救えぬ者
救えぬ者
ベロニカ帝国、その3000メートル上空にて二人の少年少女が現れた。
一人はクライシスハイザー、もう一人はカオス。
異世界転移は成功した。しかし、ここは上空3000メートルだ。このまま落ちると二人はぺしゃんこトマトだーーー。だが、それはクライシスハイザーが能力をもっていないことを前提としている。
しかし、今のクライシスハイザーは違う。轟音が二人を包み込む中、クライシスハイザーはこう思った。
(ッたく、メンドクセェところに転移させやがって、・・・・・・操縦。)
次の瞬間、クライシスハイザーとカオスの体は落下速度を少しずつ落としながら、上空1000メートルのところではもう空気中に立っている状態である。
カオスは自分自身の謎現象に「何をしたの?」と問いかける。その問いに応じて、クライシスハイザーは、こう答える。
「空気を操縦して、オレ様とテメェが受ける空気抵抗を限りなく小さくした。あと十分くらいで地上に降りるぜ。
言い終わりかけだった。まさにその時、地上にそびえたつ時計塔近くの住宅街で、とてつもない轟音が響いた。その0,00001秒後に白と緑の残光が見え、約十メートル先まである建物が跡形もなくマグマに変わった。それだけにとどまることもなく、轟音に呼応するかの如く猛獣よりも恐ろしい声が辺りから響く。その声を聴いたカオスは顔を青ざめ、クライシスハイザーの背中に顔をうずめる。
クライシスハイザーは自らの眼力を天文台のレンズ以上の倍率にし、動体視力はA,I以上に強化し、今の轟音を出した原因を探す。それはすぐに見つかった。雷を纏って高速で移動する黒いサンタクロースみたいな、顔は同じような黒いもこもこフードの中にあってよくわからない。
その瞬間、クライシスハイザーの耳に聞きなれた声が聞こえた。
「おーい。聞こえるかい?今、『雷槍者』ギィ・ネクロンによって先制攻撃が実行された。君はギィと合流してカオスの記憶を探してほしい。場所は時計台から半径200キロメートルの中だと判明した。僕も準備をしてからそこに行くつもりだ。・・・・・・・・・・・・・・・・そうそう、そこには異世界の転生者二人でチート魔導化学騎士がいるよ。出会ったら面白いことになりそうだなぁ。」
クライシスハイザーは、背中に引っ付いているカオスをはぎ取り「あのバチバチ野郎と合流だとよ。」とだけ言い、カオスの肩を抱く。カオスは「キャッ」と可愛らしい声をあげ、何か嬉しそうに、クライシスハイザーにすり寄る。
そのまま、カオスをを抱き寄せたクライシスハイザーはギィが隠れた路地に着地した。
そして、路地の一番暗い場所にいるギィに話しかける。
「テメェが『人格者』が言ッていた『雷槍者』かァ?」
「ああ、そうとも。君がクライシスハイザーだね?その連れがカオスちゃんか。じゃ、ここらいったいのバケモンを潰してから探すとしようか。」
と、ギィ。途端、クライシスハイザーとギィの後ろから、悪臭、異臭、死臭、腐敗集をかき集めて2で割ったようなにおいが漂う。
「ちっ、やっぱり見つかったか。うまく影と同化していたつもりだったんだけど・・・・。」
後ろから迫りくるのは200体近くのゾンビやミイラやチェインソーを持った骸骨だ。ゾンビは体のあちこちから変色した皮をむき出しにし、中には内臓をぶちまけて這いずりながら寄ってくるものも。
「カオス、テメェにはこれを見ンのは30年くらい早ェ。プラズマシールドを張っとくぜ。そこから一歩も動くンじゃぁねェ。すぐに終わらすからよォ。」
と、クライシスハイザーは超高速の風をカオスの周りに発生させ、自分は両手をだらりと下げ、口をにんまりとする。ギィは数の単位を超えた超高圧電力を発生させ、完全なる攻撃態勢へ移行する。
刹那、二人の中二病によって、戦いの火ぶたを切る。
そしてそしてそしてーーーーーー。
「なあ、宮野。今さっきの轟音の後にさ、あの路地裏にだれか降りなかったか?」
一人の剣士が言う。その問いに、
「ああ、確かに誰か降りたな。」
と、もう一人の剣士が言う。
「今さっきの撃った人かな。」
「そうだな。行ってみるとするか。」
「ま、これを何とかしてからだけどね。」
「あいつらのせいでたくさん集まってきやがった。」
二人の剣士は腰の鞘から剣を抜き、救えぬ者へ切り込んでいく。
この化物は確かに救えない。誰の手にも終えず、自我を捨て、他者をも巻き込む形で仲間を作っていく。仲間を作ろうともその体と精神はすでに死んでいて動かしているのはウイルスじみたもの。彼らは孤独だ。ものすごく孤独だ。集団でいても孤立している。死ぬ瞬間は激痛に埋もれ、体を侵食されていく不快感に襲われながら、たった一人で死んでいく。死んだあとは、その体は安らかな永遠の終焉を与えられず、腐っても骨になっても一生誰かに脳を完全に破壊されるまで生きた死体として働き続ける。そして他の者に殺されれば終焉をもらう代わりに、来世まで悪者呼ばわりで、名誉すら守られず死んでいく。だから彼らは救えない。だから、この人達は救えない。だが、この人たちより救うことができない人間が此処にいる。彼らは等しく社会不適合者や害児と罵られ、他者から軽蔑の目で見られ、最初は面白がられていたが、面白くなくなった瞬間に悪党呼ばわりである。
このような救えぬ者はこう呼ばれた。
「中二病」、と。




