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第168話

 生徒会が去った後、


「さてと、それじゃ、私は」


 天国は藤間達也に歩み寄ると、


「分離」


 シェイド化した腕で魂を分離した上で、


「回帰」


 藤間の体を元に戻した。


「はい。これで、もう大丈夫」


 最後に、復活した肉体に魂を戻された藤間は、試しに自分の手足を動かしてみた。すると、さっきまであった痛みが綺麗さっぱり消えていた。


「凄いな。これも異世界の力なのか?」

「いえ、これは羽続って人の力と、ここにいる土門君のクオリティよ」

「そうなのか? 凄いな」


 藤間は素直に感心した。


「凄いというなら、あなたのクオリティも相当だと思うけど? だからこそ流輝君も、最初あれだけ警戒してたわけだし」

「え?」

「あなたのクオリティ「領域」は「境界」と同じ。自分の領域内を支配下に置くことができる能力だってこと。たとえば、そうね、領域内にいる自分以外の力を半減させるとか、封じる、とかね」


 天国の提案に、藤間はキョトンとした顔で目だけを瞬かせた。


「考えたこともなかった? まあ、今までは相手が弱すぎて、クオリティを活用する必要自体がなかったんでしょうから、無理もないけど。私に言えることがあるとすれば、もしあなたが「領域」のクオリティを活用できていれば、ここまで一方的な戦いにはならなかった可能性が高いってこと。要は精進不足ね。流輝君も内心で思ってたもの。自分の今ある力さえ完全に引き出せていない分際で、何がさらなる高みだ、バカめって」

「…………」

「だから、もしあなたが本当に、さらなる高みを目指すなら、まずそこから始めてみたらいいんじゃない? 今日、流輝君に負けたからって、高みを目指す気持ちを失ったわけじゃないんでしょ?」


 でなければ、クオリティが「領域」にはならない。さらなる高みへ、さらなる領域へ自分を高めたいという思いが、藤間のクオリティを「領域」たらしめたのだろうから。


「も、もちろん。むしろ、がぜんやる気が湧いてきたぐらいだ」


 藤間の心は、今までにないほど高揚していた。学園最強ともてはやされていたが、その実、ただただ無為に日々を送るだけの生活に、虚無感すら感じていたのだった。


「だったら、むしろよかったじゃない。身近に、わかりやすい目標と壁が見つかって。もし、いつかあなたがクオリティを自在に使いこなすことができるようになったら、流輝君にも勝てるかもしれないし。挑み甲斐があるでしょ、あの壁は? それこそ、ちょっとやそっとじゃヒビ1つ入らないんだから」


 天国は含み笑った。


「ま、それはそれとして」


 天国は表情を引き締めた。


「さっき流輝君に言われたことだけど」


 今日は相手が永遠長だから、ある意味これで済んだ。しかし、このまま藤間健也が悪さを続ければ、永遠長よりも容赦のない業界人や警察が動くことになるかもしれない。


「もし本当にそうなったら、あなたはどうしてた? 今回のように、弟君を庇って戦ってた? 最悪、国を敵に回して? 流輝君にも勝てない程度の力で?」


 天国の容赦ないツッコミに、藤間は返す言葉がなかった。たとえ誰が相手であろうと、自分は負けない。いや、それ以前に自分ほどではないにしろ、力を持つ弟が、そこらの有象無象に負けるわけがない。と、心の何処かで思い込んでいたのだった。


「それで、もし負けた場合は今回のように命乞いすれば許されるとでも? 流輝君は、そりゃあまあ、やり方自体は無茶苦茶で褒められたものじゃなかったけど、言ってること自体は、傷つけられた側からの正当な主張だったと思うんだけど?」

「…………」

「その辺のところを、よく考えることね。本当に、弟君が大切ならね。それと」


 天国は、自分の異世界ナビから新しい異世界ナビを召喚すると、


「はい」


 藤間に手渡した。


「く、くれるのか?」

「ええ。さっき流輝君からサイキックソルジャーやエンシェントマジックルーラーのことを聞いたときから、異世界に興味が出てきてたんでしょ」


 今までは、自分が最強だという自負があるから、異世界など歯牙にもかけていなかった。しかし、もし本当に自分より強い者がウジャウジャいるというのなら、ぜひ自分の目で確かめてみたい、と。


「あ、ありがとう」

「あなたもね」


 天国は、さらに異世界ナビを召喚すると、藤間健也に手渡した。


「い、いいのか?」

「ええ。お兄さんと一緒に異世界に行って、せいぜい世界の広さを思い知ってくることね。利用できるものは、兄でも利用しようっていう貪欲さは買うけど、虎の威を借る狐が無敵なのは、あくまで虎が無敵だから。そして虎は必ずしも無敵ではなく、狐は狐でしかない。そのことを、今回のことで思い知ったでしょうから」

「…………」

「ま、要するに、悪の黒幕気取りたければ、それなりの強さを身につけてからにしろってこと。今のあなたはラスボスはおろか、中ボスにも値しない。もっとも、強くなったからって性懲りもなく弱い者イジメをしていたら、今度こそ流輝君に殺されるでしょうけど。特に異世界人相手にそんな事をした日には、きっとこの程度じゃ済まないだろうから、そのつもりでね」


 天国の口調は軽かったが、その言葉が冗談でないことを、


「でしょうね」


 秋代も担保した。


「日米同盟持ち出して、異世界ギルドの運営権を奪おうとした奴は、チェーンソーで八つ裂きにされたもんね」

「そうなんか?」


 そのとき木葉は、まだゾンビと戦っていたため、永遠長と「グランドマスターズ」の戦いは見ていないのだった。


「ええ、仲間に痛みを「共有」させた上で、容赦なくね。で、最後は股から首にかけて、真っ二つに切り裂いてたわ」

「あれ、流輝君、失敗したと思ってるけどね。体を真っ二つにする前に、顔を横から切り落とせばよかったって。だから、もし次にやる機会があれば、絶対やると思う」


 天国と秋代の話を聞きながら、周囲はドン引きしていた。


「まあ、安心していいわよ。あんたたちには、そんな真似はしないだろうから。するとしたら、そうね」


 秋代は少し考えてから、


「あんたたちの内、どっちか1人をゾンビ化して、もう1人を食わせるとか、せいぜいそんなところでしょ」


 軽く言った。


「ゾ、ゾンビ化?」


 藤間兄弟は鼻白んだ顔を見合わせた。


「ま、くれぐれも異世界人には、むやみやたらに手を出さないこと。それさえ守っていてれば、基本的に人畜無害だから、あいつは」


 秋代の警告に、


「わ、わかった。気をつける」


 藤間兄弟は神妙な顔でうなずいた。


「それはいいとして」


 秋代は、さっきから疑問に思っていることを口にした。


「もしかして、今その2人にしたのが、永遠長が前に言ってた、新しい回帰?」


 1度「回帰」をかけた後、消えた記憶を取り戻す為に、永遠長が発案したと言っていた。


「正確に言うと、それの別バージョンね」

「別バージョン?」

「流輝君が考えたのは、1度「回帰」をかけたあと魂を抜き出して、その魂にだけ、もう1度「回帰」をかけることで失くした記憶を取り戻させる方法だけど、これは魂を抜き出すところまでは同じだけど、その後「回帰」を肉体にかけることで、その間に起きたことは本人に忘れさせずに済むってわけ」


 どれだけヤキを入れても、そのこと自体を忘れてしまったのでは、なんの意味もないから。


「だから別バージョンてわけね」

「ええ。これ以外にも、前に土門君がモスで行ったみたいに、個々の細胞に「回帰」をかけるバージョンとか」

「モス?」


 土門には、そんな心当たりはなかった。


「忘れた? あなたたちが初めて施療院に行ったとき、肺炎に罹った子を「回帰」で治したでしょ?」

「え? あ、はい」

「あのとき、土門君は無意識に使ってたみたいだけど、あのときの「回帰」は、いつもとは違ってたの」

「え?」

「あのときは必死だったから、気づかなかったかもしれないけど、あのとき土門君はあの子が肺炎に罹る前まで時間を戻したわけでしょ? 時間にしたら2、3日ってところ?」


 もし、それだけの時間を普通に巻き戻した場合、本来ならば以前永遠長が危惧した通り、あの少女は重篤な脱水症状に見舞われているはずなのだった。


「でも、あの子にそんな症状は見られなかった。つまり、あのとき土門君は、あの子の時間を個々の細胞単位で戻したと考えられるの。簡単に言うと」


 天国は小石を拾い上げると、また地面に落とした。


「この小石に「回帰」をかけた場合」


 天国が小石に「回帰」をかけると、小石は地面から浮かび上がった。


「さっき拾い上げてから落ちるまでの運動を繰り返すことになる。でも、この小石そのものに「回帰」をかけた場合、小石は動かない」


 なぜならば、1分前も小石は小石でしかないから。


「つまり、あのとき土門君は、あの子の時間を細胞単位で巻き戻していたの。その間の運動を含めないでね。結果として、あの子は脱水症状に陥ることなく、増殖した菌やウイルスだけが消滅した」


 この場合、血液に取り込まれた水分や栄養素も摂取前の状態に戻ることになる。しかし、すでに栄養素は分解された状態にあるし、血管内の水分が多少増えたところで、人体にさして害はないため、結果的に少女は元気を取り戻したのだった。


「と、まあ、そんなわけで「回帰」には、まだまだ未知の可能性が秘められてるってこと」


 天国は、そう話を締めくくった。


 一方、戦いを終え、職員室に戻った永遠長は、寺林から労いの言葉をかけられていた。


「いやー、凄いね、永遠長君。毎度のことながら、惚れ惚れするほどの冷酷非情っぷりだ。私なんかには、とてもじゃないが真似できないよ。さすが、さすが」


 寺林は手揉みをしながら、永遠長を褒め殺した。しかし、そんな寺林の皮肉交じりの称賛など意に介した様子もなく、


「そんなことより、あの件はどうなっている?」


 永遠長はぶっきらぼうに尋ねた。


「あの件?」


 寺林は小首を傾げた。


「探偵事務所の件だ。上の承諾を取ってくると言ってから、もう1週間になる」

「あー、アレね」


 スッカリ忘れていた寺林だった。


「あ、そうだ。その件で提案というか、お願いがあったんだった」


 寺林はポンと手を叩いた。


「お願い?」

「その、探偵事務所の名前を、常盤霊能探偵事務所にしてもらえないかなーって、ことなんだけど」


 寺林の話を聞く永遠長の目が、徐々に鋭さを増していく。


「しゃ、社長に話したら手柄を横取り、じゃない、思ったより乗り気でね。そういうことなら、ぜひ自分が探偵事務所の所長をやりたいって言い出したんだよ」

「…………」

「ほ、ほら、一応異世界ギルドは、うちの社長がオーナーなわけだし、その系列として設立する以上、実質うちの社長がトップなわけだし、常盤グループの総裁が経営してる探偵事務所ってほうが、箔が付くと言うか、客も安心すると思うんだよね。どうだい?」

「別にかまわん」

「そ、そうかい。それはよかった。きっと社長も喜ぶよ」

「礼なら調に言え。ホームページを作り直すのは、あいつなんだからな」

「なら、天国君に了承…は、いらないのか、君たちの場合」


 常に「連結」と「共有」によって繋がっているから。


「そういうことなら、後で天国君に礼を言っておくよ」


 忘れなければ。と、寺林は心の中で付け加えた。


「そうしろ。それと、その件とは別に、あと2、3確認しておきたいことがある」

「なんだい?」

「以前おまえは、今のディサースは来たるべき日に備えて、創造主が訓練用に作った世界だと言っていたな」

「まあね」

「ということは、もし地球にモンスターが復活した場合、それまでディサースでのみ発動していたジョブシステムも地球で発動する、ということでいいんだな?」


 でなければ、そもそもディサースで強くなること自体に意味がなくなってしまう。


「社長の気が変わらない限りはね」


 寺林は含みを持たせて答えた。


「ではその際、装備はどうするつもりだったんだ? たとえクオリティとジョブスキルが使えても、戦士職は武器や防具がなければ、その能力をフルに発揮できないだろう。その辺のところ、おまえたちはどう考えていたんだ?」

「んー、特に何も考えてなかったんじゃないかな。そのときが来たら考えるっていう程度で」

「つまり、あのときのおまえと同じレベルということか」

「ま、そういうことだね」


 寺林は悪びれもせずに言い切った。


「そもそも、本来ディサースだけで良かったはずの異世界を、あれだけてんこ盛りにして提供したのも、オリジナリティを重視した結果だからね。同時に複数の、それも銃、召喚、獣人化と、まったく異質の要素で確立された異世界に行けるゲームやラノベは、そうそうないだろうってね。で、その結果、早々にハーリオンを畳むことになったわけで。要するに、その場その場が面白ければ、後のことなんかどうでもいいのさ、あの方は」


 後は野となれ山となれ。今さえよければ、それでよし。


 それが寺林の上司なのだった。


「そもそも、そのディサースだって、当初作るつもりはなかったんだからね」

「どういうことだ?」

「前に言ったろ。ディサースのジョブシステムは、まるでゲームみたいだって」

「ああ」

「実はアレ、みたいじゃなくて、本当にゲームだったんだよ。正確には、ゲーム用に作られたものを流用したんだ」

「流用?」

「ほら、今のラノベとかによくあるだろ。ゴーグルとかヘルメットを被って、仮想世界でプレイするVRMMORPGってやつ」

「ああ」

「あれは現時点では、あくまでも空想上の代物に過ぎないけど、社長はアレを実際に作ろうとしたんだよ。地球の技術じゃ無理だけど、たとえばラーグニーの科学力があれば実現可能だからね」

「ほう」

「で、その際、販売するヘルメットなりにリアライズ機能を取り付けておく。そうすれば、そうとは知らずにゲーム内でリアライズしたプレイヤーたちはクオリティを身につけることになり、頭のなかだけとはいえ、モンスターとの戦いを実体験することができるという寸法だったってわけさ」

「確かに、そのほうが異世界ストアのシステムより、よほど効率的に、より多数の人間を強くすることができる。なぜ、そうしなかった?」


 そうすれば、異世界が地球の脅威にさらされることもなかった。というか、今日の永遠長の要件の1つは、まさにソレなのだった。

 ラーグニーの技術を使って、実際にフルダイブ型のゲームを作る。そしてプレイヤーが装着する器具にリアライズ機能を搭載した上で売り出せば、異世界に行くことなく広くクオリティを身につけさせることができ、異世界ギルドの利益向上にもつながる、と。


「理由は簡単だよ。ほら、当時その手のものを扱ったラノベに多かっただろ。ゲームにダイブしたまま戻って来れなくなるって展開。社長、あれをガチでやろうとしたんだよ。自分が黒幕になってね」

「…………」

「でも、そのことが副社長にバレちゃって、この企画自体お蔵入りしちゃったってわけさ。で、そんなことがあったもんだから、今のディサースはアチコチ綻びがあるんだよ」


 せっかく考えた「ジョブシステム」を、このままお蔵入りさせてなるものか。でも静火君に知られたら、またお蔵入りにされる。ならば気づかれる前に「ジョブシステム」を組み込んだ異世界を完成させよう。そうすれば、いくら静火君でも生み出した世界をお蔵入りにはできないだろう。と、大急ぎで作ったから。


「話はわかった。ならば、確認してきてもらおう。いざ地球でモンスターが復活した場合、武器はどうするつもりだったのか。完全に異世界の物である神器や魔銃はともかく、地球人が地球を守るために用意したディサースの武器なら、そのときが来たら、あるいは持たせてもいい。そう考えているかもしれんし、それ次第でこちらの対応も変わってくるからな」

「なるほど。確かに、そうだね。今日にでも聞いておくよ」

「今度は忘れるなよ」


 寺林の内心を見透かしたように、永遠長は釘を刺すと異世界へと向かった。


 そして夕方、常盤学園へと戻ってきた永遠長が天国とともに食堂へと向かうと、


「永遠ー!」


 木葉が駆け寄ってきた。


「見てくれ、永遠! ついに、わしも霊気が使えるようになったぞ!」


 木葉はそう言うと、


「はあああああ!」


 気合いを入れた。すると、木葉の全身が光輝いた。


「どうじゃ、永遠!」


 喜々として報告する木葉に、


「……それは霊気じゃない。闘気だ」


 永遠長が淡々と事実を指摘する。


「なんじゃと!?」


 木葉が驚きに目をひん剥く。


「おそらくモスで、あの神器を使っている内に、闘気の使い方自体を覚えたんだろう」


 永遠長の推測を聞き、


「なんじゃ、闘気じゃったんか」


 いったんは落胆した木葉だったが、


「ん?」


 すぐに、あることに気づいた。


「ちゅうことはじゃ。もしかしたら、今ならわしにもアレができるっちゅうことか?」


 思い立ったが吉日。木葉は、さっそく試すことにした。


「かーめー」


 木葉は、ゆっくりと両手を正面に突き出した。それを見て、


「やめんか!」


 秋代が木葉にボディブローを叩き込む。


「ぶお!」


 木葉は体をくの字に曲げて倒れ込んだ後、


「何するんじゃ、春夏!?」


 幼馴染に抗議の声を上げた。


「そりゃ、こっちのセリフだってのよ。そんなもんここでブッ放したら、それこそ建物ごと吹っ飛んじゃうでしょうが!」

「おお、そういえばそうじゃな。全然気づかんかった」


 木葉はあっけらかんと答えた。


「たくもう」


 秋代は嘆息すると、木葉をテーブルへと連れ戻した。そして永遠長たちが秋代たちの隣のテーブルについて間もなく、万丈が肩を怒らせながら秋代たちの横を通り過ぎていった。


「あの様子からして、まだまだやられたこと根に持ってるみたいね」


 秋代が横目に見た万丈の顔は、永遠長への怒りに満ち満ちていた。


「それもあるけど、今はそれどころじゃないっていうのが、正確なところね」


 天国が言った。


「どういうこと?」


 秋代は眉をひそめた。


「ほら、彼、流輝君から異世界ナビをもらったでしょ」

「ええ」

「で、その後、獣人組のみんなと異世界に行ったんだけど、そこで「百獣戦士団」の人たちと戦り合ったみたいで」

「え!? あいつらと!?」


 秋代と木葉は顔を見合わせた。


「ええ、冒険者ギルドで冒険者登録してるときに。で、自分たちのギルド名を何にしようかって、他のギルドを検索してたら「百獣戦士団」の名前を見つけたらしくて、何が百獣だ。俺たちを差し置いて生意気な。みたいなことを言っちゃって」

「で、それを、たまたま居合わせた百獣の連中が聞いてて喧嘩になって、ボコボコにやられたと?」


 秋代には、そのときの光景が目に見えるようだった。


「そういうこと」

「てか、勝てるわけないでしょうに。シークレットにノーマルの、それも登録したばっかの初心者が」


 秋代の容赦ないツッコミが、離れて座る万丈の背中に突き刺さる。


「それで現在「百獣戦士団」にリベンジすべく特訓中だから、流輝君にかまってる暇なんてないってわけ」

「なるほど。永遠長曰く、人間やることがあったら他のことにかまってる暇なんてない。てゆーのを、実践してるってわけね」


 秋代は納得しつつ、


「てーか、今のまんまじゃ勝てないでしょ。レベルとかクラス以前の問題で」


 容赦なく断じた。


「どうしてじゃ?」

「バカさが中途半端だからよ」


 秋代は断言した。


「中途半端?」


 木葉は小首を傾げた。


「まあ、わかりやすく言うと、この前の勝負で、あいつは永遠長に吹っ飛ばされたけど、あれがもしあんたや立浪だったら、それで肋骨やあばらが折られようがお構いなしで、永遠長のこと殴り飛ばしにいってたってこと」


 秋代の指摘に、万丈の肩がピクリが動いた。さらに、


「ブッ飛ばすと決めたら、何があろうとブッ飛ばす。絶対ブッ飛ばす。死んでもブッ飛ばす。それこそ「ふぬりゃ!」って感じで。脳筋は脳筋なだけだとバカでしかないけど、貫いたら強さになるのよ。けど、あいつにはそれがない。だから怖くない」


 万丈の体が小刻みに震える。


「あれが立浪だったら、仮に吹っ飛ばされったとしても「上等だ、コラア! もう1回やってみろ! ああ! 今度は、こっちがぶっ飛ばしてやらあ!」て、さらに闘争心燃え上がらせて、真っ向から向かってったわよ。少なくとも、勝てないからってタックルに切り替えるような、姑息な真似は絶対してないっての」


 万丈の肩が、これ以上なく落ちた。


「ま、要するに、戦いにおける心構えがなってないってことよ。そんなんじゃ、何度戦っても勝てやしないわよ。ま、長い事、この学園の中でぬるい生活送ってたんだから、しょうがないんだろうけど、本当に百獣の連中に勝ちたいんなら、まずそこから鍛え直さないとダメなんじゃない。あいつらのバカは、それこそ筋金入りなんだから」


 秋代はフンと鼻を鳴らした。そして、無自覚に万丈を殺したところで、


「それはそうと」


 秋代は話題を切り替えた。


「生徒会のことだけど、あの後何かわかった?」


 あれだけ自信満々で、藤間たちの代理人を買って出たのは、永遠長を倒す秘策あってのことだろう。問題は、それが何かということだが。


「どうやら、助っ人を呼んだみたい」


 天国が答えた。


「助っ人?」

「流輝君を倒せる人間を、よそから転校させて来たってこと」

「よそから? てーか、永遠長を倒せる奴って、どういう奴なわけ?」


 秋代には想像できなかった。


「それは当日のお楽しみ」


 天国はニコリと笑った。


「何しろ、当の流輝君でさえ、まだ知らないんだから」

「教えてないの?」

「知ったら面白くないって。それでなくても同じ授業を何度も繰り返して、マンネリ感がハンパなくて飽き飽きしてるから、そのぐらいの刺激がないとやってられんて。なにしろ、退屈だと死んじゃう病にかかっちゃってるから」

「ホント、つくづく好奇心だけで生きてるわね、あんた」


 秋代は横目で永遠長を見やった。


 そして常盤学園は、天国が言うところの、お楽しみの日を迎えることになったのだった。


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