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第118話

 翌日、運営から立石の失格と、それに伴う十六夜の決勝進出が正式に発表された。

 そして翌々日、長谷と上代による準決勝第2試合が執り行なわれたが、その場にも、やはり上代は姿を見せなかった。

 またセットゲームに関しても、双方とも変更はなく、盤ゲーム中心の長谷に対して、上代はシュ-ティングや格闘といったTVゲームで占められていた。


 そして上代の先攻で始まった試合は、互いにセットゲームの優位を譲らないチェス戦となった。

 しかし終盤、南がオセロ戦を落としたことをきっかけに流れが変わった。

 結果、準決勝第2試合は上代銀河の勝利で幕を閉じ、決勝戦のカードは十六夜一美VS上代銀河に決定したのだった。


 試合後、ホテルに戻った十六夜チームは、さっそく決勝戦に向けて作戦会議を開いた。

 ついに迎えた頂上決戦を控え、少女たちが戦意を高揚させるなか、七星の戦意は底辺を這いずっていた。


「あー、決勝戦用のー、最後のー、セットゲームにー、ついてだがー」


 七星の気力低下の原因は、今日の対戦形式にあった。


 そもそも七星がインドネシアまで足を運んだのは、それが本選への参加条件だと思えばこそ。それを今になってネット対戦OKなど、七星としては到底納得できなかったのだった。


 しかし運営に抗議しても、ルールに最初から書いてあるの一点張り。最後には「ネット参戦は本人の不利にこそなれ、有利になることは1つもありません。正直わたしには、あなたが何を怒っているのか理解しかねます」と、切り捨てられてしまったのだった。


「まったく、うっとうしいですの。いつまでスネてるんですの」


 龍華は不快そうに眉をひそめた。


「どちらにせよ、あのメイド長がいる限り、あなただけ日本に残るなんて選択肢は、元からありませんでしたの」

「せやせや、それに残れたら残れたで、さらなる地獄のシゴキが待っとっただけやろうし」

「うるせーよ」


 幸たちの指摘が的を射ているだけに、七星としては余計にムカつくのだった。


「とにかくだ。決勝の相手はシューティングと格ゲーを並べたTVゲームデッキなわけで、はっきり言って分が悪い」

「なんでや? こっちは新メンバーが入ったし、何より覚醒した七星君がおるんや。負ける要素なんてないやん」

「だから、覚醒なんかしてねーって言ってるだろ-が。あれはたまたまだ、たまたま」

「せやけど」

「あと分が悪いって言い方が気に入らねーなら、相性が悪いと言い換えてもいい」

「相性が悪い?」


 龍華と幸は顔を見合わせた。


「そーだ。陽にしても魔法少女モドキにしても、基本的に力を活かせるのは戦略ゲーだ。仮に、本当に憑依や人外の声が聞こえるとしても、その指示通り忠実に実行できる動体視力と反射神経、それに指先が器用でなきゃ、シューティングや格闘ゲームには勝てねーんだよ」

「ああ、必殺技出すのに、いろいろコントローラー動かさなあかんもんな、あれ。不馴れやと難しいわ、確かに」


 幸は納得したが、


「待つのです」


 別の意味で納得していない者がいた。


「マリーは正真正銘、本物の魔法少女で、モドキではないのです。断固撤回を要求するのです」

「えー、だっておまえ魔法少女じゃねーし」

「マリーは魔法少女なのです!」

「けどよ、アニメなんかに出てくる本物の魔法少女って、普段は自分の正体隠してて、陰で人知れず悪と戦うもんだろ? 自分から回りに「魔法少女なのです!」て正体明かしまくってる魔法少女なんて、オレは見たことねーよ」


 七星の冷ややかなツッコミに、沙門の顔が強ばる。


「な、何を言っているのです。マ、マリーだって、普段は正体を隠して生活しているのです。い、今はもう正体がバレているので、隠す必要がないだけなのです」


 沙門は極力平静を装いながら弁明したが、苦し紛れの言い訳であることは明らかだった。


「へー、あっそー。まーそれならいーけど、なんか最初から魔法少女だって言ってた気が」

「そ、それは、あなたの気のせいなのです! マリーは断じて、そんなことは言ってないのです!」


 沙門は真赤になって反論した。


「わかった、わかった。オレが悪かった。おまえは確かに、本物の魔法少女だ」

「わ、わかればいいのです」


 沙門は満足げにうなずいた。


 うまいな。


 そんな沙門の様子を見ながら、陽は内心で感心していた。


 きっと沙門は、この調子で今までも周囲から浮いていたのだろう。だが本人にその自覚がなくても、魔法少女と公言せずに日常生活を送るようになれば、周囲から白い目で見られることもなくなる可能性が高い。つまり七星は、たった一言の、それこそ魔法の言葉によって、彼女を取り巻く環境を改善させてしまったのだった。


「とにかく、そーゆーわけで、今度の相手にオカルトパワーはあんまり役に立たねーんだ。となると、その手のゲームをやりこんでないオレたちが勝てる確率は、限りなくゼロに近いってわけだ」

「なるほど」

「それに、盤ゲームでも相当の腕前みたいだしな。あっちのゲームでは勝ち目がなく、こっちのゲームでは下手をすれば食われかねない。だから分が悪いって言ったんだ。次の試合は、あっちが先攻だしな」


 ここまでの平均タイムは十六夜が11.5秒なのに対し、上代は10.9秒。コンマ0.6秒、上代が上回っているのだった。


「分が悪いのはわかりましたの。それで? 何か対策はあるんですの?」


 龍華が迫った。


「まー、あるにはある」

「へー、どんなだい?」


 陽は身を乗り出した。


「向こうが全部TVゲームでくるなら、こっちは全部スポーツにするんだよ」

「スポーツに?」

「まー、別にスポーツじゃなくてもいーんだが、よーするに会場にいなきゃできねーゲームにするんだよ。そーすれば、もし奴が決勝でも姿を現わさなければ、奴は勝負したくてもできないからパスするしかないってわけだ」

「なるほど! そしたら、ぐっと勝率が上がるっちゅうわけやね。ええやんか。それでいこ」


 幸は目を輝かせた。


「ただし、これには危険が伴う。もしこっちがそう出た場合に、相手があのボンボンみたいにプロを集めてこられたら、逆にこっちが不利になるからだ。向こーにしても、不老不死が手に入るかどうか、最後の大一番だからな。つまり、これは1種の賭けになるわけだ。まー、オレは次の試合、相手は出て来ねーと思うが、これもあくまでオレの推測でしかねーし。どーするかは十六夜次第だ」

「いやいや、七星君が来ーへん言うなら来ーへんやろうし、勝てるゲ-ムわざわざ捨てる必要なんかないやん。なあ、十六夜さん」

「え? あの、その……」


 答えに窮した十六夜は、周囲の様子を伺った。


「優勝して、弟を助けたいのはおまえだろ。そのおまえが決めねーで、誰が決められるんだ? 誰かの意見を聞いて負けたとしても、誰も責任なんか取っちゃくれねーんだぞ」


 七星は冷ややかにたしなめた。


「う、うん、そうだね」


 十六夜は、改めて自分の心に問い直した。どうするのが、自分が1番後悔しない選択かを。


「決めたよ、七星君。決勝戦は、今のままのセットゲームで行くことにする」

「そうか」

「うん。だって、わたしがここまで来れたのは、みんなのお陰だから。だから最後も、みんなの力で勝ちたい」

「ま、おまえがいーなら、それでいい」

「当然ですの。決勝戦に、わたくしの出番がないなどありえませんの」


 龍華は不敵な笑みを浮かべた。


「けど、スポーツも2つぐらいは保険で入れておいてもいいと思うけど。て、誰も聞いてないね」


 陽は苦笑した。


「マリーも、がんばるのです。世界の平和は、この魔法少女マリーが守ってみせるのです!」


 沙門も負けじと、会心の決めポーズを取る。


「うちは、絶対全部スポーツのほうがええと思うけどなー」


 幸は渋面でそうボヤいた後、


「まあええわ。どっちにしても、うちらが勝つんやし。なにしろ、ラッキガールのうちがおるんやから」


 脳天気に笑った。


 頼もしい仲間を前に囲まれ、十六夜の目も自然と細まっていた。


 そして迎えた決勝戦当日。


 万全の態勢で会場入りした十六夜チームに対し、対戦者の上代銀河は、やはり今回も会場に姿を現すことはなかった。


 そして始まった決勝戦は、七星の予想通りの展開となった。


 しかし終盤、十六夜が得意のオセロ戦を落としたことから流れが変わり、結局この1敗が決め手となって、優勝の栄冠は上代銀河の頭上に輝いたのだった。


 試合後、十六夜は自責の念に苛まれていた。


 自分のせいで皆の努力を無駄にしたばかりでなく、手が届きかけていた九十九の完治も夢と消えてしまった。落ち込むなというほうが無理な話だった。


 そんな十六夜の元に、翌日常盤からメ-ルが届いた。内容は、大会終了にあたって、これまでの皆の健闘を称えるパ-ティ-を開くというものだった。なお「そのとき、ちょっとしたサプライズも用意したので、楽しみにしておいてくれ」との追伸があった。


 十六夜としては、とてもそんな気分ではなかったのだが、せっかくの厚意を無下にもできず、皆の勧めもあって出席することにしたのだった。


 そして夕方、十六夜たちは指定された最上階レストランで、常盤と1月ぶりに再会した。


「やあ、諸君、久しぶりだね」


 常盤は貸し切りにした店内で、一同を笑顔を出迎えた。


「十六夜君、側にはいられなかったが、試合はすべて見ていたよ。決勝は残念だったが、よくがんばったね。決勝まで勝ち進んだだけでも、君たちは十分賞賛に値する。推薦者として、私も鼻が高いというものだ」

「……ありがとうございます」


 十六夜は暗い瞳で力なく答えた。


「まあ、かけたまえ。話は尽きないが、まずは乾杯してからにしよう」


 十六夜たちは、常盤に勧められるままテ-ブルに着いた。


「では十六夜君の準優勝と、諸君らのこれまでの健闘と称えて、乾杯」


 常盤はワイングラスを掲げた。そして皆の乾杯が済んだところで、給仕に指で合図を送った。


「では、ここでサプライズゲストに登場してもらおう。来てもらったのは他でもない。諸君らが決勝戦を戦った、上代銀河君だ」


 常盤は立ち上がると、右手で厨房を指し示した。そして一同の視線が集まるなか、通用口から姿を現わしたのは十六夜九十九だった。


「九十九?」


 十六夜は一瞬戸惑った後、


「何してるの、九十九!」


 あわてて弟に駆け寄った。


「あなた、どうしてこんなところにいるの!? まさか、勝手に病院を抜け出してきたんじゃないでしょうね!? ダメじゃない! 早く病院に帰りなさい!」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、姉さん」


 九十九は穏やかに微笑んだ。


「ボクの病気は治ったんだから」

「治った?」

「そうだよ。この大会で優勝してね」

「優勝? あなたが?」


 十六夜は目を瞬かせた。


「やだな、姉さん。今の常盤さんの話、聞いてなかったの? ボクが姉さんと決勝を戦った、上代銀河だったんだよ」

「あなたが? 上代銀河?」

「そうだよ。そして姉さんに勝って優勝したボクは、不老不死になって病気も治ったんだよ」

「優勝? 不老不死? あなたが?」


 十六夜の頭は混乱しきっていた。


「そういうことだ、十六夜君」


 サプライズが成功し、常盤の顔に会心の笑みが浮かぶ。


「君たちには黙っていたが、実は九十九君も、この大会に参加していたのだよ」

「九十九が、大会に?」

「その参加も、九十九君の体調を考慮して、特例として病院からの参加とした。そして九十九君は病気の身でありながら、関東地区の並み居る強豪たちを退けて本選まで勝ち上がり、なおかつ本選でも実技競技はパスするしかないという厳しい条件下で、見事優勝の栄冠を手にしたのだよ。なんと健気なことか」


 常盤は目頭を押さえた。


「でも、どうして偽名なんて?」


 十六夜は九十九に尋ねた。


「だって、ボクがこんな大会に出場してるなんて知ったら、絶対に止められると思ったから」

「当たり前でしょ! もし、それであなたの身に万一のことでもあったら、どうするつもりだったの!」


 十六夜は目を吊り上げた。


「でも、そのお陰で、ホラ、この通りボクは元気な体を取り戻すことができたんだ。ううん、前よりもっと健康で強い体をね。ボクは不老不死の秘術で生まれ変わったんだよ」


 実際、九十九の顔からは、以前のような脆弱さが消えていた。


「九十九、本当なのね? 本当に……」


 十六夜の目に涙があふれ、


「姉さん」


 九十九も感極まり、姉弟が抱き合おうとしたとき、


「が!?」


 七星が九十九の顔面を蹴り飛ばした。


「な、何しとんねん、七星君?」


 今まさに、姉弟による感動の抱擁が実現しようとしていただけに、七星の凶行は幸たちにも理解不能だった。


「痛いなあ。何するんですか、七星さん」


 九十九は、ゆっくりと身を起こした。


「いきなり蹴るなんて、酷いじゃないですか」

「それは、こっちのセリフだよ。おまえ、今十六夜に何しようとした?」

「何って、姉弟で感動の抱擁を」

「じゃあ、その牙はなんだよ?」


 七星の指摘を受け、十六夜も九十九の口元に目をやった。すると、うっすらと開かれた口から、特に鋭く尖った4本の犬歯が見えた。


「九十九、あなた、それ……」


 十六夜の記憶にある弟の犬歯は、ここまで長く尖っていなかったはずだった。


「気づいた? これが不老不死の効果だよ、姉さん」


 九十九は口元を曲げた。


「まさかとは思うが「吸血鬼になった」なんていう、クソつまんね-オチじゃね-だろ-な?」

「酷いなあ、つまらないオチだなんて。素晴らしいじゃないですか。物語のなかだけの存在だと思われていた吸血鬼が、本当に実在したなんて」


 九十九は目を輝かせた。


「ああ、でも吸血鬼っていうのは、使い古されててイマイチだなあ。どうせならノスフェラトゥのほうがいいな。あ、ちなみにノスフェラトゥというのは不死人という意味で」

「ど-でもいい。オタ系の、くだらね-ウンチクに興味はね-」


 七星は容赦なく切り捨てた。


「で? 自分が吸血鬼になれたから、その恩恵を姉ちゃんにもお裾分けしてやろうとしたってわけか?」

「そうですよ。そうすればボクたちは姉弟仲良く、いつまでも、それこそ永遠に一緒にいられるんですから」

「他人の血を吸ってか?」

「それのどこが悪いんですか? 人間だって、他の動植物を殺して食べてるじゃないですか。吸血鬼は人類を超越した存在、つまり食物連鎖における人類の上位種なんです。なら人類を餌にするのは当然でしょ。そこに善も悪もない。違いますか?」

「確かに違わね-けどな。それを姉ちゃんにまで押しつけるのは、また別の話だろ」

「……確かに、勝手に姉さんをノスフェラトゥ化しようとしたのは、ボクの先走りでした」


 九十九は姉を見た。


「ごめんね、姉さん。ボク一刻も早く、姉さんとこの喜びを分かち合いたいって思いが先に立っちゃって」


 九十九は苦笑した。


「でも、そんなの聞くまでもないよね? だって、そうすれば、もう苦しい思いも寂しい思いもしなくて済むんだもん」

「つ、九十九……」


 十六夜は言葉を詰まられた。


「今だから言うけど、ボク学校でイジメられてたんだ」

「え?」

「ボク、体が弱いし親もいないから、そういう奴らには格好の的に見えたんだろうね。足を骨折したのも、本当は階段で転んだんじゃなくて、そいつらにやられたんだよ」

「ど、どうして言わなかったの?」

「言えないよ。だって、イジメられてるなんてカッコ悪いし、学校辞めてがんばってる姉さんに、これ以上ボクのことで迷惑かけたくなかったから」

「そんなこと……」

「姉さんは、ボクがノスフェラトゥになって悪いみたいに思ってるみたいだけど、じゃあ人間のまま、ずっと病気に苦しみ続けたほうがよかったって言うの?」

「そ、それは……」

「仮に白血病が治ったとしても、学校に行けばまた同じことが繰り返されただけだ。ああいう奴らは、いつだってどこにだっているんだ。姉さんは、ボクに一生それを我慢して生きろって言うの? 弱い奴は弱いまま、強い奴に踏みつけられて生きろって?」

「…………」

「何も知らない人は、簡単に強くなればいいって言うけど、それって弱い奴が悪いって言ってるのと同じじゃないか。相手を力ずくで、自分の思い通りにすることが正しいことなの?」


 九十九は自虐的な笑みを浮かべた。


「わかってるよ。こんなこと言ったところで、負け犬の遠吠えでしかないことは。でも、だからこそ、ボクはノスフェラトゥになることを選んだんだ。弱肉強食がこの世界のル-ルなら、そのル-ルのなかで生きるしかない。そして、そのル-ルのなかで奴らに思い知らせてやるんだ。自分たちが望んだ世界が、どういう世界かってことを」


 九十九の目が赤黒く光った。


「九十九、あなた……」

「……これがテメーの言う、不老不死の正体ってわけか、キモオタ?」


 七星は常盤を横目に見やった。


「そういうことだ、七星君。人を吸血鬼、いやノスフェラトゥ化する秘術。それが不老不死の正体なのだよ」

「ふ、不老不死が、吸血鬼になることやなんて聞いてへんで! ようも、うちらを騙したな!」


 幸が怒りの声を上げた。


「人聞きが悪いな、幸君。わたしが言ったのは、人を不老不死にする方法が発見されたこと。そして、その方法でも食事を取らねば死んでしまうこと。そして食料不足のリスクを避けるためには、不死化する人間を限定しなければならないということだ。そして、それはいずれも事実だ。つまり、私は君たちに嘘などついてはいないし、騙してもいないのだよ」


 常盤はドヤ顔で言った。


「十六夜さんを励ますパ-ティ-を開くと聞いたときは、少し良い人かもと思ったですが、やはりマスタ-ソウは悪人だったのです。ここで成敗するのです」


 沙門はステッキを身構えた。


「まあ、待ちたまえ、魔法少女マリ-。まずは十六夜君の返事を聞こうじゃないか。バトルに突入するのは、それからでも遅くなかろう」


 常盤は不敵に笑うと、十六夜を見た。


「さて、どうするね、十六夜君? ノスフェラトゥが軽々に増えることは望ましいことではないが、決勝まで勝ち進んだ君には、その資格が十分にある。君が望むのであれば、私は君の同族入りを歓迎するよ」

「わ、わたし……」

「なんなら、この場にいる全員をノスフェラトゥ化してあげようか? 皆一緒なら、君の抵抗感も多少は和らぐだろうからね」


 常盤は一同を見回した。


「魔法少女は、悪の誘惑になど乗らないのです!」


 沙門は敢然と言い放った。


「わたくしも遠慮いたしますの。殿方の首にかぶりついて血をすするなど、龍華家の次期当主としての品位に傷がつきますもの」


 龍華は不快そうに眉をひそめた。


「う-ん、ボクもパスかな。バンパイアって、夜しか活動できないんだよね? それだと株式相場とかチェックできないし、起業しても取り引きに支障を来しそうだからね」


 天草は残念そうに頬をかいた。


「そ-やな-。確かに夜遊びしかできんようになるのは、うちも嫌やな-。七星君との夜のデ-トも素敵やろうけど、やっぱ昼も遊びたいし」


 悩んだ末、幸も拒否した。


「それは残念だ。で、君はどうかね? やはり君も、お友達と同じ考えなのかな?」


 常盤は十六夜に注意を戻した。


「ノスフェラトゥになれば不死となり、九十九君ともずっと一緒に暮らすことができる。だが拒めば、住む世界が違う九十九君とは離れ離れとなり、他のノスフェラトゥが不死の正体を知ってしまった君たちを危険分子と見なして、口封じに動かないとも限らない」


 常盤は九十九を見た。


「まあ、その場合、九十九君は君を守るために、無理矢理にでも君をノスフェラトゥ化するだろうがね。そして彼が言う通り、弱肉強食は世の常だ。弱者の生殺与奪の権限は、いつでも強者にあるのだよ」

「なるほど。確かにそうだな」


 吸血鬼化を肯定するような七星の発言に、


「七星君?」


 十六夜は戸惑った。


「だったら、十六夜が吸血鬼になるかどうか、地球棋で決めるってのはど-だ?」


 その七星の提案に、


「地球棋で?」


 一同はいぶかしんだ。


「ああ、元々そいつが吸血鬼になれたのは、決勝で十六夜に勝ったからなんだ。だったら、今度も地球棋でカタをつけるのが筋ってもんだろ」

「ふむ……」

「それにオレが見たところ、前の試合でこいつが姉ちゃんに勝てたのは、こいつが正体隠してたからだ。相手が姉と知ってた弟と、弟と知らずに戦ってた姉とじゃ、とてもじゃね-がフェアな勝負とは言えね-よ。お互い、相手のクセは知り尽くしてるだろ-から、十六夜も相手が弟だと最初から知ってれば、それなりの戦い方をしたはずだからな」

「……なるほど。相手が九十九君だと知ったうえで戦っていれば、あの勝負、十六夜君が勝っていた。そうなれば今の状況は存在せず、九十九君を吸血鬼させるかどうかの選択権は、十六夜君に委ねられていた。と、そういうことかね?」

「ま-、そりゃわかんね-し、それも戦略だって言えばそれまでだが」


 七星は頭をかいた。


「姉の顔色伺って、コソコソ隠れて出場してたヘタレが、不意討ちで勝ちを掠め取っただけで、勝利者面して好き放題してんのが、ど-にも気に入らね-んだよ」


 七星は九十九を横目に見やった。


「かかってたのは、テメーの命なんだろ-が。だったら、誰がなんと言おうと出場すりゃ-よかっただけの話だろ-が。そんなことすらできね-ヘタレだから、クソどもにナメられるんだよ、このカスが」


 七星に吐き捨てられ、九十九は気色ばんだ。


「そんな奴が吸血鬼になったぐらいで、変に調子に乗りやがって。確かにテメーは吸血鬼になって、人間よりは上位種になったかもしれね-が、結局のところ状況はなんにも変わってね-んだよ。テメーみたいな奴は、吸血鬼になったらなったで、今度は吸血鬼仲間から見下されて、パシリ扱いされるのがオチだってーの」


 七星にコキ下ろされ、九十九は握り締めた拳を震わせた。


「……七星君はこう言っているが、どうするね、九十九君? 彼の申し出を受けるかね?」


 常盤は九十九を見た。


「もちろん受けて立ちますよ。むしろ望むところです。今度こそ真っ正面から姉さんを打ち負かして、ボクの勝利が小細工やまぐれでなかったことを、その人に思い知らせてあげますよ。その後で、ボクをヘタレ呼ばわりしたことを、たっぷり後悔させてやる」


 七星への殺意で、九十九の目が赤黒く光った。


「よろしい。では改めて決勝戦を執り行うこととしよう。そして、もしその試合で九十九君が勝てば十六夜君は吸血鬼となり、もし十六夜君が勝てば、この常盤総の名にかけて、すべてを君の望み通りにすることを約束しよう。双方、それで異存ないかね?」

「はい、ありません」

「は、はい」

「よろしい。では再試合は3日後の夜とし、双方ともセットゲ-ムの変更がある場合には、明日までに再登録するように。ただし、九十九君側のスポ-ツへの変更は不許可だ。ノスフェラトゥ化した身での身体能力勝負は、フェアではないからね。それでいいかね、九十九君?」

「それでいいです。なまじスポ-ツや格闘技を入れて、今度はノスフェラトゥ化してたから勝てた、なんて難癖つけられるのはごめんですから。純粋なゲ-ム勝負で、はっきり白黒つけてあげますよ」

「よろしい。では3日後の夜8時に試合会場に集合することとして、我々はこれで失礼するとしよう。ここの支配人にはフルコ-スを出すよう伝えてあるので、このまま君たちは晩餐を楽しんでくれたまえ。特に十六夜君にとっては、この種の料理を堪能できるのは、後わずかかもしれないからね」

「余計なお世話だ。さっさと失せろ」


 七星は「しっしっ」と追い払った。


「楽しみだよ、姉さん。あのときは、ボクも体調を気にして、ゲ-ムに集中しきれてなかったからね。今度は本気の全力で、姉さんを打ち負かしてみせるよ。そして姉さんは、ボクと同じノスフェラトゥになって、ボクとずっと一緒に暮らすんだ」


 九十九はそう言うと、常盤とともにレストランを後にしたのだった。


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