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第172話

 その日、ギルド「もふもふ大好きクラブ」の5人は、いつものように新たな「もふもふ」を求めてエルギアの森に分け入っていた。すると、


「え!?」

「あれ!?」


 突然5人とも体が動かなくなってしまった。そして獲物が網にかかったところで、


「安心せい。殺しはせん」


 木陰から狩人が姿を見せた。黒いフードを深く被っているため、見た目から年格好はわからなかったが、年寄り臭い口調とは裏腹に声自体は若々しかった。


「今のところはの」


 狩人は袖から異世界ナビを取り出すと、巨大なサソリ、ムカデ、クモ、カマキリ、トカゲの召喚獣を呼び出した。


「な、なんだ!?」

「な、何する気だ!?」

「話すだけ無駄じゃ。どうせ、すぐに忘れるからの」


 狩人は、まず5人の記憶を魔法で消すと、召喚獣の埋め込み作業に移ろうとした。そのとき、


「なるほど。そうやって手駒を増やしていたわけか」


 背後から声がした。


「!?」


 振り返ると、そこには暗黒竜を召喚武装した永遠長が立っていた。


 なぜ、ここに? と尋ねかけて、狩人は言葉を飲み込んだ。


「愚問じゃな」


 永遠長がここにいるということは、誰かの中に埋め込んだ召喚獣が見つかった可能性が高かった。そして主に潜伏を命じられたにも関わらず外に出たということは、寄生した人間の身に危険が生じ、命令よりも召喚獣の生存本能が優先されたと考えるのが妥当だった。


「想定はしておったが、これほど早く見つかるとはの」

「納得したなら死ね」


 永遠長は腰から剣を引き抜いた。


「いきなりじゃな。普通、こういう場合、まず目的とか仲間のあるなしとか聞くもんじゃろうに」

「必要ない。おまえの目的は、あらかた察しがついている」

「仲間は……。ふむ、これは惜しいことをした。こんなことなら、あやつの誘いに乗っておけばよかったわい」


 狩人は独りごちた。


「そうすれば、おまえさんの「連結」に、仲間という曖昧な繋がりを辿る力があるか試せたものを」


 狩人は残念そうに嘆息し、永遠長の眉がわずかに狭まる。


「自分に仲間はいない。俺に、そう思わせようとしているなら無駄なことだ。なぜならば、おまえに仲間がいようといまいと、たいした問題ではないからだ」

「そんなことは思っとらんよ。そもそも、おまえさんがその気になれば、わしの口を割らせる方法は、いくらでもあるじゃろ。たとえば絶対恭順、とかの。まあ、わしに効けば、の話じゃがの」

「だから、そんな必要はないと言っている」

「ほう? もっといい方法があると?」

「その様子からすると、召喚獣を埋め込まれたプレイヤーは、他にも大勢いるんだろう。ならば今回のように召喚獣から逆探知して、そのマスターを片っ端から始末していけば最後は誰もいなくなる」

「乱暴な理屈じゃの」

「他人に寄生させた召喚獣を使って、地球人を害そうと考えている輩に言われる筋合いはない」

「そりゃそうじゃ。こりゃ1本取られたの」


 狩人は、カッカッカッと愉快そうに笑った。


「いかんのう。気を付けておるのじゃが、若いもんを見ると、つい説教じみたことが口から出てしまう」


 狩人は自戒してから、


「忘れてくれ。しょせん、しがないジジイの繰り言じゃ」

「じじい?」


 永遠長の眉間が再び狭まった。


「うん? おお、そうじゃった。悪いの。別に混乱させようとか、そういう意図はないんじゃよ」


 狩人はフードを脱いだ。すると、そこには永遠長と同じ黒髪と黒目をした、同年代のアジア系女子の顔があった。


「わしには前世の記憶があっての。外見はこうじゃが、中身は80、いや、転生後も入れると100歳近いジジイなんじゃよ」

「転生?」

「そういえば、まだ名乗っとらんかったの。わしの名は、李星海リーシンハイ。もしくは二木星海にきほしみ。名前が2つあるのは、中国人の父親と日本人の母親が最近離婚したからで、今は星海ほしみで通っておる。で、3つ目がメレク・メネク。これは、こことは違う、別のディサースで名乗っておった名前じゃ」

「別の?」


 永遠長の目に好奇心が宿る。


「そうじゃ。わしの前世の故郷じゃ」

「故郷だと?」

「そう驚くことでもあるまい? ラノベでは定番じゃろ。死んだ地球人が前世の記憶を持ったまま異世界に転生するっちゅうのは。要は、あれの逆バージョンというわけじゃ…て、なんじゃ、その顔は?」


 自称元ディサース人がラノベを口をした瞬間、永遠長の目から急速に熱が失われたのだった。


「別に。ただ、その手の話をする奴は、総じて厨二病が多い。ただ、それだけの話だ」

「おまえさんが、それを言うかね。が、嘘つき呼ばわりされるのも癪じゃ。教えてやる」


 星海は1つ咳払いをした。


「よいか。人間に限らず、生物は生まれ変わるとき、前世の記憶を封じられて生まれてくる。これは現世が魂の修行の場であり、生まれ変わった魂が前世のしがらみに囚わることで、その成長に支障を来たすことを避けるためじゃ」


 しかし、中には前世の記憶を持ったまま生まれてくる者がいる。


「これは前世における功徳により、本人の霊格が一定以上に達していた場合、本人の霊格が人格を封じる力を解除、もしくは破壊することにより引き起こされる現象であると、わしは考えておる。身近な例で言えば、性同一性障害じゃな。アレは、本人の体と心の性が不一致なことで起こるモンじゃが、あれも転生した魂が一定以上の霊格を有し、かつ前世が逆の性別だった場合に起こる現象なんじゃよ。霊格の上昇が中途半端なため、前世のすべてを思い出すのではなく、あくまでも自分が別の性別であったことだけを思い出してしもうておるため、本人もなぜ自分が別の性別であると自認しておるのか、わからんというわけじゃ。わしのように、すべてを覚えておれば、この状況を楽しむ余裕も生まれようというもんなんじゃがのう。こんな風にの」


 星海は80を超えるバストを、両手で持ち上げて見せた。


「が、大概の者は外見と心の不一致に悩み、せっかく高めた霊格を自ら歪め、貶めてしまう。まったく、もったいない話じゃ。が、もしかすると、それもさらなる高みに達するために、神の与えた試練なのかもしれんて」


 星海は永遠長を指さした。


「それでも、まだ信じられんというなら、もっと具体的な証拠を見せてやろう」


 自称元ディサース人は永遠長を指さした。


「おまえさんも持っとる異世界ナビ、それについとるリアライズ機能じゃよ」

「リアライズ?」

「そうじゃ。おまえさんも、ある程度は知っとるようじゃが、あれは簡単に言えば、力を使えるレベルまで強制的に霊格を上昇させるもんなんじゃよ。霊格は上がれば上がるほど力を増し、それが一定以上に達した者は力を具現化させることができるようになる。簡単な例で言えば、神通力や超能力じゃな。で、その霊格がさらに高まれば神や仙人と呼ばれる存在となるわけじゃ。そして、本来仙人となるためには過酷な修行に耐えねばならんのじゃが、リアライズはその修行をすっ飛ばして、神通力を使えるレベルにまで霊格を引き上げる、一種の裏技なんじゃよ」

「なるほど。つまりクオリティをレベルアップさせるためには、霊格を上げなければならない。逆に言えば、霊格を上げればクオリティもレベルアップする。そういうことか」

「上げられればの。じゃが、善行を詰めば良いというものでもない。そこら辺が難しいところじゃ。仙人になるための修法も、今では失われておるようじゃしのう」


 そこまで言って、星海は話が脱線し過ぎていることに気づいた。


「で、話を戻すが、わしは幸い前世で霊格が一定以上に達していたらしく、前世のすべてを覚えたまま地球に転生することができた、というわけじゃ」

「なるほど」


 永遠長は星海を射竦めた。


「そして、ディサース人としての記憶を持ったまま転生したおまえは、地球人の有り様を見て、自分が元いたディサースにまで害を及ぼしかねないと判断して、抹殺することにした。というわけか」

「それは地球人次第じゃよ。もし地球人が、このまま異世界への干渉を最小限に留めるならよし。じゃが、国家規模での干渉を始めるようであれば、それ相応の対抗手段を取る。今やっておることは、要するに、そのときのための下準備じゃよ。いざ侵攻が始まってから手を打ったのでは、手遅れじゃからの」

「ここに来るプレイヤーに召喚獣を潜り込ませておいて、地球人の異世界侵攻が始まったら、一斉に覚醒させて地球人を殲滅しようというわけか」

「殲滅までは考えとらんよ。半分ぐらいに減らそうと思っとるだけじゃ。そこら辺が、あやつらと相容れんかったところでもある。まあ、それはええとして、世間一般でも言われとるじゃろ。あの惑星に100億の人口は多すぎるんじゃよ。仮に100億を許容するとしても、それは月や火星のテラフォーミングを地球人が成功してからにすべきなんじゃ。現段階で、ましてやそのために異世界に触手を伸ばすなど論外じゃて。おまえさんも、そう思うじゃろ?」

「だが、それとエルギアの召喚獣を使うこととは話が別だ」

「うまい方法じゃろ」


 ただ単に、地球に召喚獣を召喚したのでは、人目につくし、召喚できる召喚獣の数にも限りがある。そこでエルギアの召喚獣を可能な限り、プレイヤーに寄生させることにした。そして時期を見て、一斉に召喚獣を地球で目覚めさせる。と、同時に、エルギアからも可能な限り召喚獣を送りつける。そうすれば、大量の召喚獣をもって地球を襲撃できるうえに、召喚獣の中には人がいるため、地球側としては迂闊に攻撃できなくなる。攻撃する側にとっては、ただ召喚獣を送り込むより勝率が格段に跳ね上がるのだった。


 もっとも、単に召喚武装させただけでは、別の世界に移動した際、召喚獣はエルギアに取り残されてしまう。


「そこで考えたんじゃよ。召喚獣を取り込ませた後で、異世界召喚術で召喚獣ごと別の世界に異世界転移させれば、異世界ナビは取り込んだ召喚獣もプレイヤーの一部と認識して、それ以後はどの世界に移動しても体内の召喚獣ごと移動するようになるのではないか? との」


 そして、その考察は正鵠を射たのだった。


「ちいと手間がかかるのが難じゃが。なあに、これも世界平和のためと思えば、なんということはない」

「ラーグニーで失敗したから、今度はエルギアというわけか」

「いんや、わしはアレにはかんどらん。言うたじゃろ。誘われたと。地球を脅威と思っとるモンは、わしだけではないと言うことじゃ。おまえさんも、内心ではそう思っとるのではないか? というか、おまえさんなら、わしがやっとることに気づいても、見て見ぬフリをすると思っておったのじゃがのう」


 いざというとき、地球人を滅ぼす1手とするために。


「言ったはずだ。地球人が地球人を滅ぼすのはかまわん。だが、そのためにエルギアの召喚獣が利用されるなら話は別だと」


 異世界ギルドの総括者として、異世界の存在が地球侵略に利用されることは阻止しなければならないのだった。


「つまり、これはエルギアの召喚獣を守るための戦いというわけかの?」

「そういうことだ。もしもの場合、地球で目覚めた召喚獣が地球人との戦いで死傷するのはもとより、もしそれ以前に、プレイヤーの中に召喚獣が取り込まれていることに地球人が気づいた場合、召喚獣が地球人のモルモットにされかねない」


 そうなった場合、地球の科学者たちが召喚獣をどう扱うか。考察するまでもなかった。


「なぜ、おまえの目的のために、召喚獣たちがそんなリスクにさらされねばならんのだ。地球を滅ぼしたいなら自分の手でやれ。関係ないエルギアの召喚獣を巻き込むな」

「……おまえさん、本当に地球人のことは、なんとも思っておらんのじゃな」

「地球人同士が殺し合うのは、今に始まったことじゃない。そんなことにいちいち関与するほど、俺は暇でもお人好しでもない」

「なるほどの。じゃが、わしとて引くわけにはいかん。地球人の欲望は、果てしがないでの。他の世界の人間たちも、多かれ少なかれ支配欲を持っておるが、地球人は度が過ぎておる。科学力が発達しすぎて、快適さを求め過ぎた結果じゃろうが、このまま手をこまねいておって、もし異世界すべてに地球の毒が満ちることになった日には目も当てられんでの。それだけは避けねばならんのじゃよ。わしの子や孫、弟子たちの未来のためにの」


 たとえその行いが、世間一般では悪と呼ばれるものであったとしても。


「やってみるがいい。できるものならな」

「そのつもりじゃよ」


 星海はローブを脱ぐと、


「目覚めい」


 己の中にいる召喚獣に呼びかけた。すると、星海の体が黒と緑の鎧に包まれた。


「どーじゃ、驚いたか? 召喚武装の弱点は、武装するまでに時間がかかりすぎることにある。そこでわしはいつでも召喚武装できるように、あらかじめカブトムシとクワガタの召喚獣を体に入れておったんじゃ」


 星海は得意げにフフンと鼻を鳴らした。


「しかも2体同時に召喚武装することで、カブトムシの防御力とカマキリの攻撃力を併せ持たせることにも成功した。わしは、これを2重装甲ダブルアムドと名付けて」

「なら、こっちも見せてやろう」


 永遠長は異世界ナビで地水火風4体の召喚獣を召喚すると、


「ファイブサモンズアーマー」


 5体の召喚獣と召喚武装した。


「5体の召喚獣と召喚武装じゃと?」


 目を見張る星海に、


「どうする? おまえも他の召喚獣とさらに召喚武装するというなら待ってやるぞ」

「いらんわい」


 星海は忌々しそうに唸った。永遠長に数で負けたことより、2体の召喚獣で召喚武装する。ということを思いついた段階で満足してしまった自分に、腹立たしさを覚えていたのだった。


「言っておくがな。わしが2体で止めたのは、それがベストと判断したからじゃ。あまりに多すぎる数の召喚獣と合体したんでは、体への負荷が大きすぎて、かえって戦闘力が低下してしまうからの」

「そう思うのは、おまえの心がジジイだからだろう。若い頃に無理をして体を壊した人間ほど、その二の舞いを恐れるあまり心にセーブ機能が働いて」

「余計なお世話じゃ!」


 星海は右腕から伸びたカマキリの鎌で、永遠長を切り裂きにかかった。しかし、永遠長の電磁バリアに跳ね返されてしまった。


「猪口才な!」


 星海は左腕を突き出すと、クオリティを発動させた。すると、永遠長の電磁バリアが粉々に消し飛んだ。が、すぐに復元してしまった。


「これは……」


 星海は、いったん大きく飛び退いた。


「なるほど。さてはそのバリア、神器によるものじゃな」


 噂では、永遠長は雷の神器を持つという。おそらく永遠長は「連結」の力によって、その神器の力を自身に流れ込ませているのだろう。


「要するに、そのバリアは水道から流れ落ちる水と同じというわけじゃな。流れ落ちる水に何をしようと、蛇口を止めんことには水は止まらんというわけじゃ」


 しかし、今からモスにある神器の所在を突き止め、破壊することは不可能に近い。


「ならば」


 バリアごと永遠長の体をブチ壊せば済む話だった。そして星海が再度攻撃を仕掛けようとしたとき、


「うん?」


 上空に強力な力場が発生した。


「なんじゃ?」


 見上げると、そこには黒のワンピースとスカートを履き、漆黒の杖を手にした朝霞の姿があった。そして彼女が身につけている衣装が、以前天国が着ていたものと酷似していることから、永遠長はおおよその事情を察した。


「……落ちるところまで落ちたから、これ以上落ちようがないと思っていたが、そこからさらに落ちるとは、ある意味感心する」


 永遠長の感想に、朝霞の眉がわずかに揺れる。


「おまえさんの知り合いか? ちゅうか、おまえさん、あの女子おなごに何したんじゃ? あの殺気は、ただ事ではないぞ」


 100年近く生きてきた星海だったが、これほどの殺気を感じるのは初めてだった。


「別に何もしていない」


 永遠長は淡々と答えた。事実、その目には後ろ暗いものは微塵もなかった。


「そうか? とても、そうは思えんがのう」


 星海は改めて朝霞を観察した。すると、さっきよりも魔力と殺気が高まっていた。


「ほれみい。やっぱり怒っとる。ちゅうか、今ので、もっと怒らせたのと違うか? 何があったのか知らんが、こうなったら土下座じゃ! 土下座するんじゃ! 土下座は、すべてを解決する!」

「ことわる。そんな理由は俺にはない」


 火に油を注ぐ永遠長に対して、


「死ね」


 朝霞が杖から闇の雷を撃ち放つ。そして永遠長めがけて撃ち放たれた雷は、


「!?」


 電磁バリヤを素通りして永遠長に直撃した。


「ほれみい、言わんこっちゃない」


 星海はしたり顔で言ったが、


「なるほど」


 永遠長の耳には届いていなかった。


「電磁バリアに「透過」を施すことで、防御を無効化させたというわけか」


 あるいは雷に「透過」を施し、バリアを通過した段階で「透過」を解除した。


「今のは、ほんの挨拶だ。この程度で終わらせたんじゃ、私の気が済まないからな」

「なんの話だ?」

「惚けるな!」


 朝霞の杖から再び黒い雷がほとばしり、永遠長の右肩をかすめて背後の地面に直撃した。


「あの天国って女と結託して、私を陥れやがったくせしやがって!」

「そんな真似をした覚えはない」

「しらばっくれてんじゃねえ! あの天国って女が力を使って、私がおまえから離れるように仕向けたことは、とうにわかってんだよ!」

「なんじゃ、二股かけとったのか、おまえさん」


 星海の目に侮蔑が浮かぶ。


「ギルド戦で頭のブッ飛んでおる奴じゃと思うておったが、下半身もノンストップの特急列車じゃったというわけかの? まったく最近の若いモンは、変にラノベに影響されて、二股どころか三股四股を当たり前と思うておるから始末が悪いわい」


 星海は嘆息した。


「何を勝手なことを言っている」


 永遠長は不本意そうに言い返した。


「俺は二股をかけたことなどない。調と婚約したのも、こいつから絶縁宣言された後」

「ふざけるな!」


 朝霞は再び怒りを吐き出した。


「それもこれも、あの女がそうなるように仕組んだからだろうが! 自分がおまえとヨリを戻すのに、私が邪魔だったから!」


 「共感」のクオリティで、自分にとって永遠長が害悪だと思い込ませることで。


「なんじゃ。やっぱり痴情のもつれ」

「だから違うと言っている」

「何が違うってんだ!」

「おまえとの交際関係は、あくまでもおまえの義父を欺くための偽装であり、そのことはおまえ自身も納得していたはずだ」

「…………」

「そしておまえは、調が俺とおまえが別れるように「共感」で仕向けたと言っているが、本当におまえの思いが強ければ、たとえ調のクオリティを受けても、その気持ちが揺らぐことはなかったはずだ」


 秋代や木葉が、そうだったように。


「そうならなかったのは、おまえの思いがその程度に過ぎなかったということだ。その程度の思いしかなかった奴に、恨み言を言われる筋合いはない」

「……そうか。よくわかったよ」


 朝霞は永遠長の全身に金縛りをかけると、


「おまえはブッ殺さなきゃ気が済まないってことがな!」


 杖から撃ち出した闇で永遠長の胸を貫いた。


 心臓に致命傷を負った永遠長が、声もなく倒れ込んだ。が、その直後、心臓を含めた胸の傷が修復を始めたかと思うと、見る間に完治してしまった。


「治癒魔法? いや「回帰」か?」


 だが、致命傷を負った状態から「回帰」を使えるとは思えなかった。

 不審がる朝霞とは裏腹に、


「なるほどの」


 星海は永遠長の身に起きたことに、ある程度の見当がついた口ぶりだった。


「ギルド戦のときに、敵に胸板を貫かれながらも死亡判定を受けんかったときからおかしいと思っておったが、そういうことじゃったか」

「どういうことよ?」

「おそらくじゃが、こやつと天国と言ったかの。あの女子とは互いのクオリティによって、絶えず結ばれておるのじゃよ。そして情報を共有することで、どちらか一方に何かが起きた場合には、もう一方がフォローする仕組みが出来上がっておるのじゃよ」

「つまり、永遠長が瀕死の状態になった場合には、あのクソ女が。あのクソ女が瀕死の状態になった場合には、永遠長が「回帰」や回復魔法をかけて復活させるってこと?」

「そういうことじゃ。つまり、こやつを倒すためには、伴侶との繋がりを断った上で息の根を止めるか。でなければ、2人同時に殺す必要があるということじゃ。やれやれ、どうやらわしは、とんだムリゲーに挑まされておったようじゃて」


 星海は頭をかいた。


「ちゅうか、普通、そういうチート機能は悪役の専売特許じゃろうに。それを勇者やヒーローが悪戦苦闘しながら倒す的な」

「なら問題ない」


 永遠長は平然と言った。


「なぜならば、もし地球人が異世界を不当に侵略しようとした場合、俺は地球人を抹殺する側に回るからだ。つまり地球人から見れば、俺は倒すべき悪。その悪が、悪役の専売特許を有していても、何もおかしくない」


 チートではないがな。と、永遠長は最重要事項を最後に付け足した。


「なるほど、よくわかったわ」


 朝霞は微笑すると、


「そういうことなら」


 永遠長を球体に閉じ込めた。


「先に、あのクソ女を始末してやるわ。それと、あの土門って奴もね。そうすれば、もうこいつを復活させられる人間は、この世にいなくなる」


 それに永遠長の眼の前で、最愛の女が苦しむ姿を見せたほうが、ただ殺すよりも何倍も気が晴れるというものだった。


「無駄よ。その球体は、完全に外界からは遮断されてる。つまりあんたには、その結界から出る術はないってことよ」


 結界を手探りで調べる永遠長に、朝霞は嘲りの言葉を吐きつけた。


「そこで見てるがいいわ。最愛の女が、私の手で引き裂かれる姿をね」


 朝霞は高々と言い放つと、永遠長を閉じ込めた球体ごとエルギアから消失した。


 結果、1人残された星海は、しみじみと思っていた。


 いつの世も女子は恐ろしい、と。







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