#9
季節は夏、その中でも最高気温が35℃の酷暑日。
うちの夏バテペンギンはと言うと、全身ふわふわの体に生まれたことを、心の底から恨んでいた。
「………はぁ…」
キュータンはクーラーが苦手なため、扇風機が唯一の涼みの手段だった。
今日も朝からずっと一定の風が流れるところを、ぬいぐるみのように一歩も動かずにいた。
すると、こんなクソ暑い日に、テンションの高い暑苦しい奴が、廊下をドタドタと走りながらやってきた。
そう、私だよ。
「キュータン!プールで泳ごう!」
「……プール…?」
私はこないだ物置小屋を物色した時、小っちゃい頃によく遊んでたビニールで出来たプールなど、外で水遊びに使ってたおもちゃなどを見つけていたのだ。
「…普段ボクは、いつもムツミはろくなこと思い付かないやつだと思っていたけど、今日のは今までで一番のナイスアイデアだと思ったよ。」
「…うるせいやい!で、泳ぐの?泳がないの?どっち!」
「泳ぐよ!」
この暑さから早く逃げたい、そう思う気持ちが強く、私の問いに即答で答えた。
私は可愛い水着にお着替えし、キュータンは麦わら帽子にTシャツのダッサイ格好に着替え、まずはビニールプールを膨らますところから始めた。
「ふーーーっ!ふーーーっ!!」
ポンプが見当たらなかったので、古きよき時代のやり方で、口から入れていくことにした。
しかし、私のか弱い肺活量では、全然足りなかった。
ここはキュータンに任せることにした。頭がでっかいからきっと肺活量も期待できるに違いない。
そうは思っていたけど、
「ぷーーーっ!ぷーーーっ!!」
私よりも空気を入れられずにいた。
すると、ここで私はあることに気付いた。
「あれ、ちょっと待ってよ。これって間接キスになるじゃんか!」
「気持ち悪いこと言うな!!」
何が気持ち悪かったのかは全くわからないが、イライラしてたキュータンは、その怒りを原動力に、一気に空気で膨らませることに成功した。
「さっすがぁ!」
今のでかなり力を使い果たしたのか、キュータンはすっかりへばってしまった。
プールも出来たので、水を入れることにした。
そこで、私は頑張ってくれたキュータンのために、最初に冷たい水をかけてあげようと思い、ホースの蛇口をひねり、キュータンにかけた。
「あっっっっっつい!!!!!!」
炎天下の下だったので、最初に出した水は熱湯になっていた。
「あ…ごめん…」
予期せぬ出来事だったので、さすがの私も謝った。が、顔面に熱湯をぶっかけられて、いつも無表情のこいつがのたうち回る姿を見て、可哀想と思いながら、笑いをこらえた。
気を取り直し、今度はちゃんと冷たい水が出てきて、ついにプールが完成した。
「あ~~~」
先ほどのお詫びで、最初はキュータンに使ってもらった。すごく気持ちよさそうにしていた。
「よーし、私も入ろう!」
ようやく楽しい水遊びが始まった。二人で入るととっても窮屈なプールだったが、この残暑だ。とってもリフレッシュができた。
「ねぇ次は、これで遊ぼう」
そう言うと私は、これも子供の頃に遊んでた、水鉄砲を持ってきた。
丁度2丁見つけたので、二人でかけあって遊んだ。本当に小っちゃい頃に戻った気持ちになった。
「えい!覚悟!」
私が狙った水鉄砲は大きく外れた。
「きゃあ!」
道を歩いていた誰かに命中したらしい、びっくりする声がした。
「やばっっ!」
私は急いで声がするところに行った。
「すいませーん、大丈夫でしたか?」
水を当てられたのは、長い黒髪の女の子だった。
「……あ…」
「…………」
私はこの人を知っていた。
その人は私の顔を見るなり、逃げるように去っていった。
私はキュータンのところに戻った。
「大丈夫だったか?」
「…知らない」
帰ってくるなり突然不機嫌になった私に、キュータンはどこか違和感を感じたみたいだった。
とても楽しい水遊びだった。途中までは。