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第148話

 現在、楽楽は永遠長と同化したまま、離れることを拒んでいる。

 その原因は楽楽が生きてきた家庭環境にあり、楽楽本人に責任はない。とはいえ、いつまでもこのままでいいわけもない。


 そこで天国が考えたのが「魔女っ子計画」だった。


 楽楽は、キャラに魔法少女を選ぶぐらいだから、魔法少女が好きなのだろう。ならば、その魔法少女を餌に楽楽の気を引き、自立を促す。


 それが計画の概要だった。


 しかし好きだからこそ、今ある魔法少女モノは、すべて知っている可能性がある。

 そこで天国が目をつけたのが、一昔前の「魔女っ子シリーズ」だった。


 昭和時代のアニメであれば、楽楽も知ってはいても実際に見たことはないかもしれない。

 そう考えた天国は「魔女っ子シリーズ」のDVDを全巻購入。食事中に「魔法少女シリーズ」を再生することで、楽楽が関心を持つよう仕向けたのだった。


 すると案の定、初めて見る魔法少女モノに楽楽は強い関心を示した。

 そんな楽楽の反応に、確かな手応えを感じた天国は、作戦を次の段階に移行した。具体的には、主人公のピンチなど、この先どうなるか続きが気になる、というところでアニメの再生を停止。続きを見せないまま、また別の「魔女っ子シリーズ」を楽楽に見せると、またいいところで消す。という行為を繰り返したのだった。


 続きが見たい。だが天国は見せてくれない。

 そうなると、残る手段は唯1つ。自分の手で続きを見るしかない。

 しかし、それを永遠長の中にいるまま行われたのでは意味がない。


 そこで天国は、寝る前に自分と永遠長を手錠で拘束。睡眠中に、もし永遠長が動けば自分も目を覚ますようにしたのだった。


 結果、楽楽に残された道は、アニメを見るために永遠長の体から抜け出すか。それともアニメの続きを見ることをあきらめるか、の二者択一となってしまったのだった。


 パパの中から出たくない。だがアニメの続きも見たい。


 葛藤の末、楽楽が選んだのは「アニメの続きを見ること」だった。


 こうして楽楽は、毎夜、寝入っている永遠長の体から抜け出すと、居間へ直行。明け方までアニメを鑑賞すると、またコッソリ永遠長の体に戻る、という秘密活動を続けたのだった。もっとも永遠長と天国には、初日から気づかれていたのだが。


 そして数ある「魔女っ子シリーズ」のなかで、特に楽楽のお気に入りになったのが「花の子ルンルン」だった。

 それこそ、自分の変身シーンの挿入歌とするほどに。


 そして今、楽楽はパパの窮地を救うために自らの意思で殻を破り、外への第一歩を踏み出したのだった。


 他方、


「…………」


 謎の魔法少女の登場は、連合チームに困惑をもたらしていた。なにしろ、永遠長が何か口ずさんだと思ったら、突然少女に変身してしまったのだ。混乱するなというほうが無理な話だった。


 そんな連合チームのなかで、


「は!」


 真っ先に我に返ったのは、ドラゴンスレイヤーの由崎だった。


「くだらん真似を」


 由崎は吐き捨てると、


「惑わされるな、長内!」


 片翼を一喝した。


「お、おう!」


 由崎の渇で我に返った長内は、由崎とともに永遠長が変身したと思われる魔法少女へと切り込んだ。しかし、


「マジックシールド! なのー」


 ステッキひと振り。楽楽が作り出したバリアーに弾き返されてしまった。


「この程度の結界」


 由崎はジョブスキルで結界を突き破ろうとした。それを見て、


「動いたら、め! なのー!」


 楽楽はステッキを振り下ろした。直後、


「な!?」


 由崎の動きが止まった。そして、それは楽楽の半径1キロにいる、すべての人間の身に起きていた。


「ララランランラン、ララランランラン、ララランランランランラーン」


 楽楽は何事もなかったかのように、スキップしながら空へと舞い上がっていく。


 そんな楽楽の異世界デビューは、観客たちにも驚きを持って迎えられていた。例外は、


「魔法少女キター!」


 魔法少女の登場というサプライズを喜ぶ常盤と、


「げ!」


 あらかじめ楽楽のことを知っていた真境だけだった。


 当初、事が事だけに、真境は異世界ギルド側から参戦しようと考えていた。しかし永遠長から「いらん。おまえはおまえの仕事をしろ」と断られてしまったのだった。とはいえ、やはりギルド戦の勝敗は、自分の運命をも左右しかねない。そのため、モナとともに観戦に来たのだが、まさか……。


「な、なんで、あいつがここに!?」


 真境の顔が引きつる。あの地球でのやり取り以降、真境には楽楽に対する苦手意識が植え付けられていたのだった。


「あの子のこと知ってるの、ツカサ?」


 隣に座っていたモナに尋ねられた真境は、


「ま、まあな」


 内心の動揺を抑えて、務めて冷静を装った。


「前に1度だけ、会ったことがある」


 真境にとっては思い出しただけで胃が痛くなる、忌まわしい過去だった。

 と、同時に疑問が浮かぶ。


 だが、どうして、あの子がここに? それも、永遠長と入れ替わるように?


 その真境の疑問は、おそらくギルド戦に居合わせた大半の者が抱いているものだった。


「これは一体、どういうことなのでしょうか、寺林さん?」


 落ち着きを取り戻した常盤は、寺林に説明を求めた。


「いや、私にも何がなんだか……」


 寺林がそう答えた直後、常盤の前に1枚のレポート用紙が出現した。見るとレポート用紙には、現れた少女が優姫ゆうき楽楽という名前で、鬼の血を引いていること。世界救済委員会によって選ばれた「救済者」であり、以前起きた地球における「モンスター発生事件」の犯人であること。そして、その後永遠長に同化されたことが、多分の悪意を含んで書かれていた。


「えー、今、スタッフより緊急情報が入りましたので、お知らせします」


 常盤はレポート用紙を手に取ると、


「あの子の名前は優姫楽楽君。異世界ストアと同様に、地球を救うために結成された「世界救済委員会」によって、魔法少女の力を与えられた少女とのことです」


 余計な雑音を省略して楽楽の素性を説明した。


「なお、彼女が永遠長選手と入れ替わる形で登場した経緯ですが、どうやら以前とある事件が原因で精神的ダメージを受けた彼女を、永遠長選手が保護。生命維持と精神的ダメージ回復のために、彼女の「同化」のクオリティを利用して、自分と同化していたことが原因とのことです」


 常盤の説明を聞き、観客たちが再びどよめく。


「なるほど。よく見ると、異世界ギルド側からの出場者リストの中に、確かに優姫楽楽という名前がありますね」


 寺林が情報を補足した。


「なるほど、出場者リストに載っている以上、ルール違反ではないということですね」


 常盤の問いに、


「はい。問題ないと思います」


 寺林はうなずいた。


「しかし寺林さん、永遠長選手が魔法少女に変身した経緯はわかりましたが、なぜ変身できたのでしょうか?」


 現在、永遠長の力は尾瀬に封じられている。であれば、永遠長と同化している楽楽の力も、同じく封印されているはずなのだった。


「それは、おそらく尾瀬君が「封印」のクオリティを発動したとき、永遠長君の力を封印することだけを意識していたためと思われます」

「なるほど、それで」

「はい。クオリティは心の働きが発動に大きく関与します。尾瀬君が永遠長君の力を封印した際、彼女は永遠長君の力を封印することだけを、強く思っていたのではないでしょうか」


 でなければ、尾瀬が永遠長の力を封印した際、永遠長は動けなくなっていたはずだった。


「ですが、そうならなかったのは、尾瀬君の意識が、あくまでもクオリティを含めた永遠長君の力のみに向いていたからだと思われます。きっと、それだけ永遠長君の力を脅威だと感じていたのでしょう」

「なるほど。だから優姫選手は魔法少女に変身できたというわけですね」

「そうだと思います。たとえ同化しているとはいえ、魂は別物。そしてプロビデンスは選ばれた本人に帰属するものです」


 もし、あのとき尾瀬が永遠長ではなく、あの場にいた「人間」の力を封じていれば、あるいは楽楽の力も封じられていたかもしれない。


「しかし、まさか尾瀬君も、永遠長君が別の人物と同化しているとは思いもしなかったでしょうから、これは尾瀬君のミスというよりも、永遠長君の作戦勝ち、というか、か弱い少女を自分に同化するという非道な真似を平然と行える、永遠長君の非常識さが尾瀬君の戦略を上回ったということでしょう」


 つい最近、それと同じようなことをしたことなど棚の向こうに放り投げ、寺林は涼しい顔で解説を締めくくった。


 そして楽楽の存在は、実況を通じて尾瀬の耳にも届いていた。


「ど、どうしましょう、尾瀬さん」


 うろたえる藤田を、


「落ち着きなさい」


 尾瀬は軽くたしなめた。


「確かに、このような事態は想定していませんでしたが、あの男の力が封印されているという事実に変わりはないのですから」


 ならば、あの場にいるのは魔法少女、いや、ただの魔術師に過ぎない。


「であれば、数で勝る我々が負ける道理がありません」


 尾瀬の目は確信に満ちていた。


 そして、尾瀬の判断は的確だった。


 そう、彼女に与えられた情報の範囲内においては。


 一方、周囲の混乱など、どこ吹く風。


「ララランランラン、ララランランラン、ララランランランランラーン」


 楽楽は、スキップしながら空へと登り続けていた。


「何をするつもりか知らんが、その前に叩き落としてやる!」


 高峰は「空帝」他、飛行可能メンバーと共に空を駆け上がる。それを見て、


「らいごうでんげき、なのー!」


 楽楽はステッキを振り上げた。すると、楽楽の上空に発生した暗雲から、


「!?」


 無数の雷が降り注いだ。そして落雷を受けた飛行部隊は、反撃する暇もなく撃墜、もしくは消失していった。そしてブンブンうるさいカトンボを撃退した後、


「ララランランランランラーン」


 楽楽は上空1000メートルまで駆け上がったところで、


「パパをイジめちゃ」


 高々と振り上げたステッキを、


「め!!! なのー!!!」


 勢いよく振り下ろした。すると、上空に無数の隕石が出現。そのまま地上へと落下していった。そして地上に激突した隕石は、連合チームのメンバーを押しつぶし、あるいは消し飛ばし、フィールドを灼熱地獄へと変えていく。と、同時に、フィールドと観客席の間に設けられたリタイア席に、次々と連合メンバーが転送されてくる。


 本来、異世界で死んだプレイヤーは、地上に強制送還される。だがギルド戦において、従来通り地球に戻したのでは、プレイヤーが再びディサースに戻って来た場合、戦場に戻ってしまうことになる。かと言って、勝負が終わるまで戻って来れなくした場合、リタイア組は勝負の行方を見ることができない。そこでギルド戦の参加者に限り、フィールド外に設置されたリタイア席に転移するようになっているのだった。


『……社長』


 フィールドの惨状と、続々とリタイアしてくるプレイヤーを見ながら、寺林は外部に漏れないよう、テレパシーで常盤に語りかけた。


『水乃の奴、ちょっとヤリ過ぎなんじゃありやせんか?』


 フィールドは、寺林の張った結界により外部と隔てられていたため、観客に被害は出ていない。しかし、そうでなければ観客も消し飛んでいるところだった。


『ちょっと、ガチで注意したほうがいいんじゃないっスかね』


 最近、水乃が暴走気味であることは寺林も聞いていた。しかし、正直ここまでとは思ってなかったのだった。

 そんな寺林の懸念に対する常盤の答えは、


「かわいいから、よし!」


 だった。


 そして流星雨が止み、フィールドが静寂を取り戻したところで、スクリーンに「連合チーム 生存者数0」が表示された。


「連合チームの生存者はゼロ! よって異世界ギルドの運営権を賭けた、異世界ギルドチーム対連合チームの戦いは、異世界ギルドチームの勝利となりましたー!」


 常盤は高々と、異世界ギルドチームの勝利を宣言した。


 そして、すべての敵をステッキの1振りで屠った楽楽は、


「ララランランラン、ララランランラン、ララランランランランラーン」


 テーマソングを口ずさみながら地上に舞い降りてきた。

 そして、そんな楽楽を地上で天国が迎える。


「こうして顔を合わせるのは初めてね、楽楽ちゃん」


 天国は楽楽に微笑みかけた。


「よかった。やっとパパの中から出てきてくれる気になったみたいで」


 天国にそう言われた瞬間、


「違うのー! 出てきたわけじゃないのー!」


 楽楽は両手で顔を覆いながら座り込むと、


「パパをいじめる悪い人たちを、め! しただけなのー! 楽楽はパパとずっと一緒にいるのー!」


 再び光に包まれた。そして光が消えた後には、体の主導権は再び楽楽から永遠長に戻っていた。


「お疲れ様」


 天国は改めて永遠長に微笑みかけた。


 そんな永遠長たちの様子を、秋代はリタイア席から見ていた。もっとも、リタイアは自分の意思で行ったことで、楽楽の隕石落としでやられたわけではなかった。


 通常、異世界で死んだ場合には、復活チケットが消費される。しかしギルド戦においては、自主的にリタイアした場合に限り、復活チケットの消費を免れる仕様になっている。そのため天国は、全滅寸前に全員をリタイアさせることで、被害を最小限に留めたのだった。


「あれが永遠長の言ってた楽楽って子なわけ? てか、あいつ、マジで子供と同化してたのね」


 秋代は、改めてドン引きしていた。すでに永遠長から聞かされていたことではあったが、心のどこかで「まさか、いくらなんでも」という気持ちが、かすかにあったのだった。


「ま、いいわ。なんであれ、これであの糞チビの悪巧みは、完全に失敗に終わったわけだから」


 自分の手で、尾瀬の息の根を止められなかったのは残念だが、どの道あの状況での直接対決は難しかっただろうから、よしとしておこう。


 秋代がそう自分を納得させた直後、


「た、た、大変だ!」


 観客の1人が声を上げた。


「ち、地球が、大変なことになってる!」



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