表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/78

5 マックスは警戒する

評価、ブックマーク登録ありがとうございます <(_ _)>

 私たちが中継地点としたのは、『都市エステカ』までにいくつかある村の一つだった。

 『ゾント村』、特筆すべきものもない、小さな村だ。

 兵士長が村長と話をしている間に、私たちは野営の準備を行った。


 ――まあ、兵士の皆さんがやってくれるので、見ているだけなんですけど。


 勇者さま用のテントが張られる。そこで寝るのは、勇者さまと私の二人だけ。精霊使い( シャーマン)のラミと、聖職者プリーストのルシアナは、隣のテントだ。

 勇者パーティというなら、四人全員が同じ場所で寝るのが最も安全なのだが、


「うへー、疲れたー」


 と、ぐったり眠る勇者さまの様子を見せるわけにもいかないので、別となっている。

 食事は、私が運んできた。パンと、獣肉が入ったシチューだ。

 勇者さまはそれを気だるげに食べている。何が言いたいのかは察しがついていた。

 おそらく、甘い物が食べたいのだろう。私はこっそりと持ってきた干しブドウの袋を取り出した。

 それにすぐ気が付く勇者さま。空になった皿を放り投げて、こちらにすり寄って来た。


「へへー、やっぱりマックスは分かってるよなー。愛してるぞー」

「はいはい、私も愛してますよ」

「……むー」


 ふくれっ面には慣れたもの。頬を左右からつまんで、空気を抜いた。


「ぷふー! むー!」


 暴れる勇者さまを膝の上に乗せて、可愛らしい唇に干しブドウを押し付けた。

 しばらくは不機嫌だった勇者さまも、次第に果物の甘さに負け、ご満悦の笑みを見せた。


「へへっ、特等席で甘い物、最高だな」


 私の胸に背を預けてくる。銀髪が、鼻先をくすぐった。


「まったく、誰も見ていないからって……」

「いいじゃんかー。ほらほら、もっとブドウ食べさせろよー」

「あまり持ってきてないんだから、食べ過ぎないでくださいよ。あと、食べ過ぎて喉が渇いても知りませんよ」

「大丈夫だって。村にいるんだから、水はある。さっき、補給もしてたしな。だからよこせー」


 勇者さまの口に一粒一粒ブドウを食べさせながら、私はため息を吐いた。

 この勇者さま、素直にワガママである。今さらだが。

 あまり食べさせると、いけないので、私はブドウを仕舞った。『都市エステカ』までの分しか持ってきていない。これが空になると、ご機嫌取りが難しくなる。


「んー、もうちょっと食べたかったけど、まあいいか」


 やがて、勇者さまは満足したらしく私の膝の上で寝息を立て始めた。油断も何もあったものじゃない。


 ――一応、女の子なんですから……。


 いくら私と勇者さまの仲とはいえ、べったりはよろしくない。

 起きないように細心の注意を払いつつ、ローブをつかむ細い指をほどいていく。抱きかかえた体は軽く、寝床に運ぶのは簡単だった。

 毛布を肩までかけてやってから、私は自分用の寝床に入った。寝る必要のない体だが、休めておくに越したことはない。

 念のために張ってある警戒の結界には、なんの反応も無い。王都から近い村では、当然か。


 ――もっとも、敵は外ばかりではないのが悲しいですね。


 私が勇者さまと一緒に寝るのは、寝首をかきに来る愚か者を倒す意味もある。以前はよく来たものだ。

 殺しはしなかった。ただ、永遠に覚めることのない悪夢を見せつけてやったが。私の得意魔法は、人の精神に干渉するものが多い。起きたまま夢を見させる、という芸当も簡単なものだ。

 漆黒龍ブラックドラゴンの盟友に手を出すなど、愚かにもほどがある。知らないからと、手加減はしない。


 今日は、そんな不届き者もいないようだった。

 警戒するなら『都市エステカ』から『エルテル城塞』までの道のりだろう。この道すがらは、何が起こるかわからない。


 魔族の襲撃も、暗殺者の襲撃も、どちらにも気を払わねば。

 未だに勇者廃絶論者は多い。今の勇者さまの身なりや能力を見て、次の勇者に期待する声がある。

 不思議なものだ。勇者ですら、人間にとってはただのコマでしかないらしい。今がダメなら次へ、と気軽に考えられるものか。

 

 ――ま、なんにせよ、勇者さまを、リリアを傷つけるものは地獄に叩き落としますけどね。


 巡回中の兵士の足音を聞き分けながら、私の夜は更けていく。

 寝たふりをしながら目を閉じていると、警戒の結界に引っかかるものがあった。

 反応は小さく、追いかけようとすると、すぐに消えた。


 ――ふむ、何やら穏やかではなさそうな。こんな夜中に野ウサギがやってくるはずもありませんし。


 気配が消えたのは、すぐ近く。野営地内であるのは間違いない。

 私は起き上がり、外へ出た。月明かりに目を細め、ゆっくりとあたりを見回す。

 私に気づいた兵士が駆け寄ってこようとする。手で制して近づかないよう合図。兵士は気づいたように、私と同じく周囲を探り始めた。

 気配は消えたまま、何かが動き出す様子はない。


 ――ただの気のせい、ということはないんですけどね。


「ま、マクシミリアン様……」


 兵士が注意を払いつつ、やってきた。


「何かございましたか?」

「えぇ、ちょっと不思議な反応がありまして。巡回中に、何かありませんでしたか?」

「いえ、特には何も……。獣の一匹すら見かけていません」

「そうですか、分かりました。巡回に戻ってください。何かあれば、私が対処します」

「は、はい」


 兵士を配置に戻して、私はテントの中へ戻った。

 勇者さまは、穏やかに眠っている。異常は無い。


 ――これは、近々何かありそうですね。


 一晩中周囲の状況を探りつつ、私は朝を迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ