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第187話

 すっかり日差しが秋めいてきた昼下がり、俺は生徒会室にいた。それも、清川中学の生徒会長として。

 と言っても、ただ生徒会長の久世来世に憑依しているだけなんだけど。


 ともあれ、これが俺の立てた計画だ。俺のプランがイチ学生には実現不可能なものなら、それが実現可能な立場の人物に憑依して、実現させればいいだけの話なのだ。


 そう、学校に裁判制度を導入する「学園裁判所」設置法案を。


「学園裁判所?」


 生徒会メンバーからは、予想通りの疑問符が返ってきた。


「学校を楽園にするための裁判所。略して学園裁判所だ」


 他にも候補として教育や学校、学生裁判所なんかも考えたのだが、アピール度などを考慮した結果、学園裁判所に決めたのだった。


「具体的な内容は、今配った説明書に書いてある通りだけど、簡単に言うと、この学園裁判所は学校で起きたトラブルを解決するために、この学校独自の裁判所を導入する、というものなんだよ」


 俺は周囲に不審がられないよう、できるだけ本物の生徒会長に近い口調で語りかけた。

 ちなみに、この体を借りることは宿主である久世来世と交渉済みだ。


「裁判制度を、この学校にですか?」


 いかにも、うさん臭そうに言ったのは、2年会計の川登進(かわのぼりすすむ)だ。

 こいつはガリ勉タイプで、生徒会活動にも実際のところ興味がない。それが、なぜ会計職に就いているのかというと、中学での生徒会役員という経歴が就活で有利に働くという計算からだ。

 将来は官僚志望らしく、会議中でも参考書を手放さない。


「そうだ。みんなもすでに知っていると思うけど、現在の教育現場はトラブルの温床となっている。イジメ問題を筆頭に、モンスターペアレント、学級崩壊、暴力教師に無気力教師、それこそ数え上げたらキリがない。そして今の教育界に、それらに対する方策はないに等しい。結果、今や学校は1種の無法地帯と化していると言える」

「なるほど! そこで、我が生徒会で独自の校則を作って、そういう無法者どもに正義の鉄槌を下そうというわけですね!」


 目を輝かせたのは、1年庶務の此花桜(このはなさくら)だ。この娘は、一言で言うと正義バカだ。


 親が剣道家らしく、頭にあるのは悪即斬だけ。

 生徒会に入ったのも、古き良き時代の風紀委員会を現代に蘇らせたい、という野望かららしかった。昔の漫画なんかにある、木刀持って不良を取り締まるアレだ。


「落ち着いて、此花さん。まずは久世君の話を聞こう、ね」


 そう此花をなだめたのは、副会長の朝比奈日美子だ。

 この娘は、一言で言うと優等生だ。他のメンバーが、皆なんらかの二心を持って生徒会に在籍しているなかで、朝比奈だけは本当に純粋なボランティア精神から、生徒会に在籍している。そのうえ人当たりがよく面倒見もいいので、男子はもとより女子にも人気があるという完璧人間なのだ。


 その朝比奈のお言葉に甘え、俺は話を進めた。


「今の学校はトラブルだらけで、教育界にはそれに対処する術がない。仮にイジメが行われたとしても、教師は見て見ぬフリを決め込んで、生徒が自殺したらしたで、イジメなど気づかなかったとシラを切るのが当たり前となっている。その根本的な理由は、仮に教師がイジメに気づいたとしても、イジメを行っている加害者にとっては「それがどうした?」という話だからだ」

「それがどうした?」


 此花1人が小首を傾げた。どうやら理解していないのは、この娘1人だけのようだ。


「そうだ。たとえば、君がクラスでイジメが行なわれていることに気づいたとする。そうしたら、君はどうする?」

「むろん、やめさせます!」

「どうやって?」

「どうやってって、そんなこと決まっています! そんな酷いことはやめるように説得するんです!」


 言うと思った。


「君が注意したら、そいつらは「わかりました」と言うだろう。だが、それは上辺だけの話だ。そして今度は表立ってわからないようなイジメ方に変えるだけで、実際のところは、なんの救済にもならないんだよ」

「相手がそうくるなら、今度はこちらも実力行使に出るまでのこと! そんな卑怯者どもは、私がこの手で徹底的に性根を叩き直してやります!」


 此花は拳を握り締めた。俺も、まったく同感だ。しかし、


「なるほど。でもね、此花君、どこの学校にでも君みたいな人間がいるわけじゃないんだ。そして現状、教師にはイジメの加害者に、注意する以上の権限は与えられていないんだよ」


 それで、どうやってクズどもを改心させろっていうんだ? 綺麗事を並べている連中は、自分たちで実証してから言ってもらいたいものだ。


「ならば、イジメを行っている親に教えて注意させるとか」

「君の意見は、確かに正論だね。だが、そんなク、子供の親は、本人も身勝手な可能性が高いんだよ。そんな親に、教師が注意したところで「自分の教育のマズさを棚に上げて、親に責任転嫁するな!」と、逆ギレするのが関の山なんだ。でなければ、その場は上辺だけ謝っておいて、他の親に「ただの遊びなのに大袈裟にとらえて、うちの子たちに悪者のレッテルを張ろうとする最低教師」と、逆に被害者面して、その教師を退職に追い込もうとするかね。どっちにしろ、そんな連中と話し合ったところで解決する可能性は低いんだよ」


 俺の説明に、此花は押し黙った。


「だからと言って、教師が下手に手を出せば「暴力教師だ!」「体罰だ!」と騒がれることになる。自分がクビになるリスクを侵してまで、自分に関係のない問題を誰も本気で解決しようとなんかしないんだよ。それに、仮に体罰が肯定されたらされたで、今度は何やっても許されると思うバ、教師が現れる可能性があるしね」

「な、なるほど! さすがは、我らの久世生徒会長です! さすがの深慮遠謀です! この此花、感服いたしました!」


 此花は目を輝かせた。


「いや、それほどのことじゃないよ。それで、ここからが本題なんだけれど、イジメを初めとする学校問題を、このまま政府や教育委員会に任せておいたんじゃ、それこそいつ解決するかわからない」


 というか、おそらく永遠に解決しない。


「そこで僕は僕なりに、この学校問題の解決策を、ずっと考え続けてきた。そして、その結論が、この学園裁判所案なんだ」


 俺は学裁の説明書を手に取った。


「つまり会長の考えは、トラブルを解決するための調停所を作ろうということですか?」


 書記の桂真理が質問してきた。

 この娘は漫画家志望で、生徒会に参加した動機も「学園漫画を描く上で、生徒会は必要不可欠な要素だから、くわしく知っておきたい」かららしい。

 そのため、普段は傍観者に徹している。それが珍しく話に参加してきたのは、聞いたこともない学園裁判所に興味を持ったからだろう。


「少し違う。そもそも話し合いで解決するぐらいなら、最初から調停所なんて必要ないんだよ。それこそ教師が仲介役になって、双方の意見を聞いて和解にもっていけば、それで済む話なんだからね」


 まあ、その程度のことすらも面倒がって、見て見ぬフリをする教師が大半なんだが。

 それに、仮に実行する熱血教師がいたとしても、効果のほどは怪しいもんだ。


「だが、それでは解決しないからこその学園裁判所なんだ」

「しかし会長、学校に裁判所を作ったぐらいで、本当に問題が解決しますかね? それで解決するぐらいなら、教育問題なんて、とっくに解決してるんじゃありませんか? それこそ裁判だったら今でもあるんだし、それでも解決してない以上、学校に裁判所を作っても同じなんじゃありませんか?」


 川登が矢継ぎ早に疑問をぶつけてきた。よほど、面倒事を増やされるのが嫌らしい。


「もっともな意見だ」


 だが認識が甘い。


「確かに、現状でも教師が裁判を起こして、問題の解決をはかっているケースは少なからずある。だが、普通の裁判所だと無駄に拘束時間が長いうえ、裁判費用も多額になる。簡易裁判所だと、それも幾分かは軽減されるけど、あれは今裁判官のなり手が不足してるから、訴えたはいいものの、いつ裁判が開かれるかわからない、開店休業状態になっているようだしね」


 もっとも、これは俺に言わせれば政府のやり方がマズいのだ。


 裁判官の数が足りないならば、従来の司法試験より簡単だが、教育裁判の法廷にしか立てず報酬も少ない、特別司法制度を新たに設置すればいいだけなのだ。今の行政書士が、司法書士の仕事の一端を受け持っているように。

 そうすれば裁判費用もおのずと安くなる。


 加えて言うと、この試験は弁護士なら弁護士、裁判官なら裁判官と、独立して行なうことが望ましい。

 本来、現実の司法試験もそうすべきなのだ。それをしないで、司法試験に受かりさえすれば裁判官でも弁護士でも検察官でもなれるようにしているから、馴れ合いが起きて冤罪が生まれることになる。


 しかし、こんなことは俺が政治家、いや総理大臣にでもならない限り、実現は不可能だろう。まあ、それ以前に、もう人間じゃないんだけど。


「それに勝訴したところで、受け取れる賠償金なんてタカが知れているから、訴えられる方はデメリットが少ない。むしろ訴えた教師のほうが、周囲から白眼視される可能性が高いとさえ言える。だから教師も裁判は最終手段として、極力避けようとする傾向がある」


 裁判なんかしたら、校長や教育委員会なんかにも目をつけられかねないしな。


「会長の提唱する、学園裁判所は違うんですか?」

「違う。なぜなら、この学園裁判所の目的は、起こったトラブルを解決することではなく、そのトラブルそのものを、そもそも起こさせないことにあるからだ」


「起こさせないこと?」


 川登は眉をひそめた。


「逆に聞くけど、イジメ加害者がイジメを行ったり、モンスターペアレントが学校に乗り込んで来るのは、どうしてだと思う?」

「それは相手の立場が、自分より弱いと思っているからでしょう。何をしても自分にはリスクがないから、平気で横暴な真似をするんです」


 さすが、将来の官僚候補。見事な模範解答だ。


「そういうことだ。たとえば、それがどんなに気に入らない奴でも、そいつが暴力団の子供なら誰も手なんか出さないんだよ」

「例が極端過ぎる気もしますが、まあ、それは確かにその通りでしょうね」


 川登は渋々ながら同意した。


「要するに、だ。イジメ問題で1番問題なのは、何をやろうが加害者側がノーリスクだってことなんだ。だからこそ、裁判を学校で行なわせるんだ。そしてイジメ加害者を公衆の面前に引っ張り出して、非難の的にさせるんだよ。そのためにも裁判は全面公開で行ない、顔も名前も伏せない」


 本来、これは少年法に抵触する行為だ。なにしろ、少年法24条(心理の方式)には「少年の審理は公開しないこと」と明記されているからだ。


 しかし、これは本物の裁判の場合だ。


 学園裁判所は、あくまでも「子供の裁判ごっこ」なのだから、この法に抵触することはない。

 それに、仮に抵触するとしても、同じ24条に「ただし、判事は適当であると認める者には在籍を許可することができる」とある。


 これは、要するに判事が許可を出しさえすれば、誰でも裁判を傍聴できるということだ。ならば学園裁判所も判事の権限で、傍聴を希望する者全員に許可を出せば済むことになる。

 ただ、その人数が普通の裁判に比べて、少し多いというだけのことだ。法律的には、まったく問題ない。うんうん。


「でも、久世君、顔と名前を出すのは法律に触れるんじゃ? ニュースとかでも、未成年者は実名報道しちゃダメってことになってるんだし」


 朝比奈の心配はもっともだ。しかし、


「そうだね。でも、それはあくまでも報道の話だ。学園裁判所は報道機関じゃないんだから、少年法61条に抵触する心配はないんだよ。それに実際のところ、未成年の実名を報道しても罰則があるわけじゃないしね。あれは、あくまでも報道機関の自主規制に過ぎないんだ」

「そうなの?」

「今のところはね。だから以前、少年の実名報道をした報道機関が訴えられたときも、罪には問われなかったんだよ」

「そうなんだ」

「それに、世間一般ではイジメは犯罪として認識されてないんだから、たとえ名前や顔を出したとしても、それは犯罪者を糾弾していることにはならないはずだ。イジメた側も裁判にまで持ち込むということは、自分たちがやっていることは遊びだと思っているってことだろう? だったら、罪を犯したわけでもない自分の顔や名前が公表されても、まったく問題はないはずだ。彼らの理屈からすれば、ね」 

「久世君、見かけによらず、人が悪いね」


 朝比奈が苦笑した。お褒めの言葉、ありがとう。


「それに、この裁判所の1番の目的は、起こったイジメを解決することじゃない。その第1義は、イジメを起こさせないことなんだ。イジメを行なう者に、そのリスクを具体的に提示することで、そいつらに割が合わないと思わせることが目的なんだ」

「なるほど。抑止力としての裁判所というわけか」


 川登は、あごを押さえた。


「……確かに、バレたら学校中、いや町中に自分たちの悪名が知れ渡るとなったら、躊躇する者も少なからずいるでしょうね」

「そして、そうすればモンスターペアレントへの牽制にもなる。モンスターペアレントが、いちいち学校に乗り込んで来るのも、何を言おうと自分にはリスクがないからだからね。だから、教師が少しでも訴訟をちらつかせたら急に尻込みするんだよ」


 もっとも、最近は「訴訟!」「訴訟!」を連呼するバカ親もいるようだが、そいつらもいざ本当に裁判ということになったら、どれだけ逃げずに応じるか怪しいものだ。


「だから学園裁判所を創って、学校関係の問題は、そこで一括して処理させるんだ。そして親も自分たちの主張が正しいと思っているのなら、公衆の面前で堂々と主張すればいいんだ。「どうして私の子供はこんなにかわいいのに、クラス写真で真ん中じゃないの? 絶対間違ってるわ。皆さんも、そう思うでしょ」とね」


 もっとも、そうなれば実際どうなるかは言うまでもない。


「つまり学園裁判所を創る1番の目的は、規則に違反した者を裁くことではなく、自己中の頭を押さえつけて、そもそも暴走させないことにあるんだ。だからこそ、裁判はどこでやっているかもわからない地方裁判所ではなく、この学校で、それも全面公開で行なう必要があるんだよ」


 これが、俺が考えた学校問題を解決する方法だ。そして、この学園裁判所が本当に実用されれば、自分を何様かと勘違いした子供も出なくなるだろう。


 今の小中学生が図に乗っているのは、何があろうと自分たちが厳罰に処されることなどないと、タカをくくっているからなのだ。


 実際のところ、もっと確実にイジメをなくす方法があるにはある。

 それは小中高も大学と同じ単位制にして、出たい授業にだけ出ればいいようにすることだ。しかし義務教育が社会性を身に付けることも目的としている以上、これは不可能だろう。


 あるいは、各教室に防犯カメラを導入する。しかし、その場合「子供が委縮する」と反対論が噴出するだろうし、教師も授業がやりにくくなるから、いい顔はしないだろう。それに、さすがにトイレの中にまで防犯カメラを設置するわけにいかないし、どうしても死角はできてしまう。


 学園裁判所にしても同じだ。導入したからといって、イジメを根絶することは、おそらくできない。しかし、だからと言って何もしなければ、世界はいつまでもこのままだ。


 とはいえ、こんな制度、1学生がどんなに大声で提唱したところで、天地がひっくり返っても実現しないに決まっている。だからこそ、1度は塩漬けにしたのだが。


「会長の考えは分かりました。そして生徒間のトラブル解決のために、裁判制度を導入すれば、確かに一定の効果は得られるかもしれません」


 川登が言った。しかし、その表情と口調は、まだまだ懐疑的だ。


「しかし、その一方で、今度は生徒間に相互不振の芽が生まれる可能性があるんじゃありませんか? ふざけ半分の行為が、相手にはイジメと判断されるんじゃないか? と、訴えられることを恐れるあまり、必要以上に他人との接触を避けるようになったら、それこそ本道である学業や学校生活そのものに、支障を来すことになるんじゃありませんかね?」

「その懸念は確かにある。しかし、それは社会に出ても同じことだろう? 学校が社会に出るための準備期間で、社会に出たときに必要なことを学ぶ場なら、どこまでが許容され、どこからが訴えられるレベルか。むしろ学生のうちに、積極的に学ばせておくべきなんじゃないかな」


 つーか、そんなこと、中学生にもなれば、皆わかってんだよ。そしてクソは、それをわかったうえで、その境界線を平然と踏み越えやがるんだ。自分に、なんのリスクもないのをいいことにな。


「それに訴えられたことすべてを、即裁判にかけるわけじゃない。裁判にかけるのは、訴えられた内容を調査して、それが裁判で決着をつけるべきだと判断された場合だけだ。それこそ話し合いで済めば、それに越したことはないんだよ」

「…………」

「それに学園裁判所は、本物の裁判官や検察官が担当する訳じゃないから、費用もかからない。だから訴訟費用も必要なく、訴える側のデメリットもなくなるので、その分本来の裁判よりも訴訟が起こしやすくなる。教師も、保護者からの苦情にいちいち対応する必要がなくなるから、その分ストレスが減るし、時間にも余裕ができるはずだ」


 本音を言えば、学園裁判所でも本物の裁判官や検察官が担当することが望ましい。だが、そのためには、それこそ法改正するしかない。


「それですが、この立案書には裁判官は校長を初めとする教師と学生、それに保護者をそれぞれ3 名ずつと書いてありますが、検察官や弁護士は誰がやるんですか?」


 川登が憮然と言った。自分はまっぴらごめんだ、と言わんばかりだ。


「それについては、すでに考えてある。僕の考えでは、弁護士は被告人側が自分で誰かに依頼する形を取り、もし誰もなり手がいない場合には、担任の先生か学年主任にお願いしようと思っている」


 まがりなりにも、自分のクラスの生徒なんだ。さすがに拒否はできないだろう。


「あと検察官だけど」

「でしたら! その役は、ぜひ私にやらせてください!」


 此花が意気軒昂に名乗りを上げた。


「検察官といえば、正義の執行者! こんなやり甲斐のある役目はありません! ぜひ、私にやらせてください!」


 此花の目は正義に燃えていた。


「君の気持はありがたいが、実は検察官役は、別の者に頼もうと思っているんだ」


「どうしてですか!? どうして私じゃダメなんですか!!?」


 此花が食い下がってきた。よっぽど検察官をやりたいらしい。


「君たちには、裁判になる前の調整役、本物の裁判でいうところの調査官や調停委員の役どころだけれど、それをしてもらおうと思っているからだよ。実際、裁判までいく確率はかなり低いと思うし。両者の言い分を聞いて、うまく仲直りさせようとしていた人間が、いざ裁判になったら検察官として被告を一方的に責めるというのも、被告に不信感を抱かせることになるからね」

「そ、それは、確かに……」


 此花は唸った。


「そ、そういうことであれば致し方ありません。残念ですが、あきらめます」


 此花は渋々引き下がった。ふー、あらかじめ口実を用意しておいて正解だった。


「じゃあ、会長は誰に検察官を任せようと思ってるんですか?」


 川登の質問に、俺は候補者の名前を告げた。


「名前は白河流麗。1年3組の女子だ」





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