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第27話

 その一軒家は、ティオノ-ル王国の北、カンザス山脈の裾野に、ひっそりと建っていた。

 そして、その屋内には加山と小鳥遊の姿があった。


 深い緑と澄んだ空気。穏やかな日差しに、輝く水面。

 そんな美しい自然に囲まれ、小鳥遊と暮らす。

 それは、加山がずっと夢見ていた理想の生活であり、その理想を実現できたのは、ひとえに寺林という男のおかげだった。


 今朝、学校から逃げ出した加山は、安全な場所を探して、さ迷い歩いていた。すると、


「はじめまして、加山君」


 紺のス-ツを着た中年男が近づいてきたのだった。


「私は寺林。異世界ストアの運営する、気のいい中年親父さ」


 寺林は、そう軽い調子で自己紹介した。


「それとも、君にはこう言ったほうが早いかな? 朝霞君に、君の力のことを教えた運営だと」

「じゃ、じゃあ、あんたが朝霞の言ってた」

「そういうこと」


 寺林はウインクした。


「付け加えると、君のクラスメイトが教室から消えた日、危険だから学校を休むようにと、君の異世界ナビにメールを送ったのも私だ」

「あ、あれも?」


 クラスメイトが消えた日、本当ならば加山も巻き込まれていたはずだった。しかし登校寸前に「今日学校に行くとデスゲームに巻き込まれる。死にたくなければ欠席することを勧める」というメールが異世界ナビに届いた加山は、半信半疑ながら学校を欠席。魔神によるデスゲームへの強制参加を回避することができたのだった。


「で、こうして君の前に現れたのは、君の窮地を見兼ねてのことなんだよ。なにしろ、今君がこんなことになってるのは、私にも責任の一端があるからね」


 寺林は、ぬけぬけと言った。


「そこで、お詫びもかねて、私から1つ提案があるんだけど」


 そう言って、寺林が持ちかけてきたのが異世界への移住話だった。


 寺林は、加山にディサ-スにある山荘を提供すると言い、護衛として山荘周辺に使い魔を配置することを約束した。


 それでも迷う加山の背中を押したのは、寺林の「小鳥遊も連れて行けばいい」という甘言だった。


 驚く加山に、悪魔はささやき続けた。


「どうせ1度渡った橋だろう? 2度渡ったところで、なんの問題があるんだい? それに彼女が一緒なら素敵だと思わないかい? それとも、たった1人で誰も知らない異世界で暮らすかい? 彼女が永遠長君に抱かれるところを想像しながら」


 寺林は、加山の心を十分過ぎるほど揺らがせたところで、一対の指輪を差し出した。


「この指輪は聖婚の指輪と言ってね。この指輪をはめた者同士は、他の者と性交渉できなくなるんだ。もし、君が私の提案を受け入れるなら、これを君に進呈しよう。これさえあれば、彼女は永遠に君だけのものだ。さあ、どうする、加山君? すべては君しだいだ」


 この悪魔の誘惑に加山は負けた。そして小鳥遊を拉致すると、再び記憶を改変したのだった。それも今度は自分の妻として。


 オレは、ここでもう1度人生をやり直すんだ。小鳥遊と一緒に。


 気持ちを新たに、加山が小鳥遊と人生を再出発させようとしていた矢先、彼の腕時計が光を放った。


「どうしたの、あなた?」


 小鳥遊が鼻白む加山に尋ねた。その左手の薬指には、加山と同じ聖婚の指輪がハメられていた。


「い、いや、なんでもないんだ」


 加山は右手で左腕の腕時計を隠した。その時計は寺林にもらったもので、侵入者が近づくと黄色く点滅する仕組みになっていたのだった。


「そう? なら、いいけど」

「本当さ。あ、それと、これから少しの間、書斎に入らないでくれ。仕事だから」


 加山は急いで書斎に入ると、机に右手を置いた。すると、机の上に永遠長たちの姿が立体で映し出された。


「永遠長」


 加山は永遠長を睨み付けた。


「おまえなんかに邪魔させるもんか。十花は、もうオレのものなんだ」


 この家は、寺林の用意した無数の罠とモンスタ-によって守られている。永遠長がどんなに強くても、その防衛網を突破することは不可能なはずだった。そして、もし寺林の言うとおり、今現在永遠長たちの復活チケットが本当に無効化されているとすれば……。


「お、おまえが悪いんだ。お、おまえがオレの邪魔をするから」


 何があろうと、小鳥遊との新生活は守る。


 加山にとっては、それがすべてだった。


 たとえ、そのために自分の手が血で汚れることになったとしても……。



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