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第199話

 果てしなく広がる暗黒世界は、やはり宇宙を連想させる。


 いつか宇宙に飛び出せば、こんな時間が数十年と続くのだろう。そして、そんな余生も悪くないと思っていた。


 だが!


 それはあくまでも、本当の宇宙での話だ。こんな星ひとつない暗闇を、この先延々と眺め続けて余生を送るなど不本意極まりない!


 俺は、地球を旅立つときの宇宙船はハレー彗星と決めているのだ。

 75周年で地球にやってくるハレー彗星に飛び乗り、天上にちりばめられた宝石を愛でながら大海原を駆け抜ける。それが俺の最終的な野望なのだ。そして、その俺の野望を成就させるためにも、まずはこの難破船から脱出しなければならないのだが……。


 あの寄生虫どもめ。もうちょっとのところで邪魔しやがって。あれさえなければ一発逆転できたものを。今度会ったら、絶対ブッ殺してやる。ペンチで体を一片ずつ引きちぎってやるから覚悟してやがれ。


 俺は寄生虫どもへのリベンジを、何度も何度も、深く深く心に刻みつけた。


 それにしても、うかつだった。イジメを告発する手紙が投函されたって聞いた時点で、罠である可能性を考慮すべきだったんだ。


 これは、あくまで俺の推測だが、あの手紙はヘビが出しやがったんだ。

 おそらく、あのクソヘビは学園裁判所の存在が気に入らなかったんだろう。だから、わざとイジメを告発する手紙を出して、生徒会が自分たちを裁判にかけるように仕向けたんだ。そして、その上で馬場にイジメを否定させれば、生徒会の信用は地に落ち、学園裁判所を潰せると踏んだんだろう。


 おそらく馬場には「自分たちに協力すれば、おまえには2度と手を出さない」とでも言ったんだろう。


 俺に言わせれば、そんな約束信じるほうがバカなんだが、それでも馬場にとっては、どれだけ実行力があるかわからない学裁よりもオッズが高かったんだろう。

 それでも俺が馬場に憑依していれば、一発逆転できたものを。


 くそ、考えれば考えるほど腹が立つ。

 あの寄生虫ども、絶対ブッ殺してやる!

 そのためにも、まずは、ここから脱出する方法を考えんと……。


 鏡を影化して抜け出そうにも、鏡面の周りに施されている光の結界のようなものに邪魔されるし。まあ、おそらく魔を封じる道具なんだろうから、当然と言えば当然なんだが。どうしたもんか……。


 俺が考えあぐねていると、


「翔くん!」


 聞き覚えのある声がした。そして間もなく鏡面の向こうに見えた顔は、間違いなく白羽のものだった。


「おまえ、なんで、ここに?」


 ここは普通の人間には来られない場所のはずだぞ?


「待ってて、今出してあげるから」


 白羽がそう言った直後、手鏡に亀裂が入った。そしてその亀裂はどんどん大きくなり、ついに手鏡は完全に砕け散った。


「よかった、翔君!」


 白羽は鏡から出て来た俺に抱きついた。


「おまえのほうこそ無事でよかった」


 て、ちょっと待て。


「なんで、おまえがここにいる? それに、どうして俺に触れるんだ?」


 今の俺は実体のない影なんだ。普通の人間は抱きつくことはおろか、触れることさえできないはずなのに。


「それは」


 白羽が答えかけたとき、その体から獣の耳が生えてきた。


「それは、あたしが憑いてるからよ」


 そう言いながら白羽の体から出て来たのは、以前白羽に取り付いていた寄生虫だった。


「この野郎、よくもぬけぬけと」


 ブッ殺す!


「待って、翔君!」

「止めるな、白羽!」


 そもそも、こんなことになったのは、おまえがだな。


「違うの、翔君、彼女はわたしを助けてくれたの。それに、こうして翔君を助けることができたのも、彼女のおかげなのよ」

「どういうことだよ?」


 意味不明だ。こいつは、あの寄生虫どもの仲間だろ? それが、どうして俺たちを助けるんだ?


「簡単な話よ。今回の件に、あたしはからんでないからよ」

「からんでない?」


 どういうことだ、寄生虫?


「むしろ、あたしは止めたのよ。もう、これ以上あんたにはからむなってね」


 寄生虫は肩をすくめた。


「けど、あいつら聞かなくて、封印具まで用意して、あんたにリベンジしにいっちゃったってわけ」

「それで、どうしておまえが俺を助けるって流れになるんだ、寄生虫?」

「寄生虫、寄生虫ってね。あたしには玉枝たまえっていう名前が、ちゃんとあるのよ。それに、こう見えても妖怪のなかでは上位に位置してるんだから、それなりに敬意を払ってもらいたいもんだわ」

「何が敬意だ」


 寝言ぬかすな。


「だいたい、あんた助けてもらっといて、さっきから礼の一言もないんですけど? 文句言う前に、まずは「助けてもらって、ありがとうございます」って、礼を言うのが先でしょうに。まったく、これだから最近のガキは」


 寄生虫は、これみよがしにため息をついた。なんで他人の体を勝手に乗っ取って、好き放題してた寄生虫に上から目線で説教されなきゃならんのだ?


 とはいえ、まあ言ってることは、もっともだ。


「そうだったな。助かったよ。ありがとう、白羽」


 今回の件、99パーセントは、おまえが原因という気がしないでもないが。


「ちょっと、あたしへの礼は?」

「殺されないだけ、ありがたく思え」


 本当なら、八つ裂きにしてるところなんだ。


「あんたねえ、どういう性格してんのよ。まったく、親の顔が見てみたいわ」


 だから、おまえが言うな、寄生虫。


「まあ、いいわ。あたしがここに来た目的も、実際のところソレなわけだし」

「どういうことだ?」


 本当に、こいつのいうことは意味不明だ。


「だからあ、たとえばよ、万が一あんたに自力で封印を破れる力があったとして、もし封印を破ったら、あんたどうしてた?」

「あの寄生虫どもを殺しに行く」


 決まってるだろうが。


「言うと思った。で、もしよ、もしそのとき、あんたがあたしのことも見つけ出したとして、あたしが「あたしは、あいつらとは関係ないの。あれは、あいつらが勝手にやったことなのよ」って言ったら、あんた信じた?」

「誰が信じるか」


 そういうクソは、どこにでもいるからな。散々好き放題したあげく、ヤバくなったら「俺は命令されただけなんだ」とか、ほざく奴が。


「でしょ。だから、あたしとしては身の潔白を証明するためには、白羽と一緒にあんたを助ける必要があったのよ」

「……なるほどな」

「ま、あんたがあのまま永遠に封印され続けることが確定してるなら、あたしも放っておいたんだけどさ。あんた得たいが知れないからね。万が一にも自力で封印解かれたら終わりだから、白羽に力を貸すことにしたってわけ」

「なんだ。結局、自分のためなんじゃねえか。礼を言って損したわ」

「はあ? あんたが、いつあたしに礼言ったのよ? ねえ、いつよ? 何時何分何秒よ? 言ってみなさいよ、ホラ」


 あー、うるさい。もう、バカは放っとこう。


「無視すんな、コラ!」

「うるさい。耳元で騒ぐな。クソ狐」

「く、あんたねえ、それが命の恩人に対する態度?」


 何が恩人だ。てか、そもそも人じゃないだろ、おまえ。


「寄生虫からランクアップしてやったんだ。むしろ、ありがたく思え」

「な……」

「そんなことより、さっさと、ここから出るぞ。そんで、あの寄生虫どもを今度こそ皆殺しにしてやる」


 待ってやがれ、寄生虫ども。


「ちょっと待って!」


 クソ狐が俺の行く手に立ちふさがった。なんだ? まだ何かあるのか?


「それなんだけどさ、あいつらのこと見逃してくれない?」

「はあ?」


 何言ってんだ、こいつ?


「ねえ、頼むよ。あんなんでも、あたしの仲間なんだ。あんたもこの娘も一応無事だったわけだし、あいつらにはもう2度とこんなことしないように、あたしからキツく言っとくからさ。ね、この通り」


 クソ狐は顔の前で手を合わせた。


「お前な、調子に」

「わたしからもお願い、翔君」


 白羽がクソ狐に加勢した。まったく、このお人よしが。


「……わかった。だが今回だけだぞ」


 なんか、前にも同じこと言った気がするが。


「今度こそ、次はねえからな。あのクソ寄生虫どもに、よく言っとけ」

「ありがとう。恩に着るよ」

「ありがとう、翔君」

「とにかく、外に出るぞ」


 俺は、おまえを幸せにするためだけに、今ここにいるんだ。そのおまえの望まないことを、俺がするわけにはいかないだろうが。何より! 誰より! 俺には真っ先に開廷しなきゃならない奴がいるのだ!


 俺は、クソ狐が憑依し直した白羽とともに地上へと昇っていった。


 待ってやがれ、クソヘビが! 学裁を台無しにしてくれた落とし前は、キッチリ取らせてやるからな!


 俺は地上に飛び出した。まではよかったが……。


 よく考えたら、俺はヘビの巣穴を知らないし、こんな夜中に白羽を1人で帰すわけにもいかない。


 やむなく俺は、ひとまず白羽と家に戻った。そして白羽を家に送り届けた後、その足で白河の家に向かった。

 俺がいなくなった後、裁判がどうなったのか。ヘビを駆除する前に、確認しておく必要があったからだ。ま、だいたい、想像はつくが。


 俺が部屋に入ると、白河は机に向かっていた。


「白河、勉強中のところ悪いんだが、ちょっといいか?」


 俺がそう声をかけると、白河が振り返った。


「負け犬が何の用?」


 いきなり、きたよ。まあ、そう言われても返す言葉はないわけだが。


「散々大口叩いた挙句、クズどもにいいようにコケにされたピエロが、よく恥ずかしげもなく、あたしの前に顔を出せたわね」


 言い方!


「うるせえよ。だいたい、本当なら一発大逆転できたんだよ。それを、あの寄生虫どもが」

「寄生虫?」

「前に半殺しにした妖怪のことだ。そいつらが、俺が馬場に乗り移ろうとしたところを邪魔しやがったんだよ」

「要するに、あの弁護士とそいつらに、ダブルでコケにされたってわけね」


 だから言い方!


「とにかくだ。そういうわけで、あの後どうなったか知らないんで、説明してくれねえか。まあ、おおよそのところは見当がついてるが、やっぱ学裁は廃止になったのか?」


 あの話の流れからすると、その可能性が1番高い。


「廃止じゃないけど、とりあえず無期限活動中止よ。これからどうするかは、学校と教育委員会の人が話し合って決めるそうよ」

「連中らしい詭弁だな」


 どうせ廃止ありきで、最初から議論なんてする気もないくせしやがって。


「でも、たぶん復活は無理ね。あの裁判のあと生徒会長、あの木戸って奴殴っちゃったから」

「殴った?」

「そう。あの木戸って奴に「学園裁判所は、これで終わりだ。ざまあみろ」みたいなこと言われてね」


 あのヘビなら、やりそうなことだ。


「それ以外にも、生徒会長の死んだ幼馴染のことも「おまえの幼馴染たちのことも知ってるぜ。姉弟そろって嫌われ者だったんだってな。弟は根暗なキモオタで、姉は引きこもりだもんな。死んで当然だよな。生きてたって、害でしかねえ奴らだったんだから」みたいな感じで散々けなして、とうとう温和な久世会長もブチ切れて殴り飛ばしちゃったのよ」


 よくやった、久世。


「だから、学園裁判所の復活は難しいんじゃない。問題を裁判で解決しようって言ってた本人が、暴力を振るっちゃったわけだから」


 確かに説得力ゼロだな。


「これで、あの生徒会長もわかったんじゃない? 他人に関わる価値なんてない。他人のことを、どんなに思いやったところで、そんなこと無駄なんだって」


 白河は冷たく言い捨てた。


「木戸たちはもとより、あの馬場って奴だって、助けようとした久世会長たちをあっさり裏切り、学生を守る存在のはずの教育委員会の連中は、弁護士とグルになって学裁の存在価値を否定して廃止にした」


 白河の瞳が侮蔑に染まった。


「つまり、あの連中は教育現場で子供がどれだけ苦労しようと、たとえ死んだとしても知ったことじゃないってことなのよ。大事なのは自分の身だけ。それがどんなに画期的なものだろうと、いえ画期的であればこそ、それによって得られる未知の恩恵よりも、失われる損失や受ける非難を回避することのほうを優先するのよ。究極の事なかれ集団だから」


 白河は微笑した。


「もっとも、そんなことは別にあの連中だけの話じゃないけど。人間なんて皆そんなもんだし、特に日本人はね」


 ほぼ同意見だが、そこまで言われると、さすがに反論したくなってくる。


「そんなことはないと思うぞ。日本人は、他と比べれば善良な部類だろ。だからこそ、外国人からも称賛されるわけだし」

「日本人が誠実に見えるのは、日本人がどこまでも保身しか考えてないからよ。だからこそ、他人の目があるところ、特に強者と認識している外国人に対しては、非難を浴びないように、いい子ちゃんぶってるだけなのよ」


 よーし。今日も白河は絶好調だ。


「それに、よく日本人は熱しやすくて冷めやすいって言うけど、あれは別の見方をすれば、調子に乗りやすくてヘコみやすいってことでしょ。調子に乗るときは、果てしなくどこまでも調子に乗って他人をないがしろにして、ヘコむときには、これも際限なくヘコんで簡単に自殺してしまう。要するに、あたしに言わせれば、日本人には自制心がないのよ。自分で自分を律しきれない。だから、他人の顔色うかがうことだけはうまくなる。そして弱きを叩き、強きに媚びるを平然と行えるのよ。その場合、自分にリスクはないから。要は本性が現れるのね。政治家や官僚、大企業の役員を見てればわかるでしょ」


 白河の毒は止まるところを知らない。


「まあ、おまえの言う通りだけどな。それでも、久世や此花みたいな奴がいることも事実だ。それは、おまえも認めるだろ?」

「だから何? いい奴もいれば悪い奴もいる。だから、人を信じるのをあきらめるな。みたいな、陳腐な説教でもしたいの?」

「少し違う。俺が言いたいのは、見極めが大事ってことだ」

「見極め?」

「そうだ。おまえの言う通り、上辺だけ善人ぶってる奴だっているし、仮にそれまで善良だった人間も、状況が変われば平気で人を裏切るし傷つけもする。だからこそ、自分の周りにいる人間がどういう奴で、どういう意図で行動しているか。自分の置かれた状況を、客観的に見極める必要があるんだよ」

「…………」

「おまえは、自分では人間の本質を見極めて、他人より高みに立ったつもりでいるみたいだけどな。俺に言わせれば、おまえは単に考えることを放棄してるだけだ。高潔どころか、ただの怠惰。堕落でしかないんだよ」


 盲目的に他人を信じるのも同じだ。一見、美しく聞こえるが、どっちも楽してるだけに過ぎない。そして結果的に裏切られたとしても、その全責任をだました相手に押し付けて、自分は聖者を気取り続けるのだ。


「その頭は飾りじゃないんだろ。だったら自分の目で見て、耳で聞いて、あらゆる可能性を自分の頭で考えろ。それができないっていうなら、おまえも方向性が違うだけで、おまえがバカにしてる連中と同レベルの考えなしってことだ」

「……ああ言えば、こう言う。本当に口の減らない奴ね」


 それ、おまえが言うか?


「とにかく、そういうことだから。用が済んだんなら出てってくれる? 勉強の邪魔だから」

「へいへい」


 俺は白河の部屋を出た。


 やっぱり、学園裁判所は廃止か。残念だが仕方ない。予想してたことだし、白河の件も俺がたまに様子を見に行けば済む話だからな。


 となると、残る問題は唯ひとつ。あのクソヘビどもの落とし前だ。できれば、今すぐにでも開廷してやりたいところだが、生憎どこに住んでるか知らないからな。明日までは動きようがない。だが、明日になれば……。


 待ってやがれ、クソヘビ野郎が! 明日になったら、世の中ナメくさりきったことを死ぬほど後悔させてやるからな!


 俺は、そう固く心に誓った。


 しかし、その俺の誓いは、またも破られることになってしまった。

 翌日、俺が学校に乗り込むと、ヘビが行方不明になっていたのだ。



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