タイトル・オブ・ゼロ
第0話 タイトル・オブ・ゼロ
午後48時、デューク区アリア町路地裏で、一人の男が走っていた。
「ハァっ、ひぃ!」
その男は、今にも止まりそうな荒い息、生物の死を描いたような目で、たまに後ろを見ながら出鱈目な足取りで、暗黒の出口を探している。角を右に曲がり、左に曲がり、途中で、壊れたロボットの腕を蹴飛ばし、後ろから迫り来る「死」から逃げようと、今さっきそいつにやられ、折れた腕をこれでもかと振り、路地から出る。
「うはぁ、はぁ、はぁ、逃げ切れたか、くそぉ、腕がッ」
と、その男は自分の折れた腕に治癒魔法をかける。治癒魔法は呪いや毒による身体の侵食や、心が折れるなどの精神的なダメージには効かないが、骨折や肉の切断、一般の怪我なら軽く治せる魔法だ。しかし、その折れた腕は、治らない。いくらかけても、その腕は治らなかった。
「何でっ、、、治らないんだ!毒や呪いじゃないのに!何でっ!、、、、!!」
途端、男の背中が固まった。呪いの発動ではなく、純粋な恐怖だ。男はおそるおそる通ってきた道を見た。が、誰もいなかった。安堵し、目的の場所に行こうと足を上げる。その時、ふと足にバスケットボールに似た感触が、男の足の先端に引っかかる。ポケットからライトを取り出し、足下を照らす。
「‼︎‼︎」
それが何かすぐに分かった。人間の頭だった。その顔は絶望に彩られ、強引に引っ張ったのか頚椎が見え、所々赤みのかかった肉と緑色の血管が視界に映る。
その男はそれらの頭が誰のものなのか知っている。
「クロム、リーズ、賢介、魅奈加、、、、仲間が、全員、全滅、、、だと、、、。」
男の仲間は一人残らず首をもぎ取られていた。
男の顔は絶望と恐怖にかられ、無意識に涙と鼻水を垂れ流す。衝撃でライトを地面に落とす。そんな悲惨な情景に、悪魔と言えるようなどす黒く乾いた声が男の耳に入る。
「こォンなところにいたのかァ、どうしたァ~、せっかくこのオレ様がアジトを見つけて20秒で処理して、持ち運びやしィ形にしてわざわざ持ってきてやったのによォ、、、、、」
「おっ、お前がやったのかぁぁぁぁぁぁぁ!!!お前にぃ命の尊さは無いのかぁぁぁぁ!!!こっの怪物めえぇぇぇ!!!」
男は発狂しつつも、ギリギリで理性を抑え、目の前の怪物を排除しようと動かせる方の手で、いくつもの攻撃魔法を展開し、今にも自分の仲間の仇を討つためにその怪物を消し去ろうとするもーーーー。
「オレ様に命の尊さなんてねェ。そんな無駄な足掻きをしたところでェ、オレ様にとっちゃ面白くもなんともねェ、だからァオレ様のためにィ、、、、、爆ぜろよ。」
重く鋭く怪物の声が男の怒りに突き刺さる。瞬間、男の展開した攻撃魔法が消滅し、男の両足が何の前触れもなく切り落とされた。傷口から溢れた大量の血液が暗い道を舞う。男は感覚と思考が追い付いていない。
「、、、、、、、、、、、、、、!!!~~~~~~~!!!!!」
生々しい感覚と理不尽に切り裂かれた足の痛みが周回遅れで脳を貫く。怒りなどない。恐怖と痛みと無理解が脳のあらゆる機関を蹂躙する。男は痛みに支配されつつも、目の前にいる生殺与奪権を握る怪物に命乞いをしようとするも、その考えはすぐに消し飛んだ。
「そうそうそうそう、そういうカオが見たかったんだよォ!!!絶望に歪んだその表情、今さっきのやつぁ
全く心に響かなかった!永遠にそのままでいてほしいぜェ、、、、、命乞いなんてするなよ?したら今度は両腕を切断するぜ。まぁ、しなくてもするんだけどな。」
怪物は何の躊躇もなく男の両腕を切り飛ばした。何の苦痛も聞こえない。男はもう意識がない。怪物は、男の末路を見届けると、血が出るほど強く唇を噛みしめ、自身に与えられた能力を解放する。
「操縦。対象は目の前の肉塊。依頼の事後処理だァ。」
男とその仲間の細胞や、カルシウムなどの物質を原子並に分解、変質させ、酸素や窒素、二酸化炭素に分解し、忌々し気に言う。
「腕ェ飛ばして失神たァ根性がねェなァオイ。オレ様は『怪物』じゃねェ。『操縦者』クライシスハイザーだ。」
午後50時その場所には何もなく、ただ平然と沈黙が流れていた。




