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第175話

 マジックアカデミーに入学した者には「校則」の厳守が義務付けられる。そして、その中には学園長への服従も含まれており、違反者には最悪死のペナルティが与えられる。

 そこで沢渡は、上辺従順な生徒を装いながら、機会を伺っていたのだった。

 学園長の意に沿う形で、その力を自分に「転換」できる機会を。


「あ…あ…あ…あ……」


 力の喪失に伴う脱力感から風花の膝は崩れ落ち、


「やった。やったわ! うまくいったわ!」


 力を得た沢渡の膝は跳ね上がった。


「これであたしは、この世界の女王! いいえ、女神となったのよ!」

「ふ、ふざけたことを」


 風花は沢渡を睨みつけると、


「力を返しなさい! これは命令よ!」


 沢渡にマジックアカデミーの「学園長権限」を行使した。しかし、


「?」


 学園長の命令に背いているにも関わらず、沢渡がペナルティを受ける気配はまったくなかった。


「そ、そんな、ど、どうして?」


 風花の顔から色が消える。力を奪われたと言っても、しょせん相手は小娘。奪える力などタカが知れている。そう高をくくっていたのだった。


「まだ、わかんないの?」


 沢渡は鼻で笑った。


「あんたの力は、もうあたしの物になったのよ。つまり、もうあんたにあたしに命令できる権限はないのよ」

「何をバカなこと」


 人間の脆弱な器で、神の力を受け入れることなどできるわけがない。そんなことをすれば器が力に耐えられず、崩壊してしまうはずだった。


「でも安心して、学園長様。あんたがしようとしていたことは、全部あたしが引き継いであげるから。あたしがこの世界の女王、いいえ、女神になって、人類を正しい道に導いてあげる。あんたの力で、ね」

「ふ、ふざけたことを。人間ごときが」


 風花は侮蔑の視線を沢渡に投げつけた。直後、


「キャアア!」


 風花は沢渡の放った衝撃波により吹き飛ばされてしまった。


「あーら、どうしたの、学園長様? たかが人間ごときの力で吹き飛んじゃって。あ、もう元学園長様なんだっけ」


 沢渡は風花の醜態を笑い飛ばすと、永遠長を見た。


「本当なら、ついでにあんたたちにも、これまでのお返しをしてやるところなんだけど、今は最高に気分がいいから見逃してあげるわ。寛大なあたしに感謝するのね」


 沢渡の足が地面を離れる。


「ま、待ちなさい!」


 呼び止める風花の声に応えることなく、


「じゃあね、元学園長様」


 沢渡は高笑いながら姿を消した。と同時に、止まっていた永遠長の足が地を蹴る。そして永遠長の剣が風花へと突き出されたとき、


「はい、そこまで」


 寺林が2人の間に割って入った。しかし永遠長の動きが止まることはなく、


 ズブ!


 突き出された剣は寺林の胸を貫き、風花の眼前でかろうじて停止した。


「君ね。こういう場合、普通は剣を止めるもんだよ?」


 寺林は嘆息した。


「言ったはずだ。そいつのことを庇うほど大事なら、俺が動く前に自分が止めろと。それもせず、善意の第三者面して邪魔しに入った偽善者を、なぜ俺が気にしなければならんのだ?」


 永遠長は寺林もろとも風花を貫くべく、さらに剣に力を込める。


「力を失い、傷心の女性を憐れむ気持ちはないのかい?」

「そいつが力を失ったのは自業自得だろう。そんな奴に同情するほど、俺はバカでもお人好しでもない」

「だよねえ」


 寺林は苦笑した。


「けど、それでも君は剣を引いてくれるよ。なぜなら、君は私に借りがあるからだ」

「そんなものはない」

「あるさ。天国君の1件でね」


 寺林の言葉に、永遠長の動きが止まった。


「たとえ、それが結果論だとしても、今天国君が元気で君の隣にいるのは、私が君に彼女の現状を教えたからだ。その意味で、君は私に借りがある。そうじゃないかい?」

「……いいだろう」


 永遠長が寺林から剣を引き抜いた。


「今回だけは見逃してやる。だが、次はない」

「大丈夫。彼女は見ての通り力を失っちゃったし、この後怖ーい副社長の」


 寺林がそこまで言ったところで、風花の足元に闇が広がった。


「お仕置きが待ってるから」


 寺林たちの見つめるなか、闇が風花の体を地中へと飲み込んでいく。


「どういうこと!」


 風花の顔が怒りで気色ばむ。


「どうして私が地獄に堕ちなければならないの!?」


 風花は闇から抜け出そうと必死にもがいた。


「私は地獄に堕ちるようなことなんて、何もしてないわ! 私は創様を喜ばせようとしただけ! 聞いてるの、静火!」


 風花の呼びかけも虚しく、闇の触手はさらに風花の体を絡め取る。

 

「い、嫌! 創様助けてえ!」


 風花は最愛の主に最後の望みを託した。しかし創造主が答えることはなく、風花は抵抗虚しく闇の中へと飲み込まれていった。

 そして風花を飲み込んだ闇も消えたところで、


「お疲れ様」


 天国たちが永遠長に歩み寄ってきた。


「これで終わったわけ?」


 秋代にしてみれば、なんだか訳が分からない内に始まった戦いが、なんだか訳のわからない内に終わってしまったという感じだった。


「こいつに言わせれば、そういうことになるようだが」


 永遠長は寺林を横目に見た。


「アテにはならん。なにしろ、こいつ自身が1度は地獄に落とされておきながら、こうして平然と舞い戻って来ているわけだからな」


 いつ風花が復活するかは、それこそ神のみぞ知る、だった。


「だから考えるだけ時間の無駄だ。もしあの女が復活して、また何か仕掛けてくるようなら今度こそ始末する。ただ、それだけの話だ」

「いいわね、あんたは。いつも単純明快で」


 秋代は嘆息した。


「てーか、天国がスペシャルシークレットジョブになったときから、そうじゃないかと思ってたけど、やっぱあんたもスペシャルシークレットジョブ、ゲットしてたわけね」

「一応な」

「てか、だったらなんで、こいつと戦ったとき、最初から使わなかったわけ?」


 秋代は寺林を指さした。


「決まっている。使わずに済めば、それに越したことはなかったからだ」

「なんでよ? そんな凄いジョブ、ゲットしたなら、さっさとクラスアップしてレベルアップしたほうが得でしょうに?」

「言ったはずだ。カオスロードは人よけにちょうどいいと」

「流輝君、カオスロードが天職というか、お気に入りだものね」


 天国は苦笑した。


「それに、オーバーロードには弱点があるし」

「弱点?」

「そう。オーバーロードは確かに神すら倒せる超強力なジョブだけど、使い所が難しいジョブだから」

「どういうこと?」

「たとえば、同程度の力を持った50人を相手にした場合、その内の1人の力を多少上回ったところでドングリの背比べ。ほぼ同等の力で50人と戦わなければならないから、そのまま戦ったら数の力に押し負けてしまうの」

「なるほど。つまり、ジャイアントキリング専用ジョブってわけなのね」

「そういうこと。もっとも、さっきも使ってた「オーバードライブ」を使えば、一時的にレベル1でも10倍まで強さを引き上げることができるけど、相手の数が多ければ倒しきれるか微妙だし」


 オーバードライブはレベル1で1日5回、5分間のパワーアップを可能とし、レベルが10上がるごとに回数は1回、強さは5倍、時間も5分アップするのだった。


「だから出し惜しんでたわけね」

「そういうこと」

「余計なことを」


 永遠長は憮然とした顔で、天国をたしなめた。


「わざわざ弱点を教えるなど」

「いいでしょ。どうせ、すぐまたカオスロードに戻るんだし」


 天国は右手をシェイド化すると、永遠長の胸に突っ込んだ。そして、


「分離」


 永遠長の体から2つの魂を掴みだすと、


「回帰」


 残った肉体の時間を10分巻き戻し、


「はい。完了っと」


 最後に永遠長たちの魂を再び肉体に戻した。すると、異世界ナビに表示された永遠長のジョブクラスは、オーバーロードからカオスロードに戻っていた。


「……で、今は天国がいて、すぐにそうやってカオスロードに戻れるから、気にせず使ったってわけね」

「そういうこと」


 天国がそう言った直後、


「そうだったわ」


 沢渡が再び姿を現した。そして、


「!?」


 土門と禿を瞬時に石化すると、2人を連れて月へと転移した。


「感謝してよね。1人じゃ寂しいと思って、一緒に連れて来てあげたんだから」


 沢渡は石像と化した土門たちに笑いかけると、2人の体を粉々に粉砕した。


「死人なら生き返らせることができても、石化したうえ宇宙で散り散りになった人間は、さすがに元には戻せないでしょ」


 沢渡は、ほくそ笑んだ。


「これで一安心、と」


 せっかく神の力を手に入れたというのに、そのこと自体をなかったことにされたのでは元も子もない。そのため風花の力を手に入れたら、土門を真っ先に始末しようと思っていたのだが、風花の力を手に入れたことに浮かれて、すっかり忘れていたのだった。


 しかし、その脅威も消え去った。


 後は、人類を正しき道へと導くだけだった。


 地上に降臨した神として。


 逆らう者には天罰を下して。










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