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10 メイド・アリッサは準備する

GWも半分を過ぎましたが、私の書いている文章は前半すら終わっていません。

 食事を終え、片づけをしているアリッサには充実感があった。

 今日は珍しく勇者パーティの全員が揃い、アリッサが腕を振るった料理を堪能してくれた。

 リリアとマクシミリアンはいつものように食事を褒め、ラミとミツルギは意外そうにしながらも、美味しいと言ってくれた。

 

 ――やっぱり、仕事があると落ち着きます。


 家事はアリッサの日課だ。やらないとなんとなく落ち着かない。扉のそばに控えているだけでは、物足りない。

 アリッサに望まれているのは、ただ家事をするだけではない。任務に赴くならば、その供として、場合によれば命すら捨てる覚悟で挑まねばならない。


 とはいっても、アリッサの根本はメイドである。日々が家事で過ぎるのは、嬉しく、ありがたい。

 今日の仕事は、食事の後片付けと、少しの洗濯物だけ。総量としてはまだまだ物足りないが、やらせてもらえるだけでも仕事欲が満たされていく。

 数人分の後片付けは、十分もせずに終わった。洗濯物も、とりかかればあっさりと終わる。

 そこから先は、アリッサの本当の意味での自由時間。待機時間ではなく、アリッサが自分のために使える時間だ。


 マクシミリアンからは、ヒマな時は好きにしていいと言われているものの、仕事を終え、満足してからではないと、落ち着かない。

 逆に、仕事がきちんと終わった後ならば、心置きなく自分のために時間が使える。

 用意された部屋で、仕事着を脱ぐ。白いエプロンも、紺色のワンピースも、きちんとたたんでから、洗濯物用として別に分けておく。


 私服に着替え、改めて部屋を見回すと、今までの使用人部屋とは何倍もの差があった。

 倍以上だろうか。ただの侍女が使うには広すぎる。勇者パーティの一員とはいえ、豪華すぎる待遇だ。


 ――こんな立派なお部屋を使わせてもらうのだから、もっとお仕事を頑張らないと。


 プレッシャーではなく、義務感として、アリッサは思う。真面目過ぎると言われようと、仕事は完璧にやるのがアリッサの信条だ。

 そっとベッドに腰掛ける。思いだすのは、昼間に出遭った一つの事件。


 マクシミリアンがリリアを狙う刺客を叩き伏せた時、アリッサは心底から怖くなった。殺気、というのだろうか。はっきりと感じ、身震いした。

 普段は温和とも感じるマクシミリアンが見せた、本性、だろうか。今まで感じたことのない空気だった。


 リリアなどは平然としていたものの、アリッサには初めての出来事だ。思いださずにはいられない。

 正直に言えば、マクシミリアンが怖くなった。先ほど、食事の際などはリリアの面倒をよく見る青年だとしか思えなかったが、そんな青年はアリッサに強烈すぎる印象を与えた。


 ――これから、大丈夫かしら。


 思うのは、マクシミリアンではなく、今後の自分。いざ戦いとなったときに、自分は恐怖に負けず、立ち向かえるだろうか。

 リリアは勇者として。マクシミリアンやラミ、ミツルギは従者としての実力を持っている。それに対し、アリッサが使えるのは護身術程度。


 獣くらいは追い払えても、魔族が相手となれば、指先一つで殺されるかもしれない。

 死ぬことは、怖い。アリッサとて、それくらいは当然感じる。

 ただ、メイド長・エイプリルが言った、主人の代理となるならば、恐怖よりも先に、勇敢でなければならない。


 不安は隠せない。自分自身にも、誤魔化しは効かない。仕事に忠実であれと、自分を励ますしかない。


 ――怯えてばかりじゃ、いけないよね。


 覚悟を決める。自分にできること以上に、頑張っていこうと。

 あお向けで、ベッドに倒れ込む。柔らかい感触が、睡魔をよこしてくる。

 今日は、思いのほかに疲れた。今日はこのまま休んでしまおうかと思い、まぶたを閉じた時だった。

 扉が、控えめに叩かれた。慌てて起き上がり、服を整える。


「はいっ、今開けます!」


 走るように扉へ向かい、急いで開けた。

 すると、そこには先ほどまで考えていた、


「こんばんは、アリッサ。ゆっくりしているところ、すみません」


 黒衣の魔法使い(ソーサラー)が立っていた。


「マックス様! いえ、とんでもありません。何かご用でしょうか?」


 狙ったかのようなタイミングで訪ねられ、アリッサは思わず声が上ずってしまう。


「先ほど、少し急ぎの任務が来ました。明日の朝、早めに出るので、支度をしておいてください」

「任務、ですか?」

「えぇ。魔獣退治だそうです」


 夜も更けた時間だというのに、勇者パーティに声がかかるとは。任務、という単語に少しばかりの不安を交えて、


「あのっ、どちらまででしょうか?」

「少し遠いですね。魔族領に近い、辺境の街です。あちらに着くまでに二、三日はかかると思うので、そのための用意を」

「かしこまりました。では、皆さまの分も……」


 仕事となれば、アリッサの切り替えは早い。寝る間も惜しんで準備にかかろうと思い、


「ああ、あなたの分だけでいいですよ。私たちは自分で用意しますので」


 半ば気楽とさえ思える声で、マクシミリアンは言ってきた。


「で、ですが……」


 思わず、唇が動く。主人の供というならば、今までは、メイドが全て用意を行ってきた。

 だが、マクシミリアンはアリッサを手で制し、


「水や食べ物なんかの荷物は衛兵の皆さんがやってくれますし、私たち個人の準備は、自分たちでやらなければなりません」

「そうなの、ですか?」

「えぇ。ミツルギなんかは、特に仕事道具が特殊だったりしますし。私とラミは、ほぼ身一つで出られます。勇者さまの支度は、私がしますので」

「マックス様がなさるなら、代わりに私が……」

「まあ、今回はアリッサにとって初めての任務ですから。とにかく自分の支度を入念に行ってください。この次の任務あたりから、何を任せるか考えますよ」


 それは、アリッサを試そうということか。確かに今回はアリッサにとって初めての任務だ。その働き次第で、次の仕事を決められるのだろう。

 メイドとしては心苦しいが、マクシミリアンがこう言い切るならば仕方がない。あまり言うのも差し出がましいだろう。


「……かしこまりました。では、私は、自分の分をしっかりと用意いたします」

「そうしてください。なにせ、王都ここから離れた場所なので。一応言っておくと、何が起きるか分かりませんから」

「はいっ」


 それで会話は終わり、マクシミリアンは去っていった。

 気が抜けそうになったところに、いきなりの任務。不安はあるが、今は、言われたとおりのことをしよう。


 ――頑張って、お役に立たないと!


 気合を入れなおし、アリッサは支度にとりかかる。

 出立が朝早いならば、とにかく急がねばならない。

 服やらなにやら、とアリッサは思いつく限りのことを頭に列挙して、初めての任務のための準備を始めた。

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