第150話
1月3日、PM12:00。
タイムリープの完了後、
「ここって……」
秋代は周囲を見回した。すると、そこは見慣れた会議室の中で、周囲には木葉たち「ロード・リベリオン」メンバーの他、天国や海道、ロセたちの姿もあった。
「どうやら会議中に戻ってきたらしいわね」
秋代たちにとっては、むしろ好都合だった。
「さっそくだけど、さっきのこと、もう少し詳しく説明してもらえる?」
秋代は天国に説明を求め、
「ええ」
天国も現時点で自分が知る限りの情報を提供した。
まず今回の事件の首謀者が、スルド王国の第1王子グラン・エスカージャであること。
そして、その王子が何らかの方法で、異世界を移動できる方法を手に入れたこと。
ただし、その方法は実用性が疑わしかったため、地球人を使って実験を行ったこと。
そして実験には成功したものの、この召喚方法の性質上、すぐには地球侵攻を実行できなかったこと。
「性質上? その召喚方法に、なんか問題があるってこと?」
秋代が尋ねた。
「1言で言うと、その移動法がアニメなんかによくある、異世界召喚法だったってこと」
「は?」
「ほら、アニメなんかだと、よくあるでしょ。異世界人が地球人を召喚するだけしといて、地球に戻す方法はないってパターン」
「あるわね。てか、ほとんどがそうだけど、それがどうかしたの?」
秋代が小首を傾げたところで、
「でも」
小鳥遊が声を上げた。
「それだとラーグニー人は、地球に来ることも攻撃することもできないんじゃ?」
天国の言う通りなら、ラーグニー人は地球人をラーグニーに召喚することはできても、地球に人や物を送ることはできないはずなのだった。
「あ、そういうこと」
秋代も天国が言わんとするところを理解した。
「そう。だから流輝君は、今回の件にプレイヤーがからんでる可能性があると考えてるみたい」
「それって、誰かがラーグニー人に手を貸してるってこと? あのときみたいに?」
秋代の脳裏に、真境の顔が浮かぶ。
「ええ、プレイヤーなら、どこの異世界にも自由に移動できる。だから、まずそのプレイヤーが地球に戻り、次にラーグニーの魔術師たちを地球に召喚する。そして召喚された魔術師たちが、今度は兵器を地球に召喚した」
だが、地球人を滅ぼせる数の魔法弾を1箇所に召喚したのでは隠し場所に困るし、各国を攻撃するとき、それだけ長距離の転移が必要となる。
「だったら地球を攻撃するときに、その爆弾を召喚すればよかっただろうに」
海道の指摘に、
「それだと、その魔術師たちも爆弾の被害を受けちゃうことになるでしょ」
天国が答えた。地球で使用された魔法弾の効果範囲は、直径100キロを超える。そんな爆弾の爆心地にいれば、召喚者も死んでしまうのだった。
「そ、そうか」
「だからラーグニー人たちは、まず魔法弾をラーグニーから召喚して、攻撃直前に攻撃対象地に転移させたの。そうすれば魔法弾が爆発しても、召喚者が被害を受けずに済むから」
「な、なるほど」
「ただし、さっきも言ったように、1箇所だけに集めたんじゃ見つかりやすいし、転移にも多大な魔力が必要になってしまう。そこでラーグニー人たちは、世界各地に分散して、人目につかない場所に爆弾を隠した」
しかし、そのためには魔術師が異世界召喚可能な場所まで、爆弾を運ばなくてはならない。だが、そんな真似をすれば黒洲の事件以後、独自にラーグニーの調査を続けていた永遠長に気づかれてしまう恐れがあった。
「そこで王子たちは、まず爆弾をエルギアに移動させて、そこから各地に分散。地球の地理と重ね合わせて、見つからないと思われる場所まで移動させたところで、改めて地球に爆弾を召喚したの。だから流輝君が、いくらラーグニーを調べても見つけられなかった」
「あいつ、そんなこともしてたわけ?」
「そう。それもあって、流輝君は忙しかったってわけ」
「話はわかったが、結局吾輩たちは何をすればよいのだ? その地球にあるという爆弾を撤去すればいいのか?」
海道にとって重要なのは、そこだった。
「でも撤去するったって、もう世界中に散らばっちゃってんでしょ? それを全部撤去するなんて、無理ゲーなんじゃないの?」
秋代はそう言ってから、あることに気づいた。
「ああ、それで緊急ミッションイベントなんて言い出したわけね」
プレイヤーを総動員して、人海戦術で全部の爆弾を見つけ出そうと。
「外れ」
「え? 違うの?」
「ええ。だって復活チケットが使えない地球で、そんなミッション発動しても、失敗するのが目に見えてるから」
プレイヤーが異世界で自由に活動できるのは、死んでも復活チケットで復活できるからに過ぎない。だから、復活チケットが使えない地球で危険なミッションを行ったところで参加者はしれているし、戦果も期待できない。だけならまだしも、下手に手間取ると、作戦を早められる恐れすらあるのだった。
「じゃあ、どうするわけ?」
「それなら大丈夫。そっちは、もう流輝君が動いてるから」
「永遠長が?」
「ええ、グズグズしてると、このことを知った各国が、魔術師や魔法弾の確保に動き出してしまうから」
異世界の権益に関心を寄せる国々は、スパイをプレイヤーとして異世界に送り込んでいる。そしてラーグニーの魔法兵器は元より、武器も自由に召喚できる異世界召喚術は、どこの国も喉から手が出るほど欲しい情報なのだった。
「て、言ってるうちに片が付いたみたい。兵器と魔術師全員石化して、太平洋の真ん中に沈めちゃったから、もうどこの政府も手が出せないでしょうね。流輝君並の力を持った人間がいれば、話は別だけど」
天国は淡々と説明し、
「じゃ、そっちはそれでいいとして、じゃあ、ミッションイベントって何するわけ?」
秋代も眉1つ動かすことなく話題を変えた。
「流輝君の考えでは、地球にいる魔術師と爆弾は自分が無力化して、プレイヤーにはエスカージャ王子の母国であるスルド王国を攻撃させようと思ってるみたい」
「スルド王国を?」
「ええ」
その場合は異世界が戦場となるため、プレイヤーも死を恐れずに戦えるだろうし、地球に侵略しようとしている国だから攻撃にも正当性もある。
「加えて、エスカージャ王子の心胆を寒からしめることもできる」
エスカージャ王子が地球への侵攻を決断したのは、自国民の安全が保証されていると思えばこそ。自分の決断によって、自国民に被害が及ぶとなれば、話は当然違ってくる。
「地球の爆弾を無力化しただけだと、また同じことをしかねないけれど、もしそんな真似をすれば、民が皆殺しにされかねない。そう思ったら迂闊に動けなくなるし、他国への牽制にもなる」
そしてプレイヤーには、自分たちの手で自分たちの世界を守ったという自負と満足感を与えることができる。
「でも、中にはやり過ぎる者が出る可能性がある」
ラーグニーは侵略者だ。そいつらを攻撃して何が悪い。
殺せばミッション失敗なら、殺さなければいいんだろう。と、必要以上に危害を加える者や、一般人に手を出す者が現れる可能性もある。
「そこで秋代さんたちには、現地でその手の暴走を防いでもらいたいの」
天国の指示に、
「わかったわ」
まず秋代が了承すると、
「任せておけ。そんな不心得者どもを見つけたら、吾輩が性根を叩き直してやる」
海道もドンと胸を叩いた。
そして、一夜明けた翌1月4日正午、全プレイヤーの異世界ナビに、緊急ミッションイベントが発表された。
イベント内容は、クルド王国の王都を含めた30の砦の制圧。及びグラン・エスカージャ王の拘束だった。そしてプレイヤーをもっとも憤慨させたのが、
ただし、このミッション中、1人でもラーグニー人を殺害すれば、ミッション失敗とする。
というミッション達成条件だった。
これは、攻城戦においては、ただでさえハードルの高い条件だったが、一連の事情を知るプレイヤーにとっては、別の意味で理不尽極まりなかった。なぜ地球人を皆殺しにしようとした連中の命を気遣わなければならないのか? と。
しかし、いくら理不尽でも決定権は運営にあり、失敗すれば永遠長の気分1つで殺されかねない。
プレイヤーたちにとっては腹立たしい限りだったが、運営の出した条件に従わざるを得なかった。
そして時を置かず、プレイヤーたちによる襲撃の報は、エスカージャ王子にもたらされることになった。
「どういうことだ!? 作戦が、どこかから漏れたのか!?」
エスカージャにとっては、まったく想定外の事態だった。奇襲をかけるはずだった自分たちが、その地球人の奇襲を受けるとは。
「兵たちが応戦していますが、長くは持ちません。こうなっては是非もありません。このまま異世界に向かいましょう」
イスファーンはエスカージャに決断を促した。
「そんなことができるか。兵たちが戦っているというのに、王族である私が逃げてどうする!」
「逃げるのではありません」
イスファーンは毅然と言い返した。
「地球に行き、計画を実行するのです」
「計画を?」
「そうです。たとえ、ここが落とされようと、地球人を全滅させられれば戦況は逆転します」
「し、しかし、この国の民が滅びては、地球侵攻に意味など……」
「たとえ我が国が滅びようとも、ラーグニーには未だ数億の民がいます。この計画は、クルド1国だけの問題ではありません。この世界に住む全人類の命運がかかっているのです!」
イスファーンの覚悟に、
「イスファーン……」
エスカージャの顔から迷いが消える。
「この戦いは、ラーグニー人の生き残りを賭けた戦い。たとえ我らが死んでも、ラーグニーの血を後世に残せれば我々の勝ちなのです」
「よくわかった、イスファーン」
エスカージャは机上に置いてあった異世界ナビを手に取ると、イスファーンとともに地球へと移動した。そして移動に成功したエスカージャたちは、計画を前倒しするため、
「コーセフ! どこだ、コーセフ!?」
魔術師団長を探した。しかし、隠れ家である過疎地の古寺には、魔術師団長はおろか配下の魔術師さえもいなかった。
魔法弾の最終確認でもしているのか?
エスカージャたちは魔法弾が収納してある洞窟へと向かった。すると、
「な!?」
100は用意してあったはずの魔法弾が、1つ残らず消えていた。
「どういうことだ!?」
「まさか、すでに地球人の手がここまで!?」
イスファーンは鼻白んだ。迂闊と言わざるを得なかった。王都に地球人が攻め込んできた時点で、地球人に計画がバレたことは明白。であれば、こちらの切り札である魔法弾を抑えにかかることは、容易に想像できたというのに。
「そういうことだ」
背後からかけられた声に、
「!?」
エスカージャたちは振り返った。すると、若い男女が立っていた。
「何者だ!?」
「そんなことはどうでもいい」
永遠長はぶっきらぼうに言い捨てた。
「おまえたちに残された道は2つしかない。このまま投降するか、ラーグニー人を皆殺しにされるかだ」
「どちらも御免被る」
イスファーンは腰の魔動銃を引き抜いた。
「貴様らこそ、残された道は2つだけだ。魔法弾の在り処を話すか。このまま死ぬか」
「魔法弾の在り処?」
いぶかしむエスカージャに、イスファーンはうなずいた。
「おそらく魔法弾は、この者たちが別の場所に移したのでしょう。ならば、この者たちから魔法弾の在り処を聞き出し、奪い返すのです。魔法弾さえ取り戻せば」
「もういい! やめろ、イスファーン!」
この2人が何者かは知らないが、ここにいた魔術師20人を倒せる力を持っていることになる。そんな猛者を相手に、いくら剣術指南役のイスファーンといえども、勝てるとは思えなかった。しかし、
「そうはいきません」
イスファーンは引かなかった。
「言ったでしょう。この戦いには全ラーグニー人の命運がかかっていると。ここで我々が敗北すると言うことは、ラーグニー人の絶滅を意味するのです」
「じゃあ、もし戦わなくても、あなたたち全員が生き残れる方法があるとしたら?」
天国の口調は軽かったが、その目に虚偽の色は見られなかった。
「あるのか? そんな方法が?」
エスカージャも、好きで地球侵略を企てたわけではない。誰も殺さずに、ラーグニーの民が助かる方法があるのなら、それに越したことはないのだった。
「騙されてはいけません、王子。そんな話は、我らを油断させるためのデマカセです。もし、そんなものが本当にあれば、とうの昔に我々が見つけているはずです」
あくまでも強攻策を主張するイスファーンを、
「それは、おまえたちがバカだからだ」
永遠長は容赦なく切り捨てた。
「それに油断させる必要もない」
永遠長がそう言い捨てた直後、
「な!?」
イスファーンの持つ魔動銃が石化した。
「この!」
それでもあくまで戦おうとするイスファーンを、
「やめろ、イスファーン!」
エスカージャは鋭い口調で制止した。
「しかし王子」
「おまえも、もう本当はわかっているんだろ。その男が本気なら、石になっていたのはおまえだということを」
「く……」
イスファーンは忌々しそうに永遠長を睨みつけたが、
「仰せのままに」
最後は拳を収めた。
「我々の負けだ。この身を、どう処してくれてもかまわない。だが、その前に教えてくれ。本当にあるのか? ラーグニー人が生き残れる方法が? 本当にあるなら、どうか教えてくれ。頼む!」
エスカージャは天国たちの前にひざまずいた。
「私たちは、あくまでも助かる可能性を提供するだけ。それでもかまわない?」
「かまわない。わずかでも、その可能性があるというのであれば」
「そう。それじゃ」
天国は、以前から考えていたラーグニー救済計画の全容を、エスカージャ王子に伝えた。
「本当に、そんなものが?」
天国の話を聞き終えたエスカージャは、イスファーンと顔を見合わせた。
とても、にわかには信じがたい話だったが、最終的に、
「頼む。ラーグニーの民を助けてくれ」
エスカージャは天国の提案を受け入れたのだった。
結果、エスカージャとイスファーンはラーグニーに戻ったところをプレイヤーに拘束され、緊急ミッションイベントは終了した。
しかし、それですべてが終わったわけではなかった。
ラーグニーは地球に侵攻し、地球人を殲滅しようとした。
タイムリープによって、その蛮行は未然に防がれたとはいえ、その事実が消えるわけではない。
何も首謀者を死刑にしろとはいわない。
しかし事情を知るプレイヤーからすれば、この事件の首謀者を厳罰に処すなど、今後の地球の安全を保証する具体案が欲しいところだっだ。
そのため、今後のエスカージャ王子の処遇を含め、主要ギルドのギルドマスターたちは話し合いの場を設けることにした。しかし、ギルド戦の火付け役でもある「ノブレス・オブリージュ」の尾瀬は、
「そんな話し合いなど無意味ですわ」
会議への参加を辞退したのだった。
「わたくしたちが何を話し合ったところで、あの「背徳のボッチート」が耳を貸すわけなどありませんもの」
それが尾瀬の不参加理由であり、彼女の主張には一定の説得力があった。そこで、他のギルドマスターたちは、異世界ギルドの見解を聞くべく、永遠長のもとへと向かった。
そして、王城の客室に詰めかけたギルドマスターたちに対する永遠長の返答は、
「何を勘違いしている」
だった。
「ラーグニーの侵攻を阻止したことで、自分たちも異世界ギルドの運営になった気ででもいたのか?」
永遠長は吐き捨てた。
「今のおまえたちは、ただ単に異世界ギルドが提供した「ラーグニー人による地球侵攻計画を阻止する」という「緊急ミッションイベント」に参加した1プレイヤーに過ぎない。そして、そのイベントが終了した以上、1プレイヤーであるおまえたちに、これ以上この件に口を差し挟む権利などない。わかったら失せろ。この負け犬どもが」
永遠長の傲慢極まる物言いに、ギルドマスターたちは鼻白んだ。
「ええい! 運営かどうかなど関係ないわ!」
南部は毅然と言い返した。
「ラーグニー人が地球に攻め入り、地球人を大量に殺したことは、あの会場にいた者ならば全員知っている! いかにその歴史が修正されようと、その事実が変わることはない! そしてその事実がある限り、その怒りとラーグニー人への不信感が消えることもない! そして消えぬ以上、この事態をこのまま有耶無耶にしたのでは、またモスの二の舞いになる! それを避けるためにも、敗戦国のリーダーには、それなりの責任を取らせる必要があると言っているのだ!」
「つまりおまえは、もう1度俺1人で過去に戻り、問題を解決するべきだと言っているわけだな。そうすれば、今回の事件を覚えている人間は誰もいなくなり、おまえの言っている危険はなくなるわけだからな」
「だ、誰も、そんなことは言っておらん!」
南部は気色ばんだ。しかし、これ以上このことを追求すれば、永遠長は本当にやりかねない。
絶句した南部に代わり、
「首謀者の処罰はともかく、安全の保証は欲しいところだね」
明峰が話を引き継いだ。
「少なくとも、2度とラーグニー人が地球に侵攻しないと確信できる、なんらかの具体案が提示されない限り、みんな納得しないと思うね」
もっともな明峰の意見を、
「寝言を言うな」
永遠長は切って捨てた。
「2度と戦争を起こさない。そんな夢物語を実現できる方法があれば、とうの昔に地球から戦争はなくなっている」
「まあ、そうなんだけど」
明峰は人差し指で頬をかいた。
「そもそも、おまえたちの納得など求めていない。もし今回のことで、プレイヤーの中からラーグニー人に危害を及ぼす者が現れた場合には、規約に則り異世界から永久追放する。ただ、それだけの話だ」
そう言い捨て、永遠長が話を切り上げようとしたとき、
「要するに、この先ラーグニー人が地球人に危害を加えない。加える必要がなくなったことを証明できればいい。そういうことよね?」
天国が仲介に入った。
「まあ、そういうことだね」
「だったら、見せてあげる。ラーグニー人が少なくとも、しばらくの間は地球に侵攻しないっていう証拠を」
「あるのか、そんなものが?」
南部は身を乗り出した。
「ただし、公開は明日のギルド戦の後になるけど」
「なぜだ?」
「そりゃ、こっちにも色々と準備があるし、何より今はほとんどのプレイヤーがラーグニーにいるから」
「意味がわからん。大勢いたほうが、手間が省けていいだろうが」
「確かに手間は省けるけど、それだと儲けにならないでしょ」
「も、儲け?」
「ええ、ここで今日公開したら、このままみんなに見られて終わりだけど、日を改めれば、もう1度みんなにチケットを買ってもらえるわけだから」
天国の説明に、
「な!?」
南部の口が全開放される。
「つまり、それだけチケットが売れることになる。仮に1000人が見に来たとしたら100×1000で10万円。1万人なら100万円の儲けになる。運営としては、そっちのほうがいいに決まってる。でしょ?」
天国がギルド戦後に、復活チケットの販売停止を敗北条件から撤廃したのも、半分は同じ理由だった。
復活チケットを販売停止にすることで、プレイヤーに覚悟を促すという、永遠長の考えもわかる。
しかし、それで本当にプレイヤーが死んだ場合、寺林の言葉通りなら、そのプレイヤーは異世界での記憶を失い、ただの無力な人間に逆戻りしてしまうことになる。
永遠長は、それでもいいと思っているようだが、異世界ギルドの存在理由は地球人の強化であり、その意味でプレイヤーの死は損失でしかない。加えて、地球の現状がプレイヤーに周知されたことで、復活チケットの重要性は今まで以上に高まることになった。
ゲームで考えればわかりやすいが、復活できれば多少強いモンスターのいる場所でも、試しに行ってみようという気にもなる。だが、死んだら終わり。もしくは、また1からやり直さなければならないとなると、嫌でも慎重になり、確実に勝てる相手としか戦わなくなる。すると、その分だけレベルアップも遅くなり、結果的に異世界ギルドの設立理念に反することになってしまうのだった。
極論すれば、どれだけ復活チケットを使おうが、本番までに強くなっていればいいわけで、そのためにも復活チケットは販売し続ける必要がある。というのが、天国の考えなのだった。むろん、そのほうが儲かるというのも、偽らざる本音ではあったが。
「というわけで、今日のところはお引き取りを」
天国はニッコリ微笑み、
「わ、わかった」
南部たちは渋々ながら引き下がった。
天国の主張を1部認めたこともあったが、これ以上無駄な時間を食うわけにはいかないというのが、1番の理由だった。
明日のギルド戦で異世界ギルドチームに勝利し、不快で傲慢でクソ忌々しい永遠長にリベンジを果たすために。




