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第200話

 学園裁判所の被告人だった木戸の行方不明。


 この事実は、瞬く間に学校中に広まった。


 そして、その行方不明の期間が長引くにつれ、校内では無責任な憶測が飛び交うことになった。それは、


「木戸が姿を消したのは、学園裁判所を潰された腹いせに生徒会長が殺したからだ」


 というものだった。


 まったくもって、根も葉もないゲスの勘繰りだ。あの久世が、そんな真似をするわけがないだろうに。


 だが事実関係だけを見ると、説得力がないわけでもない。なにしろハタから見ると、久世にとって木戸は、


「せっかく幼馴染のような悲劇を繰り返さないために、必死になって設立させた学園裁判所を廃止に追い込んだあげく、自分の大切な幼馴染の尊厳まで踏みにじった憎むべき人間」


 ということになるからだ。


 そして警察も、そう考えたのだろう。3日後、刑事が久世のところに事情聴取にやってきた。もちろん久世は事件への関与をきっぱり否定した。しかし、この事実は生徒の間に、ますます久世への疑惑を深めさせる結果となってしまった。


 こうなった責任は、久世を巻き込んだ俺にある。その責任を取るためにも、木戸の安否はともかく、久世の無罪を証明しなければならないのだが……。


「さて、どうしたもんか」


 ヘビが消えてから、今日で5日になる。その間、ヘビからの連絡はなく携帯にも出ない。

 あのヘビなら、その間どこかにシケこんでいる可能性も十分あるが、さすがに5日も連絡がないのは不自然過ぎる。ヘビの仲間にも尋問したが、本当に知らない様子だったし。


 となれば、すでにヘビは殺されているか、どこかに監禁されている可能性が高い。そして5日たっても家族に連絡がないことを考えると……。


 俺が最悪の結末を予想しながら、5日目を終えようとしたとき、


「ん?」


 これは……。


「どうしたの、翔君?」

「久世に動きがあった」

「久世君に?」

「ああ、念のため、久世の部屋に盗聴器を仕掛けておいたんだが、今木戸を誘拐したらしい奴から電話がかかってきた」

「うわ、こいつマジサイテー。てか、変態すぎ。男の家をストーキングなんて」


 クソ狐が身をのけぞらせた。このクソ狐は、あの夜以後、白羽に付きまとい続けている。なんでも白羽の傍は居心地がいいんだそうだ。

 もっとも、このクソ狐が白羽のボディーガードを務めてくれているおかげで、俺も気軽に清川中学に行けてるわけなんだが。


「マジ、サイテー。散々信じてるアピールしといて、実は疑ってて、こっそり盗聴器仕掛けとくとか、マジありえないわー」

「うるせーよ」


 部外者は黙ってろ。


「ねえねえ、白羽。やっぱ、考え直したほうがいいんじゃない? あんたほどの器量ならさあ、もっといい男が絶対見つかるって」


 クソ狐が白羽にささやいた。このクソ狐が。マジでハク製にしてやろうか。


「ちょっと黙ってろ、おまえ」


 話が聞こえないだろうが。


「……を預かっている」


 犯人は変声機を使っているらしい。声から性別の判別は難しかったが、声の調子から男である可能性が高かった。


「朝比奈君と馬場君を?」


 は? 朝比奈? 馬場? どうして、ここで2人の名前が出てくるんだ?


「信じられないか? なら声を聞かせてやる」


 変声機の声が途切れた直後、


「久世君」


 朝比奈と、


「た、助けて、久世君」


 馬場の声が聞こえてきた。こいつ、あの2人を誘拐したのか? なんのために?


「これでオレの言っていることが、嘘じゃないことがわかっただろう」


 再び声が誘拐犯に変った。


「どうして2人を? いったい何が目的なんだ?」


 まったくだ。


「目的か? 目的は、この世界を守ることだ」


 は? 何言ってんだ、こいつ?


「なにしろオレは、この世界を守るために、神に選ばれた「救済者」だからな」


 なに?


「え? それって」

「おまえに言ってもわからないだろうが、これはオレの「救済者」として救済活動なんだよ」

「2人を誘拐しておいて、何が救済だ!」


 まったくだ。


「う、うるさい! とにかく、おまえは言われた通りにすればいいんだよ! わかってるだろうが、このことは誰にも言うんじゃないぞ。言えば、すぐにでもこいつらは木戸の後を追うことになるからな」


 図星突かれて、急に口調が荒くなった。犯人は若い奴なのか? まあ、神に選ばれたとか言ってる時点で、中2病こじらせてるガキの可能性が高いわけだが。


「なんだと? じゃあ、木戸君はもう」

「ああ、殺った。奴のようなクズは、この世界に負のエネルギーを垂れ流すだけの害悪でしかないからな」


 確かに。


「これで、おまえを呼び出したわけがわかっただろう。オレがこんな真似をしているのは、おまえという人間の本質を確かめるためだ。おまえがあの弁護士が言う通りの、ただの偽善者なのか、それとも本当の正義の味方なのかを」


 そう前置きすると、誘拐犯は朝比奈たちの監禁場所を告げた。それは、久世のアパートから少し離れたところにある古寺だった。


「来たくなければ来なくてもいい。だが、もし来なかったら、次はおまえのところの庶務を殺ってやる。わかったらツベコベ言わずに、さっさと来い!」


 誘拐犯は、そう吐き捨てると電話を切った。


 言ってることが支離滅裂だ。突然、身に余る力を手に入れたもんで、試してみたくて仕方ないってところか? 完全に力に振り回されてやがる。

 この正義バカが、どこの誰だか知らないが、このままだと本当に朝比奈たちの命が危ない。


 俺は、急いで指定された寺へと向かった。久世のことだから、おそらく警察には連絡しないだろう。もっとも、もし本当に犯人が「救済者」なら、警察を呼んだところで無駄な犠牲者が増えるだけだろうが。


 まったく、どこのバカが「世界救済計画」なんて考えたのか知らないが、ハタ迷惑もいいところだ。まあ「学園裁判所」なんてものを考えた俺が言っても、説得力はないんだけどな。




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