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#1

キュータンは、いつも私のそばにいた。


楽しいときも、悲しいときも、キュータンは、特になにするわけでもなく。


ただ、私のそばにいてくれた。




時刻は木曜日の午前10時24分。


私、天野睦実(むつみ)はお腹もすいてたし、昨日録画しておいたバラエティー番組を見たかったのもあって、ようやく起きて1階まで降りてきた。


リビングに入るとテレビがついていて、ソファーの上にはミントブルーのペンギンが、無表情でニュースを見ていた。


名前はキュータン。


中学生の頃にお父さんを亡くし、お母さんと二人で暮らしていたある日、突然こいつはやってきた。

すっかり馴染んで、今では天野家の一員として一緒に暮らしている。


「キュータン、おはよ」

私は普通に挨拶をして、そいつの後ろを横切ると、

「どこが早いんだ、もうすぐ昼だぞ」

なんて、こっちも見ずに言ってきやがった。


うちで唯一の男のこいつは、何故か大黒柱面して、いつも私には偉そうな態度をとってくる。

可愛くねえ…マジで。


「はい、どいて」

牛乳とコーンフレークを持って私はソファーの真ん中で陣取ってたキュータンをセクシーヒップで隅へ追いやった。


「昨日のやつ見たいから変えていい?」

返事は待つことなく強引にビデオを再生すると、

キュータンは表情は変わらないがこっちを見ながら呆れているような雰囲気でじっと見ていた。


……数分後。


「あー、面白かった」

欲求満たせてすっかり満足した私はそのまま寝転がって、ソファーをほとんど占領した。


そしてキュータンは残されたスペースで私の横暴っぷりにすっかり引いていた。


別にいいじゃんか、

こんな美人と平日にダラダラ出来ていれるのは、

私が絶賛ニート生活中のおかげ。


まあこいつが、人間に興味があるかは知りはしないが。


さてと、今日はなにして時間つぶそっかな?

普段頭を使わない分、ちょっと考え事するだけでうとうとしていると、


「あのさあ!」


「……なによ。」


今日こそ言ってやろう!


なんて思っていたのか、キュータンは説教モードに入っていた。


こいつは居候のくせになんでいつも上から来れるんだろうと思いながらも、

格好だけでも聞いやろうと、一応正座して話を聞くことにした。


また適当なこと言って誤魔化すか

 

「いいのか、こんな毎日送ってて、お母さんばかりに働かせて悪いとは1ミリも思わないのか?」


「……思ってるよ。このままじゃダメになるって、だからなんとかしなくちゃってちゃんと考えてるんだからさ」


「考えてる?何を考えてるんだ?」


「……え、いや……だから……」


「………」


「このままじゃダメになるなって考えて……いるだけ」


私があまりにも適当な返しをしたから、キュータンは黙りこんじゃった。


顔は変わってないが、なんとなくムカついているのは感じれた。

こいつが拗ねているとめんどくさい、何か言わないと

自分の中の正論をぶちまけた。


「私って体強い方じゃないし、頭だって全然よくないからさ、

だから力仕事も接客の仕事も向いてないのよ

適当に仕事決めちゃっても、絶対に長続きもしないと思うの」


「………」


うまく論破できたぞ、これでしばらくは黙っているだろうな。


「じゃあその他に何か好きなことやってみようと思わないのか?」


頭ごなしではダメだと思い、今度は少しだけ優しめな口調で言ってきた。


「お前が一番好きなものだよ、何かあるだろ?」


あるっちゃあるがこれ言ったら、キレちゃうかもしれない、

そうは一瞬思ったが、


「あるよ、一番好きなのは私自身」


と正直に答えた。


きっと返す言葉も見つからなくて黙りこむと待ってると、

意外とポジティブなセリフが返ってきた。


「そっか、それを活かせる仕事を探さないとな」


「………へ?」


「芸能人とかわりと向いていると思うぞ。芸能界は個性的な人が多いし、ムツミにピッタリだと思うぞ」


待って待って処理が追い付かないから。


そんな無表情なのにキラキラした目で言ってこられたら私もパニクっちゃうから。


「さあ思い立ったが吉日だ、何か動きださないと、芸能事務所に履歴書送るとか」

どうやらこいつの中では私が芸能界に入るのは決まったらしい、



でも悪くはないな


うーん確かに私は可愛い方だし、外に出歩けばすぐにスカウトされる未来は目に見えてるわけだし。


それに本当は働くのは大嫌いだし、さっさとお金持ちのイケメンと結婚して家庭に入るには芸能人になった方が手っ取り早いかも。


その為には世に顔を見せないと何も世界は動き出さないよね。


「わかった!ありがとうキュータン。その代わりに手伝ってもらうからね」


こうして今日の暇潰し…もとい、私の幸せへの第一歩が動き出したのだった。

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