の11人」と称される最古参の1人にして、悪名高き最凶最悪のカオスロ-ドなのだから。


 欲に目が眩んで、自分たちはとんでもない奴を相手にしようとしてるんじゃないか?


 永遠長本人を前にして、賞金稼ぎたちの心に恐怖と後悔の念が沸き起こった。が、それも一瞬のことだった。


 運営から提示された報酬は、それに見合うだけの価値があったし、仮にここで倒されたとしても本当に死ぬわけじゃない。


 その安心感が、賞金稼ぎたちの背中を後押ししたのだった。


「報酬はオレのもんだ!」

「いや、オレだ!」


 金に目のくらんだ賞金稼ぎたちは、我先にと永遠長たちに襲いかかろうとした。そのとき、


「この卑怯者どもが!」


 なぎ払われた1本のランスが、賞金稼ぎたちを蹴散らした。


「まったくもって、けしからん!」


 憤然と賞金稼ぎの前に立ち塞がったのは、かつて永遠長に敗れたワ-ルドナイツ団長、海道だった。


「多勢に無勢! しかも婦女子を狙うとは! 貴様ら、それでも冒険者の、いや地球人のはしくれか! 恥を知れ!」


 海道は賞金稼ぎたちにランスを突きつけた。


「それでも、まだ卑劣な真似を続けると言うのであれば、我輩が騎士道精神を叩き込んでくれるわ!」

「……て、あんたも永遠長の首を狙って来たんじゃないの?」


 海道の調子の良さに、秋代は白眼を向けた。


「おうよ! 再戦したいと思っていたところへ、貴様らの居場所を知らせるメ-ルが届いたんでな。だが再戦するなら、騎士の誇りにかけて正々堂々1対1でだ。こんな形での再戦は、我輩の望むところではない!」


 海道は息巻いた。


「どこまでも正義バカね。ま、嫌いじゃないけど、そういうの」


 秋代は苦笑した。


「けど、殺しちゃダメよ。今殺したら、そいつら本当に死ぬから」

「なに?」

「運営が復活チケット無効化してんのよ。だから致命傷を負わせたら、本当に死んじゃうのよ」

「なんだと!? 本当か、それは!?」


 秋代の言葉は海道だけでなく賞金稼ぎたちをも鼻白ませたが、


「ハ、ハッタリだ!」


 賞金稼ぎの1人が、その不安を一蹴した。


「こいつら、適当なこと言って、オレたちをビビらそうとしてんだ!」


 その一言で賞金稼ぎたちに余裕が戻った。


「そうだよな。そんなこと、あるわけねえよな」

「そんなコケ脅しで逃げようなんて、甘いんだよ」


 再び戦闘態勢を取る賞金稼ぎたちに対し、


「なら、試してみるがいい。自分の体でな」


 永遠長が殺意をむき出す。


「だから、やめろって言ってんでしょうが!」


 秋代は引き留めたが、永遠長は聞く耳を持たなかった。


「こんの」


 秋代は怒りに拳を震わせた。


「こうなったら、イチかバチか」


 秋代は永遠長の背中に触れると、


「転移付与!」


 永遠長を強制転移させてしまった。


 そして残ったメンバ-も片っ端から転移させると、


「あんたも来なさい」


 最後に海道を連れ、自分も王都の正門前へと転移したのだった。


「……なんとか、うまくいったみたいね」


 転移先に全員いることを確認した後、秋代たちは王都の倉庫街へと移動した。


「とりあえず、ここにいれば当分見つからないはずよ」


 異世界ナビの索敵機能は、せいぜい秋代たちが王都にいることがわかる程度。人の多い王都に潜り込めば、そうそう見つかることはないはずだった。


「なら、そろそろ話してもらおう。運営が復活チケットを無効化しているというのは、本当なのか?」


 海道は秋代に詰め寄った。


「本当よ。これが証拠」


 秋代は、運営から送られてきたメ-ルを海道に見せた。


「こ、これは……。し、しかし、運営は、なぜこんなことを?」

「さあね。あたしたちにわかるのは、そいつを送って来た寺林って奴は、朝霞と加山をそそのかして、小鳥遊さんを誘拐させたうえ、あたしたちに賞金をかけて他の奴らに狩り殺させようとしてるってことだけよ」

「し、信じられん。公明正大であるはずの運営が、特定の人間に不利益な真似をしたうえ、殺人まで」

「でも事実よ」

「なんということだ。けしからん。実にけしからん。こんな不埒な輩は、我輩のランスで成敗してくれる!」

「だから、成敗したくても居場所がわかんないんだってば」


 頼みの綱は永遠長だが、ここに来てからも沈黙を守ったままだった。


「てか、何よ、さっきの朝霞と加山を、そそのかしてって」


 朝霞は秋代に詰め寄った。


「小鳥遊さんを誘拐したのは加山で、わたしは関係ないっての」

「どの口で、ほざいてんのよ、この諸悪の根源が。こうなったのも、全部あんたのせいでしょうが」

「知るか! 元はと言えば、永遠長がわたしを石にしたからだろうが! 文句があるなら、こいつに言え!」


 朝霞は永遠長を指さした。


「それも、おまえが俺や小鳥遊を奴隷として売り飛ばそうとしたからだ。言わば、身から出た錆であり、文句を言われる筋合いはない」

「人を石にしといて、なんだ、その言い草は!」

「それは、こっちのセリフだ。経緯はどうであれ、余り者チームは優勝し、その段階でおまえの生存は確約されていた。おまえの行動も、すべては生きて地球に帰るためのものだろう。そして、それが達成できた以上、礼を言われこそすれ、文句を言われる筋合いはない」

「ふ、ふざけんな! そもそも、あのときのおまえの口振りだと、あんな苦労しなくても魔石を集められたんだろうが! 最初から勝てるとわかってりゃ、わたしだってあんな真似してねえんだよ!」


朝霞は怒鳴ってから、


「てか、なんでわたしの名前まで抹殺リストに入ってんだよ! わたし、こいつらとなんの関係もないってのに!」


 異世界ナビを手に舌打ちした。


「人を呪わば穴2つってやつよ。自業自得なんだから、あきらめるのね」


 秋代の目は限りなく冷ややかだった。


「てか、そ-だ、永遠長! よく考えたら、おまえ、他人の力が使えんだろうが! だったらわざわざ、わたしに使わせねえで、おまえが透過の力を使えばよかったじゃねえか!」


 朝霞は永遠長を睨みつけた。


「あの後、どんな罠が待っているかわからない以上、自分の力を極力温存しておくのは当然のことだ。おまえなら、力を使い果たしたら捨てていけば済んだ話だからな」

「マジ、ふざけんな、おまえ! いつか絶対、ブッ殺してやるからな!」

「うるさい奴だ」


 永遠長は怒り狂う朝霞の手を掴んで引っ張り寄せると、


「や、やめ」


 朝霞の脇の下に盛大にくすぐった。


「キャハハハハハ!」


 肌の感度を増幅された上でのくすぐり攻撃に、


「ひゃめ、ギャハハハ! この! そこ、らめえ!」


 朝霞が激しく身悶える。そして散々にくすぐられ、生も根も尽き果てたところで、


「そこで少し静かにしていろ」


 永遠長は朝霞を自分の隣に放置した。


「永遠長」


 秋代は痙攣している朝霞をスルーして、


「その指輪から寺林って奴の居場所、辿れないの?」


 永遠長がしている聖婚の指輪を指さした。


「やってみたがダメだった」

「じゃあ、どうすんのよ?」

「考え中だ」


 永遠長が再び長考状態に入ったところで、


「こ、この、バ、バカども、が」


 朝霞が復活した。


「まだ懲りないようだな」


 永遠長の手が朝霞の脇の下へと伸びる。


「や、めろ。この、変態!」


 朝霞は永遠長を押し退けた。


「要は、あいつの居場所を、突き止められたら、いいんだろうが」


 朝霞は息を荒げながら言った。


「そうだけど、なんか、いい方法があるっての、あんた?」


 秋代は、うさん臭そうに朝霞を見た。


「それだよ、それ」


 朝霞は秋代が持っている異世界ナビを指さした。


「異世界ナビ?」

「そうだよ。それって、機能は違うけど、携帯だろ? だったら、携帯と同じで、なんらかの通信ネットワ-クで、全部繋がってるはずだろ。それこそ、運営とも」


 朝霞の指摘に、秋代は目を瞬かせた。


「ナビから、ストアの本部をハッキングするってこと?」

「そうだよ。あいつは、わたしらのナビにメ-ルを送ってきた。てことは、今もナビに繋がる、どこかにいるってことだろ。だったら、そのナビから辿っていけば、あいつの居場所も特定できんだろうが」

「なるほど」


 秋代は永遠長を見た。すると、永遠長はすでに作業に入っていた。


「さすが性根が腐ってるだけあって、悪知恵には長けてるわね、あんた」


 秋代は朝霞を見直した。


「悪知恵、言うな。てか、おまえらの頭が悪過ぎんだよ」


 悪態をつく朝霞に、


「ありがとう、朝霞さん」


 小鳥遊は濁りのない瞳で感謝の気持ちを伝えた。


「それに、森でも助けてもらったのに、まだお礼も言ってなくて。本当にありがとう」

「べ、別に、あんたのために、やったわけじゃないわよ」


 朝霞はフンと鼻を鳴らすと、ソッポを向いた。


「いた」


 永遠長は立ち上がると倉庫を出ると、


「今度は逃がさん」


 永遠長は秋代たちを連れてメ-ルの送信元へと転移した。


 今度こそ、すべてに決着をつけるために。











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