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第127話

 夜の帳が下りるなか、ひっそりと静まり返った病院内の一室で、天国調は眠りについていた。


 今年で16歳になる天国の顔は、永遠長と別れた日よりも大人びていたが、その容姿を本人が見ることは、この2年1度としてなかった。


 原因は交通事故だった。


 その日も、天国はいつも通り下校していた。すると、行く手の車道に少年が飛び出したのだった。車が、目前に迫っているにも関わらず。


 それを見た天国は、考える前に動いていた。結果、天国はいつ覚めるともわからない眠りにつくことになったのだった。少年の命と引き換えに。


 そんな天国の容態に変化があったのは、モスが永遠長によってリセットされた直後のことだった。


 消灯した病室内に、1つの影が舞い降りた。そして影は天国を包み込むと、暗闇をさまよう彼女の意識に接触したのだった。


「天国、天国調よ。我の声が聞こえるか?」


 自分を呼ぶ何者かの声に、


 だ、れ?


 闇に溶け込んでいた天国の意識が蘇った。


「我は悪魔王サタン」


 サ、タン?


「そうだ。覚えているか? 貴様は交通事故に遭い、今日まで2年間、眠り続けていたのだ」


 交通、事故?


 悪魔王にそう言われた直後、天国は自分が見た最後の光景を思い出した。


「そうだ! あの子、あの子は無事なの!?」


 自分のことより、まず子供のことを心配する天国に、


「安心するがいい。あの子供は無事だ」


 悪魔王が言い、


「そう。よかった」


 天国は安堵の息をついた。


「そんなことを言っていられるのも、今のうちだ」


 悪魔王は天国の偽善を一笑に付した。


「どういうこと?」

「貴様が眠っている間に、貴様が愛する永遠長流輝には、おまえに代わる仲間と、愛する女ができたということだ」


 悪魔王の言葉に、天国の動きが止まった。


「そして貴様は、このままでは1度も目覚めぬまま、間もなく人生を終えることになる。それこそ、愛する永遠長を他の女に奪われたまま、誰にも知られることなく、ただ1人でな」


 悪魔王は天国を絶望の淵に落としたところで、


「だが、その悲惨な運命を変える方法が、ひとつだけある」


 救いの手を差し伸べた。


「それって、もしかして」

「そう。我と契約することだ」

「…………」

「そうすれば、貴様は今すぐにも目を覚ますことができ、愛する永遠長をその手に取り戻すことができるのだ」

「悪魔お得意の3つの願いってやつね。その望みを叶えたければ、魂を差し出せって」

「そういうことだ。しかし貴様にとっても悪い話ではないだろう。このままでは、どうせ死ぬのだ。それも何もかも失い、1人孤独のなかで。ならば我と契約し、すべてを取り戻したほうが、はるかにマシではないか? たとえ我と契約したとしても、その願いで不老不死を願えば、貴様は地獄に落ちることなく、それこそ永遠に愛する男と生き続けることができるのだからな」


 悪魔王の甘美な誘惑にも、天国は黙ったままだった。それを迷いと受け取った悪魔王は、さらに誘惑の度合いを強めた。


「何を迷うことがあるのだ? このままでは、貴様にあるのは死のみなのだぞ? それに、こうしている間にも、貴様の愛する男は他の女との絆を深めているのだ? 愛する男を、他の女に寝取られたまま泣き寝入りしていいのか? 取り戻したいとは思わないのか?」


 悪魔王の挑発めかした誘惑に、


「むしろ安心したわ」


 天国は微笑した。


「なに?」

「だって流輝君て、1人にしとくと何をするかわからないから。私がいなくなって、流輝君が1人に戻っちゃったっていうんなら心配だったけど、誰かが一緒にいるって言うなら、流輝君も無茶はしないだろうし。まあ、それが私じゃなくなっちゃったのは、確かに残念だけど」


 流輝君が幸せなら、それでいい。


「だから、あなたの誘いには乗らない。でも、教えてくれてありがとう。おかげで心残りがなくなった」


 それは、天国の偽らざる本心だった。しかし、


「嘘だな」


 悪魔王は天国の言葉を一蹴した。


「貴様の言葉とは裏腹に、今貴様の心のなかでは嫉妬の炎が燃え上がっている。上辺をどんなに取り繕おうと、それが貴様の本心だ」


 天国の偽善を嘲笑う悪魔王に、


「確かに、そうかもしれない」


 天国は心の闇を素直に認めた。


「でも、それがどうしたっていうの?」

「なに?」

「心の闇なんて、誰だって持ってる。でも人は、それに負けないように自分を律して生きている」


 天国は毅然と言い返した。


「流輝君も言ってた。思うだけなら誰でもできる。そんなことには、なんの価値もない。大事なのは、その状況で何を思ったかじゃなく、何をしたかだって!」


 偉人と呼ばれる人間と同じことを考えた人間は、もしかしたら何人もいたかもしれない。だが、今偉人とされてる人間が歴史に名を残しているのは、思っただけじゃなく、それを実現するために行動したからなのだと。


「小娘が小賢しい口を利きおって」


 悪魔王は吐き捨てた。


「ならば、そのご自慢の理性が、どれほどのものか試してやろう」

「え?」

「ご立派な口上を並べるからには、さぞかし大層な理性なのだろう」


 悪魔王がそう言い終えた直後、闇の中から、もう1人の天国が現れた。


「な……」


 無言のまま歩み寄ってくる分身に、天国は後ずさった。


「どうした? 自分の闇になど、負けないのではなかったのか?」


 悪魔王が嘲笑するなか、天国の分身は本体へと手を伸ばす。


「い、嫌!」


 天国は、分身の手を払いのけた。が、分身を退けるまでの力はなく、分身は構わず本体の首に手をかける。


「や、止めて……」


 天国は必死に訴えたが、分身の力が弱まることはなく、本体を闇の中へと沈めていく。そして、本体が闇に沈みきったところで、


「悪魔王サタンと言ったわね」


 分身は悪魔王に呼びかけた。


「あなたと契約したら、わたしは本当に目覚めることができるの?」

「本当だとも」

「そう、ならわたし、あなたと契約するわ」


 天国の分身は迷わず言った。


「だから、今すぐわたしを目覚めさせて」


 そして、わたしから流輝君を奪った人間をすべて排除して、2人だけで永遠に暮らすの。


 流輝君は、わたしだけのものなんだから。


 ねえ、そうでしょ、流輝君。


 だって、わたしたちは2人で「ウィズ」なんだから。







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