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第23話

 海道率いるワ-ルド・ナイツを、永遠長率いるロ-ド・リベリオンが壊滅させた。


 その事実は、瞬く間にプレイヤーたちの間で広まっていった。そして、そのことはアーリア帝国で負傷者の治療に当たっていた、土門たちの耳にも入ることになった。


 永遠長さんたちのことだから、きっと大丈夫に違いない。


 そう思いつつ、土門たちは秋代に異世界ナビからメ-ルを送ってみた。しかし1日待っても、秋代からの返事はなかった。


 不審に思った土門は、教えられていた秋代の携帯に電話してみた。すると、携帯に出た秋代は、土門たちのことはおろか、異世界のことも完全に忘れている様子だった。


 ギルドチャットで呼びかけてもみたが、やはり誰からも返事がない。

 唯一、土門たちのことを覚えていたのは永遠長だけだったが、その永遠長も、


「なぜ、おまえが俺の携帯番号を知っている?」


 と不審がり、ギルドはおろか、秋代たちのことさえ忘れている様子だった。


 そして、そこから導き出される結論は1つしかなかった。


「みんな、誰かに記憶を消されている」


 だが誰に? なんのために?


 考えられる1番の理由は、異世界ストアによる記憶操作だった。


 モスの1件で、記憶を消された?

 だが、もしそうならモスの件では無関係のはずの、秋代たちの記憶まで消されているのは理屈に合わなかった。それに、永遠長だけが異世界のことを覚えていることも。


 こうなったら、直接会って確かめるしかない。


 とはいうものの、土門は静岡、禿に至っては北海道に住んでいる。東京在住の永遠長に会いに行くのは、かなり骨の折れる作業となる。

 そこで土門たちは、異世界経由で永遠長と接触を図ることにした。


 放課後、帰宅した土門たちは、さっそくディサ-スへと向かった。後は、永遠長が起点としている冒険者ギルドに行き、永遠長が現れるのを待つだけ、のはずだったのだが……。


「困るんだよね。今、君たちに動かれると」


 ディサ-スに着いた直後、2人の前に1人の人物が現れた。


 その人物は30代半ばで、藍色の背広とパンツで身だしなみを整えた、一見紳士風の男であり、その風貌は間違いなく、


「寺林」


 土門たちを異世界に置き去りにした、自称異世界ストアの運営だった。


「特に、土門君の「回帰」は厄介だからね。せっかく、ここまでお膳立てしたものが、一瞬でリセットされてしまう」


 寺林は肩をすくめた。


「あなたが、またボクたちの前に現れたということは、やっぱり永遠長さんたちの記憶喪失は、あなたの仕業だったんですね?」

「私は、お膳立てしただけだよ。実行した者は別にいる」

「それは誰ですか?」

「教えてあげてもいいけど、どうせ聞くだけ無駄だよ。君たちにも、永遠長君たち同様、忘れてもらうつもりだから。ここでのことも、永遠長君のお友達のこともね」

「どうして、そんなことを?」

「だから聞くだけ無駄だって。にしても、まったく、あの子にも困ったもんだ。あれだけ、土門君の力の厄介さを念押ししたっていうのに、すっかり忘れてるんだから。ま、仕方ないか。悪知恵が働くと言っても、まだまだ子供だしね」


 それもこれも、すべては永遠長の行動が想定外過ぎたためだった。


「おかげで、私が出張るハメになってしまった。端役とは言え、表舞台に出るのは本意ではないんだがね。私は、あくまでもスト-リ-テラ-なのだから」

「何が、スト-リ-テラ-だ」


 土門は、寺林を睨み付けた。


「君たちは、わからなくていいことさ」


 寺林は土門に右手を突き出した。それを見て、禿が寺林の前に立ちふさがった。


「反射か。下手に記憶を消そうとしたら、こっちの記憶が消されかねないね。ホント、厄介なカップルだよ、君たちは」


 寺林は指を鳴らした。すると、周囲の景色が一変。それまであった空と大地が消え、代わりに宇宙のような薄暗い空間が、見渡す限り広がっていた。


「しばらく、ここにいてもらうよ。何、殺しはしないから安心するといい。ここにいて、君たちが反撃できないほど衰弱したら、記憶を消して元の世界に戻してあげるだけから」


 寺林はそう言うと、土門たちの前から姿を消した。


「リッ君……」


 禿は不安そうに土門を見た。


「心配しないで、ミッちゃん」


 土門は、禿の手を優しく握った。


「もう誰も、あいつに不幸になんかさせない。ボクたちは、そのためにここにいるんだ」


 土門は、頭を振り絞った。


 おそらく異世界ナビは使えない。そして魔法も封じられている可能性が高い。

 いや、こんなマイナス思考じゃダメだ。


 土門は頭からマイナス思考を振り払った。


 こんなとき、永遠長さんならどうするだろう? あの人のことだから、またとんでもな力の使い方を考えついて、ここからも簡単に脱出しちゃうんだろうな。

 じゃあ、ボクの力の、とんでもない使い方っていったら……。


「そうだ! これなら」


 土門は、ある方法を思いついた。


「どうしたの?」

「ここから脱出する方法を思いついたんだ」

「本当?」

「うん。ボクの力は回帰。そして回帰とは「一巡して元の場所に戻ること」だ。だったら、ボク自身に回帰を使えば、たとえば1時間前にいた場所に、戻れるんじゃないかな?」

「で、でも、あれは自分には使えないんじゃなかったの? 確か、あの皇帝がそんなことを」


 回帰を自分で自分にかけることは、自分で自分の体を持ち上げようとするようなもの。


 以前、皇帝はそう言っていたはずだった。


「うん。自分を過去に戻そうとすると、その瞬間に戻そうとする行為そのものがなかったことになってしまうから、力がうまく働かないんだ」

「だったら、どうするの? わたしが戻っても、どうにもならないし」

「だから2人で力を合わせるんだ」

「え?」

「ミッちゃん、君が反射を使うときどうやってるの?」


 土門からの唐突な質問に、禿は戸惑った。


「……どうって、こう、前に壁を作り出す感じで」


 禿は、両手を前に突き出した。


「じゃあ、その壁を、自分の正面以外に出せるかどうか試してみて」

「正面以外?」

「うん、たとえばボクたちの正面に、鏡のように出せないかな? じゃなかったら、ミッちゃんが移動しても、反射板はその場所にキ-プしておくか」

「やってみる」


 禿は反射の力を発動させた。すると、今までは自分の目の前にしか作り出せなかった反射板が、1メ-トル程離れた場所に出現した。


「できた」

「やったね、ミッちゃん。凄い凄い」


 土門は、思わず禿に抱きついた。


「リッ君……」


 真赤になっている禿を見て、


「あ……」


 土門はあわてて手を離した。


「ご、ごめん、ミッちゃん」

「ううん、いいの。でも、これでどうするの?」


 恥じらいながら、禿は土門に尋ねた。


「う、うん。ミッちゃんが作ってくれた反射板に、ボクが回帰の力をぶつけるんだ。そうすれば、その回帰の力は反射板で反射されて、ボクに作用する。そうすれば、2人そろって元の世界に戻れると思うんだ。理屈上はね」

「そっか。うん、きっと、そうよ」


 禿の表情に、明るさが戻った。


「うん」


 土門も力強くうなずき返すと、禿を抱き寄せた。


「行くよ。ミッちゃん」


 土門は大きく息を吸い込むと、


「回帰!」


 禿の作った反射板に向かって、回帰の力を叩き込んだ。


 自分たちの力を。その可能性を信じて。





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