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背徳のボッチートは、今日も1人でカオスロードを突き進む!

 それは新学期が始まって間もない、9月半ばのことだった。


「おめでとうございます。この度、皆さんは魔神様の尊い生け贄に選ばれました」


 周囲を堅牢な城壁で囲まれた庭園で、赤毛の魔女は満面の笑みを浮かべた。そして、その魔女の視界には強制的に異世界転移させられた室伏高校1年2組の生徒たちの姿があった。


 その顔には、それぞれ戸惑いや驚愕、怒りが表れていたものの、それを口に出す者は誰もいなかった。状況に混乱していることもあったが、魔女の両隣に控えるミノタウロスが、学生たちの声を封じ込めていたのだった。


「ですが、魔神様は大変慈悲深いお方。あなた方に生き残るチャンスを与えてくださるそうです」


 学生たちの感情など意に介さず、魔女は淡々と続けた。


「あなた方には、これから5人1組でチーム組んでもらい、この魔石を探してもらいます」


 魔女がそう言った直後、学生1人1人の前にビー玉ほどの黒い石が出現した。


「そして1月後、もっとも多く、この魔石を集めた1チームのみ、元の世界に戻してくださるそうです。ね、魔神様は慈悲深いでしょ」


 魔女の説明に、学生たちがざわめく。


「探せって、こんなの、どうやって探せばいいんだよ?」

「無理に決まってるじゃない」


 学生たちの口から不平が漏れる。


「簡単です。その魔石と同じ魔力を放っているものを探せばいいんです。その魔石は魔神様が同じ鉱石からお作りになられたもので、常に特殊な魔力を放っていますから。あ、別に他の方法を使ってもらっても、一向に構いませんよ。今のは、私ならどうするかってことですから。ね、私って親切でしょ?」


 魔女は微笑んだ。


「他にって言われても……」


 学生たちは困惑した顔を見合わせた。


「もちろん、その助けになる手段は用意しています。それが、この「異世界ナビ」です」


 魔女がそう言うと、学生たちの前に今度は銀色のタブレットが出現した。


「その異世界ナビには、あなたたちのサポート機能の他に、リアライズ機能がついています」


 魔女はリアライズ画面を表示してみせた。


「そして、そのリアライズ機能を発動させれば、クオリティ、あなたたちの世界で言うところの、スキルを身につけることができるんです」

「マジか?」


 学生たちは再びざわめいた。


「はい。ですが、そのためには多少の痛みを我慢する必要がありますし、望んだ力が手に入るとも限りません。ですからリアライズするもしないも、あなたたちの自由です。ですが、もし得たクオリティが探知系であれば、魔石集めが有利になることは間違いありませんし、もし違っていても強力な力であれば、目的達成の助けになるでしょう。なにしろ、この世界には至るところに強力なモンスターが出没しますから」


 魔女の説明に、再び学生たちはざわめいた。


「やるわよ」

「やりゃあ、いいんだろ」


 学生たちはあきらめ半分、興味半分で、次々とリアライズボタンを押した。すると、タブレットから放たれた光に包まれた。直後、


「うわああ!」

「きゃああ!」


 生徒たちは激しい電撃に襲われた。


「だから言ったでしょ? 多少の痛みが伴うって」


 魔女は、しれっと言った。


「ではクオリティも判明したところで、みなさんにはチームメンバーを選んでもらいます。すでに勝負は始まっていますから、少しでも早く残る4人を決めたほうがいいですよ。あ、でも、今ここには39人しかいないから、1チームは4人になっちゃいますね。まあ、それも含めて早い者勝ちということで」


 魔女は、あっけらかんと言った。


「あ、そうそう、肝心なことを言い忘れてたわ」


 魔女はポンと手を叩いた。


「1度決まったチームは2度と変更できませんし、もしチーム内の誰か1人でも死んでしまった場合、そのチームは敗北。つまり、その時点で残りの4人も脱落となるから、そのつもりで」


 魔女の言葉に、学生たちは鼻白んだ。


「だから、このチーム選びは、くれぐれも慎重に行ってくださいね。あなたたちの命がかかってますから」


 魔女に念を押されるまでもなかった。


 学生たちは互いにスキルを教え合い、少しでも強力なスキルの持ち主とチームを組もうと血眼になった。もっとも、その中にあって唯1人、


「…………」


 永遠長だけはクラスメイトの動向を観察しこそすれ、自ら動く気配は微塵も見せなかった。そしてクラスにいた3人の探知系能力者が、強力なスキル持ちとチームを組み終えたところで、女子の津村つむらが永遠長に声をかけてきた。


「ね、ねえ、永遠長君、永遠長君のスキルって、なんなの?」


 永遠長は自他ともに認めるボッチキャラであり、津村としても進んで関わり合いになりたい人間ではなかった。しかし、もしかしたら探知系の能力者の可能性もあるため、嫌々ながら声をかけたのだった。まさに、ワラにもすがる思いで。しかし、


「連結だ」


 永遠長から返ってきた答えは期待外れなものだった。


「連結? どんな能力なの?」

「存在と存在を繋げる力、と、異世界ナビの解説には書いてあった」

「そ、そうなんだ。教えてくれてありがとう」


 津村はぎこちない笑顔で礼を言うと、永遠長の前から早々に退散した。


「どうだった?」


 戻ってきた津村に、やはりまだチームが決まっていない江口が尋ねる。


「連結だって」


 津村はため息まじりに言った。


「ほら、やっぱり無駄だったでしょ」


 江口は永遠長を横目に言った。


「でも、万が一ってこともあるし」

「ないない。使えない奴は、どこまでいっても使えないのよ」


 江口は聞えよがしに言い捨てた。


「そうそう。ボッチは、ダメダメだからボッチなんだから。期待するだけ無駄なのよ」


 橋本はフンと鼻を鳴らした。

 そんな女子たちの話が聞こえているのかいないのか。永遠長は、その後も微動だにしなかった。


 そして残った者たちも次々とチームを結成していき、最後まで誰にも選ばれなかった4人が、最終的にチームを組むことになった。


 そのメンバー構成は、


 女子の学級委員である小鳥遊広美たかなしひろみ。クオリティは「封印」。


 片瀬香かたせかおり。クオリティは「普通」。


 朝霞力あさかりき。クオリティは「透過」。


 永遠長流輝。クオリティは「連結」だった。


 そして消去法によりチームとなった4人は、先に出発した7チームと同じく西へと向かった。


 異世界ナビにはマップ機能もついていて、ここから西に20分ほど歩いたところに街があることがわかったからだった。


 これからどうするにせよ、まずは準備を整えなければ始まらない。そして異世界ナビには、そのための資金として、1人辺り金貨20枚が振り込まれていた。


「……マジ、ありえないんだけど」


 片瀬は仏頂面で言った。不機嫌な理由はバーゲンセールできるほどあったが、何より気に入らないのは自分のクオリティが「普通」ということだった。

 これが探知系とは言わないが、何か強力な攻撃スキルであれば、探知系スキル持ちとチームを組むことも可能だったというのに。


 せめて残る3人が、もう少しマシであれば救いもあった。だが3人とも探知には役に立たないカススキルなうえ、小鳥遊は学級委員を押し付けられても嫌と言えない陰キャ。永遠長に至っては、陰キャ。ボッチ。コミュ障。と、学校ではスクールカースト最下位を独走し、正直なところ、こんなことでもなければ側にいるのもおぞましい存在なのだった。


 まさに余りカスが寄せ集まったチームであり、これからのことを考えると、片瀬は頭が痛かった。


「まずは旅支度よね。この格好のままじゃ、なんにもできないわ」


 今片瀬たちは学生服ではなく、男子生徒は布の服に短パン。女子は布の服にスカートという、RPGでいうところのスタート地点における初期状態なのだった。


「この異世界ナビってのによると、この世界にはゲームでいう「ジョブシステム」があって、このタブレットを使えば、誰でも好きなジョブになれるようになってるみたいね」


 街に向かう道すがら、朝霞は異世界ナビに登録されているジョブをチェックした。見ると、ジョブには「戦士」「闘士」「射手」「騎士」「盗賊」「魔術師」「治癒術士」「魔法戦士」「侍」があり、その中で探知系の能力があるのは「魔術師」と「盗賊」であることがわかった。


「つまり、その気になれば、探知系のスキル持ちがいなくても、そのジョブを選びさえすれば魔石を探せるってわけね」


 片瀬も異世界ナビで「ジョブ」の項目をチェックしていく。


 しかし、それは恐らく探知系のスキル持ちがいないチームなら誰でも考えることで、言わばスタートライン。そこから、この勝負を勝ち抜くためには、もっと有効な解決方法が必要なのだった。

 とはいえ、そんな名案がすぐに浮かぶはずもなく、2人ともすぐに行き詰まってしまった。

 

「あんたたちも、少しは考えたらどうなのよ」


 朝霞は永遠長を睨んだ。半ば八つ当たりではあったが、実際永遠長は朝霞たちの後についてきているだけで、まだ一言も発言していないのだった。

 そんな朝霞に、永遠長は最初何かを言いかけたが、


「……何もない」


 結局、そう言っただけだった。


「言うだけ無駄だって、そんな奴」


 片瀬が永遠長に侮蔑の眼差しを投げつける。


「マジサイテー。なんで、あたしたちがこんな目に遭わなゃなんないのよ」


 片瀬は天を仰いだ。


「愚痴っても始まんないわよ。とにかく今は、やれることやんないと」


 朝霞はため息まじりに言った。


「そーね。差し当たっての問題は、ジョブを何にするかよね」


 片瀬は、改めて異世界ナビの「ジョブ項目」を覗き込んだ。


「探知能力が使えるのは「盗賊」と「魔術師」だけど「盗賊」の探知は罠とかの探知がメインみたいだから、探知だけで考えるなら「魔術師」一択ってことになるわね」

「でも、全員魔術師ってバランス悪くない? 罠があるところとかも行かなきゃなんないかもしんないし、盗賊もいたほうがいいんじゃない?」

「それを言うなら、回復役も必要になるじゃん。他に回復できる方法ないみたいだし。大怪我したら、終わっちゃうじゃん」

「そーよねー。じゃあさ、こうしようよ。わたしたち2人が魔術師に。永遠長は盗賊、小鳥遊は治癒術師。どう? これなら万事解決でしょ」

「そうね。それが妥当なところかも」


 片瀬の同意を得た朝霞は、


「よし、決まり」


 勝手に話をまとめると、


「そういうことだから、あんたたちは「ヒーラー」と「盗賊」ね」


 小鳥遊と永遠長に言い渡した。そして街についた4人は、まず手持ちの資金で旅支度を整えると、次に冒険者ギルドに向かった。

 ジョブの選定と決定は異世界ナビで行えるため、必ずしも冒険者ギルドで冒険者登録をする必要はない。しかし、この世界になんのツテもない地球人が生活費を稼ぐには、冒険者としてクエストをこなすしかないのだった。


「冒険者ギルドに行く前に、俺は1つ買うものがある。おまえたちだけ先に行け」


 永遠長はそう言い残すと、


「ちょっと待ちなさいよ!」


 朝霞が止めるのも聞かず、さっさと歩き去ってしまった。


「今の状況わかってんの、あいつ?」

「もう、いいから放っとこ、あんな奴。さすがに、こんなところで死なないだろうし。死にさえしなきゃ、どうでもいいわよ、あんな奴」

「それもそうね」


 朝霞と片瀬は頭を切り替えると、小鳥遊とともに冒険者ギルドに向かった。

 そして到着した冒険者ギルド本部で、予定通り朝霞と片瀬は魔術師として。小鳥遊は治癒術師として冒険者登録を行った。そして待つこと10分。

 銀の仮面をつけた男が、3人の元に歩み寄ってきた。


「終わったぞ」


 その声から永遠長だと気づいた朝霞は、


「永遠長? 何よ、その仮面?」


 思わずツッコミを入れたが、


「おまえには関係ない話だ」


 と、軽くあしらわれてしまった。


「何よ。散々、人を待たせといて」


 憤る朝霞を、


「放っときなさいよ。ああいうの付けてみたかったんでしょ、きっと。厨二病ってやつ?」


 片瀬が小馬鹿にした口調でなだめた。

 そして冒険者ギルドを後にした片瀬たちは、いよいよ魔石探しに出発する運びとなった。


「はい、これ」


 朝霞と片瀬は自分たちが買い揃えた荷物を、永遠長の前に置いた。


「荷物運びは、あんたの役目だから。役立たずのキモオタでも、それぐらいできんでしょ」


 片瀬の本音としては、永遠長に自分の荷物を触られることも嫌なのだが、この先どんな状況になるかわからない以上、負担は少しでも減らしておくに越したことはない。背に腹は代えられないというところだった。


「じゃあ、始めるわよ」


 身軽になったところで、片瀬は呪文の詠唱に入った。唱えるのは、もちろん探知の魔法であり、そのために必要な魔導書も購入済みだった。

 しかし、2箇所ほど試してみたが、魔石らしき反応はまったくなかった。


「ダメね。ここにもないみたい」


 片瀬は疲れた息を吐いた。


「もしかしたら、もうこの辺の魔石は他の連中にあらかた取り尽くされちゃったのかも」


 朝霞たちが街に着いたとき、もう他のチームの姿はどこにもなかった。それはつまり、自分たちが出遅れている間に、他のチームは早々に旅支度を整えて街を出発したということだった。


「じゃあ、もう、ここら辺探しても無駄ってこと?」

「もうちょっと範囲を広げてみないとわかんないけど、そう考えたほうがいいんじゃない。ここで魔法を無駄打ちするより、他の奴らが探してなさそうな場所に行ってから探したほうが」


 この世界の魔法に、レベルによる使用制限はない。ただ、強力な魔法ほど魔力を消費するため、唱えても魔法が発動しない。発動しても威力がしれている。魔術師の疲労が激しい。など、費用対効果が見合わないことが多いため、レベルに見合わない魔法は極力使用しないのだった。そして、それは探知系の魔法でも例外ではなく、レベル1の魔術師が探知できる範囲は、せいぜい半径100メートル。使用できる回数も、個人の資質にもよるが、通常は5回から10回が限界なのだった。


「他の連中が探してなさそうな場所って、どこよ?」


 片瀬が苛立たしげに言った。


「わかんないけど、ここからできるだけ離れた場所よ。それこそ隣の国とか」

「そんなところへ、他のチームより先にどうやって行くってのよ!?」

「わたしが知るわけないでしょ!」

「ああ、もう! なんで、あたしがこんな目に!」


 片瀬は頭をかきむしった。


「それは、こっちのセリフよ!」


 朝霞の体が怒りに震える。そこへ、


「あ、あの、2人とも」


 小鳥遊が声を書けた。


「うっさいわね!」

「役立たずは黙ってなさいよ!」


 小鳥遊ごときが、自分たちのしていることに口出ししようとしている。そう

思った朝霞と片瀬は、怒りを小鳥遊にぶつけた。しかし、これでいつもなら黙る小鳥遊が、


「ふ、2人とも」


 震えながらも前方を指さした。


「なんだってのよ?」


 朝霞と片瀬は、小鳥遊が指差す方向を見た。すると、自分たちの3倍はありそうな大トカゲが、こちらに向かってきていた。


「キャアアア!」

「嫌あああ!」


 朝霞と片瀬は我先にと逃げ出し、それを小鳥遊と永遠長が追いかける。そして、


「も、もう追って来ないみたいね」


 なんとか大トカゲを振り切ったと思った矢先、


「!?」


 頭上から降ってきた大蛇が、片瀬を頭から飲み込んでしまった。


「キャアアア!」


 朝霞は再び逃走するなか、小鳥遊はその場に踏みとどまっていた。


 なんとか片瀬さんを助けないと。


 そう思った矢先、また別のモンスターが左手から飛び出してきた。次に現れたのは10メートルを超える白狐であり、今度こそ小鳥遊は死を覚悟した。しかし白狐は小鳥遊を襲うことなく、大蛇の首に噛みついたのだった。そして白狐に組み付された大蛇の口から、永遠長が片瀬を引っ張り出す。


「何を突っ立っている。さっさと逃げるぞ」


 永遠長は片瀬の足を掴んだまま走り出し、


「う、うん」


 人間の運び方じゃない。と場違いな感想を抱きつつ、小鳥遊もそれに続く。


 そして森を抜けたところで、先に逃げ出していた朝霞と合流した。


「し、し、死ぬかと思った」


 九死に一生を得た片瀬は、青ざめた顔で身を震わせた。


「なんで、あたしがこんな目にあわなゃなんないのよお」 


 しかし、自分の置かれた境遇をどんなに嘆いても、状況は何も変わらない。


 朝霞と片瀬は、散々に不満を吐き散らかした後、馬車で西に向かうことで合意した。実際のところ、どこでも良かったのだが、西行きの馬車が1番早かったのだった。

 そして馬車に揺られること丸1日。隣街に着いた4人は、そこで改めて魔石探しを始めた。すると、朝霞と片瀬の拙い探知魔法でも、魔石を発見することができた。その数は30個ほどに過ぎなかったが、自分たちの力でも魔石を探し出せることにどりあえず安堵し、この日の魔石探索は終了となった。

 そして街の宿屋に戻ったところで、


「あたしたちは3人部屋でいいとして、あんたは馬小屋ね」


 片瀬は永遠長に宣告した。


「何よ? 文句あんの? それとも、あんた1人で1部屋使おうとでもいうわけ? そんな金がどこにあんのよ?」


 片瀬は永遠長に詰め寄り、


「それでいい」


 永遠長もあっさり了承した。

 とはいえ、永遠長1人だけ馬小屋に押し込めるのは、さすがに気が引ける。

 そう思った小鳥遊は就寝前、トイレに行くついでに永遠長の様子を見に行った。すると、永遠長の姿はどこにもなく、それは3日目の夜も同じだった。


 しかし、だからといって、小鳥遊に永遠長を問い詰めるほどの度胸はなく、小鳥遊の胸にかすかな疑問を抱かせたまま時間だけが過ぎていった。


 そして探索5日目。この日も小鳥遊たちの魔石探索を続いたが、その足取りは今までになく重かった。というのも、この時点で探知能力者のいるチームとは、すでに10倍近い差がついていたからだった。


 このままでは絶対に勝てない。だが、打開策も見いだせない。


 焦る思いだけが募っていった。


 そんな絶望的な状況に変化が起きたのは7日目のことだった。


「ちょっといい、片瀬。ちょっと相談したいことがあるんだけど」


 夕方、村の宿部屋に腰を落ち着けたところで、朝霞が片瀬に耳打ちした。


「いいけど」


 小鳥遊を横目に、片瀬は小さく頷いた。そして2人で村外れの林まできたところで、朝霞は要件を切り出した。


「わたし思いついたの。この状況を引っくり返す名案を」


 昨日までと打って変わり、朝霞の目は活力に満ちていた。


「名案?」


 この状況で思いつくことなど、たかが知れている。

 その思いが、片瀬の顔に有り有りと浮かんでいた。


「わたしたちのレベルじゃ、どうがんばっても探せる石の数なんてしれてる。なら、もっと高レベルの魔法使いを雇って、代わりに探させればいいのよ」


 朝霞の提案に、緒方の顔から侮蔑感が薄らぐ。


「あの女は、わたしたちに魔石を探せって言ったけど、別に他人の手を借りちゃいけないなんて、一言も言わなかった。つまり、誰かを雇って代わりに探させたとしても、別にルール違反にはならないってことよ」


 熱を帯びる朝霞の言葉を、


「あんた、バカ?」


 片瀬の冷ややかな声が遮る。


「誰がバカよ!」

「確かにルール違反じゃないでしょうし、それができればまだ逆転の可能性があるかもしれないけど、その方法には1つ致命的な欠陥があるわ」

「何よ?」

「金よ、金! 人を雇うって簡単に言うけど、そんな高レベルの魔法使いを雇う金が、あたしたちのどこにあるってのよ!?」


 実際、今も異世界ナビから支給されたポイントと、冒険者ギルドでのクエストの報酬で、かろうじて生活できているレベル。とてもじゃないが、上級魔術師を雇う金などないのだった。


「その問題なら解決済みよ」


 朝霞はほくそ笑んだ。


「何か名案でもあるっての?」

「あの2人を売るのよ」

「売る!?」


 思わず声を高めた片瀬の口を、


「しっ、声が大きい」


 朝霞があわてて塞ぐ。


「この世界に奴隷商人がいるのは、あんたも知ってんでしょ。そいつにあの2人を売って、その金で優秀な魔術師をできる限り雇うのよ。ね、いい考えでしょ」


 朝霞はドヤ顔で言った。そして片瀬も朝霞の提案を否定しなかった。だが、まだ問題があった。


「でも大丈夫かな。売るのはいいとして、もし売られた先であいつらが死んじゃったら、あたしたちも終わりなのよ?」


 片瀬は不安げに言った。


「それはなんとも言えないけど、たぶん大丈夫なんじゃない? 向こうだって商売なんだし、そう簡単に殺したりしないわよ。そりゃ、少しは痛い目に遭うかもしれないけど、死ぬよりはマシでしょ」


 どうせ、このままでは小鳥遊たちも死ぬことになる。それならば、少しでも助かる可能性に賭けるべきだった。


「それもそうね」


 片瀬も納得した。売られた先でどんな目に遭おうと、死にさえしなければ知ったことじゃない。とはいえ、まだ問題は残っていた。


「……でも、売るって言っても、どうやって売るのよ?」


 たとえ最終的に自分たちが助かるためとは言え、小鳥遊たちが黙って売られるとは思えなかった。


「バカね。当然黙って売り飛ばすのよ。魔法で眠らせた後でね」

「……だったら野宿してるときのほうがいいわね。永遠長は、いつも馬小屋に入れてるから鍵の心配はないけど、宿屋だと人目につくし」

「じゃあ、明日野宿することにして、そこでやるってことで、どう?」

「いいわね」

「決まりね」


 片瀬にも朝霞にも、小鳥遊たちへの罪悪感は微塵もなかった。


 どうせ、このままでは全員死ぬ。

 ならば、役立たずが役立たずなりに役立てることを光栄に思うべき。

 むしろ、重要な役どころを与えてやった自分たちに感謝すべき。


 片瀬も朝霞も、本気でそう思っていた。


 その歪んだ独善が、自分たちの身に何をもたらすかも知らずにも。




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