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第188話

「というわけで、おまえには検察官役をやってもらうことになったから」


 生徒会での会議終了後、俺は白河に事の経緯を伝えた。すると、


「ふざけんじゃないわよ!」


 白河から予想通りの答えが返ってきた。


「学園裁判所? 検察官? なんで、あたしがそんなことしなきゃなんないのよ! 冗談じゃないわよ!」

「理由か? そりゃ、もちろん、おまえへのイジメを防止するためだ。学裁の検察官役をやるってことは、要するにイジメ対策係のトップってことだからな。よっぽどのバカでもないかぎり、相手が警官だとわかってて恐喝や暴行したりしないだろ。つまり検察官役をやってる限り、あの学校でのおまえの安全は保障されるってわけだ」

「……大きなお世話よ。そんなこと」

「ま、それを抜きにしても、俺は適任だと思ってるけどな。その、他人のことなど意に介さず、自分の正義を貫き通す性格は、まさに検察官役にピッタリだから。検察官役は、いわば究極の嫌われ者。正義の名のもとに容赦なく悪人を断罪するから、周囲からは敬遠される可能性が高い。その点、おまえは周囲から白眼視されても屁とも思ってないからな」

「……余計なお世話よ」

「それに、実際のところ、そう心配する必要はないと思うぞ。検察官役やるっていっても、肩書だけになる可能性が高いからな。考えてもみろ。仮に、おまえの知らないところで学裁ができてたとして、おまえ「イジメられてます。助けてください」って訴え出るか? しないだろ。本当に、それでイジメがなくなるならともかく、どうなるかもわからんもんに顔と名前をさらしてまで訴え出て、下手に無罪だの軽い注意だので済まされたら、その後さらなるイジメが待ってるんだからな。そんなリスクを冒してまで、誰も訴えようとは思わねえよ。それでなくても、イジメなんてもんは、気の弱い奴がターゲットにされるもんだからな」


 もし、この学園裁判所を本当に機能させようと思うのなら、それこそ小、中学校にも停学や留年制度を導入するしかない。


 そもそも義務教育は、その学力が社会に出るにあたって最低限必要だから受けさせているはずだ。

 だったら、その必要最低限のランクに達していない生徒は、留年させるのが筋のはずなのだ。そして、その判断を教師にさせれば威厳も回復するから、ガキもナメた態度を取れなくなる。

 もっとも、そうしたら今度は教師の権威が強くなりすぎる懸念があるが、そこは各教室に監視カメラを設置しておけば、教師も無茶な強権を振るうことはできないはずだ。


「ま、要するに「学園裁判所」は、おまえの身を守るための安全装置であって、現状それ以上のものにはなりえないってことだ。だから、深く考えないで、おまえは肩書だけ頂戴しとけばいいんだよ」

「……もう、いいわよ。なんでも勝手にしなさいよ。どうせ、あたしが何言ったって、あんた止めないんだろうし」

「ま、そういうこった」

「てゆーか、そもそも実現するかどうか、怪しいもんだし。仮に生徒会を説得できたとしても、まだ生徒と学校の了承得なきゃなんないんでしょ? はっきり言って、そんな管理システムみたいな堅苦しいもの、誰も好き好んで導入しようとは思わないんじゃない? 生徒総会で生徒から猛反対されて、企画倒れで終わるのが関の山よ。教員だって、自分が吊るし上げ食らうリスクなんて増やしたくないだろうし」

「その辺のことは、すでに考えてある。この学裁の賛否を生徒総会での挙手じゃなく、全校生徒の投票によって決定させるんだ」


 気の弱い者は周りの目を気にして、賛成に挙手できない可能性がある。とでも主張すれば、誰も反対できないだろう。


「それだって同じことじゃない」

「違う。投票によって決めるということは、それを集計する係がいるということだ。それが生徒会になるか教師になるかはわからんが、誰がやるにしろ、その集計のときに俺がそいつに乗り移って、賛成票を多く見積もれば、実際の投票数がどうであれ、可決間違いなしってわけだ」


 最初から校長にでも憑依していれば、事はもっとスムーズに運んだかもしれない。だが、昨日まで事なかれ主義だった校長が、いきなり学園裁判所の創設を言い出すなんて不自然すぎるし、生活もかかっている。俺が下手な真似して、もしクビにでもなったらマズいのでやめたのだ。


「そんなのインチキじゃない」

「まあな。俺としても、できればやりたくない方法だ。下手に介入して、俺の存在が政府にバレたら、化け物認定されて、それこそ退魔師とかに退治させようとするかもしれんからな」

「……バカじゃないの。自分には関係ないのに、そんなリスクを負ってまで、赤の他人のために必死になって」

「まあ、そうだが、これは俺が俺のためにやってることだからな。それに、夫婦だって友達だって、元を辿れば誰でも最初は赤の他人だろ。それが、たまたま出会って意気投合して、友達になったり恋人になったりしていくんだ。その最初の絆を結ぶところから否定してたら、それこそ一生1人じゃねえか」


 俺が言っても説得力はないが。


「それの何か問題? 他人なんて、傍にいたところでリスクにこそなれ、なんの意味もありゃしないわよ」

「1人じゃ、できないこともあるだろ」

「1人じゃできないことは、最初からやらないから問題ないわ。それで死ぬなら死ぬまでよ」


 白河は軽やかに言い切った。困った奴だ。


「まあ、いいさ。とにかく、そういうことだから、おまえには明日、生徒会の連中のところに挨拶に行ってもらうから、そのつもりでな」

「わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば」

「じゃあ、俺はもう1度、生徒会長のところに行ってくる。まだ、いろいろと詰めなきゃならんことがあるからな」


 俺は生徒会長の家へと向かった。すると生徒会長は、部屋で机に向かっていた。


「そりゃ、罰則規定か?」


 俺は久世の背中越しに、ノートを覗き込んだ。


「え、ええ、そうです。どういう行為が罰の対象になって、それにどんな罰を与えるか。僕なりに考えておこうと思って」


 熱心なことだ。その情熱の1万分の1でも、白河にあればなあ。


「そうか。まあ、正式に学裁が設置されれば、必要になることだからな」


 実際のところ、現状の法律では中学生に与えるペナルティーには限界がある。

 高校なら停学や退学処分も下せるが、中学は義務教育だから、それも難しい。かといって、トイレ掃除程度じゃ、クソどもは屁とも思わんだろうし。難しいところだ。


「今さらだけど、悪かったな。俺の勝手で面倒ごとに巻き込んじまって」

「気にしないでください。あの世界救済計画の話は、さすがにビックリしましたけど」


 久世は、そこで不意に真顔になった。


「……あの、羽続さん。ひとつ、お願いがあるんですが」

「なんだ?」

「これから先のことは、僕に任せてもらえませんか?」

「任せる?」

「はい、羽続さんの学園裁判所は、素晴らしいものだと僕も思います。だから、僕は清川中学の生徒会長として、僕自身の手で羽続さんの学園裁判所を僕たちの学校に導入させたいんです」

「別にいいけど」


 てゆーか、そうしてもらえると、俺としても助かる。はっきり言って、こいつの話し方はストレスが溜まりまくって、ケツが痒くなってくるんだ。


「ありがとうございます」

「礼を言うのは、こっちのほうだ。俺の都合で、おまえに余計な手間をかけさせちまったんだから」

「そういえば、その白河流麗さん、でしたっけ? 彼女のほうは、どうなりました?」

「渋々ながら了承したよ」

「そうですか。それはよかった」

「明日、生徒会に挨拶に行くよう言っといたから、もしなんかあったら、うまくフォローしてくれ。でねーと、あいつ生徒会の奴らに何言うかしれたもんじゃねーから」


 とにかくキレやすい奴だから。


「そんなに問題児なんですか? その白河って娘?」

「根は善良なんだけどな。自分を保つために、周りをすべてゴミ認定してるんだよ」


 まあ、いよいよとなったら、俺が白河に憑依して、場を収めるつもりでいるけど。


「……だいたい想像できました。そういう性格の人間は、僕もよく知ってますから」


 久世は苦笑した。こいつも苦労してるんだな。


「じゃ、後は任せるから、よろしく頼む」

「任せておいてください。きっと実現させてみせます。学校の皆だって、争いのない平和で安全な学校生活を送れるほうが、いいに決まっているんだから」

「……そうだな」


 俺も、そう期待する。


 あと問題は、白河が生徒会の連中とのファーストコンタクトを無事にクリアできるか、だ。


 悪い予感しかしないのが、俺の杞憂で終わってくれればいいんだが……。







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