悪魔なのに復活したら神様扱いされていた(※悪魔はその事を知りません)
誤字報告感謝ですm(__)m
今から二百年前、強大な力で多くの国を恐怖で支配した悪魔がいた、背中に八対の蝙蝠の羽を持つ、長い黒髪の美しくとも残忍な女悪魔
その悪魔は他者を虐げる事が何よりも大好きで、絶えずおぞましい事を強制しては嘆きの声を上げさせていた
搾取した富で豪遊する事を躊躇わず、煌々と光が灯された城では毎夜悪魔の宴が開かれており、民衆からは不夜城と呼ばれる程であった
それも全ては負の感情を集める為、悪魔はそれを力に変える事が出来たのだ
幾多の国から日々集められる負の感情は凄まじく、天災すら操る程であった
勿論そんな横暴を女神は許さなかった
神獣の大群を引き連れ、悪魔を調伏する為に降臨したのである
今までの報いであろう、他者より忌み嫌われていた悪魔は孤立無援で神と戦う羽目となった
誰しもが、天候すら操る悪魔であっても、大地を埋め尽くす神獣の群れを率いる神には敵わないと思ったであろう
だが悪魔は勝ったのだ、翼を食い千切られその体を血で染めながらも……神獣を率いる女神を悪魔の剣が貫いた時、人々は全てが終わったと膝を付いた
───しかし奇跡は起こった!一人の勇者が悪魔の気を引いたその隙に、女神は残った力を振り絞り、悪魔を大地に縫い止めるのに成功したのだ!
悪魔は荒野に封印され、その地は残った神獣によって守られるようになった
傷付いた女神は天空にて眠りについたが、人々は荒野の側に巨大な城塞都市を作り、封印を見守る事にした
と言うのが、私が封印される迄の経緯なんだけど……ようやく石に変えられていた身体の封印が解けそうなのよね
ちょくちょく外の様子は見ていたけど、私を崇める悪魔崇拝の教団が出来てたみたいで、外の街を牛耳ってるみたいなのだ
ぷくくくく、私の封印を守る街が乗っ取られるなんて、女神ざまぁー
あまり長時間は見れないし、音も聞こえないけど……私の像を崇めてるって事は、多分そうよね?
そうこう思っていたら、体を覆う石に罅が入った
よしっ!封印を守っていた神獣を誰かが倒したみたいね!
身体の自由が二百年振りに戻って来たわ!
「お目覚め下さいまし我らが女神ホレルヤ様、忌まわしき封印は我ら罪業都市シンズ騎士団が解き放ちました、どうか目覚め再度我らをお導き下さい」
「私を女神と呼ぶなぁぁぁぁぁぁ!!」
石化が解けるなり、私は目の前で大仰に祈っていたおっさんを殴り飛ばした
あんな女と一緒にするんじゃないわよ!二百年前にもいたけど、悪魔に向かって女神と呼ぶとか、喧嘩売ってんの!
「ぶべらぁぁー!」
毛皮みたいな鎧に身を固めたおっさんが、まるで紙風船のようにポーンと宙に舞い、グシャッと地に叩き付けられた
周囲で平伏していた男の五人の仲間も、突然の出来事に固まってしまった
だが、倒れたおっさんはムクリと立ち上がると、涙ながらに喜び初めた
「こ、これがホレルヤ様の慈愛の御手!身体中の古傷まで癒えていくようだ!女神様と呼ばれる事を嫌がる事と合わせて伝承通りだ!!」
何を訳の分からない事を
私が人間を治しながら殴るのは、うっかり殺してしまったら負の感情が得られないからよ!
これなら本気で殴らない限りは、早々死なないからね
元気になったおっさんは、再び私の前で平伏した
「ホレルヤ様、是非とも街へお越しください!歓迎の準備を整えております故!」
歓迎の準備?
うふふふふ、素晴らしいじゃない!悪魔を歓迎するとか、あの街完璧に腐っているわね!
これは食べ応えがありそうだわ
「いいでしょう、でもその前に……えい!」
腕を上に伸ばして周囲の負の感情を集める
石化している時には吸収出来なかったけど、ここには数多くの苦痛と絶望の感情が渦巻いているのよね
二百年前に私が戦った影響と、多分そこにいる悪魔崇拝者達が、私を解放させる為に何度も挑んだせいだと思うけど、こんな絶好の餌場は見過ごせないわ
私の力に引き寄せられて、荒野全てに漂っていた黒い霧が渦巻くように天高く登ると、私に向かって落ちて来た
──すばら!!
濃厚なエネルギーを全身を駆け巡り、弱っていた身体に力が漲ってくる!女神と戦って出来た傷が癒えて、千切れた八対の蝙蝠の羽も、二対まで修復出来たわ
……ふと見ると、近くに居たおっさんとその仲間達が絶叫してるけど、まさか私の負の感情をつまみ食いしてるの?
咄嗟にシールドを張って彼らに負の感情が入らないようにして、ついでに彼らの中からも負の感情を無理やり頂いた
うん、美味美味
油断も隙もあったものじゃない!二百年ぶりのご飯を横取りするなんて、酷い奴らね!
でも殺さないであげる、あなた達は私を解放してくれたから、お礼に死ぬより辛い苦痛を味あわせてあげるわ!
「こ、これはホレルヤ様の結界なのか?」
「障気に包まれて、もう駄目かと思ったのに……なんだこれは、身体中が清々しいぞ」
「うそ、私を蝕んでいた障気のアザが消えているわ……もう、二度とあの子に会えないと思っていたのに……わ、私はまた、あの子をこの手に抱けるのか……ううっ!」
「み、見ろ!荒野を覆っていた障気が晴れていくぞ!」
「ああ……俺達はやったんだ、ついに邪神の呪いを解いたんだ!」
なんかみんな泣き始めたんですけど、つまみ食い出来なかったのがそれほど悔しかったのかしら?
でも泣いたって返してあげないわよ!もう全部私が食べちゃったからね!
だいたい、これっぽっちじゃ全盛期の力を取り戻すには全然足りないのよね、自慢の黒髪もキューティクルが足りないし
罪業都市シンズと言ったかしら?あの街にも負の感情がいっぱい溜まってそうだから、さっさと頂きましょう
「あなた達、街へ行くわよ」
「「「はい女神様!」」」
泣き顔で返事した全員の頭を殴ってから、私は転移した
───
──
─
街の教会に設置してある私の像の前に、おっさん達を連れて現れた私は、問答無用で負の感情を吸収した
今度はつまみ食いされないように、あらかじめ私以外にシールドを張ったのは言うまでもない
荒野より遥かに薄味だったけど、雑多な感情が混じっていて中々乙な味だった
もっとも、物足りなかったから街の人間の負の感情も強制的に奪っちゃったけどね
人間なんて私の家畜なんだから問題ないわよね!
「お、おい……ま、街を覆っていた暗雲が晴れていくぞ」
「太陽よ!みんな見て、太陽よ!!」
「アザが消えた……まさか、身体から障気が消えたのか!」
「女神様が復活なされたのじゃ、ありがたやありがたや」
「やっと俺達は許されたのか……くそっ、太陽が目に染みるぜ」
「騎士団がやってくれたんだ!ついにやってくれたんだ!!」
「大将!料理と酒をありったけ配ってくれ!今日は俺の奢りだ!」
「バカヤロー!こんな最高の日に金なんか取れるかー!今日はとことん飲むぞ、みんなで乾杯だー!」
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」
教会の外が騒がしわねー、食後のマッタリタイムを邪魔しないで欲しいんですけどー
眉間に皺を寄せていたら、痩せた爺さんが近付いて来た……多分この教会の責任者だろう、薄汚れているけど、私のシンボルカラーの黒を基準とした祭服を着ている
「ほ、ホレルヤ様、復活早々にかような奇跡、御体は大丈夫なのですか!」
「大丈夫か聞きたいのこっちなんですけどー、何その痩せ細った身体、ちゃんと食べてるの?」
「こ、これは、お見苦しい姿を見せて申し訳御座いません、この街は障気のせいで満足に野菜も育たず、皆飢えておりまして……で、ですがホレルヤ様のお陰で、これからは食糧に困る事はないかと!」
あのさー、それって野菜が育つまでは食べ物がないって事じゃない
これからはこの街の人間達には、いっぱい負の感情を捧げてもらわなきゃならないのに、その前に死んじゃうじゃん!
えーと、確か二百年前の貢ぎ物があったわよね?私は食べないから亜空間に突っ込んでたから……あったあった、よいしょっと
ポンと目の前に、大量の野菜や肉や酒を出してやる
「これを配りなさい、飢え死になんて許さないわよ!」
「こ、これは…………め、女神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「泣きながら抱き付くなー!」
「ぷきょっ!」
きしょいからエルボーを脳天に決めてやったら、床に這いつくばってお礼の言葉を連呼し始めた
……二百年前も思ったけど、人間って殴られるのが好きなのかしら、気持ち悪いから近付く人間は全員殴ってたのに、何故か感謝されるのよねー
とりあえず変態の相手はしたくないから、私の封印を解いた騎士団に野菜とかを運ばせた
外の騒動がより一層騒がしくなったけど、これで次の収穫まで持つよね?
やっと復活して、これからは負の感情が食べ放題なのに、食糧不足でみんな死ぬとか止めてよね!
だから食糧を恵んであげるのはいいんだけど……一つだけ問題があるのよねー
こうして大量に食糧をあげると、一時的に負の感情が減るのよ……と思ってたのに、街の一部の人間から濃密な負の感情が出てる、美味!
意識を集中して、その人間の声を拾ってみようかな?もしかしたら、食糧あげても負の感情を減らさないヒントになるかも!
(ふざけるなよ……今さら障気が無くなった所で、俺の腐って切り落とした足は戻らないんだ)
(お母さん死なないで!お願い女神様、お母さんを助けて!)
(あの女神の封印を解く為に何人死んだと思ってやがる……あの女神さえいなければ、あいつらは……)
うまぁぁぁぁぁぁい!!濃厚な負の感情、ありがとうございますぅぅぅぅ!
なるほど理解したわ!食糧を渡す前に取り返しが付かない状況にすればいいのね、盲点だったわ!
うーん、でも……死にそうなのは駄目よね、死んだら負の感情を出せなくなるから
とりあえず街全体に、病気を滅する呪法と体力回復の呪法を掛けとこうかしら
──えい!
(あら、私は一体……)
(お母さん、目が覚めたの!顔色も良くなってる!良かった、もう駄目だと思ってたのに……ああ、女神様ありがとうございます!)
あれ?何故か負の感情が減ったわ……まあ誤差よね?
次は身体欠損かな?あれ嫌いなのよね、リョナは趣味じゃないから止めて欲しいわ!
──という訳で、えい!
(な……お、俺の足が……女神様、俺、もう一生あなたへの感謝を忘れません!)
また負の感情が減ったわ……解せん
でも、減った分は取り戻せばいいのよ!ここら辺は死霊が多いから、それから負の感情を奪っちゃえ!
──えい!えい!
(お前ら……そうか、女神がお前らの呪縛をな……ははっ、心配すんな!お前らの分まで俺が女神を守ってやるよ!もう二度と封印なんてさせねーからな!)
死霊の負の感情が美味しいぃぃぃぃ!
生きてる人間なんかより、ずっと濃くて量が多いわ!
これは人間達をいっぱい殺した方がいいのかしら?……って、ダメダメ、二百年前もこんな美味しい死霊は、最初だけしか居なかったんだから!
それに長期的に見るなら、一回だけしか吸えない死霊より、生きている人間の方がいっぱい吸えるのよね
という訳で、今から私の住居、不夜城を築きまーす
何が“という訳“かと言うと、私の不夜城には広範囲から負の感情を集める機能があるからでーす!
先ずは良さそうな立地を探しに辺りを散策してっと……臭っ!そしてうるさい!
教会の外に出たら、人間が集まっていて大声で何かを喚いていた
街の人間全員来たかと思う程、教会の周囲は人間に埋め尽くされていて、それぞれが喚いているから何を言ってるのか分からない程うるさい!
そしてそれ以上に臭い!
人間が汚れてるのもあるけど、路上に汚物や腐った水が散乱しているじゃない!
私は汚い感情は大好きだけど、汚い環境はだいっ嫌いなのよ!
【静まりなさい!】
言葉に強制力を乗せて、無理矢理黙らせてやった
とりあえず匂いをどうにかしなきゃ、またアレを呼ぼうかしら……よく見たら建物とかもボロッちくて汚いわねー、あいつも一緒に呼んじゃおう
──むにゃむにゃ……えい!えい!
私の召喚に応じて、空中に半透明な青い巨大魚と、地面からは下半身が花の乙女が現れた
魚は三十メーターくらいの大きさなんだけど、魔界の汚泥を食べる怪魚で、観賞用として飼われているのよ
花の乙女は人間大なんだけど、こっちも観賞用として栽培されている事が多いの
どちらも見た目が綺麗で役に立つんだから!
人間達が突然現れた巨体な魚と花乙女にビビって、恐怖の感情を出している、スナック感覚でおいちー
でも匂いがキツイから、早々に魚に指示を出すわ
「食べ尽くしなさい、フラインググッピー」
私の声と共に、フラインググッピーは数万の小さな小魚に分裂すると、周囲の人間に襲い掛かった
一匹一匹は人差し指くらいの大きさだけど、いきなり群がられたら恐ろしいみたいで、悲鳴が響いている
もっとも、生き物は食べないんだけどね、食べるのは汚泥だけ、ほら、フラインググッピーが離れた人間は綺麗になっている
周囲の人間の汚れを食べ尽くしたら、次は勝手に路上の汚物も食べ尽くすでしょうから、次に行きましょう
「咲き誇りなさいバンブーミント、ついでに家屋とかの修繕もしといてね」
「はいホレルヤ様、この地は大地も水も苦痛が染み込んでいて、とても快適です、任せて下さい!」
バンブーミントが両手を地面に付けると、街中の家々に地面から蔓が伸びて巻き付いた
ボロボロな壁や屋根を同化しながら塞いでいく、足りない木材とかは、蔓から竹が生えて補修している
内部にも竹の子が床を突き破って生えると、そこから蔓を伸ばして、壁や天井はもちろん、家具も修復している
あっという間に修繕を終えると、最後に竹の子が開けた穴を塞いで、家を覆う蔓が花を咲かせた
匂いよし!見た目よし!地面をつつきながら泳ぐフラインググッピーも可愛くてよし!
まさに満点ね!我ながら良い仕事をしたわ!
「お、おい、何が起きたんだ……魚に食われたと思ったんだが、俺は死んだのか?」
「ま、まるで天国だ、花が咲き乱れて、とてもいい香りがする」
「見て!私の肌も服もピカピカになってる!」
「あの家、まさか俺のボロ小屋か……崩れた部屋も直っていて、新築みたいだ」
「奇跡だ……女神様がまた奇跡を起こして下さったんだ」
「「「「…………う……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」
うるちゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!
いきなり大声出さないでよ、びっくりするじゃない!なんか喜んでるみたいだけど、私は負の感情以外の感情は食べれないから、出されても判らないからね!
とりあえずちゃっちゃと不夜城作っちゃいましょう
場所は教会の裏手の丘が空いてるわね、もうあそこでいいや
──むにゃむにゃむにゃむにゃ……えーい!
ポフンと丘の上に不夜城が現れると同時に、私の背中の羽もシオシオになった
これ広範囲から勝手に負の感情を集めてくれるけど、作るのに大量の力がいるのよねー……復活してから集めた力のほとんどを使っちゃったわ
今日は疲れたから、不夜城で寝ようっと
フラフラと飛んで不夜城に向かうんだけど、なんか静かだ
背中に視線を感じたから振り返ったら、何故か集まった人間が泣きながら土下座していた
ふおっ!負の感情が流れ込んで来た!これは後悔や哀しみや無力感の感情かしら?集まった人間から溢れ出していて、おいちー!
よく分からないけど、静かになったのはいいことよね
これでゆっくり眠れるとわ……と不夜城の扉を開けようとしたら、教会で会った爺さんがダッシュで丘を登ってるのが見えて、私は固まった
「ほ、ホレルヤ様大丈夫なのですか!いくら民草の為とはいえ、あれ程の奇跡を何度も使われては、御体に触ります!美しかったお羽も萎れているでは御座いませんか!」
なんか泣きながら心配されてるけど、舐めんじゃないわよ!
「はあ?私は臭くてボロいのが嫌だったから、勝手にやったのよ!だいたいあれっぽっちで私が弱る訳ないでしょ!」
「くうぅぅぅぅぅぅぅ!なんと気高きお心!皆が心を痛めぬように、あえてそのようなお言葉を」
聞いちゃいねー……二百年前にも居たけど、なんで私を崇める悪魔崇拝者って、人の話を聞かないのかしら
あー、もういいや
「他に用が無いなら、私は寝るからね」
「あ、いえ……もう一つ御座いまして……大変申し上げにくいのですが、そこでお休みになられるおつもりですか」
爺さんが不安げに見詰める先は、私が入ろうとしている不夜城だった
何か問題でもあるの?……そう言えば、前も不夜城を作った時には色々言われたっけ
全部無視してやったけどね!
だって、見てよこの機能美!
外観は黒で統一されたシンプルさ、完璧な防音性を発揮する重厚な木目の壁、八畳一間の割には屋根は高く鋭利な三角形を形作っていて、パッと見は小さな社
何より負の感情を集めてるから常に黒い光を放っていて、まさに不夜城!カッコいいじゃない!
「何よ、文句でもあるの?」
「い、いえ……ですが、出来ればこの街で一番の屋敷にお部屋をご用意させておりますので、そこでお休みになられてはと……我等の家を美しく直して頂いたのに、ホレルヤ様にこんな小屋で眠らせては、我々に立つ瀬が御座いません」
「却下!こんな小屋とか言うけどね、この不夜城には広範囲から負の感情が集まるようになってるのよ!ここ以上に私に相応しい家はないわ!」
失礼しちゃうわ!私の美的感覚にケチ付けるなんて、激おこぷんぷんよ!
「こ、広範囲から負の感情……まさか民の苦しみの声が届くのですか…………くうぅぅぅぅぅぅぅ!ホレルヤ様は、どれだけお疲れになられていても、誰もお見捨てにならないのですね!」
また泣き始めたわ、忙しい爺さんねー
「兎に角、私はもう寝るからさっさと帰って!……そうそう、明日の夕方に私の封印を解いた者達を寄越してちょうだい」
「は、ははー!」
土下座する爺さんを無視して私は不夜城に入った
おほっ、こんな短時間なのに想像以上に負の感情が溜まってる!うひょー美味しいぃぃぃぃ!!
これはこの街以外にも結構な餌場があるとみた!明日目が覚めたら速攻で調査するしかないわね!
また前みたいにいくつもの国を牛耳ってあげるわ!
───
──
─
むにゃむにゃ……もう食べきれないよー……ハッ!今何時?なんだ、まだ夜中じゃない
でも身体の調子は良いわね、羽も一対だけだけど艶が戻っているわ
ちょっと夜空の散歩でもしようかしら、久しぶりに身体の自由が戻ったんだから、謳歌しなくっちゃね!
と思ってドアを開けたんだけど、騎士団が直立不動で目の前に居た
「……」
「……」
なんか喋りなさいよ!無言で立たれると怖いんですけどー
「……私は明日の夕方に来なさいって言ったはずなんだけど」
しょうがないから喋り掛けたら、六人全員膝まずいて、真ん中のおっさんが口を開いた
「はいお伺いしております。ですが万が一にも御待たせする訳にはいかぬと、言伝てを聞いてから全員で待機しておりました」
素朴な疑問なんだけど、トイレとかどうする気だったんだろう?
人間は私みたいに不要って訳じゃないわよね?
まーいいわ、来てるんなら予定より早いけど、生き地獄を味あわせてあげる
──えい!
地面にポポポーンと、六本の剣が現れた
「私の封印を解いてくれたお礼よ、受け取りなさい」
「は?……はい!謹んで頂戴致します!」
喜んで拾ってる所悪いけど、それ実は呪いの魔剣なのよねー
一度装備したら所有者が捨てても戻ってくるから、逃げられないのよねー
自分でも性格悪いと思うけど、私の二百年ぶりの食事を邪魔したんだから、それなりの罰をあげなくっちゃね!
六人全員が剣を持った所で、私はネタバレをしてあげた
「いい忘れてたけど、その剣は周囲の負の感情を食べちゃうのよねー、それで切れ味が増したり結界はったり傷を癒したりするから、そう簡単には死ねなくなっちゃうの、ごめんねー、変な剣を渡しちゃってー」
やった、やってあげたわ!みんな驚いた顔をしてる!
これで彼らも剣に負の感情をつまみ食いされたら、私の気分も分かるでしょう!いい気味だわ…………あれ、そう言えば人間って、負の感情を食べないんじゃなかったかしら?
……まーいいわ!目には目を負の感情には負の感情をよ!食べなくても、勝手に奪われる気持ちは分かるでしょう!
うん、問題なし!
(負の感情とは、まさか障気の事か?)
(それではこれは、障気を力に変えるというのか!)
(傷を癒すと言われたけど、まさか癒しの力まで備わっているの!)
(まて、一番重大なのはそこじゃない……これを装備していれば、障気に侵されないって事だ)
(((なっ!)))
(も、もしかしたら……障気で苦しんでる人も救えるかも)
(神器だ……障気を祓える神器を賜ったんだ!)
(((ほ、ホレルヤ様ー!)))
うわー、みんな剣を抱いて泣いちゃった
やりすぎちゃったかしら?……わ、私は謝らないわよ、だって食べ物の恨みは怖いんですもの!私は悪くないもん!
でも居ずらいから、こっそり夜空に逃げるけどね!
おっ、あっちに大規模な負の感情を発見!夜食に貰っちゃおーとっ!
───
──
─
あれから一ヶ月くらい経ったけど、中々忙しいわ!
先ずは、あっちこっちに負の感情が溜まっている所があったから、騎士団に不夜城の子機を配置させているの
不夜城の範囲外でも子機を置いとけば、負の感情が流れてくるのよね
お陰で羽も四対まで回復したわ!
まー、残念な事もあるんだけど……どうやら二百年も封印されている内に、人間が少なくなったみたいなのよ
それというのも、女神が連れて来た神獣が野生に帰って繁殖してるみたいなの
まったく、碌なことをしないわね!人間が減ったらご飯が減るじゃない!ちゃんと管理しときなさいよ!
お陰でその対策までしなくっちゃいけなくなったのよねー
神獣は負の感情に群がる習性があるから、子機を置くついでに騎士団が倒してるんだけど
全部倒せるはずもないから、私はせっせと他の街や村に結界を張って回っているわ
もちろん駄賃に、人間から負の感情を貰うのは忘れてないわよ!うふふ役得役得
まーその内、負の感情に引かれてこの街に集まって来るでしょうから、その時に私がまとめて倒しちゃえばいいかな
結界を何重にも張って準備してるから、二百年前みたいな事にはならないでしょう
……い、一応戦える人にもっと武具を渡しとこうかしら、油断はダメよね油断は!
二百年前は調子に乗って一人で戦ったら、ボロボロになっちゃったもんねー
それでもなんとか勝てたのは流石私だけど、逃げ遅れた人間を庇ってうっかり石化しちゃうし、本当油断は禁物よね
今度はしっかり防御を固めるわよ!じゃないとまたモッタイナイと思って庇っちゃいそうだから!
ふー、色々考えてたらお腹が空いてきたわ、ご飯食ーべよっと
一応言っとくけど、私は負の感情だけでなく、普通の料理も食べれるわ、別に食べなくても死なないけど、嗜好品って感覚かしら
最近ハマっているのは、バンブーミントの竹の子の刺身、これを不夜城から出て人間を見ながら食べるのが日課になっているの
おほー、負の感情が流れ込んで来る!
何故か分からないけど、私が一日一回竹の子を食べると、それを見た人間達が負の感情を垂れ流すのよねー
もしかして羨ましいのかしら?欲しいならいっぱい生えているから、自分で取ればいいのに、ほんと不思議ー
竹の子で思い出したけど、この前香辛料を貢いで来た人がいたわね
「これで味付けして下さい」とか言ってたけど、私は素材を生のまま食べるのが好きなのよ!ムカついたから、香辛料を全部発芽させて突き返してやったわ!ザマーみなさい!
そんな感じで些細な問題は多いけど、それ以外はいたって順調よ!
教会の爺さんなんか、私が結界を張った街に支部を建ててるのよ、悪魔崇拝者が堂々と支部建てるな!と笑いそうになっちゃったわ
あんまり面白いから、傷や病気を直す杖を何十本も作ってあげちゃったら、また泣き出したんだけど、人間って貰い物したら泣く生物なのかしら?
まー兎に角、きっとあの爺さんならその杖を使って、人間を生かさず殺さず負の感情を絞り取ってくれるわよね
最近は集まる負の感情も増えてきているし、怖いくらいに順調だわ
これなら女神がまたやって来ても、きっと勝てるわよね!
★★★
罪業都市シンズ、それは遥か昔にホレルヤ様を慕う者が集まって作った城塞都市
御一人で邪神の軍勢に挑まれたのを、ただ見守るしか出来なかった者達の、罪の意識で作られた街
邪神の障気で満たされた地は、ただ生きるのですら過酷であった
荒野から流れて来る障気は、身体を徐々に腐らせるだけに留まらず
常に暗雲に空を覆わせ、水を汚染させ、満足に作物すら作れない世界に変えたのだ
だが、そんな絶望的な環境でも、人々は諦めなかった
ホレルヤ様を今度こそ救う為に、障気の中でも生きていられる魔獣の肉を食らい、その血を飲み、その毛皮を纏い、その身を戦いに投じた
二百年、それは人間には長すぎる時間だったが人々は戦い続けた
もうすでにホレルヤ様を直接知る人間は居ない、罪の意識ではなく、この地獄を解放する為に、封印を目指した
ホレルヤ様の封印さえ解けたなら、我々は助かるのだと信じて
そして多くの犠牲を出しながらも、その願いは叶った
遂に罪業都市シンズの騎士団が、ホレルヤ様の封印を守る魔獣を倒したのだ!
復活したホレルヤ様の力は凄まじいの一言に尽きた
荒野や街を覆う障気を一瞬で浄化し、あまつさえ街の人々全ての病気や怪我を治したのだ
街に笑顔が溢れた、今までこんなに幸せな時は無かったと言わんばかりに、笑い声が響いた
これからはずっと、こんな平和で幸せな日々が続き、笑顔が耐えないと誰もが思った
……そう誰もが思っていたのだが……世の中はそんなに優しくなかった
確かに街は笑顔で満ちている、だがそれは、ホレルヤ様に関わらなければと注釈が付く
数人の大人が悲しそうな顔をしている
この街では別段珍しい事ではない、最近では、ホレルヤ様が結界を張った街や村でも増えて来ている
「また食べて貰えなかった、食糧を貢いだのに「くれるの?ならまた食糧が不足した時の為に取っとくわね」と仕舞われたんだ……栄養がつくのを食べて欲しかったのに、そりゃないっすよホレルヤ様ー」
「俺なんかこの前、やっとの思いで高価な香辛料を取り寄せたのに、苗木に成長されて返されたんだぞ……植えろって事?そしてみんなに配れって事なんですか!ホレルヤ様に使って欲しかったのにー!」
「私達はお腹いっぱい食べれるようになったのに、ホレルヤ様は今日も竹の子をちょっと食べてるだけだったわ……罪悪感がががが」
「せめて私達よりも豪華なお城に住んでくださいよー!なんで私の家の部屋位の小屋に住んでるんですかー!」
「そうだ!宝石とか貴金属ならどうだ!」
「それとっくの昔に試してるから、貴金属やお金関係は全部、貧乏な人達に「あんたガリガリじゃない!これでご飯食べなさいよ!」って配ってるそうよ」
「す、隙がない……あーーもーー!」
「「「恩返しさせてください、ホレルヤ様ー!」」」
人々は知らない、その絶叫こそがホレルヤ様に対する最大限の貢ぎ物だと
想いは負の感情となって不夜城に届き、ホレルヤ様を「美味しいぃぃぃぃ!!」と叫ばせているだろう
ただ残念な事に、その声を誰かが聞くことは、これからもないであろう
女神「目覚めたら邪神扱いされている件について」