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第13話

 週が明けた、10月半ばの月曜日。


 行方不明になっていた学生39人は、全員無事に発見された。


 学生たちの話によると、気がつくと教室にいて、行方不明になっていた間のことは、誰も覚えていないということだった。そして秋代たちも、これに便乗した。異世界ストアから口封じされたこともあるが、どうせ説明しても信じてもらえないと思ったから。


「ネットでも、この話ばっかね」


 昼休みの屋上で、秋代は携帯で行方不明事件のニュ-スを眺めていた。


 ネット内では、それこそ神隠しだの宇宙人の誘拐だと、確証のないデマや憶測が飛び交っていた。しかし当然のことながら、そのなかに真相を言い当てている者はいなかった。


「今、わしらが本当のこと言うたら、一躍ヒ-ロ-じゃろうな」


 木葉の目は半分以上本気だった。


「そのまま精神病院送りになるのが関の山よ」


 秋代は一刀両断した。


「それに下手に話したら、クラスの皆みたいに記憶を消されちゃうかも」


 小鳥遊が忠告した。


「むう、それは嫌じゃな。仕方ない。ヒ-ロ-はあきらめて、勇者を目指すとしよう」


 木葉は異世界ナビで異世界項目を開いた。


「のう、永遠、次はどこがいいかのう?」

「……おまえたち、まだ異世界に行くつもりなのか?」


 永遠長は邪魔臭そうに聞き返した。


「当たり前じゃ。せっかく1年間タダで異世界行き放題なんじゃぞ。これで行かんで、どうするんじゃ」

「おまえもか?」


 永遠長は秋代を見た。


「ま、あたしは正直無料パスとか、どうでもいいんだけどね。このバカがノリノリだから、しょうがなくね。そ、れ、に」


 秋代はニヤリと笑った。


「今止めたら、あんたを喜ばせるだけだし。うっとうしい奴らがいなくなって、せいせいした。これで、また自由に1人旅ができるってね」

「……おまえたちが異世界に行くのは勝手だが、なぜ俺が同行することが前提となっている? 行きたければ、おまえたちだけで行けばいい。もう俺には、なんの関係もない話だ」

「な-に、言うちょるんじゃ。わしら、もう仲間じゃろ」


 木葉は、あっけらかんと言った。


「ふざけるな」

「もうパ-ティ-登録してあるし」


 秋代はニヤけ眼で言った。永遠長が嫌がることをするのが、楽しくて仕方ないという顔だった。


「抹消すれば済む話だ。5秒で済む」


 異世界ナビの画面に指をかけた永遠長に、


「ダメ、かな?」


 小鳥遊が遠慮がちに言った。


「永遠長君が、どうしてもダメって言うならあきらめるけど、私、永遠長君に異世界のこと、もっといろいろ教わりたいし、一緒に冒険もしたいの」

「……好きにしろ」


 永遠長は異世界ナビの画面から指を離した。


「ホント? 永遠長君?」


 小鳥遊は意外そうに聞き返した。永遠長が、こんなにあっさりOKするとは思ってなかったのだった。


「異世界では、何をするのも自由と言ったのは俺だからな。そして言ったことには責任を持たなければならない。だが、すぐ後悔することになるかもしれんぞ。俺は、おまえたちがいようがいまいが、考慮する気は一切ないからな。むろん、その結果おまえたちがどんな状況に陥ろうと気にする気もない。その覚悟があるなら好きにすればいい」

「う、うん。わかった」


 小鳥遊はそう答えてから、


「あ、それに今すぐじゃなくていいから。今は永遠長君も、アマクニさんて人のこととかで、色々と忙しいだろうし」


 そう言い足した。


「そう言えば、今も意識不明って言ってたわね。あんたの元カノだっけ?」


 すっかり忘れていた秋代だった。


「そんなんじゃない。1年ほど一緒に異世界で行動していた。ただ、それだけの話だ」


 永遠長は不本意そうに答えた。


「あんたが1年も一緒にいたら、十分特別でしょうが。で? あの後会いに行ったわけ?」

「おまえには関係ない話だ」

「まだだってんなら、さっさと行ってきなさいよね。交通事故の後遺症程度、どーせあんたなら回復魔法1発で治せんでしょ」

「それで済めば苦労しない」


 実際のところ、すでに永遠長は天国との面会を果たしていた。しかし、最高位の治癒魔法をかけても、天国が意識を取り戻すことはなかったのだった。


「じゃあ、どうすんのよ?」

「考えはある」

「どんなよ?」

「おまえには関係ない話だ」


 永遠長は言い捨てた。


「そして、そのことをおまえが気にする必要もない」


 永遠長は小鳥遊に目を向けた。


「時間があれば付き合うし、なければ付き合わん。ただ、それだけの話だ。そして、それはおまえも同じだろう」

「う、うん。そうだね」

「それに、どうせ長くて1年だ。その後は無料チケットの効果が切れるし、2年になれば進路だの受験だので、おまえたちも異世界でフラフラしている暇などなくなるだろうからな」


 永遠長は容赦ない現実を突きつけた。


「で? あんたはその後も異世界に入り浸って、高校卒業したら異世界に移住するってわけ?」

「そうだ」

「あんた、それがどういうことだか、本当にわかってんの? あの世界の文明レベルなんて、せいぜい中世ヨ-ロッパ程度だったじゃない。どうせ医療設備もロクに整ってないだろうから、こっちじゃ簡単に治る病気だって、向こうじゃ不治の病なんてざらだろうし。ファンタジ-に夢見るのもけっこうだけど、現実はそんな甘かないわよ」

「確かに、そうだな。だからおまえたちは、おまえたちが最善と信じる道を行けばいい。俺は俺の道を行く。ただ、それだけの話だ」


 永遠長は言い捨てた。


「あっそ。まあ、あんたの人生だから好きにすりゃいいわよ。それより、差し当たっての問題は、次にどこの世界に行くかね」


 秋代は異世界ナビにある「異世界の一覧」を開いた。


「そんなもん、エルギアに決まっとるじゃろうが!」


 木葉が即答した。


「そんで、わしもドラゴン手に入れて、永遠みたいに召喚武装するんじゃ!」


 永遠長の召喚武装した姿が、今でも木葉の目に焼き付いて離れないのだった。


「言っておくが、召喚武装はエルギアに行ったからといって、すぐできるわけじゃないぞ」


 永遠長は冷ややかに言った。


「そうなんか?」

「そうだ。召喚武装自体は、モンスターを購入すればできる。だが店で購入できる召喚獣は、安いものはレベルが低いから、召喚武装したところで肩当てと膝当てぐらいにしかならない。もし、おまえたちが手持ちのポイントをすべてエルギアの金に変えれば、そこそこのモンスターを購入することはできるだろうが、そうなれば他には何もできなくなる。それでもいいというのであれば、ドラゴンでも何でも購入すればいい。もっとも3000万では、せいぜいドラゴンの卵がいいところだろうから、育てるのに時間がかかることに変わりはないがな」

「そうなんか?」


 木葉はガックリと肩を落とした。木葉としてはエルギアに行けば、今日にも永遠長のような召喚武装ができると思っていたのだった。


「そうだ。普通は、まず初心者用の召喚獣を街で購入し、それを他の召喚獣と戦わせて育てていく。そして十分強くなったところで、召喚武装という流れになる。さっきも言ったが努力もせず、強力な召喚武装が一朝一夕にできれば誰も苦労しない」

「まあ、そうよね。ちなみに、あんた、あそこまであのドラゴン強くするのに、どれぐらいかかったわけ?」


 秋代が尋ねた。


「3年ぐらいだな」

「で、ディサースじゃ魔神を倒すって言うぐらい強くなったって、あんた、どれだけの時間、異世界に費やしたわけ?」


 秋代は呆れた。


「学校以外は、ほぼ異世界にいた。その学校も体育祭や修学旅行のような、行かなくても成績に関係ないものはスル-して、その分異世界での時間に充てていた」

「よく、親が許したわね」

「うちは共働きなうえ、今は2人ともアメリカにいるからな。俺が学校をサボっていることすら知らん。教師も遠足や体育祭をサボった程度で、いちいち親に連絡などしないしな」

「あきれた。でも、そこまでしてたんなら、その強さも納得ってもんね」

「そうだが、ここまでレベルアップしたのは連結の力も大きいからな。おまえたちも同じようにいくとは限らんぞ」

「どういうことよ?」

「連結の力は、異世界同士も繋げている。だから俺の場合、ディサ-スで得た経験値が、別の世界のレベルアップにも直結していたんだ。要するに、1つの世界でレベルアップすれば、自動的に別の世界でもレベルアップしているというわけだ」

「何それ? またまたチ-ト爆発させたってこと? あんた、どれだけチ-トこじらせたら気が済むのよ?」

「だから、俺はチートじゃないと言っている」


 永遠長が不本意そうに眉をしかめたところで、


「魔銃世界ラ-グニ-。魔具世界モス。どっちにするかのう」


 ずっと異世界ナビと、にらめっこしていた木葉が口を開いた。エルギアに行っても召喚武装に時間がかかると言われたため、エルギアにはゴッソリ興味を失ってしまったようだった。


「確か、どっちも武器がメインの世界なんじゃよな?」

「そうだ。簡単に言えば、ラ-グニ-は魔法の銃でモンスタ-と戦う世界。モスは魔法の武器や道具でモンスタ-と戦う世界だ。もっとも、今は普通に魔法も使えるようになっているがな」

「ほうほう。どっちも面白そうじゃのう。永遠長としては、どっちが最初にお薦めじゃ?」

「消去法でラ-グニ-だ。モスは、つい最近ゴタゴタがあったから、今行くと面倒事に巻き込まれる可能性が高いからな」

「なんじゃ、面倒事って? 魔王でも出たんか?」


 木葉は期待に目を輝かせた。魔神を倒せず勇者になりそこねたことが、未だに心残りのようだった。


「ある意味そうだ。バカなアメリカ人が、その世界を征服しようとしたんだからな」

「世界征服? バカじゃないの、今時」


 秋代は眉をひそめた。


「まったくバカな話だし、迷惑な奴だった。俺が新学期を欠席するハメになったのも、そいつのせいだからな」


 本当に不愉快な話だった。あの事件さえなければ、小鳥遊に借りを作ることもなかったのだから。


「何があったんじゃ?」

「モスは今でこそ魔法が使えるようになっているが、少し前までは使えなかった。言い伝えによると、かつて魔法の力で横暴の限りを尽くした人間に女神が怒り、人類から魔法を取り上げたんだそうだ。せめてもの慈悲として、魔具だけは地上に残してな」

「どこの世界も人間はバカってことね」


 秋代は、しみじみ言った。


「そこに、そのアメリカ人は付け込んだ。模倣のクオリティで1国の皇帝に成り上がると、さらに勢力を拡大していったんだ」

「悪役の鉄板スキルね」

「加えて、皇帝は火薬まで投入していたから、戦う前から勝敗は見えていた」


 永遠長の声には不快感が滲んでいた。


「それだけでも不快なものを、そいつらはある魔具を使って、異世界間移動を不可能にしてしまったんだ。外部の人間に、自分たちの計画を邪魔されないためにな」


 永遠長が、そこまで話したところで予鈴が鳴った。


「無駄話は、ここまでのようだな」


 永遠長は立ち上がった。


「待ちなさいよ。それでどうなったのよ? そこまで話しといて、途中で勝手に終わらせてんじゃないわよ」

「決まっているだろう。勇者が現れて、悪い魔王を退治したんだ」


 永遠長は簡潔に話をまとめた。


「とにかくだ。そういうわけで、そのアメリカ人たちは始末されたが、今でもモスの人間は地球人を侵略者として嫌っている。だから今モスに行くと、無用な争いを呼びかねない。それでも行きたければ止めはしない。おまえたちがモスに行ってどうなろうと、俺にはなんの関係もない話だからな」


 永遠長はそう言い捨てると、屋上を後にした。


 そして小鳥遊たちは永遠長のアドバイスに従い、次の行き先は魔銃世界ラ-グニ-に決めたのだった。















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