#2
キュータンが言うには、私は芸能人向きらしい。
「はーい今日から始まりました、『ムッちゃんネル』でーす♪」
という訳で私は動画投稿サイトで活動していくことに決めたのだ。
それを決めたのは15分前。
とりあえず今日はカメラなどの道具を、すぐには用意できなかった。
なので、スマホを使い、なんでもすると言ったキュータンをカメラマン係に任命し、撮影していくスタイルで行くことにした。
ただ…この時キュータンは、画面を見て確かめるまでずっと床を撮っていたらしい。
「えー……この番組は…えーとなにかしらをですね…はい…えーと」
私はわりと流暢に喋れていると思いんでいたので噛み倒しているオープニングのトークなど気にも止めず、さっさと次へ進めた。
「記念すべき第一回目は、こちらの流行っているゲームを実況していこうと思っています。早速やってみましょう!」
売れている人ってだいたいゲームの実況やっているもんね、これさえやってれば楽勝で登録者増やせるに決まってる。
ただ他の人の真似をしたってつまらない、
そこで私なりのオリジナリティーを混ぜてみることにした。
普通ゲーム実況と言えばテレビ画面を写してプレイしてるところを写していくが、
私の場合は私がゲームをやっている姿を延々と流していくスタイルにした。
それの方が面白いからだ。
「…………」
実際に初めてみてわかった、想像以上に難しかったのか一面目だというのにもう壁にぶつかってしまっていた。
コントローラーをカチャカチャさせる音しか聞こえない中突然、
「ムツミ!」
「わっっ!なによもう、ビックリするでしょう!」
せっかく集中して黙って進めてたのに突然カメラマンペンギンが喋りかけてきた。
「寒くないのか、そんな水着姿で」
「全然!そんなことよりしっかり撮ってなさいよ」
これも私のアイデアだ。
お色気要素も足して登録者増やせない理由なんて私には見つからなかった。
まだ床しか見せれていなかったが……
さあ、気を取り直してしばらく続けてると、
「あっ、あっ、ああん!もう!!なによこのクソゲーは!!発売してんじゃないわよ!」
私には難易度が高すぎてあっという間に挫折がやってきたのだ。
「ひーん、もうやだあ」
「落ち着けよ、まだ頑張れよ」
「やだ」
一人だけの実況はどこへやら、普通にカメラマンを会話をしてしまっていた。
「なに言っているんだ。見てくれている人にお前の魅力知ってほしいんだろ?その為にはもっと努力してるとこを出さないと意味ないだろ。
あ、ずっと床撮ってた」
グズっている私をなんとか励まそうとしているのはわかった。
だけどもうやりたくはなかった。
しんどかったのだ。
「そんなこと言うなよ、ほら」
「うっさいわね!じゃあアンタやってみなさい!」
「おうっ!」
キュータンの腕を引っ張って膝に乗せて、コントローラーを無理矢理持たせた。
そんなキュータンの腕前は私とどっこいで、当然クリアすることはできなかった。
「ほーらね、やっぱりこれはクソゲーなのよ誰もクリアできないんだから、あはははは!!」
これで私は満足したのでさっさと締めることにした。
「という訳で今回はここまで、よければチャンネル登録してくださいねー♪」
私のデビュー作は、前半は床中心に写っていて、後半は私がカメラマンを引っ張り出したのもあって天井しか写ってない斬新な動画となった。
それを除けば華々しく幕を下ろしたのであった。
そして、すぐに投稿して3時間後…
「ねえねえ何か反応あった?」
キュータンにスマホを持たせ、確認をさせた。
「5人くらいみてると思うみたいだけど、それ以外は何も」
「ええっ!いいねもコメントもないの!」
自分の中では完璧な出来だったので納得などできなかった。
「ちょっと見せてよ!」
諦めきれなかった私は動画のページを行ったり来たりを繰り返していた。
すると、ようやく反応があった。
「やった!誰かコメントしてくれてる!」
そこにこう書いてあった。
『ちらっと見えた女すげーブス』
「…………」
私のその時の心境は、みぞおちにボディブローを喰らったような、崖に突き落とされたような、楽しみにしてたバラエティー番組が打ち切られたような、
要するに傷付いてしまった。
「まあ、人生そんなうまく行くことなんてないって、これが大成功だったとしても調子に乗って世の中を舐めていたと思うんだ。でもちょっとの失敗でくよくよしてる場合でもないと思うし、この失敗をどうか前向きに考えてさ……」
キュータンは、いつも私のそばにいた。
楽しいときも、悲しいときも、キュータンは、特になにするわけでもなく。
ただ…………
「うるせーんだよ!あっち行け!!」
今だけは一人にしてほしかった。