この季節の俺
俺はお前、私は君。
いつだってそこに在るーーー
とある年の冬、今年は大雪が降った。咳が止まらないほど寒い。学校帰りの俺は寒さに耐えられなかったからか、それか雪で足が動かせなかったからか、雪の中に倒れ込んでしまった。
頭に響く救急車の音、心配する親や通行人。救急車も来るのに精一杯だったらしい。
隊員が俺を運んだ。そして「大丈夫?」の声。俺は声が出せなかった。目も完全には開かなかった。なぜかは俺にも良く分からない。
気がつくとそこは病院の天井だった。横には看護師がいる。
「目が覚めたようですね。」
と看護師は目覚めた俺に気づく。
不思議なことに、体は元気である。が、喋れない。口を開けて声を出そうとするが、聞こえるのはヒューヒューという息の音だけであった。
ジェスチャーで看護師に伝える。
「どうしたのですか?…声が出ないのですか?」
よし、伝えることが出来た。理解した看護師は急いで医者を呼んだ。
その間に俺は声を出そうと頑張ったが、咳き込んでしまう。
そして数分後、慌てて来た医者が俺に問うてきた。
「口をあけて、声出してみて。」
もちろんだが出なかった。
「出ないのか…。レントゲン検査をしてみよう。」そう言い、俺をレントゲン室に連れていく。
検査中俺は、少し不吉な予感がしていた。
「冬花くん、とても大切なことを言うよ。」
俺は覚悟を決めた。
「冬花くん。君の喉、声帯が腫れている…。済まないが、わしとしてもこの病気は良く分からないんだ。大きい病院に君を移す。あまり声を出そうとはしないでくれたまえ。」
俺は全てを理解した。声を失う。死ぬかもしれない。耐えられない。
病室に帰りながら悟った。
お母さんが見舞いにくる。俺は紙に書いて伝える。『俺、声が出ない。そういう病気だ』と書く。
お母さんは俺を見ながら、段々と青ざめた顔となっていく。後から来た看護師に、事情を説明してもらっている。そうするとお母さんは、泣きながら俺に抱きついてきた。
40代ともなる母が大きい声で泣く。俺も耐えられなくなり、ついには泣き出した。だが口を大きく開けて、息が喉を行き来する音しか聞こえなかった。
病室に響き渡るのは、母の声だけだった。