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第141話

 ロード・リベリオンが、シークレットにクラスアップするために動いている。


 その情報が尾瀬明理の耳に入ったのは、尾瀬家主催のチャリティー会場へと向かう車上でのことだった。


「いかがなさいますか、明理様」


 報告を終えた轟は、主の判断を仰いだ。


「放っておきなさい」


 それが尾瀬の答えだった。


「よろしいのですか?」


 我が陣営は、数の上では圧倒的に有利な状況にある。とはいえ、奴らがシークレットにランクアップすれば面倒なのは確か。たとえ、どんな小さな障害であろうとも、万が一の事態に備えて対処しておく。

 本来、それが尾瀬明理のやり方であり、そのために手を汚す覚悟もできていたのだが……。


「連中がシークレット獲得に動くことは、十分想定していたことです。現状、連中にできることは、それしかないのですから」

「な、なるほど。では、すでに何か手を」

「いいえ、何も。というよりも、むしろ絶対に手を出してはいけません。他の者にも、そう伝えておいてください。下手に手を出せば、取り返しの付かない事態を招きかねませんから」

「それは」


 さすがに大袈裟では? と言いかけて、轟はその言葉を飲み込んだ。従者の身で主の考えに異を唱えるなど、僭越極まりないことだった。

 しかし尾瀬は、そんな轟の心中を察した様子で説明を続けた。


「相手は、あの「背徳のボッチート」なのです。あの男は人でなしの冷血漢で、礼儀知らずのサイコパスですけれども、筋は通す男です」


 本当に、あの男のこととなると、とたんに子供っぽくなるなあ。


 轟は、そう思いながら「はあ」と生返事を返した。 


「だからこそ、1度ギルド戦を受けた以上、必ずギルド戦のみで勝負を決しようとします」

「はあ」

「ですが、もしこちらがそのルールを少しでも破るようなことがあれば、その瞬間あの男は「ルール」という楔から解き放たれることになるのです。そしてその場合、最悪あの男は敵である我が陣営を、こちら側で皆殺しにしかねないのです」

「いや、それは、いくらなんでも」


 考え過ぎでは? という言葉を、轟は飲み込んだ。


「やり過ぎだ、とでも? 自分たちは、ただシークレットになるのを邪魔しただけなのに、殺すなんてあんまりだ、と?」

「…………」

「こちらが妨害工作に出ておいて、相手がそれ以上の妨害工作に出たら、卑怯だ反則だと罵る。そんな恥知らずな真似はできませんし、したところで、あの男は聞く耳など持たないでしょう」


 殴られたら殴り返す。殺られたら殺り返す。


 それが「背徳のボッチート」という男なのだった。


「だからこそ、わたくしは勝負にギルド戦を選んだのです。それがあの男を打ち負かす、もっとも確率の高い方法であるという確信を持って」

「……わかりました。他の者にも厳命しておきます」


 轟は、速やかに主からの通達を参加ギルドに伝えた。が、時すでに遅かった。


 元々「ノブレス・オブリージュ」とは同盟関係でしかない参加ギルドに、尾瀬の指示に従う義務はない。

 そのため参加ギルドのいくつかは、このときすでに行動を起こしてしまっていたのだった。


 そして、その最初のターゲットとなったのは、秋代と木葉だった。


 時は、尾瀬が轟から報告を受ける2時間前に遡る。


 秋代たちがレシピ探索の済んだ森から引き上げようとしたとき、


「とう!」


 1人の青年が木の上から飛び降りてきたのだった。その登場の仕方が、まさに彗星のごとく、華麗にして颯爽と本人は信じて疑うことなく。


「木葉正宗に秋代春夏だな。おまえたちに話がある。心して聞くがいい」


 プレイヤーと思しき青年は、上から目線で話しかけてきた。


「誰よ、あんた?」


 聞くのもバカバカしかったが、秋代が一応尋ねると、


「なにい!?」


 青年の顔が驚愕と怒りに歪んだ。


「貴様あ! この世界にいて、このオレ様のことを知らんだと!」


 怒りを露にする青年に、


「あんた、知ってる?」

「知らん」


 秋代と木葉は互いに全否定しあった。


「この無知な猿どもめ。いいだろう、教えてやる。オレ様は門倉天かどくらたかし。ギルド「ヘブンズゲート」のギルドマスターにして、いずれ「ワールドアイズカンパニー」の社長となる男だ!」


 門倉は胸を張った。


「ワールドアイズって言ったら、あの運送業で大手のとこよね?」


 そう言う秋代に、


「要するに、宅急便屋の息子ってことじゃな」


 木葉は簡素化して納得した。


「で? その3K企業のバカボンが、あたしたちになんの用なわけ?」


 秋代は冷ややかに尋ねた。


「貴様らあ!」


 怒り心頭に発する門倉に、


「がんばって、天ちゃん。お姉ちゃんがついてるから」


 どこからか現れた少女が声援を送った。


「わ、わかっている。引っ込んでいろ、博姉」


 門倉は少女を木の陰へと押しやった。

 この少女はフルネームを門倉博美かどくらひろみといい、門倉にとっては3歳年上の義理の姉だった。そのため何かと門倉の世話を焼きたがり、ここにも必要ないと言ったにも関わらず「1人で行かせるのは心配だ」と、ついてきてしまったのだった。


「えーと、もういい? とりあえず、キャラ紹介は済んだってことで」


 秋代は冷めた目で言った。


「ふざけるな! そんなことのために、誰がこんなところまで出向くか!」


 門倉は右手の人差し指を突き出した。


「オレ様の用件は、ただひとーつ! 貴様らに降伏勧告にきたのだ!」

「降伏勧告?」

「そーだ! オレ様は無駄なことが嫌いなんだ。そして、それは今度のギルド戦も同じこと。戦る前から勝敗は見えている勝負など、時間の無駄でしかない。しかし貴様らも、ただ降参しろと言っても承知すまい。そこでだ。心優しいオレ様は、貴様らに慈悲をくれてやることにしたのだ」


 こんな虫けら共にも情けをかけずにはいられない。


 門倉は自分の博愛精神が恨めしかった。


「今降参すれば、貴様ら1人1人に、な! な! なんと! 1億円ずつくれてやろうとな!」


 門倉にとっては、出血大大サービスだった。


「貴様らが「背徳」といる理由は、結局のところ金だろ。そして、このままギルド戦を行えば貴様らは惨敗。金ズルを失うことになる。それぐらいなら、ここで1億円を受け取って運営権を譲り渡したほうが、遥かにマシだし無駄も省けるというものだ。どうだ? 素晴らしい提案だろう? 感謝し、崇め奉るがいい」


 門倉は、こんなことを思いついてしまう自分の才覚が恐ろしかった。


「……返事が聞きたい?」


 秋代は冷え切った目で門倉に言った。


「聞かなくてもわかっている。そんなことより、おまえたちがすべきことは、オレ様の提案を仲間に伝」

「今度のギルド戦で、あんたも絶対ブッ殺す!」


 秋代は右親指を地面に向けた。


「……今、なんと言った?」


 秋代の発言の意図が分からず、門倉は目を瞬かせた。


「聞こえなかったの? お断りだって言ったのよ」

「なんだとお!?」


 門倉にとっては考えられない選択だった。


「なぜだ!? なぜ断る!?」

「当たり前でしょうが。寝言は寝て言えってのよ」


 秋代はフンと鼻を鳴らした。


「オレ様は、貴様らのことを思って言ってやってるんだぞ!」

「何が、あたしたちのためよ。恩着せがましい。あんた、要するに糞チビたちに、オレスゲーしたいだけなんでしょ? このままギルド戦になったら、味方は山程いるから目立たないまま終わりかねないけど、ここで降参させれば功績は全部あんたのもんになるから」


 秋代の指摘に、門倉は鼻白んだ。


「実際、あんた弱そうだし」


 秋代は鼻で笑った。散々好き放題言われた、ささやかな仕返しだった。


「なんだと、貴様あ!」


 門倉は身構えた。


「なに? 裏工作が失敗したもんで、闇討ちに切り替えようってわけ?」


 秋代は皮肉った。


「ふざけるな! 誰が、そんな真似するか! だいたい、ここでやられたところで、また無傷で戻ってくるだけだろうが!」

「それもそうね。あんた、意外と賢いわね」


 秋代は素直に感心した。


「そうだろう。そうだろう」


 門倉は鼻高々で胸を張った。


「しかーし! それに気付いたところで、もはや手遅れだ! オレ様の怒りは、すでにマックスを超えている! オレ様をナメくさった報いを受けるがいい! そして、オレ様の力を思い知るがいい! 受けてみろ! オレ様の最強にして最高にして最大の」


 最大限まで力を貯めていく門倉にかまわず、


「オメガバースト」


 秋代はエネルギー弾を撃ち放った。そして門倉の足元に着弾したエネルギー弾は、


「うおおおおお!」


 門倉姉弟を彼方へと吹き飛ばしたのだった。


「マックスって最大って意味じゃろ? それを、どうやって超えるんじゃ?」


 木葉は小首を傾げ、


「ほっときゃいいわよ。ただのバカなんだから」


 秋代は一言で片付けた。


「あー、無駄な時間食ったわ。それでなくても時間がないってのに」


 秋代は疲れた顔で歩き出し、


「そじゃな」


 木葉も止めていた足を動かす。


 しかし一難去ってまた一難。

 森を抜け出たところで、秋代たちの前に再び邪魔者が立ち塞がったのだった。

 それも今度は強靭そうな肉体を、ガチガチの鎧で固めた大男4人に。


「闇討ち、じゃないわよね」


 さっきまでなら、そう思ったかも知れない。だが門倉の言う通り、復活チケットがある以上、連合チームが試合開始前に秋代たちを襲っても無意味なのだった。だとすれば、


「山賊ね」


 全員が鉄仮面を被っているため、容姿や年はわからなかったが、状況から見て間違いなかった。

 そして、その秋代の推測を肯定するように、大男たちは秋代たちに襲いかかってきた。


「この忙しいときに」


 秋代は舌打ちしつつ、低空飛行で一気に山賊との間合いを詰めた。

 飛んで逃げれば、とりあえず戦いは避けられる。しかし、ここで山賊を見逃すということは、この先この山賊たちによって引き起こされる被害を見過ごすということだった。

 悪党すべてを退治することなどできないが、せめて目の前に現れた悪は排除しておきたい。身勝手な独善だが、秋代はそう思うのだった。それに、どうせ片割れは言っても逃げないだろうし。


「なら!」


 この場合、速攻で終わらせるのが1番の早道だった。しかし、


「!?」


 秋代の1撃は山賊のハンマーに軽々と受け止められてしまった。


 なら!


 腕力的に不利を悟った秋代は、


「オメガバースト!」


 フェニックスウォーリアーのジョブスキルを撃ち出した。これに対し、


「グラウンド・ゼロ」


 山賊は振り下ろしたハンマーの1撃で、大地もろともエネルギー弾を粉砕してしまった。そして、その余波に巻き込まれ、秋代の姿も粉塵の中に消えた。と思われた直後、秋代がハンマー使いの背後に出現。


「石化付与!」


 ハンマー使いに石化を付与したのだった。それを見て、


「ほう」


 斧使いの口から感嘆の言葉が漏れる。が、それだけで、斧使いは動こうとはしなかった。そしてハンマー使いも石化することなく、


「ふん!」


 お返しとばかりに強烈なハンマーを秋代に繰り出したのだった。


「ちい!」


 秋代は飛び上がってハンマーを回避すると、頭上から剣の雨をハンマー使いに浴びせた。


 ハンマーが威力を発揮するには、打ち下ろすか薙ぎ払う必要がある。ならば頭上から、それもハンマーの射程圏外からヒット・アンド・アウェイで攻撃すれば、ハンマーの威力を半減させられると踏んだのだった。その秋代の判断に、


「ほう」


 斧使いから再び感嘆の声が漏れた。

 

 他方、木葉はというと、


「うおりゃああああ!」


 考えなしに突っ込んでいた。そして2人いる剣士のうち、長剣の使い手との間合いを詰めた木葉は、


「ふぬりゃあ!」


 渾身の力で剣を振り払った。この1撃を長剣使いは自身の剣で受け止めにいく。が、受けきれず吹き飛ばされてしまった。それを見て、


「ファイアーソード!」


 もう1人の剣士は、自身の剣に炎を帯びさせた。


「おお! 春夏みたいな真似するのう」


 木葉は楽しげに言うと、


「なら、こっちもブーストオン! じゃ!」


 負けじと「増幅」を発動させた。そして、


「うおりゃああああ!」


 今までに数倍する速さで剣士に切り込むと、炎の剣を弾き飛ばしたのだった。


「とどめじゃ!」


 木葉は剣士の頭上に剣を振り上げた。すると、長剣の使い手が自ら鉄仮面を外した。と思った直後、口から電撃がほとばしり出た。そして無警戒のところへ電撃を食らった木葉は、


「ほんげええええ!?」


 その場にバタンと倒れ込んでしまったが、


「あー、びっくりした」


 すぐに何事もなかったかのように起き上がったのだった。


「オレの豪雷を食らって「あー、びっくりした」だと?」


 長剣使いの矜持は著しく傷ついた。彼の経験則からすれば、今の1撃は間違いなく致命傷レベル。あー、びっくりした。で済むはずはないのだった。


「同じ電撃でも、やっぱ永遠の「雷轟電撃」ほどの威力はないようじゃのう」


 木葉から飛び出した「永遠長基準」に、


「なん、だと?」


 長剣使いの顔に不快感が浮かぶ。


「だったら見せてやる! オレの本当の力を!」


 長剣使いの体から鎧が弾け飛んだ。そして、


「オオオオオオ!」


 見る間に長剣使いは全長30メートルを超える、金色に輝くドラゴンへと変化したのだった。


「おお! おんしドラゴンソルジャーじゃったんか? 何ドラゴンじゃ? イエローか? ゴールドか?」

「サンダーだ!」


 長剣使いは、ドラゴン化した口から雷を吐き出した。


「ちゅうか、ドラゴンになってもしゃべれるんか?」


 妙なことに食いつきながら、木葉は右に飛び退いた。


「これでもまだ「背徳」のほうが上だとほざくか!?」

「うーん。そうじゃのう」


 木葉は腕組みして考え込むと、


「今ので、どっこいどっこいって感じかの。じゃが、永遠には「疾風迅雷」とかもあるからのう。総合力では、やっぱ永遠のほうが上じゃろ」


 そう結論づけた。


「こんの!」


 長剣使いは、さらなる1撃を見舞おうと再び口を開く。それを見て、


「だりゃ!」


 木葉はドラゴンの口に飛び込んだ。


 バカめ! このまま電撃を食らわせてやる!


 長剣使いは再び口から電撃を放った。しかし木葉は、


「ふぬりゃあ!」


 電撃を浴びながらもドラゴンの喉に剣を突き刺すと、


「ぬありゃあああ!」


 そのまま食道へと突っ込んでいったのだった。


「ぐああああああ!」


 喉から食道、そして胃を容赦なく切り裂かれた長剣使いは、


「あああ……」


 力尽き、その場から消失した。


「なんじゃ? もう終わりか? これから体中ブッた斬ってくれようと思っとったのに」


 木葉がつまらなそうに言うと、


「アホ!」


 秋代から怒声が飛んできた。その秋代も空中からのヒットアンドアウェイ戦法で、すでに斧使いを倒していた。


「無事だったからよかったようなものの、下手すりゃ食われて死んでるところじゃない!」

「生きとるんじゃから、ええじゃろうが」


 木葉は、あっけらかんと答えた。


「たく、ホントに、あんたって奴は」


 秋代は寄った眉間を指で押さえた。


「んなことより、後はあいつらだけじゃな」


 木葉は残った2人に目を向けた。すると、


「ハッハッハッハッハ!」


 斧使いが大笑いを始めた。


「何がおかしいんじゃ?」

「巫剣に聞いてた通り、いや、それ以上に無茶苦茶な野郎だな。気に入ったぜ」


 斧使いの口から出た名前に、


「巫剣?」


 秋代と木葉は顔を見合わせた。


「なんじゃ? おんし、巫剣の知り合いじゃったんか?」

「おう。何度も死闘を繰り広げた仲よ」

「……で? その巫剣の知り合いが、どうしてあたしたちを襲ってきたわけ?」

「ま、一言で言うと腕試しだな」

「腕試し?」

「くわしい話の前に、とりあえず自己紹介といくか。オレは立浪竜馬たつなみりょうま。百獣戦士団で頭はってるもんだ。で」


 岩戸は隣の剣士を見た。


「こっちは副団長の岩戸朱雀いわどすざく。で、おまえが倒したハンマー使いが滝勲たきいさお。ドラゴンになったのが堂本陣どうもとじんだ。よろしくな」

「わしは木葉正宗で、こっちは秋代春夏じゃ」


 律儀に名乗り返す木葉に、


「いいのよ、こっちは。あいつらは、あたしたちが誰かわかってて、あえて仕掛けてきてるんだから」


 秋代がささやく。


「名乗られたら名乗り返すのが礼儀じゃろうが」

「たく。で? 腕試しって、どういうこと?」


 秋代は本題に戻した。実際のところ、こうしている時間も惜しいのだった。


「いやな、つい最近まで「大勢で少数をボコるのは性に合わんぜよ」っつって、ギルド戦への参加を渋ってた巫剣が、急に参加するってんでよ。理由を聞きに行ったのよ。そしたら「背徳」以外にも面白い男がいるってえじゃねえか。しかも「背徳」の野郎も、負け戦だとは思ってねえときたもんだ。そこで、その自信が本物かどうか、自分で確かめてみたくなったってわけよ」

「ホラ見なさい。あんたが余計なことするから、余計な敵増やしちゃったじゃない」


 秋代は木葉に非難の目を向けたが、


「ほーか。巫剣の奴も参加するんか。ますます楽しみじゃのう」


 木葉は聞いていなかった。


「強敵が増えて喜ぶかよ。おめえも根っからの喧嘩好きだな。ますます気に入ったぜ」


 立浪は笑い飛ばした。


「で、本当にそいつが、野郎が言うほどのもんかどうか、この目で確かめてやろうってことになって、こうして出張ってきたってわけよ」


 脳筋にも程があった。


「たく」


 秋代は嘆息してから、


「てゆうか、聞いてると今度のギルド戦、あんたたちも出るのよね? なのに勧誘って、あたしたちの弱体化でも狙ってるわけ?」


 立浪に疑いの目を向けた。


「誰が狙うか、そんなもん。勝負は、ガチで戦り合うから面白えんじゃねえか。小細工なんかしたところで、興が削がれるだけだ。くだらねえ」

「だったら、なんで」

「あー、そりゃ、なんだ。興味があったからだよ。なあ、朱雀」


 副団長に話を振る立浪を見て、


 脳筋に聞いたあたしがバカだったわ。


 秋代は心のなかで反省した。


「加えて言うなら、敵と言っても、おまえたちはギルド戦までの敵に過ぎないということだ」


 岩戸が初めて口を開いた。


「ギルド戦が終わればノーサイド。敵も味方もなくなる」

「まあ、そう言っちゃえばそうだけど」

「だから、この話はギルド戦の後に考えてもらってかまわない。他のギルドもそう考えて、すでに動き出している」

「どういうこと?」

「早え話が、今度のギルド戦はオレたちが勝つってことよ」


 まどろっこしくなったのか。立浪がブッチャけた。


「そうなりゃ、運営権を失った「背徳」は、ただの人。自然と人は離れていく。おめえらだって実のとこ、野郎の運営権のおこぼれに与ろうと、野郎の側にいるんだろ? でなきゃ誰も好き好んで、あんな辛気臭え野郎の側にいるわきゃねえからな」


 以前、立浪も永遠長をスカウトしようと考えたことがあったのだが、


「興味ない」


 と、一蹴されてしまったのだった。


「で、その後「背徳」の野郎から取り上げた運営権は、参加ギルドが共同管理することで話が決まってたんだけどよ。そこに水挿した奴らがいやがったのよ」


 立浪は「けっ!」と吐き捨てた。


「チビが声かけた、どこぞのアメリカのギルドらしいんだがな。協力する見返りとして、運営権を手に入れた後で、その運営権をかけてもう1度勝負しろって言ってきやがったらしいのよ。それも今度は、自分たちのギルドとチビのギルドの一騎打ちでな。それに勝ったギルドが、運営権を独り占めできるってルールでな」


 厚かましいにも程があった。


「で、それをあのチビ、勝手にOKしてやがったのよ。オレたちに一言の相談もなくな。で、それがバレたら「自分たちが勝つから、何も問題ない」ときやがった」


 それも涼しい顔で、いけしゃあしゃあと。


「だが、それで黙って引き下がるほど、オレたちもお人好しじゃねえ。そこで話し合った末、運営権を手に入れた後でもう1度、今度は参加ギルド同士でギルド戦を行うことになったんだ。アメリカの野郎も含めてな」


 立浪はフンと鼻を鳴らした。


「ぶっちゃけ、オレたちゃ政治だの権力だのに興味はねえんだが、他の奴らに頭越しに美味しいとこだけ、かっさらわれるのはシャクだし、ケンカするってんなら戦らねえ手はねえ」

 

 立浪は右拳で左手を叩いた。


「だからギルド戦には出るし、戦るからにはゼッテー勝つ! で、勝つにはツエー奴がいるに越したこたあねえ。そこで今度のギルド戦に参加するギルドは、その次のギルド戦を見越して、それに備えた人材集めに動き出してるってわけよ。だから今頃は、おめーらの仲間たちのところにも、スカウトしようってギルドが近づいてることだろうよ。特に、土影だったか? モスを救ったっていう勇者は、競争率が高えんじゃねえか? 回帰っつう、便利な力も持ってるしな。オレは勇者みてえな優踏生タイプは肌に合わねえから、誘う気はねえけどな」


 男は小手先のスキルよりも筋力と体力。最後は純粋な強さが勝敗を決する。

 それが立浪の信条なのだった。


「と、まあ、そんなわけで勝負前だが、おめえらに声をかけたってわけよ。本当は、そっちの野郎だけ誘うつもりだったんだが、おめえも大したもんだし度胸もある。オレたちのギルドにゃあ、男も女もねえ。強えことがすべてよ。強けりゃ誰でも歓迎する。だから、2人そろってオレたちのギルドに来いよ。そんで、一緒に暴れ回ろうぜ」


 立浪は木葉と秋代に右手を差し出した。それに対する2人の答えは、


「嫌じゃ」

「おことわりよ」


 だった。


「……そりゃあ、オレたちのギルドじゃ不満だってことか?」


 立浪は眉をひそめた。


「それ以前の問題よ」


 秋代は吐き捨てた。


「どいつもコイツも、あたしらが負けること前提で話しくさって」


 胸クソ悪いこと、この上なかった。


「せいぜい今のうちに、調子こいてるといいわ。あたしたちに完膚なきまでにやられる、そのときまでね」


 秋代は本気でキレていた。自分たちが勝つと決めつけている門倉や立浪たちに。

 そして何より、どこまでも傲慢な尾瀬明理に。


 あの糞チビ、絶対ブッ殺してやる!


 秋代は尾瀬への殺意を新たにしていた。


「面白えなあ。ますます、おめえのことが欲しくなったぜ」


 立浪は豪快に笑い飛ばした。


「じゃあ、こういうのはどうだ? 今度のギルド戦で、もしオレたちが勝ったら、おめえら2人、オレたちのギルドに入るってのは」

「は? なんで、そうなんのよ?」

「弱肉強食。強者が弱者を従えるのは世の常だろ。それに「背徳」の野郎も言ってたじゃねえか。文句があるなら力づくでこいってよ。ありゃあ要するに、欲しいもんがあんなら力づくで奪えってこったろ?」

「あれは、守りたいものを守るには、強くならなきゃならないってことよ」

「同じことだあな」


 立浪は笑い飛ばした。


「わしは、別にそれでええぞ」


 木葉は、あっさり言った。


「あんた、何勝手に」

「勝手も何も、関係ないじゃろ。どうせ勝つのは、わしらなんじゃから」


 木葉は事もなげに言い、秋代は絶句した。


「さすがオレの見込んだ男だ。話が早くて助かるぜ」


 立浪はニヤリと笑った。


「じゃが、それじゃと不公平じゃろ。わしらが勝ったら、おんしら何してくれるんじゃ?」

「そうだな……」


 立浪は顎を押さえて少し考え込んだ後、


「そんなことは、万に1つもありえねえだろうが、そんときはオレたち「百獣戦士団」全員が、おめえらの舎弟になってやるぜ。それと」


 足元に置いておいた皮袋を手に取った。


「こいつを今くれてやる」

「なんじゃ、それは?」

「おめえらが今集めてる、トゥルードラゴンてののレシピの一部だ。本当は、うちへの入団祝いとして用意したもんだが、勝負に応じる見返りとしてくれてやる。レシピ集めを邪魔した詫びも兼ねてな」


 巫剣は、木葉がトゥルードラゴンウォーリアーのレシピを入手したとき、そのレシピを木葉から異世界ナビにメールする形で教えてもらっていたのだった。手の空いたときに、アイテム集めを手伝えるように。


「うちにあるもん、かき集めてきたから200個はあるぜ。持ってきな」


 立浪は、アイテムの詰まった袋を木葉に放り投げた。


「せいぜい強くなって、オレたちを見返してみな」

「いいの? 後悔することになるわよ?」

「楽しみだ」


 そう言い残して、立浪は岩戸とともに秋代たちの前から姿を消した。


 そして立浪の言う通り、話はこれで終わりではなかった。


 この日、土門や小鳥遊たち、残る異世界ギルドのメンバーにも、自陣営の強化を図るギルドが相次いで接触をはかっていたのだった。


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