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第196話

 学園裁判所の創設から1週間が過ぎた。


 しかし、いまだ被害届は1件も提出されていなかった。


 もっとも、これは最初から予想していたことだ。学裁の信用度がわからない以上、うかつに頼るのはリスクが大き過ぎるし、本当に今この学校でトラブルが発生していない可能性もある。

 何より学園裁判所が設立され、その検察官役に白河が任命された時点で、俺の目的は達成されたのだ。

 白羽の教育実習も無事終了したし、万事めでたし、めでたしだ。


 だが、さらに3日が過ぎた10月半ばの水曜日、その状況に変化があった。

 と言っても、被害者が現れたわけじゃない。

 1通の手紙が、生徒会室に投函されたのだ。後から久世に聞いた話では、見つけたのは朝比奈で、朝来たら床に落ちていたらしい。


 手紙に差出人の名前はなく、内容はイジメの告発だった。

 その手紙によると、なんでも2年2組の馬場良秋が、木戸孝ら4人のクラスメイトにイジメを受けているのだという。


おそらく、クラスでのイジメを見かねた誰かが、こういう手段で学園裁判所に告発してきたのだろう、というのが久世の考えだった。

 イジメは第三者が下手に被害者を庇うと、その悪意が自分に向かって来かねない。それを回避するために、投函という形を取ったのだろう、と。


 そして告発を受けた久世たちは、さっそく調査を開始した。


 調査は桂と此花が行うことになり、3日間の調査の結果、木戸たち4人による馬場へのイジメ行為は事実であるとの確証を得た。


 決定的だったのは、朝比奈が撮影した木戸たちによる馬場への暴行現場の映像だった。そこには、人気のない公園へと連れ込まれた馬場が、木戸たちにエアガンで撃ちまくられる姿が映っていた。


 逃げ回る馬場の顔からは、血がにじみ出ていた。おそらく、ある程度の改造が施された銃なのだろう。

 さらに木戸たちは倒れた馬場に「グズ」「ノロマ」「カス」と罵声を浴びせ、また殴る蹴るの暴行を加えた。


 正直、今すぐ開廷してやろうかと思ったぐらいだ。しかし、それでは学園裁判所の存在意義を否定することになるし、久世たちの努力を無駄にすることになってしまう。


 ともあれ、これで木戸たちを起訴できるだけの証拠は手に入れた。後は被害者である馬場が被害届を出してくれれば、木戸たちの暴挙に対し、正当な罰を下すことができるはずだった。


 だが告発があったとはいえ、裁判を行うためには、やはり当事者の合意を得なければならない。

 実際の警察であれば、第三者からの通報でも逮捕、起訴は可能だが、学園裁判所には、そこまでの権限はない。特に今回は匿名の告発があっただけで、これを根拠に加害者を起訴すると、学裁はただの粛正機関と化してしまう。

 この問題を回避するためにも、ここはやはり被害者本人からの被害届が必要なのだった。


 もっとも、久世たちは生徒会役員なのだから、学園裁判所の手続きなど無視して、生徒会として発覚したイジメを解決するために動くこともできる。

 だが、この場合久世たちは自分たちの創った学園裁判所の存在価値を自ら否定することになるし、できることも厳重注意か教師に報告するぐらいのものとなる。

 だが、それで解決しないからこその学園裁判所なのだ。


 それに、学園裁判所が創設されたことは、当然馬場も知っているはずだ。にもかかわらず被害届を出さないということは、学裁の問題解決能力を信用していないということになる。そして、それは加害者側も同じで、学園裁判所に訴えられようと何もできないとタカをくくってるってことだ。そんな馬場に、普通に被害届の提出を求めたところで、出すわけがない。


 かといって、このまま見過ごすこともできない。考えた末、久世の取った行動は、玉砕覚悟で馬場と直接交渉することだった。


 放課後、久世は馬場が帰宅してきたところで接触を図った。学校で接触しなかったのは、もし木戸たちに気づかれてしまった場合、馬場へのイジメの悪化を招きかねなかったからだろう。


「馬場良秋君だね」


馬場家の玄関前で、久世は馬場を呼び止めた。


「こんにちは、僕は久世信也、同じ学校の生徒会長をやらせてもらってるから、知ってるかもしれないけど」

「あ、あの、僕に何か?」


 馬場は、おどおどした様子で答えた。眼鏡をかけた顔は色白で、体の線も細い。確かに、イジメの標的にされやすいタイプだ。


「うん、今日は君に折り入って話があって来たんだ」

「は、話?」

「そう、君が木戸孝明君たちから受けている、不当な嫌がらせに関してね」


 久世がそう切り出すと、馬場は一気に鼻白んだ。


「な、なんのことか、わかりませんね」


 馬場は急いで家に逃げ込もうとした。


「待ってくれ」


 久世は玄関前に立ち塞がった。


「どいてください。なんだっていうんですか、一体」


 馬場は、いらだたしげに言った。


「君が隠したくなる気持ちは、よくわかる。誰だって自分がイジメ被害に遭ってるなんて」知られたくないに決まっている。だけど」

「だから! 知らないって言ってるだろ!」


 馬場は久世を押しのけた。


「君は、本当にそれでいいのか? このまま、彼らにオモチャ扱いされ続けていくつもりなのか?」

「う、うるさい! 何も知らないくせに、勝手なことを言うな!」


馬場は玄関の鍵を開けた。


「……確かに、僕は君のことを知らない。でも、君を見て、そして心配してくれている人は確実にいるんだ。これが、その証拠だ」


久世は例の告発文を、ポケットから取り出した。


「これは、君がクラスメイトからイジメを受けていることを記した告発文だ」

「こ、告発文?」

「そうだ。差出人の名前ことないが、これが生徒会室に届けられたからこそ、僕たちは君のことを知ることができたんだ。おそらく君の苦境に心を痛めた誰かが、君を助けてほしくて、この手紙を僕たちのところに届けたんだよ」

「…………」

「そして僕も君のことを助けたいんだ。そして、それは君が少しの勇気を出してさえくれれば叶うんだ。そして君が、その勇気を持って学園裁判所に被害届を出してくれれば、君と同じような苦しみを抱えている、多くの人たちにも勇気を与え、救うことができるかもしれないんだ。被害届を出してくれれば、もう誰にも君に危害を加えさせない。だから頼む。この通りだ!」


久世は馬場に頭を下げた。しかし馬場からの返事はなく、静かに玄関の扉が閉ざされただけだった。


「……今日は、これで失礼するよ。でも気が変わったら、いつでも生徒会室に来てくれ。待ってるから」


そう言い残し、久世は馬場家を後にした。


 ここで俺が馬場を説得してもいいのだが、それじゃ久世の心意気に水を差すことになる。任せると約束した以上、もう少し様子を見るのが筋というものだ。


 俺はそう思い返し、馬場家を後にした。


 しかし、馬場からの被害届が期待できない今の状況では、久世に打てる手は限られている。


 教師に告げるか、生徒会として直接木戸らに注意勧告するか、だ。


 そして、もしそれでも木戸らが改心しない場合は、最終手段として朝比奈が撮ったイジメ現場を、実名入りでネット配信するという方法もある。


 この場合、奴らは学校は元より、町内からもバッシングを食らうことになる。そうなれば、さすがに連中も調子に乗り続けることはできないし、教師も本腰を入れて乗り出さざるを得なくなる。


 だが久世としては、そこまではしたくないらしい。クズとはいえ、同じ中学の生徒だし、生徒会長として、できれば穏便に解決したいのだろう。


 八方塞がりの状況は、しかし翌日の放課後、一変することになった。


 生徒会室に馬場が現れたのだ。


「ど、どうして?」

「……あ、あれから、ずっと会長に言われたことを考えていたんです。正直、あいつらの仕返しが怖くないと言えば嘘になるけど、どうせこのまま黙っていても同じことだし、だったら、僕が勇気を出すことで、こんな僕でも誰かの役に立つことができるならって」


 馬場は小声ながら、はっきり言い切った。


「そ、そうか。ありがとう。本当にありがとう」


 久世は馬場の手を取った。


「よかったね、久世君。久世君の気持ちが通じたんだよ」


 朝比奈も満面の笑顔だ。


 そして久世は、馬場良明からの被害届を受理した。


 告訴人は2年2組在籍の馬場良明。


 被疑者は、同じ2年2組の木戸孝、井上誠、渡辺良二、加藤学、村井明の五名。

 そして馬場からの被害届を受理した学園裁判所は、さっそく公判に向けての手続きに入った。


 ちなみに、学園裁判所の訴訟システムは、ほとんど通常の裁判と同じだ。


 本当の刑事訴訟の場合、犯罪の発生から犯人の逮捕、起訴を経て、検察官と弁護士が裁判で争い、裁判官が判決を下す。


 また民事訴訟の場合は、原告と被告が互いに弁護士を立て、それぞれが自分の主張を行ない裁判官が判決を下すことになる。


 そして学園裁判所も、その訴訟内容によって民事と刑事に分けられており、今回の馬場良明の場合は刑事訴訟にあたると判断された。


 ただ本物の裁判と違い、学校には警察組織ほどの強制権がないので、犯人の逮捕、拘留、事情聴取などの捜査権がない。

 そのため事情聴取に応じるかは、あくまでも被告側の任意となる。


 俺的には、こういう場合には被告が罪を認めたものとして、被告の顔と名前と罪状をネットやプリントで学校の内外に公布することを主張したのだが、この案は久世に却下されてしまった。いい考えだと思うんだがなあ。


 まあ、それはさておき、手続きを済ませた此花は、意気揚々とへビの巣穴へと乗り込んでいった。一応、お目付け役として川登も同行しているが、果たしてどこまで効果があるか、怪しいところだ。


「木戸孝!」


 此花は木戸の名を呼びながら、教室を突き進んでいった。案の定、此花は暴走状態だ。散々我慢してたから、相当鬱憤がたまっているのだろう。


 此花は木戸の前で立ち止まった。


「木戸孝だな?」

「あ? そうだけど、なんか用かよ?」


 木戸は席に着いたまま、此花を見上げた。


 木戸は長身に加えて、リ-ゼントに吊り目と、見た目からして冷血なヘビだ。


「木戸孝! 貴様と、井上誠! 渡辺良二! 加藤学! 村井明! の五名には、そこにいる馬場良明から学園裁判所に被害届けが出されている! 罪状は馬場良明への暴行、恐喝、脅迫だ!」


「あ-?」


 ヘビは馬場を睨みつけた。


「馬場-、おまえ何勝手な真似してくれてんだよ。冗談にしても、笑えねえぞ、コラ」


 ヘビが頭をもたげた。


「貴様、性懲りもなく」


 此花の拳が固く握りしめられた。あ、ヤバい。殴る。


「一応、警告させていただきますが」


 川登は爆発寸前だった此花を押しのけると、ヘビの前に立った。


「ああ?」


「そこにいる馬場良明氏は、学園裁判所にあなた方を告訴し、当方はそれを受理しました。よって、その身柄はこれより裁判が結審するまで、学園裁判所の保護下に置かれます。そして、もしその期間中に被疑者等により危害が加えられた場合には、当件の被告であるあなた方は、無条件で有罪となりますので、あしからず」


 これも原告被害者を守るための、学園裁判所の独自法だ。


「ちなみに、罰は最低でも3日間の補習、最高刑だと独房での1ヶ月の個人授業となりますので、十分ご注意くださいますように」


「独房だあ?」


 ヘビは細い眉をしかめた。こいつ、さてはブログに乗せた学裁法、読んでねえな。


「おもしれえじゃねえか、てめえ」


 ヘビは川登に、にじり寄った。


「つきましては本日の昼休み、あなた方には学裁本部までお越しいただき、本件についてお話しいただきたいのですが、ご都合のほうはよろしいでしょうか?」


 ヘビの恫喝など意に介さず、川登は淡々と話を進めた。


「悪い、てか、なんでオレがそんな取り調べみたいなモン受けなきゃなんねえんだ、ああ? てめえらに、なんの権限があんだ、ああ?」


 ヘビは、川登に凄んでみせた。


 このチンカスが、どこまでも調子に乗りやがって。今すぐ開廷してやろうか。


「受けたくなければ、それで結構です。裁判の際に、それだけ心証が悪くなるだけですから」

「…………」

「用件はそれだけです。お手数を取らせて、申し訳ありませんでした」


 川登はヘビに頭を下げた。


「皆さんも、お騒がせして申し訳ありませんでした。僕たちは、これで失礼させていただきますので、どうぞ雑談を続けてください」


 川登は周囲の学生にも、うやうやしく一礼した。


「では、これで失礼します」


 川登は最後に、もう1度ヘビに頭を下げると教室を出た。此花も黙って川登に従う。この場の空気は、完全に川登が支配した形だ。


「川登会計! どうして邪魔したのですか!」


 此花は教室を出たところで、川登に食って掛かった。


「君のほうこそ、どういうつもりだ? あんなところで彼に手を上げようとするとは」


 川登は冷ややかに言った。


「奴の言い分を聞いたでしょう! あなたは腹が立たないのですか!」

「別に。ああ言うと思ってたからね」

「だからと言って……」

「彼らにとっては、馬場をいたぶるのは、ガキが虫の足を引っこ抜いたり、カエルを解剖するのと同じことなんだよ。面白いからやっている。ただそれだけだ。結果的に虫が死のうがカエルが死のうが関係ないし興味もない。むしろ虫やカエルが苦しがって身悶えたら、余計に面白がってさらに苦しめて、もっと身悶えてるところを見ようとするんだよ」


「彼は虫やカエルじゃない!」


「彼らにとっては、同じだってことだ。そして、だからこそ、この学園裁判所に存在価値がある、と久世会長は考えているんじゃないのかい?」


 その通りだ。でなければ、俺がとっくに開廷している。


「そ、それは……」

「あそこで手を出していたら、それこそ学裁の存在価値を、君が否定することになっていたんだぞ」

「む……」

「いいかい、此花君、僕は学園裁判所とやらがどうなろうと、はっきり言って知ったことじゃない。だがね、仮にも生徒会が設立したシステムが、その生徒会役員の暴行事件によって廃止にでもなったら、同じ生徒会のメンバーである僕の経歴にまで、傷がつくことになってしまうんだよ。君が、どこで誰を相手に、どんなバカな真似をしようと君の勝手だけどね。それは、君が庶務の職を辞した後にしてもらいたいね」


 川登はそう言い捨てると、此花に背を向けた。


「…………」


 此花は不満顔だったが、それでも川登に対して、それ以上の追及はしなかった。


 そして昼休み、ヘビたちは素直に生徒会室へやって来た。

 もっとも、現れたヘビたちに反省した様子は微塵もなく、むしろ太々しさが増大していた。


 ヘビたちの聴取は川登主体で行われ、まずヘビが事情聴取されることになった。


「では、お聞きします。馬場良明氏からの被害届けによると、あなた方からのイジメ行為が始まったのは、今年の五月からだということですが、それで間違いありませんか?」


「どうだったかなあ」


 ヘビは白々しく惚けた。


「てか、なんだよ、そのイジメ行為ってのは? オレは馬場の奴をイジメたことなんて、一度もないんですけどお?」

「なるほど。ですが、馬場氏からの訴えによると、馬場氏はあなた方から20万を超える大金を、脅し取られたと言っていますが?」

「人聞き悪いな、おい。別に脅し取ってなんてね-よ。全部あいつのオゴリだよ、オゴリ。いや-、オレたちは別にいいって言ったんだけどよ。あいつが、ど-してもって言うからよ-。断るのも悪いから、ありがたくオゴッてもらってたんだよ」


 ヘビは、ぬけぬけとほざいた。


「でもよ、返せって言うんなら返してやるぜ。もっとも、今は手持ちがねえからよ、分割ってことになるけどよ。いいよな? 本物の裁判でも認められてるもんな。ぶ、ん、か、つ、ば、ら、い」


 ヘビは、皮肉たっぷりに吐き捨てた。


「問題ありません。ですがこの場合、学園法では中学卒業までを返済の期日とし、その期日から逆算して、あなたがたには月に約1万円の返済義務が生じます。そして、もしこの返済を3ヵ月以上滞った場合、あなたがたはその遅延分の返済が終了するまで、リアルタイムで動画配信される独房での授業となりますので、ご了承ください」


 川登がそう言うと、ヘビの威嚇が止んだ。


 大方、分割払いということで、この場をスル-しておいて、後はバックレるつもりだったのだろう。これも本物の裁判で、よくあることだ。


 実際の裁判でも、判決で支払いが確定した賠償金の未払いには、強制徴収措置があるにはある。だが、それが有効なのは、あくまでも賠償金を支払う能力や資産がある場合に限られる。もし被告人が無職で財産も持っていなかった場合には、実際のところ取り立てることができない。


 だが、オレに言わせれば、これは加害者のせいというよりも法律が甘いのだ。


 それこそ、もし裁判で決定された賠償金なりを加害者側が1年以上滞納した場合、被害者からの訴えにより、その加害者を刑務所に入れればいいだけなのだ。そして、その日数は未払い金5千円につき1日計算で行なう。そうすれば、仮に1千万円の未払いがある場合は5年以上、1億なら50年以上、刑務所にブチ込んでおくことができるのだ。


 もっとも、この場合そうすると金を払うのが嫌で、最初から刑務所に入る奴も出てくるかもしれない。だが、そんな奴はどうせ野放しにしておいても払わない。ならば、実刑を食らわせたほうが被害者としても納得がいくはずだし、逃げ得もありえないのだ。


「あと彼は、あなたがたに万引きを強要されたとも言っていますが?」

「それも冗談だよ。あいつに度胸をつけさせるために、冗談半分で言っただけさ」

「しかし彼が断ると、また暴力を振るったとありますが?」

「それは特訓だよ、特訓。あいつがあんまりヘタレなんで、みんなで鍛えてやろうとしたんだよ。言わば愛のムチってやつだよ」

「ふざけるなああ!」


 此花は両手で机を叩いた。痛いだけなのに。


「訓練だと? 愛のムチだと? よくも、そんなことが平然と言えるな! 馬場1人を、よってたかって銃で追い立てるなど! 男として恥ずかしくないのか!」

「なに、1人で熱くなってんだか。あんなもん、ただの遊びだろ、遊び」


 ヘビは小指で耳の穴をほじった。


「遊びだと?」

「そうさ。ダチ同士でやる、ただのサバゲ-、サバイバルゲ-ムだよ。知らねえのか? 遅れてるねえ」

「何が遊びだ! その後、暴力も振るっていただろうが!」

「ありゃあ、ツッコミだよ、ツッコミ。おまえらもやるだろ、ツッコミ」


 ヘビは鼻で笑った。


「あいつはさ、元々そういうイジられキャラなんだよ。ま、興奮し過ぎて、ちょっと力が入り過ぎちまったのは事実だけどよ。そこは反省してるよ。この通り、ごめんなさい。許してください」


ヘビは顔の前で両手を合わせた。


 それから、しばらく沈黙が続いた。あまりの怒りに、此花も言葉がうまく出ないようだ。それでも手を出さないのは、川登に釘を刺されたからだろう。


「木戸君」


 川登は冷静に呼びかけた。


「聞き取り調査は、これにて終了となります。本日はわざわざお越しいただき、ありがとうございました。裁判の日程等については、おって連絡しますので、本日のところはこれでお引き取りただいて結構です」

「あっそ、じゃあ帰らせてもらうわ」


 ヘビは檻から解放されると、巣穴へと戻っていった。


 その後、残る4人の事情聴取も行なったが、どいつもこいつもヘビと同じような反応だった。まさに類は友を呼ぶ、だ。


 結果、学裁執行部は、馬場良明とヘビたちとの和解は不可能という結論に至った。


 ここに、すべてのお膳立ては整った。


 そして学園裁判所は、ついにその初開廷日を迎えることになったのだった。







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