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クソゲーがぁぁ

最初の城であるロンドゥルゲウス・マニュファクチュラス王国の王城を出て、最初に出会ったモンスター。

それがいきなりレベル40という、完全にゲームバランスを無視したエンカウント。

「……まぁ、私にとっては大した敵じゃないけどさ……」

しかし有紗は全く焦ってなどいなかった。

それどころか、至って平常心だった。

 ……旅立つ前にチラっと会った王様から受け取っていた、それなりに良さそうな剣を構える有紗。

 そして……

鳳凰の輪舞曲(フェニクス・ロンド)!!」

彼女が剣を振るうと、炎の渦が巻き起こり、モンスターたちを包み込む。


ギャアアァァ……モンスターたちは断末魔の声を上げ、炎の中に消えていった。

「……ふぅ。ちょっとやりすぎちゃったかな。

 って……あれ?どうしたの、パクチー。」

「あ……あわわ……あわわわ……」

パクチーは腰を抜かしたように地面に座り込み、顔を真っ青にしていた。

「何よぉ、そんな驚くほどの事じゃないでしょ。今のはレベル60くらいの敵なら倒せるって程度の技だし……」

「ろ、ろくじゅう!?そ、そうなの!?

 い、いや、そうじゃなくて……その、こ……ここは、火属性禁止エリアなんだ!!」

「……は?」

「い、今の技は明らかに火属性……だろう?

 禁止属性の技を使うと……使うと……!!」

「ゴクリ……つ、使うと……!?」

「最後に記憶した場所へ戻される。」

「へっ……?」




「……あー……ホンっトクソゲー……マジでクソゲー……。」

特に記憶などしていなかった二人は、ロンドゥルゲウス・マニュファクチュラス王国の王城から再びローレンツォ・ダールトニアス町へ向けて歩き出していた。

「だいたい、そんなルールがあるなら先に教えておいてよぉ……」

「す、すまない……まさかいきなりあんな技を使えるとも思っていなかった……」

「いやいやいや、おかしいでしょ!!だって、レベル1で勝てるような相手ならともかくよ?

 いきなりレベル40でしょ?そりゃ普通、スキルくらい使うよ。魔法だって使うよ。

 でさ、スキルにしても魔法にしても、基本はやっぱ火属性じゃないの!?」

頭からプンプンというマークを吹き出しながら有紗は言った。

しかし、それを聞いたパクチーはどうにも不思議そうな顔をする。

「火属性が基本……だと?

 そんなわけがあるまい。火属性の技は本来、”焼き尽くす力『アグニ』”に覚醒した者だけが使えるものだ。」

「焼き尽くす力……アグニ……?

 うーん……そういえば、前にも何か言ってたよね。見通す力……だっけ。」

「うむ。良い機会だから説明しておこう。この世界には大いなる7つの力が存在する。

 見通す力『アーカーシャ』。維持する力『ブーミ』。癒やしの力『ジャラ』。疾風の力『ヴァーユ』。

 そして、焼き尽くす力『アグニ』だ。」

「見通す…維持する…癒やしの…疾風の…そして焼き尽くす……か。

 あれ?5つじゃない。力は7つ存在するんでしょ?」

「あぁ。あと2つは貫く力『インドラ』と、覆う力『クリシュナ』だ。

 しかしこの2つは特別でな。それぞれ、人間の王と魔王だけが持つ力なのだ。」

「へぇ……無駄に凝った設定……いや、まぁそれは良いか。

 なるほどね、要するに火の力ってのはみんながみんな使えるってわけじゃないのね。

 だからこんな火属性禁止エリアなんていう理不尽なものが存在する、と。」

「理不尽かどうかは知らんが、まぁそうだ。」

「……じゃあさ、これからは禁止エリアとかは先に教えてよね……

 また王城からやり直しなんて嫌だしさ……。」

「わ……わかった。すまなかった……。」

ここ数回はほとんど歩く事もなく世界を救った有紗にとって、こんなに歩く事自体が苦痛だった。

なにせ5回目、6回目の冒険では転移して即、ソロで魔王を撃破しているのだ。

「それにしても……さっきからけっこう歩いてるけど、モンスターの気配が全然ないね……」

「あぁ、うむ。町を出てから人間も一人も見ておらぬであろう?

 それと同じだ。町の外にはモンスターも滅多におらぬ。

 丸一日歩きまわって1回遭遇するかどうかというところだろう。」

「え……?それじゃレベル上げとかはどうするの?」

「レベル……上げ……?」

 パクチーは首を傾げた。

「は……?いや、じゃあレベル1とかの勇者さん来たらどうなるの?

 いきなりレベル40の敵出るし、弱い敵でレベル上げとかもできないって事?」


 だとしたら、もはや無理ゲーというものである。しかし、そんなはずはない。

 現に生きている人間がいるのだ。レベルを上げる方法がない、なんて事はあり得ない。


「……えっと……パクチーはさ、レベルどれくらいなの?」

「ん、私か?先日レベル45になったばかりだが……」

「え?あ、あぁ、けっこう高いんだ……」

「こう見えて高神官だからな。

 ロンドゥルゲウス・マニュファクチュラス王国内ではトップレベルだと思うぞ。」

「ふーん……いや、それでさ。

 その、あなたのレベルはさ。どうやってそんな……45まで上げたの?」

「自宅での筋トレだ。」

 それを聞いた途端、有紗の目が点になる。

「えーと……き、筋トレだけで45……?

 それってどれくらいかかって……?」

「そうだな……20年ほどかな。正しいトレーニングと休憩、そして食事や適度な睡眠といった健康管理。

 うまくいけば3ヶ月程度でレベルが1上がる。あとはそれを地道に続けるのがコツだ。

 もちろん、うまくいかない時もあるが……諦めない気持ちが肝要だな!!」

「あ、そう……。」

 よく鍛えられた腕を自慢げに見せながら語るパクチーの姿に有紗はやや眉を潜めたが、諦めたようにため息をついて話題を変えた。

 本来の目的についてである。

「……それで、まだなの?その……ローレンなんとかっていう町は。」

「あぁ、うむ。もうそろそろ見えてくるは……むっ!?」


話している途中で、突如パクチーの体が激しい冷気に包まれる。

「なっ……しまった、油断した……モンスター!?」

 丸1日歩きまわって1回。その話を聞いていた有紗は、完全に警戒の糸を切っていた。

 会話の途中で襲ってくる、というのもこれまでの世界におけるセオリーには反していた。

 その上このモンスター、どうやら生物でないらしく、気配が全く感じられなかったのだ。

「しゅるるるる……しゅるるるる……」

氷の塊が、人間のような形をしている。口と思われる穴から、凄まじいほどの冷気が吹き出していた。

「気、気をつけろ……勇者よ……!!

 こやつはフローズンデビル……意思を持たず、見るもの全てを無差別に凍らせる恐ろしいモンス……」


バリィィーーーーーーーーーン!!!


パクチーが話し終えるより先に、モンスターは氷の残骸に成り果てていた。

「ふぅ。」

「な……何が起きた!?」

「え、倒したんだけど……ダメだった?」

「い、いや……ダメではない。良い。倒さなければお前も凍らされていたかもしれぬ。

 しかし……あのモンスターはレベル60相当の恐ろしい敵……

 それを、火属性を使う事なく倒せるというのは……」

「あぁ、うん。火が効くだろうなって思ったけど禁止でしょ。だからね、パンチしたの。」

有紗は、何事もなかったような表情のまま握りこぶしを見せて言った。

「……パンチ……。」

「ていうかさ。パクチー……あなた、それ……大丈夫なの?ほら、まだ全身凍ったままだけど。」

そう。モンスターは倒したが、冷気によって凍ってしまったパクチーの体は依然そのままである。

「……当然、大丈夫ではない。これは『氷漬け』という状態異常でな。

 しゃべる事はできるが動けない。

 そして徐々にHPが減っていき、やがて死に至る。」

「……まずいじゃない。」

「……まずいな。」

「……どうやって治すの?」

「……火属性の魔法で、溶かすしかないな。」


「クソゲーがぁぁぁぁぁ!!!!!」




ロンドゥルゲウス・マニュファクチュラス王国の王城から、みたび二人はローレンツォ・ダールトニアス町へ向けて歩いていた。

動けないパクチーを放っておいて町に行っても良かったが、町長の名前すら覚えられない有紗にはこの世界の事を知る通訳的存在が欲しかった。

「火属性禁止エリアで、火属性必須の状態異常……なんなのこのクソゲー……。」

有紗は3度目となる町までの道中、ひたすらにブツブツと何かをつぶやきながらただただ歩き続け……

今度は一度もモンスターと会う事もなく、ついにローレンツォ・ダールトニアス町が見えるところまでやってきた。


町の入り口が1箇所しかなく、それがわざわざ有紗たちの来た方角の真逆という地味な嫌がらせのようなクソゲー具合もあったりした。

が、とにもかくにも二人はついに目的地へ到着したのである。




「うわあぁぁぁ、着いたぁぁぁ!!ついに着いたぁぁぁ!!最初の町に……着いたんだぁぁぁーっ!!」


有紗は歓喜の声をあげた。


それはまさに、初めて冒険に出た勇者が命からがらなんとか町にたどり着いたかのような喜びようであった。

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